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東第二埠頭 1

ザパンッ、ザパンッ。


波止場に打ちつける波の音が聞こえる。


周囲の黒い景色も相まって、海岸などで聞くそれとはまた違って聞こえる。

四月も後半だというのに、夜の海はまだ暖かさを知らない。



その海をかき分けて進む一人の人影があった。

請負屋の美女、ルーガ。

今は他の二人はいない。

熊羽は別ルートから、涼牧は退却用の経路確保のため車内に残っている。


その請負屋のルーキー、涼牧が狙撃された一件から周囲で厄介なことが起き始めていた。



そしてそれについて知るという人物からの依頼で今は動いている。


何やら怪しいとも取れるような人物だったが、仕事を選ぶことはできない。

大金と引き替えに依頼をこなす、それが自分たちなのだ。

そういう自覚を持っていた。


そんなことを考えていると、波止場のコンクリート製の岸に近づいてきた。


上がったところのすぐ奥に見張りが一人、これならやり過ごせそうだが

どこに伏兵がいるかわからない。


常に最悪の場合を想定し動く、迂闊な行動は禁物だ。

荒れる息づかいを押さえつけて、息を殺して波止場の階段をしゃがみしゃがみ

上っていく。



「こちらアサシン、上陸地点へ到着」



耳元のインカムを通して、別行動の二人に連絡を図る。



「了解だ。こちらも順調」



熊羽の低い声だ。聞きなれているのに、今日はいつもと違って聞こえてくる。



「了解。まぁ二人とも無事そうで何より」


おそらく本心からそう思っているのだろう。

涼牧もそう応答し続ける。



「ルーガ、この先は見張りを強化していると思われる。だから気をつけてくれ」



しかしルーガからの応答は無い。



「……………。」



「おい、ルーガ……ルーガっ!?」



熊羽も異変に気がついたのか声をかける。



「聞こえているなら返事をしろ。ルーガ。」



脳が最悪の事態も想定し始めたそのとき、インカム越しに何か聞こえたような気がした。



「………んぐぅ……んあっ……」



間違いなくルーガの声だ。


何か唸っているような、そんな物音が聞こえる。



「ルーガ……?」



「んあああぁぁぁっ……それより………む、むねがぁ……」



次に聞こえてきたのは、こんな言葉だった。



苦しい…と続ける間もなく熊羽が笑う。



「ガハハハハハハッハハ。サイズ間違ってたみてぇだな。」


熊羽のミスで少しサイズ小さめのウェットスーツを着なければならなかったため

胸の豊かなルーガには少し苦しかったらしい。



その上、ナイトビジョンや無線機、武器類まで携行するとなると

重量で余計に胸が苦しかったのかもしれない。




「んむがぁぁぁぁ……ぬぐぬぅ……」



その間もルーガは小さめのウェットスーツと格闘しているようだった。




インカム越しに赤面しながら格闘し続けるルーガの姿が目に浮かぶ。



その様子に思わず吹き出しそうになった。



「これが終わったら何百枚でも買ってやんよ」



「これが終わったら」

という熊羽の苦笑混じりの一言で、今が作戦中であることを思い知らされる。


ここは安全な街中ではない。

いわば「敵」の数の方が多く、こちらが圧倒的に不利な状況下なのだ。



ルーガもそれは理解しているようで、すぐに「す、すみません……」と言ってきた。



「では現時刻をもって作戦行動開始だ。各員しっかり働け」



熊羽の鶴の一声ならぬ熊の一声で、その場が纏められる。



「了解」



「わかりました」



各々がそう応答する。


そうだな、とばかりに気を引き締める。



目前の敵を見据え、黒い闇に消えるようにアサシンは向かっていった。





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