- 1000年は長すぎるっ! -
*ミリア*
……あれから何とか過ごしているが今が昼とか夜とか全然分からん。
多分1週間は経っていると思う。
今なら刑務所にいる囚人の気持ちが分かる。
とにかく暇なのだ。
まぁ、実際の囚人はもっと忙しいのだが。
皆は毎日何食食べてる?
普通は三食だろう。
だが今の俺は違う。
一日一食だ。
勿論腹が減り過ぎて餓死しそうになった事もある。
亜人といえど不死身ではない。
極限まで不死に近い者というだけだ。
だから餓死とかは普通にある。
そんな時は亜人の能力を利用してある食べ物を食べている。
肉だ。
ただし普通の肉じゃない。
俺の肉だ。
正確に言うと俺の手足を食べている。
最初は飢餓で無我夢中で食べた。
とてつもない痛みがあるのだろうなと思っていたが、
それ程痛くはなかった。
いや、確かに痛かったが我慢できないほどではなかった。
分かりやすく言うと腕を千切っても、固いもので肩をぶつけたくらいだ。
俺は既に人間をやめてしまったらしい。
分かっていたけどやっぱり心のどこかで夢であってほしいと
思っていたのだ。
だが現実は厳しいようだ。
俺はその頃から様々な事を薄暗い地下の部屋で実験した。
例えば能力だ。
俺が本当にミリアに憑依したのなら能力が使えるはずだ。
そう思って最初はぬいぐるみに使った。
使うと言っても使い方が分からないので
何となくぬいぐるみに意識を集中させてみただけだが。
そしてぬいぐるみに消えろ、消えろと念じると
まるでそこに存在していなかったかの様に消滅した。
これが……グリム・リーパー。
ミリアの能力を改めて見ると背筋に寒気が走る。
だがそれと同時にあることを思いつく。
この能力であの扉を消す事が出来るのでは?
俺は早速さっきと同じように念じてみた。
だが結果は残念だった。
何か条件があるのだろうか。
もしくはまだ完全に俺がコントロールできていないのか。
とにかくこれからはこの体の事をもっとよく知らないとな。
……別に変な意味は無いぞ?
ホントだぞ?
……それにしても。
………………あと何年経てばここから出られるのだろう。
いや、分かってる。あと1000年経てば出られるのは。
でもそんな長い月日が経てば誰でもおかしくなる。
俺も例外ではない。
だからなるべく早くここから出なければならない。
という事は一日でも早く力を上手く扱えなければならない。
それにもっとこの体の事を知る必要がある。
―――――長い……長い時間になりそうだ。
*アニー*
「アニーお嬢様、紅茶を持って参りました。」
「ありがとう。」
私はメイドが持ってきた紅茶を飲む。
両親がいなくなってからは私がこのメイド達の主となった。
あの時から私は一度もミリアに会っていない。
いや、それも当たり前だ。
ミィ……ミリアは今、地下に幽閉されているのだから。
ミリアは……異常だ。
両親が疎外していたからだろう、ミリアは愛に飢えている。
私の見る限りではミリアは能力を持っているはずだ。
だがミリアはそれを使いこなせていない。
―――――ミリア
私が貴女を救ってあげたい。
でも、もう一人の私がそれを拒む。
両親を殺した貴女を憎む私が居る。
私は……どうすれば良いのだろう。
ごめんなさい……ミリア―――――
*800年後*
*ミリア*
前世では親や友達なんかいなくても楽しいとか
自分の趣味の方が大切とか言う奴がいた。
だがそれは間違いだ。
今それが改めて思う。
寒い―――――
1ヶ月など短期間なら我慢できるだろう。
少し寂しいと思う程度だ。
だが何十年も一人で暗闇の中にいると自分の事が分からなくなってしまう。
俺が耐えられたのはこのミリアの体だからだろう。
精神的な事でもよほどでない限りは大丈夫なはずだ。
だが怖い。
いくら能力の練習などと言って、気を紛らわせても限界がある。
もう何千万年も閉じ込められているような感覚だ。
実際には何百年程度だろう。
正直おかしくなりそうだ。
一切の音が遮断された闇の中。
空腹と痛みで寝られなくなる。
一人だけの部屋。
姉のアニーは俺を出さないだろう。
メイドがここに一日一食の食料を持ってくるとき
俺にはそのメイドがおいしそうな食料に見えてくるのだ。
重症だという事は既に分かり切っている。
確か1000年後に出られるはずだ。
あぁ―――――、後どれくらいもつかな。