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戦神神話  作者: 鈴神楽
世界の車窓から
57/68

ずっとずっと登り続ける者

フェニックステールが再び動き始める

「今回はレパール線を、ミルミー川に沿って進んだ先にある、ミーサッサに向かう車窓から」

 毎度の事ですが、ヤオが『世界の車窓から』の原稿を書いていると、隣の車両が騒がしくなる。

『これって前にも同じ事、無かったか?』

 吸射雀の言葉に、白牙が呆れた口調で言う。

『もう、慣れたな』

 案の定、隣の車両から、紅雷と蒼牙がやってくる。

 しかし珍しい事に、ヤオ達の横を通り過ぎる。

 ヤオが気になったので手を振る。

「紅雷、どうしたの?」

 紅雷が嫌なものを見る顔で振り返る。

「今回は、お前と関わってる暇は無いんだ。紅炎甲様からの指示で、フェニックステールの動きを探る仕事をするんだからな」

『気楽な神名者とは、違うと言う事よ』

 蒼牙が続けると、ヤオと一緒の電車に乗っていたマーレが立ち上がる。

「フェニックステールの動きを探るとは、どう言う事ですか!」

 マーレの登場に驚く紅雷。

「貴女は、どうしてここに?」

「彼女はフェニックステールのボスの娘さんで、父親の行為を止めようと、旅をしてるの。あちきは、その護衛だったりするんだよ」

 あっさりヤオが秘密をばらすと、考え込む紅雷。

『フェニックステールのボスの娘に、余計な事を教える訳にはいかない。無視しろ』

 蒼牙の言葉に、白牙が言う。

『彼女は信じても良い。まー、話すかどうかはお前等に任すがな』

 悩む紅雷に近づき、マーレが真摯な瞳でこう。

「父を止めたいのです。どうか教えて下さい」

 その一言に紅雷が折れた。



「つまり、あの三百登鯉ミオトウリが昇華する瞬間のデータと、昇華後の能力を、フェニックステールが狙っているって事?」

 ミーサッサの食堂で、御飯を奢ってもらいながらヤオが言う。

「そうだ、神々の間でも、魔獣の創造と改造を行うフェニックステールの事は問題になっていて、今回はおよそ三百年前からひたすら川を登り続けているコイの魔獣、三百登鯉をフェニックステールが、監視してる事を突き止めたので、逆にこちらも監視、捕縛して、相手の情報を引き出そうと考えているんだ」

