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戦神神話  作者: 鈴神楽
新たな世界へ
65/68

新約と旧約の違い

同じ本でも読み手によってイメージが違うものです

 センータ大陸の貿易都市、ロンレス



「ただいま無料で配布させてもらっています!」

 そう言ってヤオは、手に持った『戦神神話』を通行人に配っていく。

『お前、前にも同じ事をしてなかったか?』

 呆れた顔で言う白牙に、ヤオが何かを思いだす様な顔をする。

「ヤーリと一緒の時に、良くやったね。まー、今回はノルマ制だから、頑張って配らないとね」

 必死に頭を下げて、『戦神神話』を配るヤオであった。



 仕事が終わり、なんとかノルマをこなして、給料を貰ったヤオは、少ないお金と、にらめっこしていた。

「オムレツ食べたいけど、ここは倹約して、少しでも多く、借金返済に充てないといけないよね」

 そんな世界の終末の関係者と、思えない悩みを抱いているヤオを、視界から外して白牙が外を眺めていると、ヤオと同じバイトをしていた女性が、複数の男性に絡まれて居た。

『ヤオ、ほっておいていいのか?』

 ヤオは、少し考えてから言う。

「助けたら、夕飯くらい奢ってもらえるかも」

 セコイ事を言いながらヤオが、女性の前に立塞がる。

「何のつもりかは知らないけど、乱暴な事をするなら、あちきが相手をするよ」

 男たちは爆笑する。

「お嬢ちゃんがか? 笑わせてくれる! 俺達はロリコンじゃないから、ガキの相手はしないんだよ!」

 ヤオの無言の蹴りが、その男の側頭部に決まり、壁まで吹っ飛ぶ。

「あちきだと、役不足って事?」

 ヤオが睨みながら言うと、残った男達は逃げて行った。

「助かったわ、ヤオちゃん」

 ヤオと一緒に働いていた女性、パレラの言葉に、ヤオが笑顔で答える。

「お礼なんて、夕飯食べさせてもらえれば十分です」

 苦笑するパレラ。

「いいわよ、あたしの家まで来て」

 ガッツポーズをとるヤオ。

「これで一食浮いたぞ!」

 大きな溜息を吐き、白牙が言う。

『今頃、ヤオの娘達は、必死に戦ってる筈なんだがなー』



 パレラはいかにも格安物件って、雰囲気なアパートに入っていく。

「ここよ。汚いけど我慢してね」

「お邪魔します」

 ヤオが入ると、そこにはパレラと同じ二十歳くらいの男性が居た。

「早かったな」

 不機嫌そうに言う男に、パレラが眉を顰めて言う。

「ポレロ、この時間に家に居るって事は、またクビになったの?」

 その男性、ポレロは酒をあおる。

「客に、八百刃の信望者が居やがったんだよ!」

 大きく溜息を吐いて、パレラが言う。

「ごめんなさい、彼はポレロ。八百刃様の事を憎んでるの」

「奴に様なんてつけるな! 奴は、俺達の希望を全て裏切った、最低の存在だ!」

 ポレロの言葉に、ヤオが首を捻る。

「もしかして、元八百刃の信望者?」

 ヤオが尋ねるとポレロが怒鳴る。

「思い出させるな! あんな奴の信望者だったなんて、屈辱な記憶をな!」

 荒れまくるポレロに、パレラが溜息を吐いて言う。

「ヤオちゃんごめんなさい。彼がこんなだから、夕食はまた今度って事にして」

 ヤオは思いっきり残念そうな顔をすると、ポレロが言う。

「食事くらい、俺が作ってやる」

 台所に行くと、料理を始めるポレロ。

 その料理風景を見てヤオが言う。

「ポレロさんって、有名な店で修行した事ない?」

 パレラは驚いた顔をして答える。

「そうだけどよく解ったわね」

「手際とか見れば解るよ。見た目より人生経験豊富ですから」

