ユアだった少女
ヤオは何を考えて、何を思い八百刃をやっているのか?
「今回はレパール線を、ミルミー川の上流にあるミール谷の傍にある、ミールッサに向かう車窓から」
元気が無い様子で原稿を書くヤオ。
『何を、落ち込んでるんだ?』
白牙が尋ねると、ヤオが言う。
「借金が、また出来たからだよ」
マーレが苦笑しながら言う。
「いつでも良いですよ」
ヤオは少し暗い顔をして頷く。
「出来るだけ早く、返すよ」
『本当に偉大な神名者かね』
吸射雀が呆れた感じで言うが、白牙が真面目な顔のまま言う。
『誤魔化すのはよせ。他に理由があるだろう!』
ヤオが苦笑する。
「原因って事は本当だよ。だだ、本当に神様になるべきなのか、悩んでいるだけだよ」
驚くマーレを見ながら、ヤオが言う。
「あちきね、元々は神名者になるつもりは、無かったんだよ」
「それでは、どうしてですか?」
マーレの質問に、ヤオはあっさり答える。
「親友に、罪悪感を背負わせない為だよ」
意外すぎる答えに、マーレが言葉を無くしていると、ヤオが続ける。
「正直、神名者を辞めようと思ったことなんて、何度もあったよ。それでも、あちきが神名者を続けていたのは、八百刃が人に必要とされて居たからだよ」
「それでしたら、やはり神になるべきでは、ないのですか?」
マーレの言葉に、ヤオは余裕の笑みとも取れる顔で答える。
「今でも十分、人の助けが出来ると思う。下手に神様になって、直接動けなくなるより、今のままのほうが良いかもね」
その時、白牙が本来の虎の姿に戻って言う。
『御戯れはお止め下さい。八百刃様は神に成るべき存在。それは神も人も認める事です。同時に知っている筈です。永遠に神名者では居られない事を』
あっさり頷くヤオ。
「神名者は、神になるための存在。無理に神名者で居続ければ、世界が新たな戦神候補を生み出すよね。でも、あちきはそれでも良いかもって思ってる」
『八百刃様!』
白牙の絶叫に、ヤオは手を叩き言う。
「この話はここまで、子猫の姿に戻りな、白牙」
不満気な顔をするが、従う白牙。
マーレは意外な展開に動揺する。
その時、ヤオが窓の外を見る。
『この力の波動はもしかして、金朝鶏か?』
白牙の言葉に、ヤオが頷く。
「やばいね、同じ場所を金朝鶏が通るのは、百年以上かかるって言うのに、その百年に一度のタイミングに、どんぴしゃで通りかかるなんて」 ヤオと白牙のただならない様子に、マーレも慌てる。
「なんですか、その金朝鶏って?」
ヤオは、窓の方を睨むように見ながら答える。
「数千年も生きる、高度のニワトリの魔獣で、常に朝日と共に現れるとも言われてる。その飛行を邪魔する事は、神にも出来ないとさえ言われる」
『間違いなく直撃コースだ。今から車両を止めても、被害が発生する!』
白牙の言葉に、ヤオは窓を開けて、その窓から車両の外に出て、屋根に上がる。
「どうするのですか?」
マーレが窓から叫ぶと、ヤオが落ち着いた口調で言う。
「こっちを完全に回避させるのは、時間的に無理だから、金朝鶏の軌道をずらす」
「でも、神様でも邪魔出来ないのですよね?」
マーレが不安げな表情で聞くと、ヤオは足元に来ていた白牙に手を向ける。
「軌道を少しずらすだけだから、何とかなる筈」
『行くぞ!』
『八百刃の神名の元に、我が使徒に力を我が力与えん、白牙』
ヤオの右掌に『八』の文字が浮かび、白牙が何時もより、分厚い刀身を持つ刀に変化する。
そして遠方より、物凄いスピードで迫る強大な金色のニワトリ、金朝鶏が迫ってくる。
ヤオが車両の屋根から、金朝鶏に向って跳躍する。
下段から振り上げられた白牙は、金朝鶏とぶつかり、周囲を吹き飛ばす衝撃波を発生させる。
「踏ん張って!」
『解っている!』
