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戦神神話  作者: 鈴神楽
世界の車窓から
62/68

突入戦、戦力差は絶対的な勝利条件ではあらず

フェニックステール本部に攻撃をするヤオ達。その前に立塞がる苦難とは?

「今回はフェニックステールの本拠地がある、バレノンに向かう車窓から」

 敵地に向う列車の中で、呑気に原稿を書くヤオ。

「どうして鉄道で、移動するんだ」

 新狼の言葉に、ヤオが後方を指差す。

「武道獅子の怪我の治療をしながらだから、さすがに空駆馬じゃ駄目でしょう」

 ヤオが指さした先では、回復能力を持つ一角獣の八百刃獣、癒角馬が武道獅子の治療を行って居た。

「戦力にならない奴を、どうして連れて行く?」

 新狼の辛らつの言葉に、苦笑するヤオ。

「それを言ったら、あちき達は不要なんだよ」

 その言葉に、不機嫌そうな顔をする新狼。

「俺が未熟だと言う事か?」

 首を横に振るヤオ。

「狼打が本当に必要な戦力だと思ったら、無理やりでも召集かけてる。それをしなかったと言う事は、十分間に合うと考えているって事だよ」

 新狼の肩に乗る、時空神の知恵袋の亀の魔獣、萬智亀が頷いて言う。

『そうじゃの。今回の作戦には、主神、新名様の名の下に、多くの神の使徒が動いているからのー』

「だから、あちき達が向っているのは、自分達の思いに因るところなの。あちきは一眠りするから」

 ヤオはそう締めると、新狼が貸し切った列車の寝台車に移動する。

『流石に余裕だな』

 薄目を開けて武道獅子が言うと、癒角馬が溜息を吐く。

『最初に断っておくぞ、今やっている治療は気休めでしかない。元々治癒能力という物が無い魔獣に、治癒は無効だ』

 武道獅子が頷く。

『解っている、我々は傷を負った場合、自分の存在力で穴埋めしていくしかない。例外は神の使徒になって、強制的に存在を補填してもらうか、だが……』

 その先の言葉は癒角馬にはわかっていた。

『手遅れだ。下手に神の力で補填しよう等したら、存在そのものが崩れる。治療をする者から言わせてもらえれば、百年程、何もせずにじっくりと存在の補填する事を勧める。戦闘などしたら間違いなく滅びるぞ』

 武道獅子は薄目だが、強い意思を込めた表情で答える。

『我は、存在する為に存在している訳では無い。戦う為に存在している』

 癒角馬がその答えが解って居た様子で、続ける。

『八百刃様からの伝言だ。最後の戦いは、自分で決めろ。雌伏し、後悔の無い戦いをしろと』

 武道獅子が目を閉じながら答える。

『感謝する』

 そんな会話を聞いていた蒼牙が、紅雷に言う。

『我々も、後悔しない戦いをするぞ!』

「当然だ。例えこの命尽きようとも、マーレを救い出す!」

 決意を固める紅雷であった。



 ベッドに横になるヤオの枕元に、白牙が来て言う。

『どんな裏があるんだ?』

 ヤオは目を閉じたまま、答える。

「多分、狼打は、察知しているよ、力技でどうにかなる相手じゃないって事くらい」

『さっきと言ってる事が、違うぞ』

 白牙の言葉にヤオが苦笑する。

「解ってるくせに」

 白牙が頷く。

『お前が、急がないのは相手の動きを見て、そしてその上で、新狼と紅雷に戦わせたいからだろう』

 頷くヤオ。

「あの二人が強くなる必要がある。これから色々大変な事になるから。あの未来を迎えるにしても、色々と障害があり、そして何かを護るには、思いだけでは足らない事があるんだから」

