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戦神神話  作者: 鈴神楽
世界の車窓から
63/68

不老不死の結果と希望

フェニックステールとの最後の戦い。相手は?

「父さん、何でここに連れてきたのですか?」

 マーレの言葉に、トーレが監視蜥蜴の映し出す映像を見せる。

「敵が来た。万が一の事があったら大変だから、私の傍に居なさい」

 マーレはその言葉に反応できなかった。

「紅雷さんが、助けに来てくれた」

 トーレは嫌な物を察知して言う。

「まさかと思うが、あの男と付き合っているなんて事は、ないですね?」

 マーレは慌てて首を振り否定する。

「そんな事はありません。紅雷さんとはただ一緒に旅をしていただけで……」

 言葉とは裏腹に、おもいっきり気にしているのが丸解りの態度に、トーレの眉間に血管が浮かぶ。

「あの男は絶対に殺す」

「止めてください!」

 必死に止めるマーレだったが、その態度が逆にトーレの殺意を高める。

 その間に翼を失った天狐が戻ってくる。

『もうすぐ紅雷と新狼が来ます。その後には、八百刃と新名の第一使徒、狼打が控えています。効果的な対応を』

 舌打ちをしてからトーレが答える。

「気に入らない男だが、お前に任そう。私は、八百刃に対する奥の手の為に、力を溜めておく」

 頷く天狐。

「止めて!」

 マーレの言葉に、トーレが怒りを込めて怒鳴る。

「紅雷という男は、確実に殺せ!」

『この命に代えましても』

 天狐は、決意を表す為に武道獅子によって、半端な状態になった翼を、根元から切り取り、紅雷たちが来るだろう、入り口を睨む。

 そこに紅雷と新狼が駆けつけてくる。

「今度こそ決着をつけるぞ!」

 紅雷は、蒼牙を振り上げ、必殺の雷を籠めた一撃を振り下ろす。

『甘いわ!』

 次の瞬間、天狐は霧を生み出して、その姿を消す。

「逃げるな!」

 次々と蒼牙を振る紅雷だが、天狐には触れることすら出来ない。

「ここは俺の出番だな!」

 新狼が空狼剣を振るい、霧を吹き飛ばす。

 しかし、霧が晴れた後に、天狐の姿は無かった。

「何処に逃げた!」

 紅雷が叫んだ時、かなり後退した位置に立つ、天狐の姿を見つける。

「今度こそ、終わりだ!」

 紅雷が、全ての力を蒼牙に籠める。

『二撃目は不要!』

 蒼牙がそう宣言し、蒼い雷を自分が変化した槍に覆わせる。

 振り上げられた蒼牙。

 次の瞬間、紅雷の背中が大きく削られた。

『咄嗟に、飛びのいたか』

 空気の乱れが消えて、天狐が紅雷の後ろに現れる。

「どうしてお前がそこに?」

 紅雷が悔しげに呟く。

 天狐はそれに答えず、止めとばかりに無数のカマイタチを放つ。

「させるか!」

 空駆馬で空間飛躍した新狼が、それを空狼剣で打ち砕く。

 後退し、チャンスを窺う天狐。

『蜃気楼じゃ。天狐の能力は天候操作、蜃気楼も、高温の時に起こる自然現象じゃからな』

 萬智亀の解説に、紅雷が蒼牙を杖代わりにしながらも、立ち上がる。

「同じ手は食らねえ!」

『同じ手で攻撃すると思うな』

 無数の天狐が生み出される。

「幻影と解った以上、意味は無いぞ!」

 新狼がそう宣言して、天狐の幻影の攻撃を無視したが、その胸が大きく裂ける。

『攻撃の気配と、幻影の気配を識別出来ない以上、意味があります』

 舌打ちしながらも、必死に攻撃を避ける紅雷。

 空駆馬は、傷付いた新狼を背に、連続空間飛躍で攻撃を避け続ける。

「紅雷!」

 トーレに押さえられたマーレが叫ぶ。

「諦めなさい。天狐は、あの程度の者に負ける魔獣ではない」

 トーレの言葉の正しさを証明するように、どんどん紅雷と新狼の傷は増えていく。

 そのなか、傷の痛みから意識を取り戻す新狼。

『目を覚ましたな。ここは協力して相手を倒すのじゃ』

 萬智亀の言葉に、紅雷が反応する。

「冗談はよせ! 俺は一人であいつを倒す!」

 新狼も頷く。

「当然だ! 俺は人間の力など当てにする理由は無い!」

 根拠がない二人の言葉に、萬智亀が冷たい視線を向けて言う。

『武道獅子の死は無駄だったのー』

 その一言に、二人は激しく反応する。

「「なんだと!」」

 そんな二人に対して、萬智亀が続ける。

『武道獅子は二人の可能性に懸けたのじゃ。それが無駄に終わるのだから、無駄死にじゃろ?』

「「俺一人で勝つ!」」

 そんな言葉に萬智亀が大きく溜息を吐く。

『口では何ともいえる。でも正しい選択かもしれんの。いずれ八百刃様が来れば、天狐もあの男も滅ぼされる。それをこうやって逃げていれば良いのだからな』

 その辛らつな言葉に、紅雷が無謀の特攻をかける。

「俺はお前を倒す!」