ヤオと白牙の底力が、金朝鶏の軌道を僅かに上昇させた。
車両の直ぐ上を金朝鶏が通り過ぎる。
最初の衝撃波と金朝鶏が通り過ぎた時に発生させた衝撃波で、車両が揺れて緊急停車する。
そして、その屋根に虎の姿に戻った白牙が着地する。
『ヤオ!』
本当に珍しい切羽詰った声に、マーレ達も白牙が見ている方向を見ると、深い谷底に落下していく、ヤオの姿が視界に入った。
「八百刃様!」
直ぐに自分も飛び降りようとした白牙だったが、屋根の上で崩れ落ちた。
『待っていろ、今い……』
そのまま白牙は、動け無くなった。
「早く救助しにいかないと!」
マーレが慌てるが、緊急停車しパニックを起こす車両からでは、救出に迎える状況ではなかった。
ミルミー川の下流、ミールッサの町の水場に一人の少年が居た。
「何かしらね?」
隣の女性に聞かれて首を傾げていると、上流から十二歳前後に見える少女が流れてきた。
慌てて助ける為に川に飛び込む少年。
そして少年は、その少女を救い出して、川辺に上げる。
「大丈夫そうかい、ラント」
その十八才の少年、ラントは、呼吸をしていない少女に、慌てて人工呼吸を行う。
何度か口から息を吹き込むが、一向に呼吸は戻りそうも無かった。
ラントは必死に呼びかける。
「目を覚ましてくれ!」
そして少女は目を覚ます。
「ここは何処ですか?」
ラントは慌てて答える。
「ミールッサの町の水場だ!」
その言葉に、少女は周囲を見てから言う。
「私はどうしてここに居るのでしょうか?」
「川を流れてきた。上流で事故にあったんだろう。君の名は?」
少女は思い出すようにして、答える。
「私の名前はユアです」
その少女、ユアの言葉にラントが言う。
「そうか、それでご両親は?」
ユアは、首を横に振る。
「すまない。それで君は何をしていたんだい?」
ラントが気を使うように言うと、ユアが答える。
「多分、何処かに出稼ぎに行く最中だと思います。頭を打った所為なのか、最近の記憶が無いので、定かではないですが」
その言葉にラントが呻く。
「ご迷惑をおかけします。出来るだけ早く思い出すか、適当な働き口を見つけます」
ユアの言葉に、ラントが睨む。
「そんな事を気にするな! 今は療養が先だ!」
そしてラントは、動けないユアを抱き上げて、自宅に戻って行く。
『おかしい』
ミールッサの駅に降りた白牙の第一声が、それだった。
「何がおかしいのですか?」
マーレの質問に、白牙が苦々しい様子で答える。
『ヤオの気配が全くしない。ボケで、ドジで、金運無いが、神名者のヤオは、強い光の様な気配を放っている。違う大陸に居ても、私なら気付くくらいのな』
『死んだんじゃ……』
吸射雀の言葉に、白牙が睨むが、貨車から降りてきた武道獅子が言う。
『可能性が低いな、八百刃様が滅びたとなれば、周囲が崩壊してもおかしくない力が漏れる。この感覚はまるで、媒体である肉体と神名者としての本体である魂とのリンクが合っていない、そんな感じだ』
白牙が頷く。
『それしか考えられないな。神名者といっても、肉体は常人のそれに準ずる。大きな衝撃を食らえば、一時的に魂とのリンクがずれる事があるだろう』
その言葉にマーレが言う。
「大丈夫なのでしょうか?」
苛立つ白牙。
『どんなに否定しようが、人間を超えるものだ。滅多な事にはならない筈だ!』
まるで自分に言い聞かせるように言う白牙であった。
「すいません」
頭を下げるユア。
「気にするな。それより、記憶は戻らないのか?」
ラントが問いかけると、ユアは首を横に振る。
「正直、信じられないと言うのが本音です。私は小さい頃から病弱で、この年まで生きられるとは思えませんでしたから」
その言葉に驚くが、慌ててフォローを入れるラント。