 何も答えない白牙。

「それじゃあ、寝るからお休み」

 本当に深い眠りにつくヤオ。

「卵料理がいっぱい嬉しいな」

 無邪気さを装う寝言に、白牙が言う。

『私の前まで精神防御した、偽装夢を見る必要もない。お前が常にあの未来と戦っている事くらい、解っている』



 マーレは高級家具に囲まれた一室に幽閉されていた。

『お嬢様、お食事を御取りにならないと体に毒です』

 天狐がドアの前で説得していた。

「要りません!」

 大きく溜息を吐く、天狐。

 そこにマーレの父親で、フェニックステールの主、トーレ=ウキョウがやってくる。

「すまないな、天狐」

『気になさらないで下さい。私が無能な故に、お嬢様に必要以上の精神的な負担を負わせてしまったのですから』

 首を横に振るトーレ。

「すべては私の責任だよ。入るよ、マーレ」

 そう言って、トーレがマーレの部屋に入る。

 マーレは涙を流しながら絶叫する。

「父さんどうしてこんな非道を行うのですか!」

 それに対してトーレは揺ぎ無い瞳で答える。

「お前と永遠の時を生きる為だ。その為になら私は、鬼にでも、悪魔にでもなる」

 マーレは大きく首を横に振る。

「私はそんな事を望んでいません!」

 その言葉にトーレは頷く。

「そうだろう。しかし私には耐えられないのだ、お前が死ぬ姿を見るのを。幾ら謝っても足らないと思う。しかしこれだけは譲れない」

 マーレを強く抱きしめるトーレ。

「父さん」

 マーレは自分の背中に落ちる父親の涙に、何も言えなくなる。



 バレノンの町に神託が下される。

 その神託に従い、人々が去っていく。

「エンソン博士、早くここから出ますよ」

 一つの研究所で、エンソンの助手がせっつかせるが、肝心のトウヨコ鉄道の開発主任であるエンソンは応じない。

「神託だかなんだか知らないが、私の研究を邪魔する事は誰にも出来ない!」

 大きく溜息を吐く、助手。

 そこに一人の飾ったこと所が全く無い格好した青年が来て、エンソンを持ち上げる。

「何をする!」

 エンソンが怒鳴るとその青年、時空神、新名の第一使徒、狼打が答える。

「あんたの意地も解るが、ここは俺の意地を貫かせてもらうぜ」

 そう言って、そのまま安全な所まで運び、助手達に任せる。

『この町の人間の退避は終了しました』

 針鼠の魔獣、凍火針鼠の報告に狼打が頷く。

「さてどうしたものかな?」

 高位の使徒、人犬の魔獣、黄爪オウソウが、対抗心剥き出しの言葉を返してくる。

『これだけの戦力があっても悩むとは、所詮は元人間だな』

 蔑みを籠めた言葉に、狼打本人より、凍火針鼠の方が、反応する。

『何だと!』

『下級使徒が、五月蝿いぞ!』

 黄爪の言葉に、狼打は笑顔で言う。

「ここは経験豊富な、黄爪様にお願いしたい」

 意外な言葉に、戸惑う黄爪。

『なんのつもりだ?』

「他意はありません。貴方の経験に頼りたいだけです」

 そう言った狼打の目を凝視した後、黄爪がにやりと微笑み言う。

『お前も解ってきたみたいだな。任せておけ』

 高笑いをあげて、去っていく黄爪。

『いいんですか?』

 凍火針鼠の言葉に、狼打が頷く。

「あの戦力を使って正面からやりあう限り、本当に俺より黄爪の方が上だ。だが、失敗するだろうな」

 何かを確信する狼打の言葉に、凍火針鼠が首をひねる。

『高位の神の使徒がこれだけ居て、力押しが駄目だなんて事があるのですか?』

 苦笑する狼打。

「戦力差では、絶対的な勝利に導かない。八百刃様の教えだ」

『しかしどうやって?』

 狼打はあっさり言う。

「簡単だ。同士討ちさせれば良い。さてどんな方法を使うかな?」

 凍火針鼠が慌てて言う。

『解っているのでしたら、注意すればいいじゃないですか!』

 首を横に振る狼打。

「残念だが、囲んでいるのは、寄せ集めの集団。まともの指揮系統があるわけではない。徹底した指示が出来ない以上、ここは、罠に掛かったふりをして、足止めするのが得策だろう」

