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戦神神話  作者: 鈴神楽
世界の車窓から
53/68

悲しき鳳凰

遂に魔獣を研究する施設に突入するヤオ達だが、その先に待ち受けるのは?

「若輩、新名の使徒と、一緒に戦えって言うのか!」

 蒼牙を引き連れた紅雷の言葉に、ヤオが頷く。

「そう今回は、面倒だから、二人で協力して進んでね」

 微笑むヤオに、新狼が言う。

「不要だ! こんな力だけの、紅炎甲の代行者の力など不要だ!」

「なんだと!」

 怒鳴る紅雷に、新狼が大声で返す。

「やるなら、相手をするぞ」

 二人が睨み合う。

『本当に良かったのかのー?』

 空駆馬で紅雷を呼びに生かされた萬智亀の言葉に、白牙が冷静に言う。

『あのクラスの魔獣を相手にするには、新狼だけでは、無茶だろう』

「黙れ! 神名者の使徒の分際で、新名様の使徒である、俺の力を疑うというのか!」

 怒鳴る新狼の後ろで、紅雷が肩を竦ませて言う。

「よく、親のコネで回復の魔獣を借りている奴が、大きな口をきけるな」

 嘲りを含む言葉に、振り返る新狼。

「紅炎甲の代行者とはいえ、たかが人間の分際で、俺によくそんな口を叩けるものだ!」

 再び睨み合う二人を半ば無視して、ヤオが宣言する。

「さー、二人もお互いの認識を理解したところで、中に入りますか!」

『あーゆーのを、理解し合ったと言うのか?』

 不音蝙蝠の言葉に、ヤオが頷く。

「お互いが嫌いって事実に、気付いたでしょ?」

『一応、フォローした方が良いと、思うんじゃがな』

 萬智亀の言葉に、ヤオが遠くを見て言う。

「若い時には、ぶつかり合う事も必要なんだよ」

 そんなヤオの後ろでは、空狼剣と蒼牙で斬り合う、新狼と紅雷が居た。



「それで、どうして一番に八百刃が脱落するんだ!」

 施設の中の真っ直ぐ続く通路で、新狼が怒鳴ると、肩を竦める紅雷。

「所詮は、神名者だと言う事じゃないか?」

 紅雷の言葉に、新狼が言う。

「人間の分際で、神名者を蔑めると思っているのか?」

 紅雷が槍と変化した蒼牙を構えて言う。

「さっき中断した勝負の続きをするか?」

 二人が三度睨みあう。

『下らない事をやってるうちに、分岐点だぞ』

 不音蝙蝠の言葉に、新狼と紅雷が同時に言う。

「「ここからは別行動だ!」」

 そして、二手に分かれていく二人。



『ヤオが落とし穴に嵌るのは、何時ものことだが、どうしてお前が居る?』

 白牙の言葉に、甲羅に閉じ篭もり、無傷だった萬智亀が言う。

『八百刃様に質問があってのー』

 ヤオは、流れ込む水があたらない場所で、抜け穴を開きながら尋ね返す。

「何?」

『何で、神様にならないのじゃ?』

 萬智亀の言葉に、ヤオが困った顔をして言う。

「ヤオとしての存在が強くって」

 萬智亀が突っ込む。

『八百刃様なら数年、人里から離れれば十分、神になれるじゃろ?』

 ヤオは首を大きく横に振って答える。

「そんな事したら、あちき、寂しさで、滅びるね」

『お前は兎か?』

 白牙が突っ込むが、萬智亀はペースを変えず続ける。

『冗談は笑わせてもらったから、どうしてじゃ?』

 ヤオは微笑を浮かべて言う。

「何が知りたいの? 元真名、第零使徒の萬智亀さん」

 萬智亀の緊張感が高まる。

『どうして、それを知っているのじゃ?』

「あちきは、真名の滅びに立ち会っていたんだよ。その時に色々と情報を得たの。真名は、歴代の時空神の隠された知恵袋だった、貴方の知識を重宝していたみたいだよ」

 暫くの沈黙の後、萬智亀が言う。

『真名様は、私が探求している真実に、辿り着いたのじゃな!』

 その言葉にヤオはあっさり答える。

「あちきが得た真名の知識の中には、貴方が探求していた物の真実の一部があったよ。もう一人の時空神が居るって話し、だからこそ新名に力を譲ったんだよ」

 萬智亀が頷く。

『やはりそうじゃったか』

「話も済んだし、早く新狼達に合流しないと、影走鬼に送らせるよ」

