不老不死の結果と希望
フェニックステールとの最後の戦い。相手は?
「父さん、何でここに連れてきたのですか?」
マーレの言葉に、トーレが監視蜥蜴の映し出す映像を見せる。
「敵が来た。万が一の事があったら大変だから、私の傍に居なさい」
マーレはその言葉に反応できなかった。
「紅雷さんが、助けに来てくれた」
トーレは嫌な物を察知して言う。
「まさかと思うが、あの男と付き合っているなんて事は、ないですね?」
マーレは慌てて首を振り否定する。
「そんな事はありません。紅雷さんとはただ一緒に旅をしていただけで……」
言葉とは裏腹に、おもいっきり気にしているのが丸解りの態度に、トーレの眉間に血管が浮かぶ。
「あの男は絶対に殺す」
「止めてください!」
必死に止めるマーレだったが、その態度が逆にトーレの殺意を高める。
その間に翼を失った天狐が戻ってくる。
『もうすぐ紅雷と新狼が来ます。その後には、八百刃と新名の第一使徒、狼打が控えています。効果的な対応を』
舌打ちをしてからトーレが答える。
「気に入らない男だが、お前に任そう。私は、八百刃に対する奥の手の為に、力を溜めておく」
頷く天狐。
「止めて!」
マーレの言葉に、トーレが怒りを込めて怒鳴る。
「紅雷という男は、確実に殺せ!」
『この命に代えましても』
天狐は、決意を表す為に武道獅子によって、半端な状態になった翼を、根元から切り取り、紅雷たちが来るだろう、入り口を睨む。
そこに紅雷と新狼が駆けつけてくる。
「今度こそ決着をつけるぞ!」
紅雷は、蒼牙を振り上げ、必殺の雷を籠めた一撃を振り下ろす。
『甘いわ!』
次の瞬間、天狐は霧を生み出して、その姿を消す。
「逃げるな!」
次々と蒼牙を振る紅雷だが、天狐には触れることすら出来ない。
「ここは俺の出番だな!」
新狼が空狼剣を振るい、霧を吹き飛ばす。
しかし、霧が晴れた後に、天狐の姿は無かった。
「何処に逃げた!」
紅雷が叫んだ時、かなり後退した位置に立つ、天狐の姿を見つける。
「今度こそ、終わりだ!」
紅雷が、全ての力を蒼牙に籠める。
『二撃目は不要!』
蒼牙がそう宣言し、蒼い雷を自分が変化した槍に覆わせる。
振り上げられた蒼牙。
次の瞬間、紅雷の背中が大きく削られた。
『咄嗟に、飛びのいたか』
空気の乱れが消えて、天狐が紅雷の後ろに現れる。
「どうしてお前がそこに?」
紅雷が悔しげに呟く。
天狐はそれに答えず、止めとばかりに無数のカマイタチを放つ。
「させるか!」
空駆馬で空間飛躍した新狼が、それを空狼剣で打ち砕く。
後退し、チャンスを窺う天狐。
『蜃気楼じゃ。天狐の能力は天候操作、蜃気楼も、高温の時に起こる自然現象じゃからな』
萬智亀の解説に、紅雷が蒼牙を杖代わりにしながらも、立ち上がる。
「同じ手は食らねえ!」
『同じ手で攻撃すると思うな』
無数の天狐が生み出される。
「幻影と解った以上、意味は無いぞ!」
新狼がそう宣言して、天狐の幻影の攻撃を無視したが、その胸が大きく裂ける。
『攻撃の気配と、幻影の気配を識別出来ない以上、意味があります』
舌打ちしながらも、必死に攻撃を避ける紅雷。
空駆馬は、傷付いた新狼を背に、連続空間飛躍で攻撃を避け続ける。
「紅雷!」
トーレに押さえられたマーレが叫ぶ。
「諦めなさい。天狐は、あの程度の者に負ける魔獣ではない」
トーレの言葉の正しさを証明するように、どんどん紅雷と新狼の傷は増えていく。
そのなか、傷の痛みから意識を取り戻す新狼。
『目を覚ましたな。ここは協力して相手を倒すのじゃ』
萬智亀の言葉に、紅雷が反応する。
「冗談はよせ! 俺は一人であいつを倒す!」
新狼も頷く。
「当然だ! 俺は人間の力など当てにする理由は無い!」
根拠がない二人の言葉に、萬智亀が冷たい視線を向けて言う。
『武道獅子の死は無駄だったのー』
その一言に、二人は激しく反応する。
「「なんだと!」」
そんな二人に対して、萬智亀が続ける。
