我が名は白牙全てを切り裂く者
白牙の設定説明名様な独り言とテレパシー少女との出会い
世界の海と港の大半を支配する海王国ムーツのルーフェイス聖王国の側にある港町、レールド
『私の名は白牙、よく子猫と勘違いされるが、れっきとした元魔獣だ。
魔獣とは、神名者が神になる時に残した肉体から長き年月経て、獣の胎から生まれる物だ。
私も、邪神と転じた蒼貫槍の先代の戦神の牙を元に、虎の胎から生まれた。
そして、私は全ての存在を切り裂く物であった。全身が刃と同じだった。
だが、元魔獣だ、今は正しい戦の守り手、八百刃様の使徒、最古にて初めての八百刃獣だ。
異例とも言える十四での神名者への昇華、そしてたった五十年でほぼ神の力を得ていた蒼貫槍を破るだけの力を得た、歴代でも有数の力を持った戦神系統の神名者である八百刃様に仕えられる私の事を、同じ神名者の使徒達はもっとも強い神名者の牙と呼ぶ。
まーヤオの事を良く知ってる者達は、幼子の繋ぎ紐とも呼ばれているが。
そして肝心の八百刃様はと言えば、前回貰った報酬では船代を出したら残らないと、ウェイトレスのバイトをしている。
何時もながら、神名者として、根本的な物を間違えている。
元々神名者は、個人的に現世に関わらない。
神名者としての意味を持った名は、信望を集めなければいけないが、個として認識を持つ人間は一人でも少ない方が良いのだから。
覚えている人間が多ければ多いほど、肉体がこの世界に縛られる。
神名者は、個の認識を消していき、最後には空腹も身体の変化(髪の毛が伸びたり、老廃物を出すこと)も無くなって行き、最終的に肉体を捨てるのだ。
だからこそ神名者は世捨て人とし、信望者の願いを叶えるのが普通であるのだが、ヤオは何を考えてるのか、平然と現世と関わりを持つ。
それが、どれほど自分の神への道を遠ざけているか解っているのか居ないのか。
信望者に神名を見せれば金等、幾らでも貢がせられるというのに。
ヤオは信望者からは、仕事料しか、それも多くても金貨一袋(約百枚)位しか貰わない。
そんな金額では旅をしていればすぐになくなる。
小銭を稼ぐその情けない姿を見る度に、私は八百刃獣になった事を後悔している。
ドジなのも仕方ないのだ、八百刃の強大な力、超身体能力を抑制する為、八百刃は殆ど全身を鋼鉄の鎖に結ばれた上、目隠しされた様な状態で生活しているのだから、無意味にこけたり、普通の人間だったら気付きそうな事も気付かないなど起る。
仕方ない事だとは解っているが、それでも釈然としない。
その上、この頃はやたら金運が無い。
ヤオに言わせれば、ペナルティだと言っている。
あまり現世に関わり合い過ぎた為に、お金を使って現世に関わる確率を減らす様に神様達が決めたと言っている。
そんなペナルティを受けたんだったら止めれば、良いのに、余計に関わりを増やしている気がするが、一時期人々の争いに関わり合う事が少なくなったのが、ここ最近多くなった。
ペナルティ故の事であろう。
良かったというべきかも知れないが、現世の肉体を捨てる必要がある以上、そろそろヤオ個人を覚えられるような事はしない方が良いに決まっている』
そんな事を考えながら白牙は、ヤオが働いている酒場の周辺を散歩して居た。
そんなとき一人の少女が来て、白牙を抱き上げる。
「子猫たんだ!」
そしてほお擦りをする。
大きく溜め息を吐く白牙。
子猫の様に見える外見の為、女子供にこんな風な扱いを受ける事が多いのはもう慣れてしまったのだ。
「子猫たん。あたしの名前はルーミ、八歳なの」
『子猫に名前紹介してどうするのだ』
白牙がテレパシーで呟く。
本来なら普通の人間には、こちらが聞かせようとしない限り聞こえない筈である。
しかし、ルーミが答えた。
「えーとね、お友達になって欲しいの」
それに驚き白牙言う。
『まさか私の思っていることが解るのか?』
ルーミは大きく頷く。
「この町、ルーミ位の子供が全然居ないの。だから遊んで!」
無邪気に言うルーミ。
『仕方ないだろう、この町は今、海賊同士の縄張り争いで、荒廃している。お前みたいな子供を一人で外に出す親は居ない』
そういって、白牙が後を向くと、まるで合わせた様に、海賊が現れる。
「子供じゃないか?」
そいつ等はいやらしい笑みを浮かべて、ルーミに近づいてくる。
「へへへ、この町では俺達の趣味がばれちまって、子供を外に出しやがらないからな」
「少し小さすぎないか?」
「そこは我慢さ。多少無理やりでも、そっちの方が楽しいさ」
キョトンとしているルーミを囲み、男達は好き勝手な事を言っている。
『噂は本当だったのか。今いる海賊達は幼女を襲う変態の集団だった』
白牙の言葉にルーミが怯える。
「えーあたし、この人たちにへんな事されるの?」
それに対して海賊たちが言う。
「大丈夫、直ぐに気持ちよくさせてあげる。お兄ちゃんたちはとっても上手だから」
そういってルーミに掴みかかろうとした時、白牙の前足が膨らみ、そして腕を叩き潰す。
海賊達は驚く。
「子猫たん?」
「何なんだこの猫は?」
そして白牙は膨らみ続け人間の背丈ほどはある、白い虎へと変貌した。
「魔獣だ!」
それに対して白牙が宣言する。
『否、我は白牙、戦いの守り手、八百刃様の使徒、八百刃獣の一刃なり』
その宣言に驚きながらも、得物に握る海賊。
「ふざけた事言いやがって死ね!」
そういって、襲い掛かるが、男が放った棍は、白牙にふれた途端斬れた。
そして、白牙は触れただけで男の体が輪切りになる。
「化け物だ!」
逃げていく海賊の生き残り達。
白牙が元の姿に戻った時、ルーミが驚いた顔をしていた。
『しかたあるまい。こんな物を見ては普通の子供なら気絶しててもおかしくないからな』
白牙が苦笑していると、ルーミは白牙の事を再び抱き上げ、強く抱きしめる。
「白牙ちゃんって言うんだ。うんカッコよかったよ!」
白牙は眉を顰める。
『お前、怖くないのか?』
ルーミはあっさり頷く。
「だってうちのお父さんの海賊のキャプテンだもん」
その言葉に、唖然とする白牙。
「さーお父さんを紹介するから来て」
そういって、一つの酒場に入る。
そこは、ヤオがアルバイトしている酒場であったが、ヤオが涙を流して居た。
『どうした?』
「えーと大切な物だからって預かった金時計落して壊しちゃったの。とても即金で弁償できないの」
そしてルーミが言う。
「あれがお父さんなの」
そういってルーミが指差したのは、ヤオの前に立つ男だった。
「お金が無いんじゃ仕方ない。俺の船で暫く働いてもらうぞ」
その言葉に、ヤオは力なく頷く。
「はい。解りました」
白牙は大きな溜め息を吐く。
『どこの世界に海賊の船の下働きをやらされる神名者がいるんだか』
そんな白牙の呟きは、ヤオには届くことは無かった。
そして、ヤオたちは、海賊船に乗り、ローランス大陸を離れるのであった。