 首を傾げる凍火針鼠。

『足止めしても、これ以上の戦力は来ませんよ?』

 狼打は、少しの揺らぎの無い言葉で断言する。

「八百刃様が来る。俺は絶対正しい戦いをしてるのだからな」



『トーレ様、町の人間が避難させられました』

 天狐の報告を受けたトーレが頷く。

「相手にも分別がある使徒が居る訳だな。正直助かった」

『はい、これで余計な被害が出なくて済みます。監視蜥蜴カンシトカゲ、外の様子を』

 天狐が、後ろを振り返る。

 そこには、一匹のカメレオンが居た。

 その目から放たれた光が、空中に外の風景を映し出した。



『一気に滅ぼせ!』

 黄爪の指示に従って、力をあわせれば、国一つ滅ぼせる神の使徒達が、フェニックステールの本拠地に迫る。

 その時、流清獺が現れて、物凄い激流を生み出す。

『我等の主の目的を邪魔する穢れは、全て流れろ!』

 しかし、黄爪は自信たっぷりの態度で答える。

『舐めるな、上位使徒である我々に、野良魔獣が勝てると思ったか!』

 その言葉の正しさを証明するように次々と、激流を突破する使徒達。

 しかし、強力な重力が、突破した使徒を襲う。

『行かせはしない』

 地力象が重力操作能力で、使徒達を地面に叩き落とす。

『俺を忘れるな!』

 地面に落ちた使徒達は、沼猟虎が生み出す沼に動きを封じられる。

 これ等の攻撃により、使徒達の動きは完全に封じられてしまった。

『魔獣の分際で、僅かなりとも我等の動きを封じたのは誉めてやろう。しかしここまでだ!』

 黄爪がその爪から放つ攻撃で、沼の大半を吹き飛ばす。

『上位使徒の前では、お前等の力など、無いにも等しいのだ!』

 そう、フェニックステールの本部を護る、魔獣達を見た時、そこに一匹の孔雀の魔獣が現れた。

『我の、舞光孔雀ブコウクジャクの光を受けて、戦いの舞を踊れ!』

 その多彩な羽根から放たれた輝きは、動きを封じられて、脱出の為に力を使っていた使徒達を捉えた。

『その程度の光が我等に利くか!』

 黄爪の言葉とは逆に、後ろでは同士討ちを始める使徒達が居た。

『お前等、敵はあっちだ何をしている!』

 その言葉は、黄爪に注意を集める結果になって、一斉に襲い掛かられる。

『くそう!』

 必死に反撃する、黄爪は、言う事だけはあり、次から次に襲ってくる使徒達を撃退していく。

 しかし、それは同時に自分達の戦力を激減させていく事を意味していた。

『何でこうなるのだ!』



 使徒同士の戦いを見ながら、狼打が言う。

「見事な手並みだな。最初の攻撃は全て、最後の魔獣の精神攻撃を、効果的に発動させる為の布石だった訳だな」

『落ち着いてる場合じゃないと、思いますが?』

 凍火針鼠の言葉に、狼打が居た場所にやってきた少女が頷く。

「そうだよ、人様から借りた使徒を全滅させたとなったら、新名が困るよ」

 狼打は前を向いたまま言う。

「出来ましたら、良い知恵を頂きたいのですが?」

 やって来た少女が言う。

「解っているのに質問してるの?」

 苦笑しながら狼打がふりかえり答える。

「相手の精神攻撃を食らっていない者を、高速で舞光孔雀に近づけ、一気に滅ぼさせる。それで良いんですね、八百刃様」

 その少女、ヤオが頷く。

「そう言うことだから頑張りなよ、新狼」

 驚く新狼。

「俺が、ですか?」

「お前以外に居ないだろう。こういった事態想定して、お前を八百刃様への伝達に回して、緒戦から外したんだ」

 狼打の言葉に、困惑する新狼。

「俺はお前の力を信じているぞ!」

 そう言って、頭を撫でようとする狼打の手を弾き、新狼が言う。

「当然だ。俺は新名様に忠実な使徒だからな!」