『武道獅子は二人の可能性に懸けたのじゃ。それが無駄に終わるのだから、無駄死にじゃろ?』
「「俺一人で勝つ!」」
そんな言葉に萬智亀が大きく溜息を吐く。
『口では何ともいえる。でも正しい選択かもしれんの。いずれ八百刃様が来れば、天狐もあの男も滅ぼされる。それをこうやって逃げていれば良いのだからな』
その辛らつな言葉に、紅雷が無謀の特攻をかける。
「俺はお前を倒す!」
しかし、やはり蜃気楼で騙されて、逆に壁まで、吹き飛ばされるはめになる。
新狼は空駆馬から降りて、空狼剣で攻撃を防ぎながら、怒鳴る。
「紅雷、力を貸せ! 俺が全力で空間の歪みを切り裂く、その後の止めを、お前が撃て!」
紅雷が戸惑う。
「紅雷、死なないで!」
マーレの一言が、紅雷の決心を固める。
「任せろ!」
蒼牙に全神経を集中する紅雷。
『無駄な足掻きです!』
天狐が、無防備な紅雷に攻撃を仕掛ける。
「予測通りだ! 唸れ、空狼剣!」
新狼の空狼剣が、紅雷を周囲の空間を切り裂き、蜃気楼を消滅させる。
「これで終わりだ!」
紅雷の研ぎ澄まされた紅と蒼の雷が、集束された雷撃弾が天狐を捉えた。
床に落下する天狐。
「やったぜ、武道獅子!」
紅雷が片膝をつく。
新狼も空狼剣を杖にして、立つのがやっとの様子だった。
だが、それはたった。
『我が主との約束だけは、死守する』
天狐が、紅雷に飛びかかる。
紅雷は蒼牙を振るい、天狐を切り裂く。
『しつこい!』
蒼牙がそう叫び、蒼い雷で、天狐を内部から攻撃する。
しかし、天狐は止まらない。
紅雷の眼前に、天狐の爪が迫ってきた。
回避行動が間に合わず、棒立ち状態の紅雷。
「自分の命を捨てて得た勝利が、どれだけ意味が薄いか知りなよ」
その言葉と共に放たれた、刀と化した白牙の一撃が、天狐を吹き飛ばした。
紅雷が振り返ると、そこにヤオが居た。
『何時、到着したのじゃ?』
萬智亀の言葉に、新狼の後ろから現れた、狼打が答える。
「戦いが始まって直ぐ、蜃気楼に惑わされ始めた時からだ」
普段と変らない狼打の様子に、少し安心した顔をする新狼。
「ふん、どうせ俺達に任せたから手を出さなかったって、言いたいんだろ?」
あっさり頷く狼打。
その時、紅雷がある事に気づいた。
「ちょっと待て! お前達は、試門大亀の門をどうやって突破したんだ!」
狼打が下らない質問に、肩を竦める。
「魔獣に超えられた試練が、八百刃様に超えられないと思ったか?」
その一言が意味する事実に紅雷も新狼も言葉を無くす。
「それじゃあ、武道獅子が、どうして死なないといけなかったんだよ!」
新狼が狼打に、詰め寄る。
「楽駝鳥もだ! お前等が早く来てれば、あいつ等は死ぬ事は無かったんだぞ!」
紅雷が叫ぶ。
マーレが振り返りトーレの顔を見る。
「嘘でしょ?」
首を横に振るトーレ。
「二体とも、そこの二人に試門大亀を超えさせる為に、滅びました」
やりきれない表情をしている、紅雷と新狼を見ていた狼打の拳が、床を打ち砕く。
「ふざけるのも、いい加減しろ!」
驚き声も出ない新狼。
「ふざけてるのは、お前等だろ!」
紅雷が反論するが、狼打は怒りを必死に堪える表情で言う。
「八百刃様が、この展開を予想しなかったと、思ったのか?」
ヤオが首を横に振る。
「狼打、全てはあちきがいけない、それで良いの。それ以上は言わないで」
狼打はやりきれない思いを堪えて、新狼の横をすり抜ける時に、告げる。
「今回の事は、絶対に忘れるな!」
それだけを言って、狼打は、トーレの前に向うヤオの横につく。
「どう言う事なんだ?」
新狼の呟きに、萬智亀は何も答えず、そっぽを向く。
その中、トーレが大きな溜息と共に言う。
「はっきり教えてやるのが、正道ではないですか?」
ヤオは首を横にふる。
「今回は、これで十分だよ」
紅雷は納得できない思いで、ヤオに向って怒鳴る。
「お前達は、何を言いたいんだよ!」
それに対して、誰も答えない。