「今の君は、元気そうだ。きっと病気は完治したんだろう」
それを聞いて、ユアは微笑を浮かべて言う。
「この姿をヤオには、見てもらえたのかな」
その言葉に、ラントが言う。
「そのヤオって誰だい?」
ユアは曇りの無い笑顔で答える。
「私の一番の親友です」
手を叩くラント。
「よし決めた、そのヤオが見つかるまで俺がお前の面倒を見てやる」
翌日、ミールッサの食堂。
『どこに居るんだ!』
苛立つ白牙。
「本当にどうしたのでしょうか?」
その時、一人の少年が入って来た。
そして食事を買うと、出て行こうとした。
「しかし本当にヤオさんって何処行ったのかしら?」
マーレの呟きがその少年、ラントの耳に入った。
一瞬動きが止まる。
「早く探さないと」
ラントはその言葉を聞いて、食堂を出て呟く。
「ユアには、親友の子も行方不明なんて伝えない方が良いな」
ラントが家に着くと、そこには綺麗に掃除された部屋があった。
そして繕う物をしていたユアが笑顔で言う。
「お帰りなさい」
そう言って立ち上がるが、よろける。
慌ててユアを支えるラント。
「まだ体調は完全じゃないんだろう? 大人しくしてろ」
首を横に振るユア。
「大丈夫です。それに体調悪いからってじっとしていると、余計体調が悪くなるものです」
そう言いながら、ラントに上着を渡す。
「どうですか?」
ラントは愛情が込められたその上着に、感動すら覚えた。
「ありがとう」
「お世話になっているお礼です。本当はもっと色々な事が出来たら良いのですが」
寂しげな顔をするユアをラントは強く抱きしめて言う。
「気にするな、なんだったら一生俺が世話してやるよ」
その時、ラントと同じ年頃の気の強そうな少女が入ってくる。
「ラント、何時までサボってるの! 早く仕事に戻りなさい!」
残念そうな顔をして離れるラント。
「解ったよ。夕方には帰るから」
「待っています」
頭を下げるユアを見てその少女、ラミーンが怖い顔をする。
二人がラントの働く職場に向う途中話をする。
「あの娘、絶対変よ!」
ラミーンの言葉に溜息を吐くラント。
「仕方ないだろう、記憶が無いんだから」
「それ自体変なのよ、ここ暫くの記憶が無いって言うけど、あの娘、鉄道すら知らなかったのよ?」
ラミーンの反論にラントがフォローを入れる。
「それは、きっと鉄道が走っていない田舎か、別大陸から来たんだよ」
ラミーンが続けて問題点をあげる。
「他にも、苗字が無いって変よね、百年位前に、定着した苗字制度は、何処でも有効な筈よ。それなのにあの子は、苗字って王侯貴族しか持ってないって言ったのよ。非常識もいいところよ」
もっともの指摘だが、ラントは反発する。
「ユアはいい子だ、問題ない!」
「ラントのわからず屋!」
駆け出すラミーン。
「何なんだよ?」
意味不明とばかりに肩を竦めるラント。
ラミーンは、人気が無い路地に入ると思いっきり泣き始める。
「どうしてあんな小娘の事を庇うのよ!」
その時一人に男がラミーンに近づく。
「どうしたんだいお嬢さん?」
ラミーンは怒鳴り返す。
「胡散臭い小娘が、ラントの家に居座ってるのよ!」
それを聞いて男は、口の端を微かにあげて言う。
「それはそれは大変ですな。なんでしたら私が力になりましょう」
きょとんとするラミーン。
「でもどうやって?」
その時、少女の影に男の影が伸びた。
「貴方はただそこに行くだけで良いのですよ。あとは、影進蛇がやってくれます」
無意識に頷くラミーン。
更に数日が過ぎた時、町には、ある噂が広まっていた。
それは、仕事をしているラントの耳にも入った。
「なんだと!」
怒るラントに同僚が言う。
「なんだ、知らなかったのか、お前が世話してる小娘は、人殺しだって話だぜ。それで役人に追われてて谷底に落ちたって話だぞ」