 顔を真っ赤して、空駆馬に乗る新狼。

 ヤオが微笑を浮かべて小声で呟く。

「父親に頼りにされて、本当に嬉しいみたいね」

 ヤオは紅雷の方を向く。

「あそこに居る三匹は、貴方の分担だよね?」

 紅雷が強く頷く。

「ああ、奴等は俺が倒す!」

 紅雷は、蒼牙に右手を向ける。

『我が雷撃と共に敵を貫く槍と化せ、蒼牙』

 蒼い雷を纏った蒼牙の槍を掴み、紅雷は、流清獺達に向って駆け出す。

「若いな」

 達観した表情で呟く狼打に、ヤオが言う。

「貴方はあちきの信望者として、弛まぬ精進をしてきたか試す。受けるよね?」

 狼打が昔のヤオとあったばかりの、冒険者時代と同じ表情をして言う。

「当然です、八百刃様!」



 新狼が乗る空駆馬は、空間を飛躍し舞光孔雀に近づく、しかし途中で地力象の重力攻撃に邪魔される。

『行かせはしない!』

「邪魔をするな、狼打に俺の力を見せられるチャンスなんだ!」

 空駆馬に自分の力を注ぎ込む新狼。

 しかし、地力象の力も強く、一進一退の攻防になりかけた。

「お前等の相手は俺だ!」

 上空に居た地力象に、強烈な雷撃が直撃する。

 重力の束縛を失い、空駆馬が進む。

『よくも邪魔をしてくれたな!』

 流清獺が、激流を放つ。

 紅雷は、足に力を込めて堪える。

『お前も、俺の糧になれ!』

 沼猟虎が、紅雷の足元を沼に変化させて飲み込もうとする。

「何度も、同じ手が通じると思うな!」

 そう叫び、紅雷が蒼牙の槍を振るい、強烈な雷を打ち出す。

 集束された雷撃は、流清獺が放つ、激流を溯り、流清獺を一撃で消滅させる。

『まだだ! まだ流清獺が残した水があれば、まだまだ沼を生み出せる!』

 沼猟虎が、足掻くが、紅雷と蒼牙が放つ雷は、周囲の水を即座に蒸発させる。

「お前も終わりだ!」

 紅雷の槍が、沼猟虎を両断する。

「残るは、一匹だな」

 そして進む紅雷。



 新狼は、光の精神攻撃で使徒達を錯乱させている舞光孔雀の前に、空間飛躍した。

『時空神新名と狼打の血を引きし我が求める、空間を切り裂く狼なりし剣を我が手に、空狼剣』

 生み出された空狼剣は、一撃で舞光孔雀を滅ぼす。

「やったぞ!」

 ガッツポーズをとる新狼。

『まだです、舞光孔雀が破れても、一度始まった同士討ちは止まりません』

 新狼の前に現れた天狐の言葉に、新狼が振り返ると、天狐の言うとおり、同士討ちは止まって居ない。

『正気なものは、私が相手をします』

 新狼に迫る天狐。

「負けるか!」

 新狼が、空狼剣を振るい、天狐に対抗する。

 しかし、天狐は周囲に無数とも思える雹を打ち出す。

 新狼も必死に防ぐのが、精一杯だった。

「こんな所で止まっていられないんだ!」

『お前を倒すのは私だ!』

 新狼の影から、武道獅子が現れる。

『馬鹿な、どうやって?』

 天狐が驚く。

『八百刃様の使徒、影走鬼の力を借りたのだ!』

 武道獅子は、雹を気迫で弾き飛ばしながら、天狐に迫る。

『その気迫を認めよう。しかし体の限界は無視できまい』

 突風が武道獅子を襲う。

『この程度の攻撃で……』

 堪える武道獅子の全身から、血が吹き出る。

『もう終わりだな!』

 止めの攻撃を放とうとする天狐。

「俺を忘れるな!」

 そこに紅雷が突っ込んでくる。

 天狐が舌打ちをして後退した時、武道獅子が再び突進を決行する。

『何度やっても同じだ!』

 天狐が再び、突風で武道獅子を弾き飛ばそうとする。

『もらった!』

 武道獅子の爪が、天狐の翼を切り裂いた。

 顔をしかめて、後退する天狐。

『この程度で、私に勝ったと思うな!』