 齢、三百十四歳のヤオの言葉に、パレラが頷く。

「旅を続けていると、普通より人生経験が、豊かになるものね」

『完全に誤解してるな』

 白牙が突っ込むが、当然、パレラの耳には届かない。



「美味しかった」

 幸せいっぱいな顔をして、帰り道を行くヤオの前を、数人の男性が立塞がる。

「先ほどは、信望者が迷惑をかけたみたいで、申し訳ありません」

 中央の男が、頭を下げる。

『さっきの連中の仲間みたいだが、何のつもりだ?』

 白牙の呟きに、ヤオは状況をだいたい理解する。

「用心棒は、やらないよ」

 その一言に、その男性が言う。

「何故です? まさか、旧約『戦神神話』を聖書とする邪教に、本当にとりこまれているのですか?」

 白牙も理解する。

『こいつらは、新約『戦神神話』派の人間なのか。それで旧約『戦神神話』を配っていた女性に襲い、邪魔しようとしていたんだな』

 ヤオが呆れた口調で言う。

「くだらないね。新約とか、旧約なんて関係ない、あちきは八百刃の信望者じゃないからね」

 男性の顔が引きつる。

「八百刃様を信じていないのに、『戦神神話』を配っていたのですか?」

 ヤオは笑顔で答える。

「けっこう良い、バイト料だったから」

 それ以上は答えず、男性達を置いてその場を離れる。



「なんて事があったから、パレラさんも気をつけたほうが良いよ」

 翌日のバイトの後、報告の為と偽って、食事をたかりに来たヤオの言葉に、パレラが言う。

「そもそも、旧約とか新約とか、どう違うの?」

 ヤオは肩を竦めて言う。

「本人たちは、全然違うって言ってるよ。正直、最初の『戦神神話』とは、どちらとも、違ってるんだよ」

 首を傾げるパレラに、説明を続けるヤオ。

「端的に言えば、旧約の八百刃は、正しい戦いをする人を護る為にやってきて、新約だと悪い戦いをする奴等を倒す為にやってくるって風に、なってるよ」

 パレラが呆れた顔になる。

「それって、そんなに違うもん?」

 首を横に振るヤオの足元で、白牙が呟く。

『どちらにしても、本物とは、全く異なるがな』

「旧約『戦神神話』何て、嘘八百だ!」

 ポレロが怒鳴る。

 その反応にヤオが言う。

「信じて居た八百刃様が、助けに来なかった?」

 ポレロはバイト先からヤオが持たされた旧約『戦神神話』に、包丁を突き刺す。

「親父は、自分達が正しいと言って戦った! 正義の為と、母さんさえ犠牲にしたのに、八百刃は、助けに来なかった! こんなもんに書かれているのは、全て嘘なんだよ!」

 ヤオは、激情するポレロの手から料理をとって、つまみ食いをしながら言う。

「そうだね、所詮は八百刃様頼みしか出来なかった、貴方のお父さんが馬鹿だったって、訳だよね」

 ポレロは、ヤオに掴みかかるが、ヤオは平然と言う。

「あちき、何か間違った事を言った?」

 ポレロは激しく苛立ちながらも、ヤオを開放して答える。

「間違ってない。全ては八百刃なんて幻想に頼った、親父が間違っていたんだ!」

 ヤオは、パレラに頭を下げて言う。

「注意も出来たんで、今日は帰ります」

「ごめんなさい」

 パレラも雰囲気が悪い事を気にして、ヤオを帰した。



 パレラの家から、仮宿までの帰り道に、白牙が言う。

『奴の父親は、何が間違っていたのだ?』

 ヤオは大きく溜息を吐く。

「大切な者を犠牲にするって、考えが間違ってる。八百刃の名には、大切な者を護るって意味も、含まれているんだよ。例え我侭でも、大切な者を護りながら、自分の信念も貫こうと、戦ったら、あちきの感性に引っ掛ってるよ」