 紅雷の説明に、マーレが立ち上がり言う。

「それを手伝わせてください」

 真剣な瞳に、紅雷が戸惑っていると蒼牙が言う。

『ただの人間の女など、邪魔だ』

 斬り捨てる様に言うと、武道獅子が言う。

『マーレは、私が護るから大丈夫だ』

 蒼牙が睨む。

『お前程度の力でか?』

『何だと!』

 両者の間に、険悪な雰囲気が流れるが、ヤオはそれを無視して言う。

「さすがに今回、あちきは目立ちすぎるから、ここで旅費でも稼いでるんで、ゆっくり調べてきな」

 マーレが頷くと、もう一度紅雷の方を向く。

 その目を見て、紅雷は諦める。

「わかった。一緒にやろう」

 そして二人は、三百登鯉が登り続けるミルミー川に向った。



「それで何でお前が居るんだ?」

 紅雷の言葉に、黒髪の美青年が答える。

「武道獅子では、目立ちすぎるから代わりにだ」

 マーレが頭を下げる。

「よろしくお願いします、影走鬼さん」

 それに対して、その男、影走鬼が言う。

「流石に本当の名前では目立つ、エードとでも呼んでくれ」

 頷くマーレ。

『しかし、小さな猫の姿もとれたんだ?』

 吸射雀が紅雷の肩に乗る、子猫姿の蒼牙を見ていると、蒼牙が答える。

『白牙に出来て、私に出来ない事は無い!』

 それを聞いてマーレが言う。

「ですが、どうして鉄道に乗るときは、虎の姿のままなのですか?」

 蒼牙が即答する。

『態々人間の事情を考えて、私が姿を変える必要が無いからだ』

 そんな状態だったが、紅雷とマーレ達の三百登鯉の監視は続いていた。

「一つ、聞いて良いか?」

 紅雷の言葉に、マーレが頷く。

「なんで父親を諌めようとするんだ」

 マーレははっきりと答える。

「家族ですから、間違っていた道を進もうとしたら、止めるのが、当たり前です」

 紅雷は何か、絶対手に入らないものを見るような目で呟く。

「家族というのは、そう言うものなのか……」

 マーレが不思議に思い、聞き返す。

「紅雷さんのご家族は?」

 紅雷は肩を竦めて言う。

「俺は小さい頃に、非合法の闘技場に闘士として、売られた。その中で、力を開花させた時、紅炎甲様に代行者として選ばれた」

 慌てて頭を下げるマーレ。

「余計な事を聞いてすいません」

 紅雷が鼻で笑う。

「構わないさ。両親には、逆に感謝しているんだからな。闘技場に売ってくれたからこそ、紅炎甲様の代行者になれたんだから」

 自信たっぷりな表情の紅雷を見て、マーレが言う。

「無理しなくても、良いです」

 紅雷が反発する。

「無理なんてしていない。本当にそう思っているんだ!」

「でしたら、何でさっきみたいな事を聞くのですか!」

 二人がにらみ合っていると、影走鬼が言う。

「二人とも、奴らが現れたぞ」

 慌てて、身を隠す紅雷達。

 その視界に天狐とそれに連れられた、でかい蚕が居た。

『えぐい者を連れてきてるな』

 吸射雀が呻くなか、冷静な影走鬼が言う。

「暫く様子を見るか?」

 紅雷が即答する。

「今すぐ行って、捕まえるに決まってるだろう!」

『当然だ!』

 蒼牙が元の姿に戻り、紅雷も腕に赤い雷を纏わせ、天狐達に接近する。

『紅炎甲の代行者か。まあある程度の情報が漏れているのは、わかって居た。だからこそ、私が来た』

 天狐はその一言と共に、豪雨を降らせる。

「こんな物で、俺達が怯むとでも思ったか!」

 次の瞬間、紅雷の体に、糸が絡み付いていく。

「なんだ、これは?」

 紅雷は、それを毟り取るが、次から次と絡まっていく。

 性質が悪く、その糸は絡まると同時に、硬質化して、取れにくくなっていく。

『この程度の糸など雷撃で!』

 蒼牙が雷撃を放つが、それは糸を焼き焦がす前に、豪雨で出来た水溜りに分散していく。

『強くなりたければ、頭を使う事だな』

 それだけ言い残すと天狐は、豪雨の中に消えていった。

「覚えてやがれ!」

 叫ぶ紅雷。



「それで、見事に逃げられたって訳ね」

 ウエイトレスのバイトをしていたヤオが、料理を紅雷達の机の上に置きながら言う。

「お前の八百刃獣も一緒だ」

 それに対して、マーレの隣に座っている影走鬼が言う。

「俺は、単なるマーレの護衛だ。それ以下でもそれ以上でも無い」

 紅雷が影走鬼を睨むなか、マーレが言う。

「しかし、あっさり引きました。どうしてでしょうか?」

 隣の席の注文を聞き終えたヤオが言う。

「理由は簡単、時期が来てなかったから。三百登鯉が昇華する時の情報も欲しいフェニックステールとしては、昇華する時まで今のままが良いから、ここでごり押しする気が無かったんでしょうね」

 そう言いながら歩いていると、こけて、お客が居るテーブルに突っ込む。

「すいません!」

「またか!」

 怒られているヤオをバックに、マーレが言う。

「勝負は、三百登鯉が昇華する時ですね」



 紅雷達の三百登鯉の追跡は続いた。

 そして一週間が過ぎ、ついにその時が来ようとしていた。

 三百登鯉の全身が、激しく輝きだしたのだ。

「もう直ぐ昇華します!」

 マーレの言葉に、紅雷は三百登鯉を無視して、周囲を警戒する。

「奴等、何処で観察しているんだ?」

 その時、上空から糸が次々と放たれて、三百登鯉を包んでいく。

 紅雷達が空を見上げると、そこには空を飛ぶ天狐と、その背に乗る蚕が居た。

「今度こそ逃がすか!」

 紅雷は蒼牙に右手を向ける。

『我が雷撃と共に敵を貫く槍と化せ、蒼牙』

 槍と化した蒼牙に、己の紅の雷を籠めて、天狐に向けて投擲する。

『愚かな』

 天狐が、放った突風が蒼牙を弾いた様に見えた。

「愚かなのはお前だ!」

 紅雷は飛び上がり、天狐に迫っていた。

『少しは考えたみたいだな。しかしまだまだだな』

 天狐は、慌てず騒がず高度を上げて避ける。

「鬼眼蜂!」

 紅雷はなんと、鬼眼蜂を足場にして天狐に迫る。

『届かぬな』

 まだ余裕を残す天狐。

「蒼牙!」

 紅雷の声に答え、蒼牙が紅雷の手の中に戻り、伸びる。

 咄嗟に直撃を避ける天狐だったが、その翼に蒼牙が直撃する。

 天狐は、一度下降するが、直ぐに体勢を戻す。しかし、その背から蚕の魔獣が落ちる。

『しまった。眠繭蚕ミンケンサン!』

 眠繭蚕が落ちて、繭になっていた三百登鯉が開放される。

『もう一度、捕まえる!』

 眠繭蚕が、再び糸を吐き出す。

『やらせないぞ!』

 吸射雀が、紅雷と蒼牙が撒き散らした雷を吸収し、放射して牽制する。

 しかしそれが、失敗だった。

 吸射雀が放った雷撃が、繭の中で半睡眠状態だった三百登鯉の昇華を加速させた。

 鯉の体を脱ぎ捨て、強大な力を持つ、河竜の魔獣、山河竜サンカリュウへの昇華が完了した。

 天狐が舌打ちをして、マーレの前に降り立つ。

『マーレお嬢様、あれは暴走を開始します。早くお逃げください。楽駝鳥の能力を使えば、きっと逃げ切れる筈です』

 マーレが言う。

「どうして、暴走するのですか?」

 天狐は緊張した面持ちで答える。

『魔獣は個を確立した直後は、物凄く不安定になります。本来ならば一部の魔獣以外は能力が低いので、大きな問題になる事はないのですが、三百登鯉から昇華した、山河竜は違います。魔獣として、別個の個に変化しながらも、強大な力を秘めています。早くお逃げください』