 しかし、やはり蜃気楼で騙されて、逆に壁まで、吹き飛ばされるはめになる。

 新狼は空駆馬から降りて、空狼剣で攻撃を防ぎながら、怒鳴る。

「紅雷、力を貸せ! 俺が全力で空間の歪みを切り裂く、その後の止めを、お前が撃て!」

 紅雷が戸惑う。

「紅雷、死なないで!」

 マーレの一言が、紅雷の決心を固める。

「任せろ!」

 蒼牙に全神経を集中する紅雷。

『無駄な足掻きです!』

 天狐が、無防備な紅雷に攻撃を仕掛ける。

「予測通りだ! 唸れ、空狼剣!」

 新狼の空狼剣が、紅雷を周囲の空間を切り裂き、蜃気楼を消滅させる。

「これで終わりだ!」

 紅雷の研ぎ澄まされた紅と蒼の雷が、集束された雷撃弾が天狐を捉えた。

 床に落下する天狐。

「やったぜ、武道獅子!」

 紅雷が片膝をつく。

 新狼も空狼剣を杖にして、立つのがやっとの様子だった。

 だが、それはたった。

『我が主との約束だけは、死守する』

 天狐が、紅雷に飛びかかる。

 紅雷は蒼牙を振るい、天狐を切り裂く。

『しつこい!』

 蒼牙がそう叫び、蒼い雷で、天狐を内部から攻撃する。

 しかし、天狐は止まらない。

 紅雷の眼前に、天狐の爪が迫ってきた。

 回避行動が間に合わず、棒立ち状態の紅雷。

「自分の命を捨てて得た勝利が、どれだけ意味が薄いか知りなよ」

 その言葉と共に放たれた、刀と化した白牙の一撃が、天狐を吹き飛ばした。

 紅雷が振り返ると、そこにヤオが居た。

『何時、到着したのじゃ?』

 萬智亀の言葉に、新狼の後ろから現れた、狼打が答える。

「戦いが始まって直ぐ、蜃気楼に惑わされ始めた時からだ」

 普段と変らない狼打の様子に、少し安心した顔をする新狼。

「ふん、どうせ俺達に任せたから手を出さなかったって、言いたいんだろ?」

 あっさり頷く狼打。

 その時、紅雷がある事に気づいた。

「ちょっと待て! お前達は、試門大亀の門をどうやって突破したんだ!」

 狼打が下らない質問に、肩を竦める。

「魔獣に超えられた試練が、八百刃様に超えられないと思ったか?」

 その一言が意味する事実に紅雷も新狼も言葉を無くす。

「それじゃあ、武道獅子が、どうして死なないといけなかったんだよ!」

 新狼が狼打に、詰め寄る。

「楽駝鳥もだ! お前等が早く来てれば、あいつ等は死ぬ事は無かったんだぞ!」

 紅雷が叫ぶ。

 マーレが振り返りトーレの顔を見る。

「嘘でしょ?」

 首を横に振るトーレ。

「二体とも、そこの二人に試門大亀を超えさせる為に、滅びました」

 やりきれない表情をしている、紅雷と新狼を見ていた狼打の拳が、床を打ち砕く。

「ふざけるのも、いい加減しろ!」

 驚き声も出ない新狼。

「ふざけてるのは、お前等だろ!」

 紅雷が反論するが、狼打は怒りを必死に堪える表情で言う。

「八百刃様が、この展開を予想しなかったと、思ったのか?」

 ヤオが首を横に振る。

「狼打、全てはあちきがいけない、それで良いの。それ以上は言わないで」

 狼打はやりきれない思いを堪えて、新狼の横をすり抜ける時に、告げる。

「今回の事は、絶対に忘れるな!」

 それだけを言って、狼打は、トーレの前に向うヤオの横につく。

「どう言う事なんだ?」

 新狼の呟きに、萬智亀は何も答えず、そっぽを向く。

 その中、トーレが大きな溜息と共に言う。

「はっきり教えてやるのが、正道ではないですか?」

 ヤオは首を横にふる。

「今回は、これで十分だよ」

 紅雷は納得できない思いで、ヤオに向って怒鳴る。

「お前達は、何を言いたいんだよ!」

 それに対して、誰も答えない。

『武道獅子達は、お前達が未熟だから死んだんだ』

 トーレの後方から、強大な蚯蚓の魔獣が現れる。

 その言葉に、紅雷が怒鳴る。

「どうしてだ!」

 蚯蚓の魔獣は、蔑み目をして告げる。

『お前達は自分の実力を測ることも出来ず、無謀な挑戦をした。本来ならばあそこで死ぬ可能性が高かった。それを武道獅子が自分の命を引き換えに助けた。そしてそういう展開になることを予測していたが、お前等の成長させるその為に、そこの二人は目を瞑ったのだ』

 言葉を無くす紅雷。

「嘘だ! どうしてそんな事をしたんだ!」

 新狼が叫ぶと、狼打が告げる。

「武道獅子はもう死を覚悟していた。そしてお前達に自分の死という試練を与えたんだ。自分達が未熟さゆえに、死ぬものが居るという事実を、学習させる為に」

 新狼もその一言で、反論が続かなくなった。

「死の原因は貴方達だけど、その責任の一部はあちきにあるよ。貴方達は中途半端に力があった、だから自分の力が足りなくて、誰かを失うって経験は少なかった。成長の為に、必須の経験だから、あちきは武道獅子の死を黙認したの」