『いつもの様に、その意思を媒介に、遠く離れていても、八百刃獣を送れたか?』

 白牙の言葉にヤオが頷く。

「あちきの力は、全てを護る為にある。その為の八百刃獣なんだよ」

『全てを助けようとする、そんな我侭に付き合わされるのが私達なんだな』

 白牙の言葉にヤオがあっさり頷いた後、少し考えてから言う。

「でも白牙って、その仕事やってない、楽な役回りだよね」

 白牙の動きが止まる。

 ヤオは振り返ると、白牙が遠い目をして呟く。

『八百刃獣の誰に聞いても、私が楽をしてると言う奴は、居ないぞ』

「どうして?」

 首を傾げるヤオに、白牙は何も答えなかった。



「お腹が空いたよ」

 バイト代で、借金をいくらか返した帰り道を、よろよろしながらヤオが歩いていると、ポレロが一冊の本を手に、質屋の前に立っていた。

「本を質にいれるのかな?」

 ヤオが呟いた時、パレラが駆けて来る。

「ポレロ、それは、ポレロのお父さんが命懸けで護った本でしょ! それを売るなんて駄目よ!」

 その一言がポレロに決心をさせた。

「良いんだ! こんなものは最初から必要が無かったんだ! こんな『戦神神話』の原本なんて!」

 その時、数日前、ヤオの前に現れた男と、その取り巻き、新約『戦神神話』派の人間が現れる。

「それですか、かの有名な八百刃様が自ら信望者に配ったとされる、『戦神神話』の原本と呼ばれるものは。渡してもらいましょう」

 手を差し出す男。

「何で渡さないといけない! これはそこの質屋に売るんだ。きっと高く買ってくれるぜ」

 それに対して、男が金貨の袋を差し出して言う。

「強欲な人だ。これで良いのでしょう?」

「駄目よ、ポレロ!」

 制止するパレラを振り切り、ポレロが本を差し出そうとした時、新約『戦神神話』派の男が告げる。

「そうです。貴方の父親も、貴方みたいに聞き分けがよければ、良かったのですがね」

 ポレロの手が止まる。

「お前、親父を知っているのか?」

 肩を竦める新約『戦神神話』派の男。

「散々困らせられました。折角、原本を高額で買い取ると言ったのに、受け入れなかったのですから」

 その一言に、ポレロが怒鳴る。

「まさか、母さんを殺したのは、お前達か!」

 新約『戦神神話』派の男は、心外そうな顔をして答える。

「勘違いなさってはいけません。貴方の母親は、愚かな夫の代わりに、八百刃様の天罰を受けたのです」

「貴様!」

 詰め寄るポレロだったが、新約『戦神神話』派の男の周りに居た、暴力担当役が、ポレロを押さえつける。

 押さえつけられながらも、ポレロが怒鳴る。

「お前だけは絶対許さない!」

 男は鼻でポレロを笑いながら、ポレロが持っていた『戦神神話』に近づき拾い上げようとしたが、ヤオが先に拾う。

「なつかしい、これってあちきが昔、配っていた『戦神神話』だよ」

 その一言に男が戸惑う。

「冗談はよしなさい。それを貴女が配ったって、証拠は何処にあります!」

 ヤオは、最後のページをめくり、そこに書かれてある、ヤオのサインをみせつける。

「廃棄とかしてないかって、全部にあちきの直筆のサインさせられたんだよ」

 そのサインはとてもここ二・三日にしたものでは無い、古さがあった。

 よろける男。

「まさか、あれだけの金を使ったのに真っ赤な偽者?」

 呆然としている新約『戦神神話』派の男達の中から、ヤオはポレロを拾い出して、パレラ達の家に戻った。



「どうするの?」

 ヤオの質問に、ポレロが立ち上がって言う。

「奴等を倒す!」

 パレラが慌てて、ポレロに縋りつく。

「止めて、復讐なんて意味は無いわ!」

 ヤオも頷く。

「そうかもな。でも俺は奴等の考えを認められない。たかが本の為に、人を殺せる奴等をほっておけるか!」

 そう言ってパレラの肩を掴み、ポレロが断言する。

「もう二度と、大切な者を奪われる訳には行かない。だから俺は行く!」

 駆け出すポレロ。

 ポレロの思いに、何も、止めることさえ出来なくなったパレラ。

 ヤオはポレロを見送った後、問題の『戦神神話』をめくりながら言う。

「にしても、本気で懐かしいね」

 しみじみとヤオが言うと、少しでも気分を紛らわせたいのか、パレラが話しかけてくる。

「随分と古そうだけど、何年前に配ったの?」

「およそ二百年前だよ」

 ヤオの言葉に戸惑うパレラ。

「どう言う事?」

 ヤオは説明を続ける。

「これは、ニュームスの販売した奴で、親戚であるヤーリが配布してたの。あちきは、ヤーリの護衛をしながら配布を手伝ってたの。まさかそんなものを、ありがたられる時が来るなんてね」

 聞いたことある、有名人の名前に驚くパレラ。

 ヤオは窓の外を見ると一人で頷く。

「うん。ちゃんと正しい意思で戦ってるね」

 ヤオは、胸を開き両手をその上で広げる。

『八百刃の神名の元に、我が使徒を我が名に準ずる者の元へ降臨させん、水流操竜』

 ヤオの右掌に『八』、左掌に『百』、胸に『刃』が浮かび、何か強力な力が発動した。

 次の瞬間、ポレロが向った先から逆さに落ちる滝の様な現象が発生した。



 ポレロは自分の死を半ば覚悟していた。

 しかし、それでも認められなかった、本一冊の為に、人を殺そうとする連中を。

「下賎な人間め! お前には我等の憤りの、捌け口になってもらう」

 さっきまでの落ち着いた雰囲気は無く、完全に悪人顔になった新約『戦神神話』派の男の顔を真っ直ぐ見て、ポレロが言う。

「俺は、負けない。お前等みたいな奴等が居る限り、大切な者を失う事になる! だから俺は戦い勝つ!」

 起き上がろうとしたが、男達は、四方から杖で突き、倒す。

 地面に押し付けられるポレロが、なおも叫ぶ。

「俺は、絶対に負けない!」

 嘲りの声があがった時、近くにあった川が大きく持ち上がり、竜がその中から現れる。

『我が名は、水流操竜。八百刃様の使徒、八百刃獣の一刃なり』

 言葉を無くす一同に、水流操竜が告げる。

『その男の戦いは正しいと、八百刃様が認めた。我が助力する』

 無数の数流がどんどん、新約『戦神神話』派の人間を吹き飛ばしていく。

 男達は慌てて言う。

「お待ち下さい、偉大なる八百刃様の使徒、八百刃獣の水流操竜様! 我々は敬虔な八百刃様の信望者です! 罰を与えるのなら、八百刃様を信じない、その男なのではないのでしょうか!」