力いっぱい同僚を殴るラント。
「ユアがそんな事をするか!」
他の同僚が、おっかなびっくり言う。
「でも最近の記憶が無いんだろう?」
「関係ない! ユアは人殺し出来る人間じゃない!」
その時、一匹の子猫がラントの前に立つ。
そして声ならぬ声で、ラントに話しかける。
『お前いま、ユアと言ったな!』
驚くラントの前に、マーレがやって来る。
「白牙さん、ユアって誰のことですか?」
白牙が苛立ちを隠さず言う。
『ヤオの人だったときの名前だ!』
「本当ですか?」
猫と話す娘に、困惑する一同。
「お前等確か、ヤオって娘を探していた奴等だな」
ラントの言葉に、大きく頷くマーレ。
「そうです。そして貴方が言うユアさんがそのヤオなのです」
それを聞いてラントが怒鳴る。
「冗談はよせ、ヤオって言うのはユアの親友の名前だろう!」
「それは……」
マーレは、戸惑い白牙を見ると白牙が答える。
『ヤオは、自分の素性を隠すため、ヤオって偽名を使った。かつての親友の名前を』
白牙の言葉は、ラントにも聞こえた。
「素性を隠すって、ユアが何者だと言うんだ!」
それに対してマーレが言う。
「偉大なる神名者、八百刃様です。数日前にあった大きな事故の被害を減らした時に、谷底に落ちて、行方不明だったのです」
ラントは鼻で笑う。
「馬鹿を言うなよ。あのユアが、正しい戦いの護り手、八百刃様だって? 冗談は休み休み言え!」
睨むラントだったが、白牙が元の虎の姿に戻ると、大きく後退する。
『お前の考えなど、知ったことでは無い! さっさとヤオの居る所に案内しろ!』
「誰がお前みたいな化物に、教えるか!」
ラントが反論すると、白牙が、その鋭い爪を持った前足を振り上げる。
『早く観念しろ!』
その時、ラミーンが前に出て叫ぶ。
「あたしが案内します!」
「ラミーン!」
ラントが怒鳴るが、ラミーンが即座に反論する。
「あんな子の為に、ラントが危険な目に合う必要は無いのよ!」
「そーゆー問題じゃない!」
ラントがラミーンの動きを止めようとした時、白牙の前足が、ラントを弾き飛ばす。
『早く案内しろ』
ラミーンは、一度白牙を睨むが、直ぐにラントの家の方を向いて言う。
「こっちよ」
ラミーンに案内されて、白牙とマーレがラントの家に着いた時、そこは、人垣が出来ていた。
そしてユアが、一人の男に捕らわれて出てくる。
「こいつは、お前等にとって大切な人間なんだろう。殺されたくなかったら大人しくしろ!」
『そんなマネをして、ただで済むと思うのか?』
一切の妥協を許さない、白牙の問いかけに男が言う。
「うるせい! 俺達が正義だ。この犯罪者をここで処刑してやる!」
そう言ってナイフを振り下ろす。
「キャー」
目を閉じるユア。
『ヤオ!』
白牙が叫ぶ。
しかしユアにナイフは刺さらない。
「大丈夫か?」
ナイフは急いで後を追ってきて、ユアを庇ったライトに突き刺さって居た。
「ラントさん!」
ユアが男の腕から逃れて傷を見る。
「怪我が無くて良かった。早く逃げるんだ。ここに居たら危ない。ここは俺が防ぐ」
傷付いた体で、ユアの盾になるラント。
そして白牙が言う。
『邪魔をするな!』
神すら滅ぼす、白牙の牙がラントに迫る。
「俺は引かない!」
その時、ユアの肉体と魂のリンクが合わさった。
そしてユア、ヤオは少し苦笑してから言う。
「白牙、そこまで、もう元に戻ったよ」
何時もの自信たっぷりなヤオがそこに居た。
驚くラント。
「ユア?」
ヤオは両手を横に向けて唱える。
『八百刃の神名の元に、我が使徒を召喚せん、癒角馬』
ヤオの右掌に『八』、左掌に『百』が浮かび、人を治癒する能力を持つ一角獣が召喚される。
「治療してあげて」
頷くと、癒角馬はラントを治療する。
