表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦神神話  作者: 鈴神楽
世界の車窓から
61/68

傷付く魔獣、滅びる魔獣

ヤオの不在を狙うフェニックステール。紅雷は対抗出来るのか?

「今回はレパール線の終着駅、静養地、ミラノロンに向かう車窓から」

 何時もと同じ口調で原稿を書くヤオ。

 そんなヤオを見る白牙が呟く。

『お前はどうして、そんなに強いんだ?』

 ヤオが首を傾げる。

「今更なんでそんな事を聞くの?」

 白牙は、深い苦悩を含んだ顔で答える。

『お前は世界の運命を背負い、それでも普段と同じ生活を続けていた。それを放棄しようとも考えただろう。逃れる道を探しただろう。だが何時も自分ひとりで背負ってきた。そんな強さを私はもてない』

 ヤオが笑顔で言う。

「大切な存在が、いっぱいあるからだよ」

 白牙は、その笑顔にある、悲哀を強く感じながら言う。

『私はずっとお前の傍に居る。お前の判断を絶対と信じてな。私は、始まりにて、永遠なる八百刃獣だ』

 ヤオが頷き、進行方向を見て言う。

「マーレちゃん達、大丈夫かな?」



「ヤオさん達は、大丈夫でしょうか?」

 ミラノロンの町でヤオ達を待って居た、マーレは喫茶店でお茶を飲みながら呟く。

「あれが危険な目に会う可能性って無いな」

 紅雷の言葉に、珍しく子猫の姿になっている蒼牙も頷くと、マーレは苦笑する。

「そうですね、最強の存在ですから」

 紅雷と蒼牙が、少し苦い表情をするが、小さく溜息を吐いて言う。

「あれが最強だと言う事を否定しても、何もならないな」

 紅雷の意外な答えに、驚くマーレ。

『少しは成長したみたいだな』

 落ち着いた口調で言う武道獅子。

『偉そうに言うな!』

 蒼牙がクレームをあげた時、一人の少年が逃げてきた。

「お兄さん助けて!」

 驚いた顔をする紅雷達の前に、一人の女性がやってきた。

 その女性は、尋常ではない表情で少年に近づく。

 少年は怯えて後退するが直ぐに壁にぶつかる。

 とっさにマーレが間に入るが、その女性は力技で、排除して少年に襲い掛かる。

 紅雷が、手に電撃を纏わせた。

「間に合え!」

 電撃を放とうとした時、問題の女性が、少年に頬擦りする。

「私の私の大切な子供、もう逃げちゃ駄目よ」

 その言葉に、紅雷が戸惑う。

 マーレも事態が飲み込めないのか、きょろきょろしていると、抱きつかれている少年が答える。

「お母さん、一日中抱きついてくるんだよ」

 飽き飽きした顔をした少年の言葉に、武道獅子が言う。

『魔獣の仕業だ。原因を排除すれば直るぞ』

 武道獅子の言葉に、マーレが紅雷を見る。

「解った。頼んだぞ、鬼眼蜂」

 紅雷がそういって放った、鬼眼蜂が真っ直ぐ少年がやって来たほうに飛んでいく。

『素直になったな』

 吸射雀が驚いた顔で言うと、マーレが微笑む。

「あの人が変えてくれたのです」

 そして紅雷達は、鬼眼蜂の後を追った。



 紅雷達が、ついた所には一匹の犬が居た。

 そして、その周りには、ひたすら仕事をし続ける人間、ペットを可愛がり続ける人間、夫婦でキスし続ける人間等が居た。

 あまりもの風景に言葉を無くす一同に、その犬が言う。

『お前達は、何に中毒になりたい。私の能力は、何かへの行為に対する中毒症状を起こさせる事だけじゃ。安心しろ、一般生活には支障が少ないレベルの中毒になる様にしてやるからな』

