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戦神神話  作者: 鈴神楽
世界の車窓から
60/68

明かされる未来

仮面ライダーモドキが出てきます

「今回はレパール線を、ミラ山の麓にある、ミラトンに向かう車窓から」

 久しぶりに、聞く相手が白牙以外居ない、ヤオの原稿書き。

『どうしてマーレを紅雷に預けた? お前ならよっぽどの事が無い限り、自分で護衛する筈だ』

 白牙の言葉に、ヤオは苦笑する。

「狼打からの情報に、これから行く先にいる魔獣の情報があったの。正直、そいつには誰にも合わせたくない。だからマーレを紅雷に預けて、紅雷の足止めもしたんだよ」

 頷く白牙。

『二重の意味があったと言う事だな。しかし、その魔獣をどうして、そこまで問題にする? どんなに力が強大だからと言って、紅雷を態々足止めする必要があるとは、思えないがな』

 ヤオは困った顔をしながら答える。

「戦闘能力は皆無だよ。まー、守護者代わり魔獣も居るけど、問題はそんな事じゃないよ」

 ヤオは本気で珍しく、真面目な表情で白牙を見る。

「今回の魔獣に関わる記憶は、外部から完全に遮断するからね。もしも白牙が八百刃獣を辞める時は、その記憶も完全に消させてもらうよ」

 白牙が驚きながらも尋ね返す。

『八百刃獣を辞めるかどうかは別にして、お前がそこまで気にする事なのか?』

 ヤオはただ強く頷く。

「狼打も、何か掴んでる可能性はあるけど、万が一にも発覚したら、大変な事になる可能性がある魔獣だよ」

 何時に無くシリアスな表情のヤオに、沈黙する白牙であった。



 ミラ山に登る前に、腹ごしらえをするヤオ。

『恥しいから止めろ!』

 白牙がそう言うのも当然、一番安い、ポテトセットを食べながらヤオは、隣の子供のオムレツを物欲しそうに見ていたからだ。

 その時、ヤオと一緒の列車に乗っていた、見るからに犯罪者顔の男達が、我が物顔で大通りを歩いていく。

 男達は遂に、若い女性を囲むが、怯えるだけの住人に、溜息を吐くヤオ。

 しかし、一人の少年が石を投げつけた。

「出て行け! この町はお前等みたいな奴が居るべき町じゃない!」

「なんだとガキが!」

 男達が、少年を囲んだ。

「出て行けよ!」

 膝をがくがくと揺らしながらの少年の言葉に、微笑みながらヤオが席を立った時、それは現れた。

 前後に二つの車輪をつけた乗り物に乗り、赤いマフラーをつけたその男は高笑いを上げる。

「この町の平和は俺が護る!」

『あれなんだ?』

 白牙の質問に、ヤオは二輪の乗り物を見ながら言う。

「魔力をエネルギー源に動く、魔道二輪車だね。バランス感覚が必要だけど、小回りが効いて、動きやすいのが売りだと思ったよ」

『わざと勘違いしてるだろう?』

 白牙の言葉に、ヤオが素直に頷く。

「あちきとしては、あまり関りたくない感じがする」

 魔道二輪車に乗った男は、魔道二輪車から飛び降り、男達を飛び越える。

 驚く男達。

 だが、町の住人達は、明らかに怖がっていた。

「なんとなく、町の人達が何を恐れて居たのかが分かった気がする」

 ヤオが呟くと、それが起こった。

『ロギキック!』

 魔道二輪車の男の蹴りで、男の一人が吹き飛び、建物の壁を貫いていく。

『ロギパンチ!』

 別の男が、露店に向かって吹き飛んでいく。

 町の人達は嘆きの声を上げる中、子供達だけが無邪気に喜ぶ。

「がんばれ! ライダーロギ!」

 魔道二輪車の男、ライダーロギの活躍は、男達を全滅にするまで続いた。

 活躍の度に町の人の嘆きの声が上がったのは、毎度の事らしい。



『結局あいつは何なのだ?』

 ミラ山を登るヤオの足元で、白牙が呟く。

「正義の味方のつもりでしょ」

 極々当然の様にヤオが言うが、その顔はつまらなそうだった。

『正義の味方は、嫌いだったな』

 白牙の言葉に頷くヤオ。

「正義の味方なんて、必要ない。正義なんて、それぞれが持っていれば良いんだから。その上あいつは、周りの被害を考えずただ、悪党を叩きのめす事しかしてない。あれは単なる弱いもの虐めだよ」