『武道獅子達は、お前達が未熟だから死んだんだ』
トーレの後方から、強大な蚯蚓の魔獣が現れる。
その言葉に、紅雷が怒鳴る。
「どうしてだ!」
蚯蚓の魔獣は、蔑み目をして告げる。
『お前達は自分の実力を測ることも出来ず、無謀な挑戦をした。本来ならばあそこで死ぬ可能性が高かった。それを武道獅子が自分の命を引き換えに助けた。そしてそういう展開になることを予測していたが、お前等の成長させるその為に、そこの二人は目を瞑ったのだ』
言葉を無くす紅雷。
「嘘だ! どうしてそんな事をしたんだ!」
新狼が叫ぶと、狼打が告げる。
「武道獅子はもう死を覚悟していた。そしてお前達に自分の死という試練を与えたんだ。自分達が未熟さゆえに、死ぬものが居るという事実を、学習させる為に」
新狼もその一言で、反論が続かなくなった。
「死の原因は貴方達だけど、その責任の一部はあちきにあるよ。貴方達は中途半端に力があった、だから自分の力が足りなくて、誰かを失うって経験は少なかった。成長の為に、必須の経験だから、あちきは武道獅子の死を黙認したの」
ヤオがそう告げる。
「くそー!」
泣き叫ぶ紅雷。
「俺はもっと強くなりたい」
拳を握り締めて、涙を流しつつ呟く新狼。
「強くなれ、お前達には未来がある。その為に武道獅子は死んだのだ!」
「絶対強くなってやる!」
紅雷が絶叫し、新狼が決意の瞳で宣言する。
「二度とこんな思いはしない」
そんな二人に微笑み、ヤオがトーレの方を向く。
「久しぶりだね、透連鏡」
その言葉に、マーレが驚く。
「それって確か神名者の名前ですよね?」
『そっちの蚯蚓は、確か創具蚯蚓だったな。透連鏡の使徒になったと言う話を、聞いたことがあるぞ』
萬智亀が肯定する。
「もう誤魔化せるとは思っていません」
トーレ、透連鏡が額に『透』の文字を浮かび上がらせて、告げる。
「私は、永遠の時をマーレと共に過ごす。その為にならなんだってします!」
透連鏡の言葉に、マーレが半ば呆然としながら質問する。
「それじゃあ、父さんが不老不死を求めていたのは、自分で使うためでなく、私に使うためだけだったの?」
トーレは少し躊躇した後、頷く。
「すまないと思っている。しかし永遠の命を持つ私と、共に生きてもらうためには不老不死がどうしても必要だったのだ」
狼打が前に出る。
「しかしここまでだ、お前の勝手にはさせない。主神、新名の名の下に、透連鏡を消滅させる!」
いっきに詰め寄る狼打の剣、しかし創具蚯蚓が透連鏡の体に巻きつくと、部屋の隅にあった錬金珊瑚を吸い込む。
『透連鏡の神名の元に、創具蚯蚓よ、我が意思と知識と技術を持ちて、巨人兵を生み出せ』
創具蚯蚓から巨大なゴーレム(魔法自動兵器人形)が生み出される。
剣を合わせる狼打。
巨大なゴーレム、巨人兵は、狼打の剣を打ち砕く。
「流石に神名者の力は、並みではないな」
狼打は間合いを空けると、ヤオが刀になった白牙を投げ渡す。
「これを使いなよ。あちきは説得を試みるから」
「話し合いで何とかなると、思っているのですか?」
狼打の言葉にヤオが答える。
「あちきは、これでも平和主義者なんだよ。最初は話し合いからって、決めてるの」
白けた雰囲気になるなか、白牙が言う。
『説得に成功した事など、数十年に、一度しかないがな』
「うるさい! 貴方は大人しく狼打の刀になってなさい!」
怒鳴ってからヤオは、透連鏡の方を向く。
「正直、貴方の気持ちは解るよ」
その言葉に透連鏡が驚く。
「私の気持ちが解る?」
ヤオは目を閉じて告げる。
「あちきにも子供が居た。百年以上前に、寿命で死んだけどね。あちきも、貴方に大きな事言えない、息子に自分の力で延命したら駄目かって聞いたもの」
透連鏡は真剣な顔をして、聞き返す。
「それで断られて、自分の息子の死を見取ったのですか?」
頷くヤオに尊敬すら感じる瞳で、透連鏡が言う。
「あなたは強い、私にはとても耐えられない。娘の思いを無視してでも、自分を護ろうとする、弱い私には」