 ヤオがそう告げる。

「くそー!」

 泣き叫ぶ紅雷。

「俺はもっと強くなりたい」

 拳を握り締めて、涙を流しつつ呟く新狼。

「強くなれ、お前達には未来がある。その為に武道獅子は死んだのだ!」

「絶対強くなってやる!」

 紅雷が絶叫し、新狼が決意の瞳で宣言する。

「二度とこんな思いはしない」

 そんな二人に微笑み、ヤオがトーレの方を向く。

「久しぶりだね、透連鏡」

 その言葉に、マーレが驚く。

「それって確か神名者の名前ですよね?」

『そっちの蚯蚓は、確か創具蚯蚓ソウグミミズだったな。透連鏡の使徒になったと言う話を、聞いたことがあるぞ』

 萬智亀が肯定する。

「もう誤魔化せるとは思っていません」

 トーレ、透連鏡が額に『透』の文字を浮かび上がらせて、告げる。

「私は、永遠の時をマーレと共に過ごす。その為にならなんだってします!」

 透連鏡の言葉に、マーレが半ば呆然としながら質問する。

「それじゃあ、父さんが不老不死を求めていたのは、自分で使うためでなく、私に使うためだけだったの?」

 トーレは少し躊躇した後、頷く。

「すまないと思っている。しかし永遠の命を持つ私と、共に生きてもらうためには不老不死がどうしても必要だったのだ」

 狼打が前に出る。

「しかしここまでだ、お前の勝手にはさせない。主神、新名の名の下に、透連鏡を消滅させる!」

 いっきに詰め寄る狼打の剣、しかし創具蚯蚓が透連鏡の体に巻きつくと、部屋の隅にあった錬金珊瑚を吸い込む。

『透連鏡の神名の元に、創具蚯蚓よ、我が意思と知識と技術を持ちて、巨人兵を生み出せ』

 創具蚯蚓から巨大なゴーレム(魔法自動兵器人形)が生み出される。

 剣を合わせる狼打。

 巨大なゴーレム、巨人兵は、狼打の剣を打ち砕く。

「流石に神名者の力は、並みではないな」

 狼打は間合いを空けると、ヤオが刀になった白牙を投げ渡す。

「これを使いなよ。あちきは説得を試みるから」

「話し合いで何とかなると、思っているのですか?」

 狼打の言葉にヤオが答える。

「あちきは、これでも平和主義者なんだよ。最初は話し合いからって、決めてるの」

 白けた雰囲気になるなか、白牙が言う。

『説得に成功した事など、数十年に、一度しかないがな』

「うるさい! 貴方は大人しく狼打の刀になってなさい!」

 怒鳴ってからヤオは、透連鏡の方を向く。

「正直、貴方の気持ちは解るよ」

 その言葉に透連鏡が驚く。

「私の気持ちが解る?」

 ヤオは目を閉じて告げる。

「あちきにも子供が居た。百年以上前に、寿命で死んだけどね。あちきも、貴方に大きな事言えない、息子に自分の力で延命したら駄目かって聞いたもの」

 透連鏡は真剣な顔をして、聞き返す。

「それで断られて、自分の息子の死を見取ったのですか?」

 頷くヤオに尊敬すら感じる瞳で、透連鏡が言う。

「あなたは強い、私にはとても耐えられない。娘の思いを無視してでも、自分を護ろうとする、弱い私には」

 ヤオは困った顔をする。

「自分が間違っていると言う事は、理解してるんだ」

 透連鏡はあっさり頷く。

「弱い自分を理解してるつもりです。妻が死んだ時、確信したのです。娘が死んで、一人になる事に、自分には耐えられないと」

