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Escape

初のバトルシーンそして本編突入です。


「とりあえずは一旦、退却だな」


タバコをふかしながら熊男が言う。


無理矢理逃げろだの言われてからは、とりあえずおとなしく車内にいる。


「隠れ家へ?」


「あぁ、そうするしか無さそうだ。ルーガ、お客さん来ねぇかしっかり見張っといてくれ」


「わかりました。」


あの娘はルーガというのか。

意外に艶めかしいような声だ。熊と女、なぜか美女と野獣を彷彿とさせる。


色々な考えが回っているうちに、ルーガは後方の見張りにつく。

ここってまだ公道だぞ…。警察でも見つかったらヤバいのか?


「俺たちゃ、そんな怪しいもんじゃねぇよ」


ガハハと唸るように笑って熊男が言う。

これで怪しくない方が怪しいだろ。

さっきまでの考えを見透かされたようで内心少し焦る。

いつの間にか訝んでいたのが表情に出てしまっていたのかもしれない。

「さっきも言ったが、俺たちは請負屋。クライアントの依頼を請け負うビジネスをしてる。」


ビジネスと来たか。どうせ裏社会を牛耳って麻薬だの、武器の密売だのに手を染めているのだろう。


「麻薬…とか…?」


つい口が滑ってしまった。と思ったときには時すでに遅し。


「ガハハ。ヤクの密輸なんざは俺たちの専門じゃ無ェよ。だからそこは安心しろ。まぁ、もっとも密輸より危険な仕事かもしれねぇがな。」


安心しろつったの誰だよ…。


「依頼に完璧に答えるのがポリシーだからな。だから本当に安心しろ。」


「それより…」とルーガが何か言いたげに振り返える。


「こちらの名前も名乗らずに車に押し込むなんて失礼ですっ。ポリシーとかの前にやることがありますっ!」


うんうん見上げた仕事熱心さだけれども、人んちの風呂場に勝手に不法侵入しといて名乗りが大事ってのも説得力ないからな。


やれやれ、敵なわないぜ。といった様の熊男。


「熊羽 三郎。んでこっちがルーガだ。」

その後に、「ルーガ怒ると恐ぇから(笑)」

などと言ってルーガが泣き目で抗議していた。

極端に悪い奴らでは、なさそうなので名前くらいは覚えといてもいいだろう。


んで、お前は?という表情でこちらをチラ見してきたので一応答えておく。


「あっ…あぁ、涼牧 薫。とりあえずお世話になる。」


こういうときは必要最低限のことだけ述べておけばいい。


「まぁ、よろしく頼む。」


不覚にも少しだけ表情がゆるんでしまった。

やはり人(熊もいるが)と新しく出会うという機会に不慣れなので、そこは場慣れしていない。


昔から中高と新しいクラスになるたびに自分のコミュ力のなさに気を落としていた。

すぐに人が周りに集まってくるような「人気者」的存在が眩しかった。

一時はその様な存在に憧れていたが、今となってはすっかり割り切っている。


今の道のりはというと件の「隠れ家」なる場所へ向かっているらしく、

高速道路へ針路を取っているようだった。


「人気の無ェ山道ならともかく、高速でドンパチやりたかねぇな。」


本当にドンパチすんのかよ…。


などと訝みながら車窓に広がる景色を眺める。

ここは都会的な景色や道路ではなく森や山を貫くような道ばかりだ。

トラックの類の大型車両は比較的少なく、自家用車の方が比率的に多い。


皆、思い思いにどこかへ向かっているのだ。

追い越し車線から追い抜いていく車たちには、どこか哀愁すら感じる。


周りの有機的な景色も相まって心なしかそう映った。

昔、父親と出かけた記憶がフィードバックしているのかもしれない。


「山ばっかで、つまんねぇもんだな。」


ふぁっ!という表情でルーガが驚いている。


「てっきりクマさんは森が好きなのかと思ってましたけど違うんですね。こういう景色も悪くないのに。」


オフのとき絶対また行きましょう!

と意気込んでいたので自然の景色の方が好きなのだろう。


「んじゃ、たくさん稼ぎませんとな」


「もちろんです。たとえゴジラが来ても潰してみせます。」


ぱぁーーと顔を輝かせながら恐ろしいことをいう姿は別の恐怖すら感じる。

ゴジラ討伐なんて依頼ないだろ…。


横でさらりと恐ろしいことを話している最中にもルーガは後方警戒を怠っていない。

その目は完全にゴジラを潰す眼差しだった。

               

                ★


さっきあの熊羽とか言う熊が話していたドンパチのとは何なのだろう。

まさか本当に戦闘?