 苦笑が起こる。

「随分な言われ様だが、これも私の食事なんだよ」

 ライダーロギが魔道二輪車に乗って、ヤオの道を塞いでいた。

「詰り、応援される事が貴方の食事って訳だね、闘歌蟋蟀トウカコオロギ

 驚いた顔をする、ライダーロギこと、闘歌蟋蟀だった。

「どうして、俺の本名を知っているんだ?」

 ヤオはあっさり答える。

「この山の魔獣を護る魔獣って事で、調べられてたんだよ」

 ヤオの言葉に苦笑して、闘歌蟋蟀が本来の姿、巨大なコオロギの魔獣の姿を見せる。

『お前も来夢羊ライムヨウの能力を狙って居たと言う事だな。手加減はしないぞ! 変身』

 次の瞬間、物凄い音量で、アップテンポの歌が奏でられると、闘歌蟋蟀が、人のシルエットを持ったコオロギに変化した。

『なんだ、あれは?』

 半ば呆れた口調の白牙に対して、ヤオは真面目な顔で言う。

「考えた結果だよ。戦闘って言うのは、熟練度を必要とするものだよ。信じられない回数の戦闘数こそが、勝敗を決めるって言っても問題ないよ。そして若輩の自分が勝つために考えたのは、魔獣本来の姿を最大限に維持した状態での人のシルエットの取得。そうする事で、人の技を操る利点を引き継げる」