 追撃を予測していたが、武道獅子は動かない。

「武道獅子、大丈夫か!」

 紅雷が近寄ると、その場に崩れていく武道獅子。

 その背中には、無数の雹が突き刺さっていた。

『突風を打ち破る為に、雹に対する防御を捨てたと言うのか?』

 驚いた顔をする天狐。

「後は、任せてもらうぞ!」

 紅雷が蒼牙を構える。

「俺も居る」

 新狼も空狼剣を構えて、天狐を睨む。

『貴方達を防げば、他の使徒は来ない。だから勝てる!』

 そう言った時、強大な力の衝撃波がその場を通り過ぎた。

 その方向を向くと、そこにはヤオとヤオに肩を借りている狼打が居た。

「狼打も成長したねー」

 呑気に告げるヤオ。

「流石に、死ぬかと思いました」

 真底そう思っているのが、わかる顔で続ける狼打。

『まさか、あれだけの数の使徒を静めたというのですか?』

 あっさり頷くヤオ。

 天狐は自然と後退する。

『まさか、いくら八百刃様でも、あれだけの数の使徒を倒すなど不可能な筈……』

「八百刃様は、特別だって事だ」

 苦笑しながら答える狼打。

『何をやったのですか?』

 天狐の質問に狼打が先程の衝撃波の正体を告げた。



「何をすると言いましたか?」

 狼打の言葉に、ヤオがあっさり答える。

「あちきが、これから天道龍と大地蛇を呼んで、狼打の闘甲虫にエネルギーを注ぎ込むから、ぶつけてあって衝撃波を生み出し、一気に正気に返す。天道龍と大地蛇の全く異質な力をぶつけ合うから、強烈だよ」

「そんな事を実行したら、使徒でも滅びます!」

 狼打の反論に、ヤオはあっさりと頷く。

「だったら何故?」

 狼打が質問すると、ヤオが当然の事の様に聞き返してきた。

「並みの使徒ならそうかもしれないけど、貴方は並みの使徒なの?」

 狼打が言葉を無くし、暫く躊躇した後告げる。

「貴方なら容易な行為なのでしょうね?」

 これにも頷いたヤオが質問を続ける。

「あちきが何だか覚えてる?」

 狼打は真っ直ぐヤオを見て答えた。

「正しき戦いの護り手、俺が正しき戦いをしなければ八百刃様は何もしない。そう言う事ですね?」

 ヤオは何も答えない。

「やります。任せてください」

 ヤオは頷き、服の胸元を開き、両掌と並べる。

『八百刃の神名の元に、我が使徒を並べて召喚しその力を引き出さん、天道龍、大地蛇』

 ヤオの右掌に『八』、左掌に『百』、胸元に『刃』が浮かび上がり、天を覆う龍、天道龍と大地を埋め尽くす大蛇、大地蛇が召喚される。

 狼打は両拳に闘甲虫を展開する。

「いくよ!」

 狼打は頷くと、ヤオの両手から、天道龍と大地蛇の力が放出されて、狼打に貸している闘甲虫に注ぎ込む。

 狼打の体が爆発した様に弾け飛ぶ。

 強大すぎる力が、狼打の中で暴れて居たのだ。

 狼打が触れた建物は一瞬で崩壊する。

 使徒でも扱えない、まさに神の力に、狼打は振り回されていたが、狼打が叫ぶ。

『負けるか!』

 右手を天に突き上げ、左手を地に振り下ろす。

 右手に籠められた大地蛇の力が地に戻る為に降下し、左手に籠められた天道龍の力が天に戻る為に振り上げられる。

 その両者が狼打の胸の前でぶつかる。

 それは、一瞬で周囲の物質を完全に破壊し、衝撃波だけで、使徒達の意識を刈り取った。



『何を考えているのですか? 使徒の身で神の力を使うのが、どれ程無謀かを、知らないわけではないでしょう?』

 天狐の質問に狼打は、疲れて居たが、満足そうな笑みを浮かべて、告げる。

「あの戦いは俺の判断で始まったものだ、それの尻拭いをするのは自分の仕事。八百刃様は、人の尻拭いをする為に居るわけでは無い。正しい戦いをする者を助ける為に、居るんだ!」

