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戦神神話  作者: 鈴神楽
新たな世界へ
64/68

本当に信用出来る者

神名者が八百刃以外いない世界、それはこの世界の終末を意味していた


構成上の問題で、この話を読む前に四つ子旅柄日記を読んでおくと解りやすいです。

 魔法と魔獣とが蔓延り、様々な文化と技術が存在した世界。

 時空神が新名に代わってから二百年の月日が経過した。

 世界は、人工魔獣技術による高度なエネルギー供給を背景に、技術と文化の統一化が行われていた。

 しかしそれは、世界の終末の序曲でしかなかった。



 センータ大陸の入り口の町、バレルバレロ



『皆様は無事、真九を打ち破り、要になる決心をなされました』

 ヤオの養女である、代行者の四人の所から帰ってきた、影走鬼の説明を受けたヤオが、複雑な顔をしていると、隣で猫の姿をとって、座っていた白牙が言う。

『四人が旅たつのを決めたときから、覚悟は決まっていた筈だ。あの四人に、世界を救う要になってもらうと』

 ヤオは、頬をかいて言う。

「簡単には、割り切れないよ。多分あの子達は、物凄く苦労するよ」

 白牙は、ヤオを見つめて言う。

『それでも、必要な事だ』

 ヤオは、大きな溜息を吐いて言う。

「あちきに出来るのは、あの子達を信じるだけだね」

 寂しげな表情のヤオに、真摯な表情で白牙が告げる。

『信じよう、お前の娘達を』

 ヤオは静かに頷き言う。

「そして、あちきがやるべきは、借金を返すことだよね!」

「ヤオ、何時まで休憩してる! とっとと働け!」

 ヤオがバイトをしているお店の亭主に、怒鳴られ、ヤオは慌てて戻っていく。

「ただいま、戻ります!」

 そんなヤオを見て、白牙が大きく溜息を吐く。

『どうして、世界が滅びるか、どうかという時に、借金の心配できるんだ?』



「このままで良いのか?」

 そう言ったのは、バレルバレロの裏の顔役、バレロ家の腹心の男、ローレスであった。

「しかたない。今は、兄貴に任せるしかないだろう!」

 一見すると顔だけの優男に見えるが、腕っ節はそこそこたつ、バレロ家の次男、バロス=バレロが、手に持ったグラスにひびを入れる。

 ローレスが机を叩き言う。

「バレンは、バレル町長に尻尾を振ってるだけの無能だ! あんたこそが、真のバレロ家の後継者だ!」

 バロスが鋭い視線を、ローレスに向ける。

「滅多な事を口にするな! 次は、無いぞ!」

 ローレスが唾を飲み込み、ただ頷く。

 その様子を見ていた、周りの配下の人間が呟く。

「あのローレスさんを、一睨みで黙らせるなんて、やっぱ、バロス若頭の方が、病の頭の跡を継いだ方が良いぜ」

「そうだそうだ、バレン若頭の様なまどろっこしいやり方じゃ、こっちがひやがっちまう」

 そんな部下達の呟きを聞きながらバロスは、舌打ちをする。

 その時、バロスに向って、スープ皿が中身ごと飛んでくる。

 バロスは、避けるが、飛沫で服が汚れる。

「すいません!」

 ヤオが駆けて来て、必死に頭を下げる。

「すまないで済むと思ってるのか!」

 ローレスが怒鳴るが、バロスがそれを押さえて言う。

「気にするな。それより、早く変わりのスープを持って来い」

 ヤオは頭を下げて、キッチンに戻ろうとした時、振り返り言う。

「そこのお客様、店内での争い事は止めてくださいね」

 笑顔の言葉に、声を掛けられた男は、戸惑い手にしていた、得物を落としてしまう。

 その場の緊張が高まる中、ローレスが近づき告げる。

「何処の人間だ?」

 その男は何も喋らなかった。

 歯軋りをしながら、バロスが言う。

「こいつの身元調べろ! 明日、俺の朝食までに、はっきりさせとけ」

 そのまま店を出て行くバロスであった。

 そんな中、ローレスが憎々しげな目で、バロスを狙っただろう刺客を睨んでいた。



