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遅くなってしまった…と後悔したときには手遅れとはよく言ったもので、
更新遅れてしまいました(>_<)
手遅れにならないよう励む日々でございます(笑)
読者様から質問がありました。
何度か登場しているキーマンらしき穴太さんですが、
正しい読み方は「穴太」(あのう)です!
では豆知識&前書きとともに、また次回!
事の発端は簡単だった。
涼牧が狙撃されるという一件に潜む裏事情を知るという人物から、コンタクトがあったのだ。
発端こそ簡単なれど、事態はそうはいかない。
どこから複雑化したのだろうか。
それとも元から複雑に絡み合っていた事象が、簡明に見えていただけ?
様々な憶測が頭を飛び交う。
背後にある関係を考えると、弱小なものがなことが、より強大な大きな事に見えるだけかもしれない。
広大な森林も、小さな一つ一つの木々が構成している。
何にせよ、今の状況下での情報は貴重だ。
無知によって錯綜するよりは遙かにましだろう。
もう陽はすっかり傾いている。
おだやかな春風に、一抹の不安も吸われていくような気がした。
★
「穴太 武と申します。」
図太く低い声で言ったその男は、肉付きのいいがっしりとした体格を曲げて軽く会釈した。
体格は太く、筋肉質で顔も角ばっている印象を受ける。
年は40のはじめ、と言ったところだろうか。
その穴太と俺たち請負屋は、とある喫茶店にいた。
小洒落た店内には、今風のピカピカとした印象はなく、
木材を使った落ち着いた雰囲気が漂っている。
年齢を問わず様々な人たちが思い思いの時を過ごしていた。
比較的、街の中心部に位置するため、利用客も自然と多いのかもしれない。
店の見積もりをしていたところ、熊羽が啖呵を切った。
「んで、その穴太さんが何の用だ」
熊羽は穴太のを上回る低さで、そう言う。
「えぇ、その事についてなのですがあなた方に依頼したいことがある。」
穴太は、顔を隠すように本を読んでいたルーガに軽く視線を向けると、話を続ける。
「私は、裏と呼ばれる社会から疎まれる人間でしてね。私の命を絶たんとするために今まで数回ほど、殺されようとしたこともある。だが、最近ほどその動きが活発になった時期はない」
体つきが良いのも、そのような事態に対処する為なのだろうか?
「疎まれる側なら俺たちも変わらねぇな。というとアンタ、フリーライターかなんかか」
熊羽はもう解っていたのか、話を進めようとしていた。
「ご名答で。ただ、彼らにも有益な情報を持っていきトレードの真似事はしているつもりだ。
しかし情報と情報が釣りあわなければ、今私はここに居ないだろう。」
タバコをくゆらせながら、熊羽は相づちを打つ。
「ほう。その情報とは」
「推察だが、武器の密輸が絡んでいるのだろうと。あなた方も先日の一件でそれを知ったはずだ」
なぜそれを?と思わず口にでそうになったが、己を制する。
先日の一件は、不注意運転による事故として処理されていたはずだ。
だが穴太がそれを知っていようと、彼が熊羽に対して何らかの疑いを挟まなかったという事が
彼のフリーライターとしての情報力の何よりの証になる。
熊羽は肩をすくめて笑う。
「それも見られてたってのか。怖ぇな。で、その情報にどう踊ればいい」
熊羽はあえて煙に巻くようなことはしない。他の人が怪しむのは自由だが、怪しまれるのは不本意
なのだろう。
だから、あえて話を繋げようとする。
穴太もそれに呼応するかのように、コーヒーを啜り言う。
「密輸されるところを写真として納め、武器を押収して来て欲しい。」
依頼は単純明快だった。
だが熊羽は口からでる煙を見つめ、天を仰いだままだった。
「依頼と引き替えに、私が得た情報も提供する。」
穴太は先ほどの、口調でそう懇願する。
「ダメだ。情報ほど強くて脆いもんはねぇ。依頼への対価は金だ。」
交渉決裂か、そう思われたとき穴太が口を開く。
その次の言葉に、耳を疑った。
「背後には、強大な組織的機構を持つ何かが絡んでいるだろう。何が目的かは掴めていない。だが一学者をそして技術供与を目的としての動きがあると聞いたことがある」
「それは……」
気づいたときにはもう声に出していた。
それにうなずき、穴太は有無を言わせぬ、というように続ける。
「いつの時代だろうと組織に、技術、資金、情報はつきものだ。技術は資金を生み資金は武力を産む。武力で得るものは情報、また資金、技術と巡る」
そしてその先は、熊羽が明かしていた。
「そして、彼らの利益となるような技術であれ、情報を持った人物が狙われているのは間違いない」
「受けた依頼は完遂、それがセオリーですよ。くまさん」
今まで読書に耽っていたルーガも話を把握していなかったわけでは無いようだった。
請負屋の真髄であるその言葉に熊羽も困った顔をしていた。
「………金は払え」
そう苦々しげに言って、交渉は成立した。
情報を得るだけが、勝手に依頼されやがって…という熊羽の本心がありありと解る。
ルーガもそれにはクスクスと笑っていた。
これだけ物騒な話の最中に、これだけの余裕で笑えるには、俺はまだ未熟なようだった。
だが、依頼を受けたことに変わりはない。
「では詳しいことはまた後日」
穴太は終始笑わず、契約を終えると退出していった。
「用がありましてね」という所から、多忙なのか堅い人間性を持っているのか。
ちょうど、ひとしきり笑い終えたルーガを待って、3人は退出した。
生ぬるい夜風を受けて、一旦隠れ家へ戻ることとなった。
「今日の晩飯担当、よろしくな」
という熊羽の八つ当たりまじりの一言を受けて。