 ヤオが、あっさりそう言って、影走鬼を召喚すると、萬智亀を運ばせる。

 影に消えていく萬智亀へ、手を振っていたヤオに、白牙が言う。

『何を隠しているんだ?』

「秘密」

 とだけ答えて、ヤオは前に進んでいく。

 そして一つの部屋に入る。

『やはり内部でも、戦闘用の魔獣が居たな』

 白牙の言葉が示すように、ヤオ達が入った部屋には、両手を血まみれにした狒々(ヒヒ)の魔獣が居た。

「そうみたいね」

 狒々の魔獣と睨み合うヤオであった。



『固有振動が変るなんて、出鱈目だ!』

 不音蝙蝠がそう怒鳴りながら、そいつから逃げる。

『ホロビヨ!』

 上空の蝙蝠の魔獣、激音蝙蝠ゲキオンコウモリの言葉が、直接衝撃波になって、紅雷と別れた、新狼達を襲った。

『我が力は防御!』

 三頭狛の防御の力が発動して、ダメージを激減出来た新狼が唱える。

『時空神新名と狼打の血を引きし我が求める、空間を切り裂く狼なりし剣を我が手に、空狼剣』

 空狼剣を大きく振り下ろす新狼。

 しかし、さっきから不音蝙蝠が攻撃を自らの体を巨大に変化させる事で、防いでいる、爆音牛バクオンギュウは、その一撃を食らって体の大半を失っても、そのまま新狼達に向ってくる。

『タタカエ!』

 そして、激音蝙蝠の破壊音が爆音牛に当たると同時に、爆音牛が巨大化していく。

「きりがない!」

 動きが遅い、爆音牛の突進を避けながら、新狼が舌打ちをする。

『シネ!』

 そこに激音蝙蝠の破壊音波が迫ってくるが、黒い影、影走鬼が現れて攻撃を防ぐ。

『待たせたのー』

 影走鬼の手の中から、萬智亀が新狼の肩に移ると、影走鬼は、影に消える。

『ついでに倒していってくれれば、いいじゃねえか』

 不音蝙蝠の呟きに、新狼が言う。

「こいつは、俺が倒す!」

 空狼剣を構える新狼。



「こんなものを食らうか!」

 鋭い毒針が紅雷を襲うが、槍と変化した蒼牙で叩き落とされる。

 連続して蜂の魔獣、針射蜂シンシャホウから放たれる毒針。

『反射神経だけは、良いみたいですね』

 尻のラインが針を打ち出すたびに、色を無くして行く針射蜂が、遂に全てのラインが色を無くす。

『今です!』

 蒼牙の言葉に頷き、紅雷が攻撃しようとした時、鱗粉が降って来て、針射蜂の姿を隠してしまう。

 舌打ちする紅雷。

「またか!」

『針が切れをねらった所で、迷彩蛾メイサイガをパートナーにする私は、針が回復するまで姿を隠せば良いだけですよ。さー何時まで私の毒針を、避け続けられますかね?』

 明らかな嘲笑に紅雷が言う。

「卑怯者め!」

 しかし声は返ってこない。

『気配さえあれば、鬼眼蜂が見つけられるのに!』

「次出てきたときが最後だぞ!」

 蒼牙を構える紅雷。



 新狼が必死に爆音牛の突進をかわしていると、床に大穴が開く。

「今度は何だ!」

 新狼が言葉に答える様に、ヤオが遭遇した狒々の魔獣が、床から現れる。

 そのまま隣の部屋との壁に大穴を開ける。

 開いた穴の先には、紅雷が居た。

「こんな近くだったのかよ」

 苦戦している新狼を見て笑う。

「所詮は、若輩神の使徒だな!」

 新狼が睨み返し言う。

「人間のお前など、手も足も出ていないだろうが!」

 睨み合う二人の間に、床の穴から飛び上がってきて、ヤオが言う。

「作戦優先。両者とも対戦相手交代」

「「こんな敵、直ぐ倒す」」

 新狼と紅雷がはもる。

 ヤオは溜息を一つ吐いて言う。

「状況が見えていないんだったら、帰って。あちきが、全て終わらすから」

 驚く新狼と紅雷。

『八百刃様、お怒りは解りますが、若きものにも、チャンスを与えて下さい』

 萬智亀が頭を下げる。

 ヤオは気配だけで、魔獣を圧倒して攻撃を抑制しながら言う。

「神々は万能足りえない。それは神の使徒である新狼も、代行者である紅雷も一緒だよ。大切なのは自分の得手不得手を理解すること。それを踏まえて、あちきは、貴方達に対戦相手の交代しろって言っているの。理解しなさい」