 その言葉に、大きく溜息を吐くマーレ。

「本人に悪意がまったくありません」

 頷く、武道獅子や吸射雀。

「うるさい、この風景自体が迷惑だ! 今すぐすべての中毒を無効にしろ!」

 紅雷の言葉に、その犬の魔獣が答える。

『他人の感想など気にせん。私は本人が望むものにしか中毒症状を植えつけ無い。それで文句があるのだったら、中毒犬チュウドクケンの誇りにかけて戦うのみ!』

 臨戦状態の中毒犬に対して、蒼牙が雷撃を放ちながら言う。

『話が早い』

「そうだな!」

 紅雷が蒼牙に手を向けたとき、その声がした。

『残念ですが、その者は私達、フェニックステールが預からせてもらいます』

 振り返ると、天候を操る狐の魔獣、天狐が居た。

『今度こそ決着をつける』

 武道獅子が天狐の前に、立塞がる。

『そうですね。貴方はもう不要です。今までお嬢様の護衛をありがとうございました』

 頭を下げる天狐。

『ふざけるな!』

 天狐に襲い掛かる武道獅子。

 しかし、天狐は冷静に後退する。

流清獺リュウセイタツ沼猟虎ショウラッコ任せました』

 その後ろからカワウソの魔獣、流清獺が現れる。

『穢れし存在よ、流れて消えろ!』

 物凄い水流が、武道獅子に襲い掛かる。

『この程度の攻撃で負けるか!』

 踏ん張る武道獅子。

 しかし、水流と共に現れた、ラッコの魔獣、沼猟虎が言う。

『お前も俺の糧になれ!』

 武道獅子が立ち大地が周囲の水を吸収して、一瞬で沼へと変化する。

 一気に飲み込まれていく武道獅子。

『まだだ!』

 必死に足掻く武道獅子。

『終わりです』

 天狐がそう告げると同時に放つ雷は、武道獅子に何度も落ちる。

「武道獅子!」

 マーレが叫び、近寄ろうとするのを楽駝鳥が前に立塞がり止める。

『私は負けな……』

 武道獅子が連続して打ち下ろされた雷に沼に倒れ、その全身を、沼に飲み込まれていく。

「誰か、武道獅子を助けて!」

 マーレが絶叫した時、武道獅子の止めを刺す雷が、紅の雷に弾かれる。

「俺の事を忘れているんじゃない!」

 紅雷が武道獅子の隣に、跳び寄る。

 蒼牙が、武道獅子を見て言う。

『まだ大丈夫だ』

 蒼牙の言葉に紅雷が頷き、天狐を見る。

「これから先は、俺が相手だ!」

 天狐は首を振る。

『残念ですが、私は無駄な争いはしません』

 その時、後方から声がした。

『何だ、お前は?』

 その声の主、中毒犬の方を向くとそこには、大きな象が、その鼻で中毒犬を捕らえて、浮かんでいく。

 異常な光景に驚く一同。

「やらせるか!」

 紅雷が蒼牙に右手を向ける。

『我が雷撃と共に敵を貫く槍と化せ、蒼牙』

 槍と化した蒼牙に、自分の赤き雷を纏わせて、必殺の紅と蒼の雷を放とうと構える。

『良いのですか?』

 天狐の言葉に、紅雷が言う。

「安心しろお前の相手は、あれを倒した後にしてやる!」

 天狐が苦笑する。

『その状態で、貴方の必殺の雷を放てば、この町は滅びますよ』

 その言葉に、紅雷の腕が止まる。

『言った筈です、無駄な戦いはしないと。流清獺を連れてきたのは、戦闘フィールドを水に埋めることで貴方の戦闘能力を奪う為です』

「卑怯者が!」

 紅雷が怒鳴る。

『幸運にも八百刃様も居ません。正直、助かりました。あの御方がいたら、どの様な方法を使っても勝てませんから』

 天狐はそう言って、マーレを見る。

『多少、荒い方法を使わせてもらいます。お父上がお待ちですので』

 マーレが首を横に振る。

「私は帰りません!」

 それに対して天狐は、どんどん広がっていく水流を示しながら言う。

『雷を放てるのは紅雷殿だけでは、ありません。先程まで伝導を抑えた雷ではなく、一度落ちれば、貴方以外を感電死させる雷を落とすことを私には、出来るのですよ』

 言葉を無くすマーレ。

「マーレを連れて行かせるか!」

 紅雷は、雷を諦めて、接近戦で勝負をつける為に、天狐に近づく。

 しかし、天狐はその背中に流清獺と沼猟虎を乗せて、上空にあがる。

『無駄な争いは、しません』

 舌打ちする紅雷。

 その時、吸射雀が天狐の上に飛び寄る。

『無駄な電撃は全部、吸収するから早く放て!』

「ナイスタイミングだ。行くぞ、蒼牙!」

『任せろ!』

 槍と化した蒼牙に強烈な紅と蒼の雷が纏い、魔獣すら一撃で滅ぼす雷の弾と化して、天狐に襲い掛かる。

『無駄な足掻きですね。私が、この程度の魔獣を滅ぼすのに、能力を必要とすると思って居たのですか?』

 天狐が、高速の飛行で、吸射雀を爪の攻撃範囲に捉える。

 咄嗟に逃げようとした吸射雀。

『逃げたら、大惨事ですよ』

 天狐の言葉に吸射雀の動きが止まり、その身に天狐の爪が到達した。

 それと同時に、天狐が生み出した真空が、紅雷の雷を天狐から逸らす。

「しまった。あれが万が一にも伝導物に当たったら」

 紅雷が慌てるが、天狐が言う。

『安心して下さい。吸射雀が全てを吸収します』

 その言葉通り、吸射雀が、紅雷の雷を吸収する。

 しかし、次の瞬間、全身の傷から雷を漏らしながら落ちて行く吸射雀。

「吸射雀!」

 マーレが信じられないという顔をする。