「だからって、娘さんの意思を蔑ろにするのは、問題だよね?」

 大きく溜息を吐く透連鏡。

「ええ、ですから出来る限りの事はします」

 そんな会話の最中も、後方で狼打と巨人兵の対決は続いている。

「止めるつもりは、無いのね?」

 ヤオの言葉に透連鏡が頷く。

「白牙!」

 ヤオのその一言と共に、狼打の握る白牙のその力が増幅する。

「決める!」

 狼打の一撃が、巨人兵は真二つにされる。

 それを見ながら透連鏡が言う。

「貴方に普通の方法で勝つことは出来ません。神とて不可能な事を、神名者でしかない私には、無理だ」

「父さん、勝てないだったら、もう止めて!」

 マーレの言葉に、透連鏡が首を横に振る。

「出来ません。それが出来たら、お前に辛い思いをさせないで、済んだのですがね」

 透連鏡がヤオを見る。

「こちらも奥の手を出させてもらいます。昔見山羊セキミヤギ!」

 奥から三つ目のヤギの魔獣がやってくる。

「その魔獣がどんなに強い能力を持っていても、八百刃様に勝てると思っているのか?」

 狼打の言葉に、透連鏡が首を横に振る。

「昔見山羊の能力は、第三眼で相手の過去を探り、映像化する事です。それを創具蚯蚓の力で現実化させます」

 ヤオはそれを聞いて即答する。

「詰り、過去の強敵を作り出して対抗するつもり?」

 透連鏡はあっさり肯定する。

「その通りです」

 ヤオの視線が鋭くなる。

「それが自分の存在を削る真似だと、気付いている?」

 透連鏡は普通に頷く。

「当然です、八百刃に対抗出来る存在を作り出すのです、限界まで力を使用する必要があります。しかし、娘を失う苦しみに較べれば、大した事ではないです」

「父さんそんな、馬鹿な真似は止めて!」

 マーレが必死に叫ぶが、透連鏡の意思は変らない。

 狼打も油断無く構える。

 ヤオは深い呼吸をした後告げる。

「あちきは負けないよ」

「私は必ず勝ちます!」

 透連鏡のその言葉を合図に、昔見山羊はその力を解き放つ。

 空中に、ヤオが今まで戦った様々な敵が出てくる。

 その中には神や、神にも対抗出来る魔獣の姿もあった。

「まだだ、八百刃がもっとも恐れる物を探せ!」

 その一言にヤオが青褪める。

「ドジッタ。狼打、力技で解決するから、白牙を返して!」

 ヤオの動揺に驚きながらも、狼打は素早く、ヤオに白牙を投げ返そうとする。

 しかし遅かった、ヤオの一番恐れているものが、空中に映し出された。

 それは、世界の終わり、来夢羊に見せられた、ヤオが神になることでの、この世界の終焉の映像だった。

 言葉に無くす一同。

 狼打すら言葉を無くしていたが、搾り出す様に告げる。

「これが貴方の隠し続けて居た、この世界の真実ですか?」

 ヤオは何かを堪えるようにして、答える。

「そうだよ」

 そして、透連鏡の視線が、ヤオに固定される。

「私は絶対に認めない、娘が、マーレが住むこの世界が、無くなるなんて! 貴方が神になる事は絶対に阻止します! 創具蚯蚓、行きなさい!」

 透連鏡の言葉に答えて、創具蚯蚓がヤオに巻きつく。

「貴方の考えは読めるよ、創具蚯蚓に強大な力を使用する神器を作らせて、あちきの中の力を無理やり消耗させようとしてるんだね。でも問題ある量を吸い取られる前に、抜け出せるよ」