 ヤオは働かせてもらっている酒場の屋根裏部屋のベッドで、横になる。

『この町の争い、大事になりそうだな?』

 白牙の言葉に、ヤオが面倒そうに頷く。

『干渉するのか?』

 白牙の質問にヤオは、少しだけ顔を上げて告げる。

「最後は、バロスさんの判断しだいだよ」

 そのまま眠りつくヤオであった。



「間違いないのか?」

 バロスが自室で着替えている間に、聞いた答えは、予想外の物だった。

「間違いない。例の刺客は、バレンの配下の一人だった」

 バロスは、映し鏡を叩き割る。

「何であんなマネを! 兄貴は何処だ!」

 ローレスが答える。

「バレル町長と会談の最中だ」

 舌打ちをするバロス。

「このままバレンの言うとおりにしては、表の奴等の飼い犬になるだけだぞ。動くんだったら今だ!」

 ローレスの言葉に沈黙するバロス。

 そして決断をする。

「配下の人間を集めろ!」

 ローレスが顔を綻ばせる。

「ようやく決心したか! 直ぐに!」

 ローレスが出て行った後、バロスが拳を握り締める。

「白黒はっきりさせる時が、来たな」



 バロスは、配下の人間全てを連れて、バレンが会談している町長の家の前に来た。

 バレンよりの配下が、牽制とばかりに立ちはだかる。

 そして、優男とも言えるバロスと似ても似つかない、太った若禿の男、バレンが駆けつけて来る。

「なんのつもりだ!」

 今にも湯気を出しそうなバレン。

「なんのつもりだって! そんな解りきった事を聞くのか?」

 ローレスの言葉に、バレンが歯軋りをする。

「弟の分際で、兄に逆らうつもりか!」

 一発触発、バロスの返答次第では、すぐさま双方の対決が始まる状態。

 しかし、バロスは、何も言わず、自分達の配下の人間を見回した。

 焦れたバレンが、再び問う。

「俺に逆らうというのか!」

 バロスは兄をじっと見て言う。

「約束してくれ、決して配下の人間を軽んじないと」

 意外な一言にざわめきが起こる。

「それさえ約束してくれるのなら、俺はこの町を出る」

 決定的な一言に、ローレスがバロスの肩を掴み言う。

「どういうつもりだ!」

 バロスは周りの人間、全てに話しかけるように言う。

「俺は兄貴と戦うつもりは無い。そして配下の人間に、身内同士の争いをやらせるつもりも無い。ならばここは、俺が引くしかないだろう」

 淡々としたしゃべり口調に、ローレスも言葉を無くす。

 バロスはバレンをじっと見つめて、頭を下げる。

「唯一つ心残りがあるとしたら、配下の人間の事だけだ。兄貴、すまないが頼む」

 バレンはいきなりの展開に戸惑う中、バロスがその場から離れて行った。



「この町を出て行くんだってね?」

 たった一つのリュックを持って、町を出て行こうとしたバロスに、ヤオが話しかける。

「何の用だ?」

 バロスが振り返って聞き返すとヤオは、一人の男を投げ渡す。

 そいつは、昨夜、バロスを襲った奴だった。

「今更なんのつもりだ?」

 バロスが、騒動の原因の男に、苛立ちながらも聞き返した。

 ヤオは、笑顔で言う。

「さっき、あちきに言った事もう一度言ってね」

 男は怯えた表情で慌てて言う。

「本当は、ローレスさんの指示で、あんたを襲ったんだ」

 バロスが驚き、男の襟首を掴む。

「どう言う事だ!」

「知らない、だが捕まっても何も言わなければ、悪いようにしないと、言われてた!」

 戸惑うバロスに、ヤオが告げる。

「ローレスって人は、現在のボスの腹心として長く仕えていたそうだね。そして周りの人間からは、もし息子であるバレンさんとバロスさんが居なければ、後を継ぐ人間だって考えられている。ついでに言うと、ここの町長さんは、強い力をもったバレロの人間を、煙たがっている。だからこそ、排除されないように、バレンさんは、強いパイプを持とうしていた」