 マーレが問う。

「被害は、どれくらい出ますか?」

 少し躊躇した後、天狐が答える。

『周囲の町が、滅びるでしょう』

 マーレが決心する。

「私は逃げません。どうにかしてあれを止めます」

『貴女の力で、どうにかなると御思いですか?』

 天狐の言葉に、マーレが首を横に振って言う。

「私の力では、どうしようも無いかもしれない。でも、私は一人ではないの。武道獅子さん手伝ってくれますね」

 駆けつけて来ていた武道獅子が言う。

『お前の思いに、答えよう!』

 武道獅子が山河竜に向う。

 しかし、武道獅子の突進は、盛り上がった地面に、簡単に弾かれる。

『何て力だ!』

 山河竜の力に答えて、河が氾濫し、山が木霊する。

 自然、そのものを操る圧倒的な力から、天狐は必死にマーレを護る。

『助けてくれ!』

 眠繭蚕が、激流に飲み込まれて、消えていく。

『なんて力だ?』

 蒼牙も呻く。

「なんとしても、止めるぞ!」

 必死に雷撃を籠めた蒼牙を放つ、紅雷であったが、大岩すら粉砕する攻撃も、圧倒的な自然の力を操る山河竜相手には、無力であった。

「もう駄目なの……」

「諦めるのが、早いな」

 マーレを護っていた影走鬼が、天を指差す。

「なんか、グットタイミングって所だね」

 ヤオが天を覆う強大な龍、天道龍の頭に乗って現れる。

 そして両手を下に向けて唱える。

『八百刃の神名の元に、我が使徒を召喚せん、大地蛇』

 ヤオの右掌に『八』、左掌に『百』が浮かび上がり、地面が鳴動して、強大な蛇が現れる。

「押さえ込みなさい!」

 ヤオの命令に、天道龍と大地蛇が頷く。

 山河竜も強大な力で押し返そうとするが、天から降り注ぐ膨大な力と、地から吹き上がる絶対的な力の前には、飲み込まれるしかなかった。

 河に墜落した山河竜を見下ろしながらヤオが言う。

「流石にほっておけないから、八百刃獣にしますか」



 ヤオは、意識が朦朧とする山河竜と無理やり契約して、自分の世界に押し込めた後、紅雷達の所に戻る。

「それで、天狐はどうしたの?」

 ヤオの問いに、紅雷が悔しげに言う。

「どさくさに紛れて逃げられた。もう少しだった!」

 そんな紅雷に、元の影鬼の姿に戻った影走鬼が答える。

『天狐は、まだまだ余裕があったぞ』

「五月蝿い! 俺が本気を出しきっていれば、勝ってた!」

『そうだ、あの程度の魔獣に最強の魔獣の名は相応しくない』

 反論する紅雷と蒼牙を無視してヤオは、マーレの側に寄って言う。

「マーレちゃん、お願いあるんだけど良い?」

 縋るような瞳に怯むマーレ。

 正直、最強に相応しい力を見せ付けた相手が、こんな顔をする理由がわからないのだ。

「な……なんですか?」

「食堂に来たお客様の、大切な壷を割っちゃったの。すっごく高くて、あちきには弁償できないの。お金を貸して」

 こけるマーレ。

「随分タイムリーな登場の仕方をすると思ったら、そんな事情だったのかよ」

 呆れる紅雷。

「……良いですけど」

 なんとか立ち上がったマーレの返事に、涙を流しながら感謝するヤオ。

 大きく溜息を吐く白牙に、哀れみの視線を向けるマーレ。

『すまないが何も言わないでくれ』

 そんな白牙に近づき蒼牙が一言。

『お前、仕える主を間違えたぞ』

 白牙は反論出来ずに、遠くを見て呟く。

『明るい未来は実在するのか?』

○新八百刃獣



山河竜サンカリュウ

三百登鯉が昇華した姿で、山河に関わるものなら、全てを操れる。

昇華直後に暴走した。



○その他魔獣



三百登鯉ミオトウリ

三百年、川を登り続けると、強力な魔獣に昇華する鯉の魔獣。

元ネタ:忍神さん(大感謝)



眠繭蚕ミンケンサン

口から出す糸で、相手を包む事で魔獣でも眠らせる。

糸は硬いのから、粘着力ある物まで色々ある。

元ネタ:忍神さんとJOKERさん(大感謝)

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