いやいや、それは無いだろ…。

危ない仕事が故に警察なんかが絡むことを恐れているに違いない。


さっきから考えても理解できないことに思案を巡らせていた、


その刹那……。


バキンッという鈍い音が車体後部に広がった。


「ヤバ…本当に来やがったな…」


熊はそう呟いて、ルーガに目配せをする。

それに答えるようにルーガも頷く。


俺たちを乗せた車は追い越し車線へと進路を変更する。

途端に再び、車体下部に何か衝撃が走った気がした。


おそるおそる覗く車線の向こう側にはこの車を取り囲もうとする者たちがいた。

中にはハンドガンを構えて臨戦態勢の者もいる。


わざとらしく黒塗りされたセダンが三台。

一台は真横の車線を併走、もう一台は併走する車のすぐ後ろへ、そして残りの一台は

俺たちの乗る車の真後ろをベタ付けするように走行している。


三方から挟み込もうとしたいのか、併走しているセダンとの激しい追い抜き合戦になる。


「野郎、撃って来やがった」


少しも表情を変えず一言だけ言い放つと

熊男はフォルクスワーゲン社製シロッコRを

フル加速させていく。


「クマさん、潰すしかありません」


状況は悪化の一途をたどるとみたルーガは持っていたハンドガンの弾数をチェックして呟く。


「だな。おっしゃ対地戦闘用意だ。非戦闘員は頭ァ下げてお祈りでも捧げといてくれ」


バカ。冗談言ってる場合か…。


ツッコみたい気持ちを抑えると同時に熊が懐からハンドガンを取り出した。

特徴的な丸みを帯びた三角形をした銃先。

その手に握られているのは間違いなく、デザートイーグル

だ。


デザートイーグルは世界最強のハンドガンで、その銃口から放たれる50AE弾は

人の頭部を軽く吹っ飛ばす。

モデルガン好きの友人がいたので、その辺に詳しくない俺でも多少は知っていた。

知らなくていい知識があると余計恐ろしくなる。


見る人が見たら狂喜すんだろうなぁ…。

そう状況を整理していると熊男が


「主砲発射用意よし。」


「主砲撃ち方はじめ。」


などと理解不能な文句を並べ、同時に黒いセダンめがけて50AE弾を叩き込んでいく。

バガンッ、バガンッという音は大砲のそれを連想せざるを得ない。


「チッ、やっこさん防弾タイヤかよ。ルーガぁ、トランクにM4あっから援護頼む。」


「あいあいさー」と間抜けた返事はするものの、もう先ほどまでの面もちではない。

わかっていましたよ、とばかりにM4カービンを手にし組み立てていく。


こちらのM4カービンとはコルト社製のアサルトカービンで米軍をはじめ各国でも広く使われている

銃だ。アクション映画なんかではよく出てくるらしい。


ルーガはセレクターをセーフティからセミに切り替えると、こちらへ銃を向けている数名へ

弾を撃ち込んでいく。


シュタンッ、シュタンッというライフル弾特有の発砲音。

次々と確実にかつ素早くヒットさせていき、ドライバーらしき男が被弾した。

併走していた車両が失速していき、真後ろにいた味方の車両も慌ててブレーキをかけるが

間に合わず激しく衝突した。


「二台排除」


ルーガはそうつぶやくと、まだ終わっていないから気を抜くなという面もちで再びM4を構える。

無論、一気に二台片づけたルーガに素直に驚愕してしまった。


「マ…マジかよ…」


街にいても普通に声をかけられそうなくらいの美女が、こんなに計算高く強いとは…。


「だから怒らせっと恐いんだよ」


当のルーガが、本当に怒りそうなので会話を続けないでおこう…。

だが口を開いている暇も与えられずに後方に陣取っていた残りの一台が、反撃の音を響かせる。


「うおわあっ!?」


「おいおい、突撃とかナシだぜ」


黒セダンは後方を見ればすぐそこで、力任せの突撃に走っていた。

不意に背中を蹴られたような強い衝撃。


マガジン(弾倉)を交換していたルーガも「ひゃあっ!?」と言って大きくその身を揺らす。

だが立て直しは素早く、劣勢を感じさせない。


請負屋+俺を乗せたシロッコRは、次の突撃をかわすために車線変更を繰り返している。

行楽シーズンだったら…思うと身震いしてしまう。

幸いにも現在、他車はほとんど見られず道はガラ空き状態だ。


田舎バンザイ!などと喜ぶのも束の間、次の突撃を受けてしまった。

車体後部のリアガラスに入る亀裂が衝撃の強さを物語る。


「クマさん、ちょっとヤバいです。リアガラス…」


「クソ野郎!熊羽スペシャルカーをなんだと思ってやがる」


変なこだわりでにキレている熊が続ける。


「この際手加減無しだ…とにかく振り切りたい」



「いえっさー」


なぜかユルいけど締まった返事でルーガが再度反撃の音をを轟かせる。

素早くセレクターをセミからフルへ切り替え、何もない右方向の窓を向く。


「危ないから身を下げてっ!」


「わ、わかった」


耳元にヒュンッと弾のかすめる音がすると否応なしに身を隠してしまう。


何か思い詰めたのか熊男がゆっくりと口を開いた。


「すまねぇな、酔うの覚悟でな」


えっ…?という暇も与えられず強いエンジンブレーキのGが体を圧迫する。

120キロオーバーの併走状態から減速し相手の後ろに回り込んだのだ。


空を制する戦闘機の世界において、カウンターマニューバというものがある。

ドッグファイト(戦闘機同士1対1の激しい空中戦)時に、自機の真後ろを追撃してくる敵機の

後方へ一気に減速し回り込む、という荒技である。熊羽のせんとする事、それはまさに

カウンターマニューバそのものだった。


ルーガもそれを解っていたかのように、減速する瞬間を捉えて一気にM4カービンの5.56ミリ弾を

放つ。ハンドガンのマグシェンジ(弾倉交換)をしていた男がぐったりとなだれ込んだ。


回り込みに成功し敵車が目の前に来ると熊男黙っていなかった。


愛車を廃車同然にされた怒りは大きかったようだ。


「あとから届く請求書の山ァ、楽しみにしてろ」


そうつぶやいて手元の砲がマズルフラッシュを煌めかせた。その数五回。


ガーンッ、ガーンッという音が響きわたる。間髪入れずにルーガも援護射撃を加えていく。


足周りを酷く撃ち崩された黒塗りのセダンは、半回転して左側面へ突っ込み大破した。

今まで煽っていたセダンが今は激しく炎上している。



そのころ俺は、交通安全祈願のお守りを握りしめながら、意味不明で密度の濃い一日をのろっていた。



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