ヤオは困った顔をする。
「自分が間違っていると言う事は、理解してるんだ」
透連鏡はあっさり頷く。
「弱い自分を理解してるつもりです。妻が死んだ時、確信したのです。娘が死んで、一人になる事に、自分には耐えられないと」
「だからって、娘さんの意思を蔑ろにするのは、問題だよね?」
大きく溜息を吐く透連鏡。
「ええ、ですから出来る限りの事はします」
そんな会話の最中も、後方で狼打と巨人兵の対決は続いている。
「止めるつもりは、無いのね?」
ヤオの言葉に透連鏡が頷く。
「白牙!」
ヤオのその一言と共に、狼打の握る白牙のその力が増幅する。
「決める!」
狼打の一撃が、巨人兵は真二つにされる。
それを見ながら透連鏡が言う。
「貴方に普通の方法で勝つことは出来ません。神とて不可能な事を、神名者でしかない私には、無理だ」
「父さん、勝てないだったら、もう止めて!」
マーレの言葉に、透連鏡が首を横に振る。
「出来ません。それが出来たら、お前に辛い思いをさせないで、済んだのですがね」
透連鏡がヤオを見る。
「こちらも奥の手を出させてもらいます。昔見山羊!」
奥から三つ目のヤギの魔獣がやってくる。
「その魔獣がどんなに強い能力を持っていても、八百刃様に勝てると思っているのか?」
狼打の言葉に、透連鏡が首を横に振る。
「昔見山羊の能力は、第三眼で相手の過去を探り、映像化する事です。それを創具蚯蚓の力で現実化させます」
ヤオはそれを聞いて即答する。
「詰り、過去の強敵を作り出して対抗するつもり?」
透連鏡はあっさり肯定する。
「その通りです」
ヤオの視線が鋭くなる。
「それが自分の存在を削る真似だと、気付いている?」
透連鏡は普通に頷く。
「当然です、八百刃に対抗出来る存在を作り出すのです、限界まで力を使用する必要があります。しかし、娘を失う苦しみに較べれば、大した事ではないです」
「父さんそんな、馬鹿な真似は止めて!」
マーレが必死に叫ぶが、透連鏡の意思は変らない。
狼打も油断無く構える。
ヤオは深い呼吸をした後告げる。
「あちきは負けないよ」
「私は必ず勝ちます!」
透連鏡のその言葉を合図に、昔見山羊はその力を解き放つ。
空中に、ヤオが今まで戦った様々な敵が出てくる。
その中には神や、神にも対抗出来る魔獣の姿もあった。
「まだだ、八百刃がもっとも恐れる物を探せ!」
その一言にヤオが青褪める。
「ドジッタ。狼打、力技で解決するから、白牙を返して!」
ヤオの動揺に驚きながらも、狼打は素早く、ヤオに白牙を投げ返そうとする。
しかし遅かった、ヤオの一番恐れているものが、空中に映し出された。
それは、世界の終わり、来夢羊に見せられた、ヤオが神になることでの、この世界の終焉の映像だった。
言葉に無くす一同。
狼打すら言葉を無くしていたが、搾り出す様に告げる。
「これが貴方の隠し続けて居た、この世界の真実ですか?」
ヤオは何かを堪えるようにして、答える。
「そうだよ」
そして、透連鏡の視線が、ヤオに固定される。
「私は絶対に認めない、娘が、マーレが住むこの世界が、無くなるなんて! 貴方が神になる事は絶対に阻止します! 創具蚯蚓、行きなさい!」
透連鏡の言葉に答えて、創具蚯蚓がヤオに巻きつく。
「貴方の考えは読めるよ、創具蚯蚓に強大な力を使用する神器を作らせて、あちきの中の力を無理やり消耗させようとしてるんだね。でも問題ある量を吸い取られる前に、抜け出せるよ」
ヤオの言葉に、透連鏡が自分の胸を開き、自分の神名、『連鏡』の文字をさらす。
「創具蚯蚓、急ぎなさい!」
次の瞬間、だれもが予想しない事態が展開された。
創具蚯蚓が透連鏡の胸を、『連鏡』の文字と一緒に食らったのだ。
「父さん!」
マーレが叫ぶ。
透連鏡は、胸に大穴を空けながらも、立ち続けた。
「まだ滅びるわけには行きません!」
次の瞬間、額の『透』の文字を光り輝かせた。