 バロスにも筋書きが読めた。

「あいつ俺と兄貴をぶつけて、効率的に排除した後、後釜に座るつもりだったんだな!」

 ヤオは答えず、別の事を言う。

「予想外に、強敵と思って居たバロスさんが居なくなった今、ローレスって人はどうするのかな?」

「兄貴!」

 バロスが駆け出した。



「ローレス貴様!」

 腹を刺されたバレンが、憎々しげにローレスを睨んでいた。

「予想外の展開だが、あのバロスさえ居なければ、お前を始末するなんて朝飯前なんだよ」

 ローレスは、笑みを浮かべて告げる。

「こんな事をして、ただで済むとおもってるのか!」

 バレンの反論を、ローレスが苦笑をして答える。

「バレル町長が、あんたをやったのはバロスで、兄を殺した重圧から逃げ出したって風にしてくれる話になってるから、安心してくれ」

「バレル町長まで……」

 バレンが絶望に負けそうになった時、ドアが開き、バロスが駆け込んでくる。

「お前がどうして!」

 ローレスが驚いている間に詰め寄り、殴り倒すバロス。

「兄貴、大丈夫か!」

「助けに来てくれたのか?」

 呆然とするバレンに、バロスは頭を下げる。

「兄貴を少しでも疑ってすまない。全ては、ローレスとバレル町長の策略だったんだ」

 舌打ちをするローレス。

「こーなったらバレロは切捨てだ! 俺の持っている情報さえあれば、正規の軍隊を動かせる!」

 部屋から出て行くローレスを追おうとするバロスを、バレンが制止する。

「待て! こうなった以上、こっちにも考えがある。お前には取ってきて欲しいものがある」

 その一言にバロスが止まる。

「何?」



「このバレルバレロに巣食う悪党ども、正義の前に死んでいけ!」

 軍人達の後方で高らかに宣言するローレスの言葉に、バレロの人間が激怒する。

「裏切り者が、偉そうに!」

「お前も同じ穴の狢だろうが!」

 そんな言葉すら余裕たっぷりの態度で聞き流し、ローレスが言う。

「俺は目覚めたんだよ、正義にな!」

 高笑いをあげるローレス。

 そして、国王軍の人工魔獣兵器が、配下の人間を庇うように立つバレンに迫る。



 バロスは人口魔獣を動力源とした、自動二輪車に乗って急いでいた。

「早く兄貴の所に戻らないと!」

「このままだと間に合わないね」

 自動二輪車の限界までスピードを出していたバロスの横から、声が掛かった。

 バックミラーを見ると、そこにヤオが映っていた。

「おまえ、どうやって?」

 ヤオは、自分が乗る、黄色い角を持った鹿を指さして言う。

「この子、雷光鹿ライコウロクって言って、雷の力で高速移動できるの。そういうことで送ってあげる」

 ヤオはバロスを自分が乗る、雷光鹿の背中に乗せる。

「雷光鹿、スピードアップ!」

『任せろ!』

 空中に雷が走ると、雷光鹿のスピードが更にあがって、人の目には止まらないスピードになって、進んでいく。



 バレンは、迫り来る人工魔獣兵器をまっすぐ睨み、配下の人間の前に、仁王立ちする。

「バロスから任された部下達には、指一本触れさせん!」

「だったら死ね!」

 ローレスが叫んだ時、物体が音速を超えた時に発生する衝撃波が、人工魔獣兵器を吹き飛ばす。

「到着」

 衝撃波の元である、雷光鹿の背中に乗る、ヤオが宣言する。

 バロスはよろめきながらも地上に降りる。

『もう少しスピード押さえるべきだったな』

 白牙の言葉にヤオが自信たっぷりの顔でバロスに聞く。

「楽なように、スピードを落として来れば良かった?」

 バロスは首を横に振って、無理やり立ち上がり言う。

「恩にきる! 兄貴頼まれた物は取ってきたぞ!」

 そう言ってバロスが渡した包みを開けてバレンが告げる。

「これは、バレル町長と交わした密約の証拠だ。万が一の時を考えて用意しておいた。もし俺達の事を正式に処罰すると言うなら、お前等も道連れだ!」

 その一言に驚いた顔をしてローレスが、後ろに控えるバレル町長を見る。

「そんな物ここで、抹消してしまえばそれまでだ! 特別手当は奮発させてもらいます!」