 圧倒的な威圧感に、新狼も紅雷も悔しそうに交差して、新たな対戦相手に向っていく。



 ヤオの足元に来た萬智亀が言う。

『助かりましたのじゃ』

 その言葉にヤオが言う。

「まー、あちきが楽をするためだからね」

 ヤオは軽くそう言ってから狒々の魔獣を見る。

「なんせ、あの狒々の魔獣、狂料狒々(キョウリョウヒヒ)との対戦は、大変だったからね」

 肩を叩くヤオに萬智亀が驚いた顔をする。

『あの魔獣はそれ程強力な力をもっていたのですか?』

 ヤオの足元に居た白牙が、物凄い怖い視線で言う。

『この馬鹿に、自分が戦神候補だって事、教えてやれ!』

 萬智亀が首を傾げる。

『どう言う事じゃ?』

「あいつは、なかなかの料理人(?)だったよ」

 ヤオの一言で固まる萬智亀に、白牙が答える。

『ヤオは、料理勝負で、私を包丁として使って、勝ったんだ!』

『師匠、一生ついて行きます!』

 ヤオの傍に来て言う、狂料狒々。

『料理勝負はするが、まともの勝負は避けるのじゃな?』

 萬智亀の言葉に、普通に頷くヤオ。

「だって女の子なんだもん」

 ぶりっこをする、見かけは合っているが、二百十四歳(自己申請)のヤオであった。



 毒針攻撃を避ける新狼。

『いつまでも避け続けられると思うな!』

 迷彩蛾の鱗粉で姿を消す針射蜂。

「不音蝙蝠!」

 新狼の言葉に、不音蝙蝠が音波探索をする。

『あっちだ新狼』

 新狼の空狼剣の一撃が、針射蜂を切り裂く。

 そして残った迷彩蛾も、不音蝙蝠の、固有振動を使った破壊音波で、粉砕される。



『キエロ!』

 激音蝙蝠の音波攻撃が紅、雷に向って飛んでくる。

「その程度の攻撃が利くか!」

 正面から音波攻撃を受け止めて、爆音牛に近づくと、槍の蒼牙でその体を貫く。

『通常ダメージならば、巨大化で回復できるが、電撃ダメージは、回復できまい!』

 蒼牙はその言葉と同時に、強烈な電撃を放つ。

 爆音牛が電撃の痺れで動けなくなった所で、残った激音蝙蝠を睨む紅雷。

「お前も最後だ!」

 蒼牙を投げつける紅雷。

『アタルカ!』

 避ける激音蝙蝠だったが、蒼牙は空中で虎の姿に戻り、その爪で激音蝙蝠を切り裂く。

『お前程度の二流魔獣が、大きな顔をするな!』

 その間に紅雷が放つ赤い稲妻で、爆音牛が滅びる。



「ごくろうさん。次は二人協力して頑張って」

 手をふるヤオに、新狼も紅雷も首を傾げる。

『どういうことですか?』

 萬智亀が問いかけた時、毒針が新狼と紅雷を襲う。

 とっさに避ける二人。

「さっきの蜂か? お前ちゃんと止めをささなかったな!」

 紅雷の言葉に新狼が怒鳴り返す。

「馬鹿な、確実に滅びたはずだ!」

 その言葉に見学モードのヤオが頷く。

「間違いなく滅びたよ。でも新狼は、気付いても良いんじゃない? 他の魔獣の能力を使う魔獣と、ついさっきあったばかりなんだから」

「魔獣を食って、その魔獣の能力を使う魔獣が、他にもいるのか?」

 新狼の声に何処からとも無く声が聞こえてくる。

『外に居た食獣大猿とは違い、融魔鵺ユウマヤは、死んだ魔獣と融合して、その力を使う事が出来る。その為、複数の能力を同時に使用して、さらなるパワーアップも可能なのだよ』