『透連鏡の神名の元に、創具蚯蚓よ、我が意思と知識と技術、そして神名と肉体を持ちて、全てを繋げる鏡を生み出せ!』
神名者を材料とした、神器の創造は、ヤオの力を信じられないスピードで吸収した。
創具蚯蚓から四枚の鏡を生み出された時には、ヤオの力は激減していた。
過負荷で消滅していく創具蚯蚓から、開放されたヤオは、倒れた透連鏡に近寄る。
「大丈夫ですよね? 死にませんよね? 神名者なのですから、不老不死なのですよね?」
マーレが泣きながら、透連鏡の体を抱きしめながら、問いかける。
透連鏡は、答えず、ヤオの方を向く。
「これで少なくともマーレが死ぬまで、貴方が神になる事は、ありませんね?」
ヤオは頷く。
「父さん、答えて!」
マーレが叫ぶと、ヤオが答える。
「神名者は死なない。ただ滅びるだけ。神ならば、滅びと同時に、別の世界の神になるけど、神名者にあるのは、完全な消滅だけだよ」
「嫌! どうして私を置いていくの!」
泣き続けるマーレの背を擦りながら、透連鏡が四枚の鏡を指さす。
「あれは界連鏡、世界を結ぶ為の鏡。あれを使えば別の世界に、人々を移住させる事が出来るだろう」
その言葉に、ヤオが驚いた顔をする。
「私は、マーレの子供達、子孫にも、生き続けて欲しい。後は頼みました」
それだけを言うと、マーレは二度とその口を開く事は無かった。
最後の瞬間、透連鏡はマーレを見て、微笑みながら目を閉じる。
「父さん!」
それと同時に、透連鏡の力で、大部分が作成されていたフェニックステールの本部が、崩れ始める。
「逃げるよ」
ヤオの言葉に、マーレが首を横に振る。
「嫌! 私は、ここで父さんと一緒に死にます!」
紅雷が反応した。
「甘えるな! お前の事を護る為に死んで行った、武道獅子や楽駝鳥、吸射雀、そして透連鏡の為にも、生きろ!」
マーレは紅雷を睨む。
「皆、死んだわ! 私には、誰も残っていない!」
紅雷はマーレにキスをする。
唇を離して放心しているマーレに向って、紅雷が言う。
「俺が居る。これからは、俺が、お前を護り続ける!」
マーレは涙を流しながら頷く。
「ほら、何時まで恋愛劇やってない。いくよ!」
ヤオに促されて、マーレと紅雷も部屋を後にする。
「これで良かったのです。これで私は、マーレの死を見なくて、済みます」
残された透連鏡が呟く。
『最後まで、お供します』
そう言って、満身創痍の天狐が透連鏡の横に来る。
「助かります」
そして瓦礫の中に消えていく、透連鏡と天狐であった。
「この界連鏡は、必要になるまで貴方が護って」
駅のホームで、ヤオは四枚の界連鏡を、マーレに渡す。
「一生護り通します。そして私の子孫も、これを護り続けます。父の願いが、達成する為に」
力強く宣言するマーレ。
「行くぞ、マーレ」
紅雷がマーレを呼ぶ。
「貴方も、今度こそマーレを護ってね」
ヤオの言葉に、紅雷は無言で頷く。
マーレ達を見送った後、狼打が言う。
「例の件は、こちらでも調査する。連絡は新狼にさせる」
狼打の言葉にヤオが頷く。
「お願いね」
狼打と新狼は、主神新名に全てを伝える為に帰っていく。
そして足元の白牙が言う。
『異界への移住など、とんでもない事を考える。それがどれだけ大変な事かくらい、解ってるだろうに』
白牙の言葉に頷くヤオ。
「まーね。でも希望が生まれたよ。さー行くよ」
ヤオは人々の未来の為に歩き始めた。
少しした所で、倒れるヤオ。
「お腹すいた。未来を掴む為にも、お金を稼がないと」
『どうして、シリアスが続かない』
白牙が大きく溜息を吐く。
○その他魔獣
・創具蚯蚓
口から含んだ材料を元に、透連鏡の力で、神器を生み出す能力を持つ。
天狐と双璧をなす、透連鏡の使徒。
元ネタ:セリオンさん(大感謝)
・昔見山羊
第三の眼から相手の記憶を探り、そこから過去の情報を映写する能力を持つ、ヤギの魔獣。
元ネタ:忍神さんとJOKERさん(大感謝)