 ヤオの解説に、闘歌蟋蟀が頷く。

『俺は、負けられない! この先に居る魔獣には誰にも会わせない!』

 ヤオは真剣な顔で言う。

「貴方は見たの?」

 その言葉に闘歌蟋蟀が無言で頷く。

「それでもあちきの前に、立塞がるの?」

 闘歌蟋蟀は、鋭い突きで答える。

 ヤオは、半歩だけ後退し半身になり、突きを避ける。

 凄まじい衝撃波にヤオの髪がなびく、逆手で裏拳を放ってくる闘歌蟋蟀に対して、ヤオは大きく体を沈めて、その攻撃を避ける。

『甘いな! 体が空いたぞ!』

 白牙の言葉とは逆に、ヤオは大きく後退する。

『流石に見抜かれましたか』

 闘歌蟋蟀の腰には、人間には無いはずの腕が、迎撃の為に待ち構えていた。

 ヤオは、大きく深呼吸をしてから言う。

「白牙、あちきが久しぶりに本気でやるから、邪魔しないでね」

 今度は無造作に間合いに入る。

 闘歌蟋蟀が四本の腕で、羽根から発生させた音を纏った拳を放つ。

 ヤオは、急停止と同時にバク転して、下から突き上げられた左右の拳を、両足で蹴り上げる。

 蹴り上げられた拳が、上から振り下ろされた拳とぶつかり合い、四つの拳が大きく弾かれる。

 逆立ちした状態だったヤオが、腕の力だけで闘歌蟋蟀に跳び、蹴り込む。

 激しく飛ぶ闘歌蟋蟀。

「浅いね」

 ヤオは、普通に立ち、闘歌蟋蟀が起き上がるのを待つ。

『騙されては、くれないか』

 あっさり立ち上がる闘歌蟋蟀。

「誤魔化すつもりだったら、もう少し、小さく飛んだ方が良いよ」

『今後は気をつける!』

 左右に大きく動くフットワーク、人間では不可能なまでの動きも、コオロギの足を持った魔獣には、可能だった。

 ヤオが右を向いた時、左側から闘歌蟋蟀の拳が伸びる。

 しかし、ヤオの体が大きく沈むと、右に向いた反動を使って放たれた強力な回し蹴りが、闘歌蟋蟀を襲う。

『このくらい、防げる!』

 闘歌蟋蟀が足に力を入れた。

 しかし、回し蹴りは、予想に反して、足の直ぐ傍の地面に当たる。

 砂煙が上がる中、地面に突き刺さった足を軸に、もう半回転したヤオの蹴りが闘歌蟋蟀の腹を、中腕ごと削り取った。

 必死の表情で下がる、闘歌蟋蟀。

 闘歌蟋蟀が、ヤオが居るはずの砂煙を凝視する。

「がんばったけど、ここまでだよ」

 闘歌蟋蟀の後方に立っていたヤオの手刀が、右側の腕を斬りおとす。

『まだだ!』

 残った腕で攻撃を放ちながら、魔道二輪車まで後退する闘歌蟋蟀。

『お前は強い。俺も手段を選ぶ余裕も無い。行くぞ、サラウンド号!』

 闘歌蟋蟀は魔道二輪車に乗ると、自分に残った力を注ぎ込み、瞬間的に加速させた魔道二輪車、サラウンド号でヤオに向けて突っ込む。

『サラウンド号アタック!』

 ヤオは、掌を向ける。

「あちきの本気を感じなさい」

 純粋な力のそれは、炎でも雷でも風でも気でも無い、純粋な力だった。

 本来なら他のものに影響を与える事は無い力だったが、しかし、ヤオが操ったそれは、サラウンド号を停止させた。

 闘歌蟋蟀が止めたのだ。

 その表情には絶対的な恐怖が描かれていた。

『……それ程の力がありながら、何故使わなかった?』

 なんとか、それだけを言う闘歌蟋蟀にヤオが笑顔で言う。

「来夢羊の守護をしていた貴方の試練を超える為だよ」

 言葉を無くす闘歌蟋蟀の横を通り過ぎるヤオ。



 ヤオは、来夢羊が眠る洞窟に入る。

『ヤオ、ここに居る魔獣の能力は何だ?』

 白牙の言葉にヤオが答える。

「永い眠りの中で、運命のベクトルを抽出し、それをもちて、相手にもっとも確率が高い未来の予知夢を見させる事」

 白牙が首を傾げる。

『確かに凄い能力だが、お前がどうしてそこまで気にする?』

 ヤオは大きな溜息を吐く。

 ヤオ達の前に眠る羊、来夢羊が目を覚ます。

『世界の運命を担う者。私が予知夢を与えられるのは貴方達が最後でしょう。受けますか?』

 ヤオは頷くと、来夢羊が分裂して、どこからともかく現れた柵を越えていく。

『これを数え続けるのか?』

 白牙の言葉にヤオが頷く。

「あちきは、見る義務があるから。貴方は見なくても良いよ」

 そう言いながら、羊を数え始めるヤオ。

 白牙も溜息を吐いて、羊を数え始める。

 そして二人は眠りの世界に入っていく。



 ヤオの体が光り輝く。

 それは人としての属性を全て無くした事を意味している。

 神と化したヤオは人々が住む大地を見下ろす。

 そんなヤオの傍に居た白牙が驚愕した。

 世界がどんどん崩れていったからだ。

 ヤオの周りに神々が居た。

『我等を育てた揺り籠は、もう無くなった。さあ神としての役目をまっとうするぞ』

 声の主は滅びた筈の戦争を司る邪神、蒼貫槍だった。

 崩れいく世界を見るヤオ、八百刃に、蒼貫槍が更に言い募る。

『お前は必要とされているのだ。我々の力では制御出来ぬ、戦いすら統べる存在。聖獣戦神『八百刃』よ、その役目を果たす時が来た』

 八百刃は何かを振り切るように頷く。

 神々達が消えた世界は、多くの人や生き物と一緒に崩壊し、消えて行った。



『嘘だ!』

 白牙が目を覚ます。

「白牙も見た、あの悪夢を」

 隣に座っていたヤオ、その表情には深い悲しみが刻まれていた。

 白牙が少し躊躇したあと質問する。

『お前は知って居たのか?』

 頷くヤオ。

「影の時空新、実名から聞いてた。あちきを生み出すのを主目的とした、この世界が滅びる事も。そして、あちきがそれでも神になる必要がある事も」

 白牙が納得する。

『それで神になるのを、躊躇してたのか』

 ヤオは再び眠りに入った来夢羊に頭を下げて、洞窟から出る。

 そこには、コオロギ姿の闘歌蟋蟀がたって居た。

『俺はお前についていく、どんな決断を下すかを見る為に』

 ヤオは頷き、新しい八百刃獣が誕生した。



 列車に乗るとヤオは次々と原稿を書いた。

『何をしてるんだ?』

 白牙の質問にヤオが笑顔で答える。

「来夢羊の力で、あちきが未来で見る車窓の風景を見てきたから、それを原稿にしているの。これで原稿料いっぱいで、借金も返せるよ!」

 こける白牙。

『お前は、あの時までそんな事をしてたのか!』

 頷くヤオ。

「予測できた結果だったからね。必要な所だけ見たら、残った時間で、やっといたの」

 言葉を無くす白牙だったが、少ししてから呟く。

『こんな神を生み出すためにこの世界があるのだったら、物凄く無駄な世界な気がするな』

 そんな白牙にヤオが言う。

「意味なんて、自分で見つけるものだよ」



 ちなみに、行っても居ないところの原稿は小説でもないので、ボツになったことだけは伝えておこう。

○新八百刃獣



闘歌蟋蟀トウカコオロギ

その羽根から発生させる歌で、攻撃する蟋蟀の魔獣。

人型になって、人の技を使った戦闘を行える。

乗っている魔道二輪車の名前は『サラウンド号』

元ネタ:忍神さん(大感謝)



○その他魔獣



来夢羊ライムヨウ

予知夢を見させる能力を持つ羊の魔獣。

正確には、自分が睡眠中に溜め込んだ世界の未来に向うエネルギーベクトルを相手に当てることで、

夢という仮想空間で、確率が高い未来を体験させる能力を持っている。

元ネタ:忍神さん(大感謝)

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