 バレル町長の言葉に答えて、再び攻撃を始めようとする国王軍の兵士達。

 バロスは強い意思を持って、その前に立塞がる。

「俺は兄貴と配下の人間を守る!」

「お前一人に、何が出来る!」

 ローレスがそう告げた時、ヤオがバロスの前に出て告げる。

「仲間を、兄弟を思い、強大な敵にも戦いを挑む。それは、正しい戦いだよ。だからあちきが力をかしてあげる」

 ヤオはその両手を前に向ける。

『八百刃の神名の元に、我が使徒を召喚せん、降岩犀コウガンサイ

 ヤオの右掌に『八』、左掌に『百』が浮かび、サイの八百刃獣、降岩犀が召喚される。

「メテオクラッシュ、撃て!」

 降岩犀が、周囲の岩を上昇させると、人工魔獣兵器に向って、急速降下させる。

 地面に落ちた岩はその衝撃波で、周囲の軍人を吹っ飛ばして、戦闘不能にしてしまう。

 あまりもの急展開に言葉も無い一同。

 バレル町長が呻くように言う。

「まさか、正しい戦いの守り手、神名者、八百刃様が実在したなんて」

 呆然とするバロスに、ヤオが声を掛ける。

「ほっておいて良いの?」

 バロスはその一言に慌てて、逃げようとしていたローレスを見つけて、捕まえる。

「許してくれ! 苦楽を共にした仲間だろう?」

 厚顔無恥なローレスに、バレロの人間どころか、国王軍の人間も、冷たい視線を向ける。

 バロスは、腰につけていたナイフで、その両肩を突き刺す。

 悲鳴を上げてのた打ち回るローレスに、バロスが告げる。

「お前はもう、自分で食事を取る事も出来ない。そして、お前は、自分が嵌めた俺達に、一生世話になって生きるんだ」

 配下の人間の中には、クレームをあげる者も居たが、その決断が変る事は無かった。



「結局、新しい町長は、バレンさんがやるんだって?」

 大きな荷物を持って、元町長の屋敷から出てきたヤオは、偶々通りかかって深い感謝を現す、八百刃の信望者だったバロスに慌てて質問する。

「はい。兄貴も元々荒事より、政の方が合っていましたから」

 大きく頷くヤオ。

 白牙は、バロスが後ろに連れている、両腕を失ったローレスを見て言う。

『自業自得とはいえ、凄まじい変化だな』

 白牙の言うとおり、両腕の事を差し引いても、ローレスの変り方は異常だった。

 事情が知らない人間が見たら、間違いなく別人だと判断する変り方だった。

「裏切り者には、自分のやった事を一生悔やんで貰うつもりです」

 バロスの言葉に、完全な白髪になった頭に、痩せこけた上、目の下に大きな隈を作ったローレスを観察しながら、ヤオが言う。

「自分のやった事を考えたら、食事や身の世話をしてくれる人間、誰もが自分を殺そうとしてると考えて、食事も睡眠もろくにとれないだろうね」

 そんな会話をしながらヤオは、背の荷物を隠しながら、その場を離れようとした。

「この町を出て行くのですか?」

 バロスの言葉にヤオが頷く。

「あちきも、色々事情があるからね」

「出て行かれるのは構いませんが、背中の荷物は置いていってください」

 突然現れた新町長のバレンに、顔を引きつらせるヤオ。

「兄貴、どうしたんだ?」

 バレンが溜息を吐いて言う。

「前の町長が横領していた町のお金の調査をしていたら、自宅にかなりの資産を溜め込んでる事が解った。因みに、その荷物から出ている花瓶は、俺が賄賂として渡したものですよ」

 バレンが、ヤオの背中の荷物から出ている花瓶を指さす。

「見逃してよ、あちき借金が多くって、可愛い娘達を出稼ぎに出してる程なの。少しでも借金返して、娘達の苦労を減らしてあげたいの!」

 ヤオの懇願にバレンは、指を鳴らす。

 すると配下の人間が、ヤオの背中の荷物を改めて、次々に、前町長の資産を抜き出していく。

『だから、町長の交代のどさくさに紛れて、前町長の隠し財産をちょろまかすなんて、止めろと言ったんだ』

 少ないバイト代だけで、町を後にするヤオであった。

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