突然な展開に、言葉を無くすギャラリーの中からヤオは、ラミーンを見つけて言う。
「逃がさないよ!」
白牙に右手を向けるヤオ。
『八百刃の神名の元に、我が使徒に力を我が力与えん、白牙』
ヤオは白牙が変化した刀を、ラミーンの影に突き刺す。
『ぎゃー!』
おぞましい叫び声と共に、影から一匹の蛇の魔獣、影進蛇が浮き上がって滅びる。
ヤオは事態が理解出来ないギャラリーに、説明を開始する。
「今回の事件は、この蛇の魔獣が、裏で情報を操作していたの。だからここまで大事になったんだよ。もうその魔獣も滅びたから安心して」
自信たっぷり宣言するヤオに、ギャラリー達が納得して感謝の言葉を告げて来る。
「とりあえず、必要な実験結果は取れましたね」
そう言って、ラミーンに影進蛇を取り付かせた男は、町を去って行く。
その男のマントの下には、不死鳥の尾の形をしたアクセサリーが、きらめいていた。
次の町に向う為にヤオ達が駅の改札を通ろうとした時、ラントがやって来た。
「行ってしまうのか?」
ヤオは頷く。
「あちきは八百刃、自分で、神名者である事を選らんだ者。記憶が混乱してる間、お世話に成ったね。これはそのお礼」
そう言ってヤオは、町の人間から貰った報酬の袋を渡す。
「こんな物は要らない!」
そんなラントに対して、ヤオは後ろを指差して言う。
「駄目だよ、これから家族が増えるんだから、お金は幾らあっても良いんだよ」
ラントがヤオの指さした方を向くと、ラミーンが居た。
「あいつは貴女を売ったんですよ!」
苦笑するヤオ。
「可愛いじゃない。あちきにラントを奪われると思ってたんでしょ」
「可愛いって、そんな問題じゃ……」
反論しようとするラントの唇に、指を当ててヤオが言う。
「あの子、ラントの子供を身籠ってる。覚えはあるでしょ?」
戸惑うラント。
「あれは、お互いに好奇心で……」
ヤオは諭すように言う。
「表向きはそうでも、他の女性としたくなかったでしょ? それが好きって気持ち。それを大切にしなさい」
そして改札に入っていくヤオ。
「ラントの戦いが常に正しくあらんことを」
涙を流すラント。
そんなラントに近づくラミーン。
「本当に好きだったんだ?」
強く頷くラント。
「あたしは、絶対あの人よりいい女になってみせる」
そう言ってお腹を撫でる。
「この子の為にも」
「そうそう、これ借りてたお金ね」
ヤオは、金貨を差し出す。
驚くマーレ。
「全部ラントさんに渡したのでは、ないのですか?」
あっさり頷くヤオ。
「当然、ラントに新しい生活がある様に、あちきにも、自分の生活があるもん」
『せこい奴』
吸射雀の言葉に、溜息を吐いて白牙が頷く。
『所詮、ヤオは、ヤオだって事だ。それより割り切ったのか?」
ヤオは困った顔をして言う。
「割り切れないよ。でも、あちきは八百刃である事を辞める気だけは無くなった。だって世界には、いっぱい正しい戦いをする人が居るんだからね」
『了解した』
残ったお金を数えるヤオに向って、吸射雀が言う。
『ところで、荒れていた白牙が壊したテーブル代とかは、ヤオが払ってくれんだろ?』
固まるヤオ。
『すまない』
そっぽを向く白牙。
「幾らでも待ちますよ」
朗らかに言うマーレ。
そしてヤオは、窓を開けて叫ぶ。
「どうしてお金が、あちきの前から直ぐに消えていくの!」
ヤオの魂と肉体を同時に振るわせる叫びであった。
○その他魔獣
・金朝鶏
常に朝日と共に現れる巨大な金色の鶏。
数千年前から世界を回り続けている、強大な力を持つ魔獣。
元ネタ:忍神さん(大感謝)
・影進蛇
影の中を自由に動き、その体を自由に伸ばす能力を持つ蛇の魔獣。
人の秘密を探り出したり、悪い噂を流すのが好き。
元ネタ:忍神さん(大感謝)