 天狐は、大きく下がる。

『残念ですが、ここは引き下がるしかありません。主の下でお待ちしています』

 そのまま逃げる天狐。

「待ちやがれ!」

 紅雷が駆け出す。

 新狼が狼打の方を見る。

「こっちは大丈夫だから、先に行け!」

 新狼は慌てて言う。

「だれが心配するか!」

 駆け出す新狼。

『本気で解りやすいな』

 白牙が呟くと、狼打が微笑む。

「単純なところが、新名似だな」

『親馬鹿が』

 白牙が呆れる。

 そんな中、武道獅子が立ち上がり、天狐の後を追おうとする。

「武道獅子」

 ヤオがつらそうな顔をして見る。

『何も言わなくても結構です。自分の命のかけどころくらい知っています』

 ヤオは少し黙った後、狼打に言う。

「言葉をかけるんだったら、今だけだよ」

 狼打は頷いて、武道獅子の前に行き、頭を下げる。

「すまない。未熟な息子の為に」

 武道獅子はゆっくりと歩きながら言う。

『立派に育ててくれ』

「約束する」

 真摯な表情で狼打が断言する。



 先行していた狼打と紅雷の前に、一つの扉が立塞がる。

「何なんだ、これ?」

 紅雷がそう言うのも当然、その下には、大きな亀が居たからだ。

試門大亀シモンオオガメ、扉に触れたものに、強烈な波動をぶつけて、自分の門を通る資格があるかどうか調べる魔獣だ』

 新狼の肩に居た萬智亀が答える。

「超えてやるさ!」

 紅雷が門に触れると 強烈な波動が紅雷を襲い、あっさり弾き飛ばす。

『馬鹿な、これ程強力な力だと』

 困惑する、槍のままの蒼牙。

「今度は俺だ!」

 新狼が、門に触れる。

 強烈な波動が来て、少しだけ耐えるがやはり弾き飛ばされる。

 その様子を見ていた、新狼つきの蝙蝠の魔獣、不音蝙蝠が言う。

『壊しちまえばいいんだろ』

 破壊音波を放つが、破壊音波がふれた瞬間、波動が放たれ、あっさり弾き飛ばされて、壁に直撃し意識を失う、不音蝙蝠だった。

「役立たねーな!」

 紅雷が蒼牙を構えた時、武道獅子がやってくる。

『ここ任せろ』

 静かにそう告げると、門に触れる、強烈な波動が武道獅子を襲うが、必死に堪える。

「止めろ、武道獅子!」

 思わず紅雷がそう叫ぶのも当然、体全身から新たに血を噴出しているのだから。

「下がっていろ! ここは俺達がやる!」

 新狼もそう言うが、武道獅子は首を横に振る。

『存在するものには、それぞれ役割がある。私の役割は、お前達をこの奥に導く事だな』

 必死に堪え、門を開けようとする武道獅子。

「俺達は自分の力でどうにかする、だから止めろ!」

 止めに入ろうと近づく紅雷だったが、あっさり弾かれてしまう。

 門が開き始めた時、武道獅子は少しずつ、波動に押され始める。

『もう少しだけ持ってくれ!』

 言葉に反して、後退のスピードは、確実に速くなっていく。

 その時、武道獅子の影から、楽駝鳥が現れる。

『我が回復の力を全て、与える』

 楽駝鳥の瘤が失われ、武道獅子に活力だけが戻った。

『何故だ?』

 武道獅子の言葉に楽駝鳥が言う。

『主の所に戻った以上、マーレ様は安全です。それは私の役目の終わりを意味している。ならばこの命を、同じ旅をした友に捧げても良いだろう』

 武道獅子が頷く。

『感謝する』

 武道獅子は最後の力を使いきり、門を開ききる。

 そのまま倒れる武道獅子と既に崩壊を開始する楽駝鳥。

「確りしろ!」

 紅雷が駆け寄る。

『無駄だ、私は死ぬ。その定めは変えられない。だからお前達は、先に進め』

 武道獅子がそう告げて、目を閉じる。

「消えるな、新名様だったら、どうにか出来るかも知れない!」

 新狼が必死に止めるが、武道獅子はそのまま崩壊してしまう。

 呆然とする紅雷と新狼の目の前で、門がゆっくり閉まっていく。

『いつまで呆然としている! 武道獅子の死を無駄にするのか!』

 萬智亀の言葉に、紅雷と新狼が立ち上がる。

「絶対に天狐は倒す!」

 紅雷の言葉に新狼も頷いて、門を抜けていくのであった。

○その他魔獣



黄爪オウソウ

元々は、真名の高位使徒の人犬の魔獣、新名に鞍替えした。

狼打とはあまり仲が良くない。

その爪で、山すら一撃で砕く事も出来る戦闘向きの使徒である。



監視蜥蜴カンシトカゲ

無限に伸びる舌の先から生み出す端子からの情報を、眼から映写する能力を持つカメレオンの魔獣。

元ネタ:忍神さん(大感謝)



舞光孔雀ブコウクジャク

人の精神を操るカラフルな光を放射する、孔雀の魔獣。

他人を躍らせる事を糧にしている。

元ネタ:忍神さん(踊舞妖・色彩鳥 大感謝)



試門大亀シモンオオガメ

フェニックステールによって体が建物の一部と化した魔獣、強力な結界能力で、目的の場所を閉ざす。

自分が出した試験に越えられた者以外を、完全に拒む事が出来る大きな亀の魔獣。

元ネタ:忍神さん(大感謝)

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