 水流に落ちていこうとした吸射雀に、慌てて駆け寄ろうとするマーレ。

 しかし、吸射雀が地面を覆うような水流に落ちることは無かった。

 マーレの目の前で、無数のカマイタチが吸射雀を切り刻み、空中でその存在を消したからだ。

 マーレの手には、僅かに残った、吸射雀の羽根が落ちた。

 呆然とするマーレを見て、紅雷が天狐を睨み怒鳴る。

「何故こんなマネをしやがった!」

 天狐は淡々と答える。

『吸射雀は、漏電でお嬢様を傷つける可能性があったからです』

「そんな事別に構わない。吸射雀はずっと私を護っていてくれたのに、どうしてですか!」

 マーレの絶叫に天狐が告げる。

『もうお遊びの時間は終わりました。我々でも八百刃の相手は至難なのです。ここでお帰り頂きます。ですから、もう護衛は不要なのです』

 そして、天狐はマーレの傍に着地して頭を下げる。

『さあ、お乗りください』

 躊躇するマーレ。

「行く必要な無い! 俺がそいつを倒す!」

 紅雷が近づいてきた時、それが紅雷の前に立塞がるのを見てマーレが叫ぶ。

「楽駝鳥、何で、ですか!」

 紅雷の前に立塞がったのは、マーレをずっと乗せてきた楽駝鳥だった。

「邪魔をするんだったら殺す!」

 紅雷が、蒼牙の槍を振るうが、楽駝鳥は動かない。

『お前の役目もここまでだ。その者の足止めをしておけ』

 頷く楽駝鳥。

『最初から、その魔獣はお前達の配下だったのか?』

 蒼牙の言葉に、楽駝鳥が答える。

『我が役目は、お嬢様を護るそれだけだ。それが天狐だろうが、お前等だろうが関係ない。そして一番安全なのは、あのお方の下しかない。それを邪魔するお前等は敵だ』

 初めての楽駝鳥のテレパシーに、驚くマーレ。

 天狐が上空に雷雲を集めながら、最終勧告を告げる。

『お戻りなる決断を』

 紅雷が楽駝鳥に斬りかかるのを見て、マーレが叫ぶ。

「止めて! 私が戻りますから。だから止めて下さい」

「だがな!」

 反論しようとした紅雷に対して、マーレが悲しそうな顔をして言う。

「短い間でしたが、楽しかったです」

 頭を下げてマーレは、天狐の背中に乗る。

『楽駝鳥、後は、任せたぞ。行くぞ、地力象チリキゾウ

 そして、天狐はマーレを背に乗せて、中毒犬を捕らえた象の魔獣、地力象と共に去っていく。

 紅雷は歯を食いしばりながらも、その姿を見ていた。

 完全に紅雷の視界から天狐達が消えた頃には、流清獺が生み出した、水流は消えていた。

「ちくしょう!」

 天に紅の雷が昇った。



『詰り、護り通せなかった訳だな?』

 流清獺の水流の所為で、大幅に遅れた鉄道に乗って来た、ヤオの足元に居た白牙の言葉に、蒼牙が反発する。

『まともに戦えば、負けなかった!』

 しかし、紅雷は反論をしない。

「いい訳は無いの?」

 ヤオの言葉に、紅雷が頷く。

「どんな事情があったとしても、お前に任されていたマーレを護りきれなかった事には変わりない」

 ヤオが苦笑する。

「潔いのは戦いにおいてマイナスだよ。次の為に自分が負けた理由を常に考えないとね」

 紅雷が机を叩く。

「幾ら考えても、マーレが戻っては来ない!」

 あっさり頷くヤオに紅雷が戸惑う。

「何を考えている?」

 ヤオは、自分が居る食堂の入り口を見る。

「そろそろ来る頃だね」

 その言葉と同時に、入り口から新狼が現れる。

「八百刃は、ここか?」

「こっちだよ!」

 手を振るヤオに近寄り、新狼が言う。

「狼打からの伝言だ、フェニックステールの本拠地の包囲が終了した。手伝う気があるのだったら、俺と一緒に来いと」

 ヤオは頷いてから、紅雷の方を向く。

「戻ってこないのなら、こっちから行けば良いだけの話しだよ。それでどうする。最初に言っておくけど、約束だからって言うのはなし。約束は一度破られた時点で、無効だからね」

 紅雷が強い意志を込めた瞳で言う。

「俺は、俺の意思でマーレを助けに行く」

 ヤオは、笑顔で言う。

「よろしい。それじゃあ行きましょうか」

 そして、立ち上がるヤオに店の亭主が伝票を差し出す。

「お会計をお願いします」

 その金額に驚き、ヤオはひきつった笑顔で、紅雷を見る。

「護れなかったお詫びとして奢ってくれない?」

 紅雷がはっきり言う。

「破った時点で、無効なのだろう?」

 何もいえなくなるヤオであった。

○その他魔獣



中毒犬チュウドクケン

中毒にさせる能力を持つ犬の魔獣。

ただし、根が良い性格のため、一時的に仕事中毒にしたり、

子供に対する愛情表現中毒にしたりする。

元ネタ:SUIKA割りさん(大感謝)



流清獺リュウセイタツ

水流を生み出して、すべての物を押し流して、強制的に整頓するカワウソの魔獣。

元ネタ:忍神さん(大感謝)



沼猟虎ショウラッコ

水と大地があれば、何処でも沼を生み出せるラッコの魔獣。

獲物を大地に沈める行為を糧とする。

元ネタ:忍神さん(大感謝)



地力象チリキゾウ

大地の力、重力を操る象の魔獣。

元ネタ:忍神さん(大感謝)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