 必死の言葉に、周りの男も頷くが、水流操竜は全く意に介さない。

『愚か過ぎる。その様な言葉が出る事が、八百刃様に対する反意だと言う事すら、解らぬ様だな』

 言葉を無くす男達に、水流操竜が最終宣告をする。

『八百刃様は正しき戦いの護り手。助けるものに、自分への信望など求めん。八百刃様の意を捻じ曲げる、貴様等の痕跡を地上から無くそう』

 次に放たれた水流が、新約『戦神神話』派の建物を、完全に押し流した。

 その状況を呆然とポレロが見ていたが、その視界に、必死に逃げる、両親を殺した男が入る。

 取り巻きが居ないそいつを、ポレロが殴る。

「止めてくれ!」

 哀願する男に、ポレロが憎しみを込めた瞳を向ける。

 しかし、近場の柱を殴りつけて、ポレロが言う。

「二度と俺や、俺の知り合いの前に現れるな!」

 そのまま背中を向けて、新約『戦神神話』派の建物跡地を、去って行った。



「しかし、実在したんだな」

 パレラの部屋に戻った、ポレロの言葉に、パレラは興奮した表情で告げる。

「あたしは、本人に会ったわ! 彼女が八百刃様だったのよ!」

 ポレロが聞き返す。

「彼女って、誰だ?」

 即答しようとしたパレラであったが、問題の彼女を思い出すことが、出来なかった。

「あれ、どうしてだろう。何か凄く身近な雰囲気がしたんだけど……」

「神名者を身近に感じるなんて、変だろうが。とにかく、俺は疲れたんだ、寝るぞ」

 首を傾げるパレラをほっておいて、ポレロはベッドに入っていく。



「あーあ、一食損したな」

 ヤオは、ポレロ達のアパートの近くの空き地で、ポレロ達を逆恨みにして、襲撃を企てた奴等を、懲らしめてから言う。

『仕方あるまい、八百刃と気付かれた以上、ヤオとしての記憶は消えていく。それは神名者の、決まり事だ』

 白牙の言葉に、ヤオは頬をかきながら、手の中にある金貨の袋を見る。

 そこに、新名の使徒、狼打と新狼が現れる。

「ヤオ、遂に始まったな」

 狼打の一言に頷き金貨の袋を見せる。

「あの子達は覚悟を決めたみたい。借金の返済用に、こんな大金を渡してきた」

 首を傾げる狼打に、白牙がフォローを入れる。

『普段だったら、ヤオに大金を持たせると、何故か大損するから、自分達で借金を返していたんだ。送ってきてた金は、当座の生活費って、意味合いが大きい』

 手を叩く狼打。

「成る程、納得だ」

「ちょっと前に会いましたが、元気そうでしたよ」

 新狼の言葉に、ヤオが微笑む。

「良かった。ところで狼打、新狼を借りていい?」

 いきなり言葉に驚く新狼。

「どういうことですか?」

「移動手段という訳か?」

 新狼と違って、人だった時もある狼打の言葉に、ヤオが頷く。

「南の要になったナーンは、あの子達の移動手段だったからね。良いよね?」

「俺を、代行者の足代わりに、するのか?」

 不機嫌そうな新狼に、狼打が告げる。

「足代わりで終わるかどうかは、お前次第だ。がんばってこい」

 新狼は、少し不満気な顔をするが、空駆馬に乗って瞬間移動する。

「ありがとうね」

 頭を下げるヤオに、狼打が言う。

「これは、貴女だけの戦いでは無い。この世界に生きる、全ての者の為の戦い。一人で、背負い込まないで欲しい」

 頷くヤオに、狼打は振り返り言う。

「そのお金は、早く借金返済に回したほうが良いぞ。下手に持ってると、無くなるからな」

「そんな訳は、ないよ!」

 ヤオがそう言った時、金貨の袋が破けて、落ちていく。

「わー、待って!」

 必死に金貨をかき集める、ヤオを見ながら、狼打が白牙に言う。

「無事に、借金を返し終わると、思うか?」

 白牙は、大きな溜息を吐く。

『聞かないでくれ』

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