 ヤオの言葉に、透連鏡が自分の胸を開き、自分の神名、『連鏡』の文字をさらす。

「創具蚯蚓、急ぎなさい!」

 次の瞬間、だれもが予想しない事態が展開された。

 創具蚯蚓が透連鏡の胸を、『連鏡』の文字と一緒に食らったのだ。

「父さん!」

 マーレが叫ぶ。

 透連鏡は、胸に大穴を空けながらも、立ち続けた。

「まだ滅びるわけには行きません!」

 次の瞬間、額の『透』の文字を光り輝かせた。

『透連鏡の神名の元に、創具蚯蚓よ、我が意思と知識と技術、そして神名と肉体を持ちて、全てを繋げる鏡を生み出せ!』

 神名者を材料とした、神器の創造は、ヤオの力を信じられないスピードで吸収した。

 創具蚯蚓から四枚の鏡を生み出された時には、ヤオの力は激減していた。

 過負荷で消滅していく創具蚯蚓から、開放されたヤオは、倒れた透連鏡に近寄る。

「大丈夫ですよね? 死にませんよね? 神名者なのですから、不老不死なのですよね?」

 マーレが泣きながら、透連鏡の体を抱きしめながら、問いかける。

 透連鏡は、答えず、ヤオの方を向く。

「これで少なくともマーレが死ぬまで、貴方が神になる事は、ありませんね?」

 ヤオは頷く。

「父さん、答えて!」

 マーレが叫ぶと、ヤオが答える。

「神名者は死なない。ただ滅びるだけ。神ならば、滅びと同時に、別の世界の神になるけど、神名者にあるのは、完全な消滅だけだよ」

「嫌! どうして私を置いていくの!」

 泣き続けるマーレの背を擦りながら、透連鏡が四枚の鏡を指さす。

「あれは界連鏡カイレンキョウ、世界を結ぶ為の鏡。あれを使えば別の世界に、人々を移住させる事が出来るだろう」

 その言葉に、ヤオが驚いた顔をする。

「私は、マーレの子供達、子孫にも、生き続けて欲しい。後は頼みました」

 それだけを言うと、マーレは二度とその口を開く事は無かった。

 最後の瞬間、透連鏡はマーレを見て、微笑みながら目を閉じる。

「父さん!」

 それと同時に、透連鏡の力で、大部分が作成されていたフェニックステールの本部が、崩れ始める。

「逃げるよ」

 ヤオの言葉に、マーレが首を横に振る。

「嫌! 私は、ここで父さんと一緒に死にます!」

 紅雷が反応した。

「甘えるな! お前の事を護る為に死んで行った、武道獅子や楽駝鳥、吸射雀、そして透連鏡の為にも、生きろ!」

 マーレは紅雷を睨む。

「皆、死んだわ! 私には、誰も残っていない!」

 紅雷はマーレにキスをする。

 唇を離して放心しているマーレに向って、紅雷が言う。

「俺が居る。これからは、俺が、お前を護り続ける!」

 マーレは涙を流しながら頷く。

「ほら、何時まで恋愛劇やってない。いくよ!」

 ヤオに促されて、マーレと紅雷も部屋を後にする。



「これで良かったのです。これで私は、マーレの死を見なくて、済みます」

 残された透連鏡が呟く。

『最後まで、お供します』

 そう言って、満身創痍の天狐が透連鏡の横に来る。

「助かります」

 そして瓦礫の中に消えていく、透連鏡と天狐であった。



「この界連鏡は、必要になるまで貴方が護って」

 駅のホームで、ヤオは四枚の界連鏡を、マーレに渡す。

「一生護り通します。そして私の子孫も、これを護り続けます。父の願いが、達成する為に」

 力強く宣言するマーレ。

「行くぞ、マーレ」

 紅雷がマーレを呼ぶ。

「貴方も、今度こそマーレを護ってね」

 ヤオの言葉に、紅雷は無言で頷く。

 マーレ達を見送った後、狼打が言う。

「例の件は、こちらでも調査する。連絡は新狼にさせる」

 狼打の言葉にヤオが頷く。

「お願いね」

 狼打と新狼は、主神新名に全てを伝える為に帰っていく。

 そして足元の白牙が言う。

『異界への移住など、とんでもない事を考える。それがどれだけ大変な事かくらい、解ってるだろうに』

 白牙の言葉に頷くヤオ。

「まーね。でも希望が生まれたよ。さー行くよ」

 ヤオは人々の未来の為に歩き始めた。



 少しした所で、倒れるヤオ。

「お腹すいた。未来を掴む為にも、お金を稼がないと」

『どうして、シリアスが続かない』

 白牙が大きく溜息を吐く。

○その他魔獣


創具蚯蚓ソウグミミズ

口から含んだ材料を元に、透連鏡の力で、神器を生み出す能力を持つ。

天狐と双璧をなす、透連鏡の使徒。

元ネタ:セリオンさん(大感謝)



昔見山羊セキミヤギ

第三の眼から相手の記憶を探り、そこから過去の情報を映写する能力を持つ、ヤギの魔獣。

元ネタ:忍神さんとJOKERさん(大感謝)

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