First Duty
何やらきな臭くなってきた今話でございます。
さて次回は誰が登場するんですかね。
作者も気になりどころです(笑)
特に何の問題もなく、自宅アパートまで来ることができた。
ここまでは電車を利用してきている。
隠れ家から30分近く歩くとバス停があり、そこからバスに乗って駅前に着く。
駅からは無論、電車に乗り、自宅近くの駅で降りる。
そこから5分程度歩けば、ここに着くという距離だった。
途中途中、歩く際には細心の注意をし、背後に気を遣ってきたが
これと言って変わったことも無かったので一安心する。
だいぶ痛みが引いてきたとはいえ、まだ痛みが残る身体にこの長丁場はこたえたようだ。
まだ19だというのにな、と自嘲気味に笑いながらカギを開けた。
少しづつドアが開き、緊張が高まってゆくのが分かる。
中をさっと見回す限りでは、一昨日と何も変わっていないようだ。
ほっとため息をついて家に上がった。
さっさと片づけちまおう、そう意気込んで作業を始めた。
★
とりあえずまとめるものは纏め終わった。
我ながら、5時間で入居前の状態にするとは…。
本来の一人暮らしで一人で引っ越し作業をするとなると|(ありえない話だが)
こんな短時間で終わるわけがないのだが、何分、この部屋には必要最低限の物しか置いてなかった。
友達も殆ど呼べないような殺風景な部屋だ。
当然、家具など少ない。
冷蔵庫なんかはビジネスホテルにあるような小型のものだったし、TVもそこまで
大きくなかったので部屋からの出し入れもスムーズに行える。
これらは必要だと欲しがっていた、隣部屋の中年男性に譲ることで片づけた。
レンジや食器棚|(これも小さめ)は、友達の実家からのお古使っていたためか
かなり年季が入っているらしく、業者に処分を依頼した。
ひとしきり片づけた室内を見回して、何か忘れ物がないか確かめる。
すると部屋の隅に置きっぱなしのノートPCが目に入った。
「危ねーー。忘れるとこだったな」
あまりに生活空間にマッチしすぎていて、見落としていた。
そして、持ち上げたPCの下から姿を現す一枚のディスク。
「げっ……………」
そのディスクに苦虫を10匹まとめて噛みつぶしたような顔になった。
以前、実家の家具を譲ってくれた友人が遊びに来たことがあった。
その時、「やっと手に入れたぜ…!」と目を輝かせながら、遊び始めたのが
この18禁PCゲームなのだ。
人んちで、ましてや人のPCでエロゲーする強者も
そう他にいないが、お世話になったということもあり、その時は黙認しておいたのだった。
ウヒョォォウ!
とか
フォォォォオオウ!
とか
変な声をひとしきり上げた後、興奮して帰っていったので、
ゲームを持って帰るのを忘れたんじゃ無かろうか。
全くご愁傷様だ…。
ディスクに描かれている「Lovery☆Memory」のタイトルに辟易しながら、旧自宅を後にしたのだった。
★
旧自宅最寄り駅前である。
今日も変わらず、学生やサラリーマンなど人の往来が盛んだ。
割と大きな部類に入るこの駅は、深夜ぐらいにしか人通りが絶えない。
一日の大半、人が込み合うように入っていくところから見ても、
この場所が交通の要となっているのかもしれない。
もう陽も傾きかけている、そんな時間。
街を彩る夕日がとても鮮やかだ。
何か赤い液体のように街に垂れ込める夕日は、どこと無い切なさを植え付ける。
いつもと変わらない街の景色。
その雰囲気がより一層、哀愁を際だたせていた。
そんな自分らしからぬ想いにふけっていた刹那_______。
「…………っ!」
聞き覚えのある音が耳元をかすめた気がした。
ヒュッという空気を切り裂くような高音。
反射的に身を隠そうとする。
ブロック塀の隙間から僅かに見える、その車両は黒塗りのバンに間違いない。
生きている実感も湧かないまま、安全そうな金属製の柱の陰に身を落とした。
「ハッ……ハアッ…」
以前の記憶も手伝ってか、呼吸が荒くなる。
本能で逃げまどっていた身体が、徐々に理性を取り戻していく。
「狙撃された」その事実に気付くのに時間はかからなかった。
今さら、何故?という感情すら起こらない。
踏み始めた道の先に危険があることは予測できていたのだ。
それでも釈然としない状況を飲み込むのと同時に、
駅前ロータリーに一台のシロッコRが停車した。
中には熊男と美女を乗せて。
「何かあったような顔だな。こっちも一筋縄じゃ行かねぇ事態になった」
車内からそう言う。
「とにかく急いで乗れ」
熊羽の言葉に、無言でうなずき車に乗り込んだ。
変わらない街で、取り巻く状況の変化が起きている。
請負屋の誰もが気づいている事だった。
陽も傾いた。
夕日が沈むのを待っていたかのように、濃い闇が一面に拡がっている。