 その言葉に萬智亀が言う。

『テレパシーや魔法による遠方からの会話ではないのー』

 ヤオが頷く。

「あちきのこみみに入っている通信機って、声を遠くに飛ばす機械を利用してるんだよ。しかし、トウヨコ鉄道だって文章を、文字にして送るのが精一杯なのに、声そのものを送る装置を使ってるなんて、かなりリッチマンだね」

 迷彩蛾の能力を使っているのか、姿が見えない融魔鵺が高速で移動しながら、毒針を放ち続ける。

 必死に避ける新狼と紅雷。

 ヤオは、平然と自分の所に飛んでくる毒針だけを、片手で払う。

『ここも、任せるのじゃな?』

 萬智亀の言葉に頷くヤオ。

「「手を抜くな、八百刃!」」

 はもる新狼と紅雷。

 ヤオは笑顔で答える。

「あちきは、別にやっても良いけど、貴方達の出番無くなるよ」

 新狼と紅雷が同時に動き出す。

「「俺一人で十分だ!」」

 最初に相手の場所を察知したのは、やはり不音蝙蝠。

『新狼、お前の右手から迫ってくるぞ!』

 新狼は空狼剣を大きく振る。

 鮮血が飛び散り、血によって融魔鵺の非常識なシルエットが浮かび上がる。

 そこに紅雷が駆け寄りながら、右手を蒼牙に向ける。

『我が雷撃と共に敵を貫く槍と化せ、蒼牙』

 槍に変化した蒼牙で、融魔鵺を貫き叫ぶ。

「滅びやがれ!」

 蒼と紅の雷が、融魔鵺を粉砕する。

「俺の手に掛かれば、こんなものだ!」

 紅雷が勝ち誇ると新狼が言う。

「馬鹿を言うな、全ては俺たちの一撃があったらこそ、だろう!」

 またもや睨み合う二人。

 そしてヤオが立ち上がり言う。

「前座の試合は終わったよ。ファイナルは誰かしら?」

 ヤオの言葉に答える様に、ヤオ達がいる部屋の前の壁が開き、一羽の大きな鳥の魔獣が居た。

『この研究所の最強の魔獣、大母凰ダイボオウと最終作となる紅月氷鳳コウゲツヒョウオウだ』

 その声の主の姿は、奥の部屋にあった。

「なんのつもりでこんな研究をしている!」

 紅雷の言葉に、その姿は答える。

『我等フェニックステールの目的。それは、人を不老不死にする事だ』

 肩を竦める新狼。

「所詮人間、随分下らない理由だな」

 その姿は平然と言う。

『お前達、寿命が無いものには解り辛い事だ。しかし私は決して諦めない。その為に不死の存在魔獣の研究をしている』

 萬智亀が言う。

『あの男、実体では無いぞ』

 驚く、新狼と紅雷に対して、ヤオは平然と言う。

「気付いてなかった?」

 言葉が無い新狼と紅雷をほっておいて、ヤオが言う。

「あちきの名前はヤオ、戦神候補、神名者八百刃だよ。貴方の名前は?」

 その男の魔法と科学の合成技術で作られた映像が答える。

『我が名は、トーレ=ウキョ。不老不死を求める者の組織、フェニックステールの長なり』

 ヤオは一瞬だけ眉を顰め、感情を故意的に殺した口調で言う。

「不老不死に、意味なんて無いよ」

 それに対して、トーレが言う。

『どんなに足掻いても死んでいく気持ちがお前に解るか?』

 少し辛そうにヤオが言う。

「それじゃあ、貴方に子供より長生きするする、不老不死の苦しみが解るの?」

 二人の視線の間には深い悲しみしか、無かった。

『なんと言われても、辞めるつもりは無い。大母凰、そのものたちは、紅月氷鳳を滅ぼそうとするものだ。始末しろ』

 トーレの言葉に答えて、大きな鳥の魔獣、大母凰が、自分が暖めて居た紅月氷鳳の卵を護る為に、その翼を広げる。

『我が子に仇なす者は、決して私が許さない!』

 凄まじい、炎が大母凰から放たれる。

 それぞれの得物で大母凰の炎を弾く新狼と紅雷。

 ヤオは、平然と炎に炙られる。

「貴方の子供に危害は加えないよ」

 その言葉に大母凰が言葉を無くす。

『知って居たのですか、私の炎が我が子供に敵対する意思が無いものには、効果が無い事を』

 頷くヤオ。

「貴方の炎は、子供を護る為だけの炎。自分に敵意がある者にも無効になる場合がある。本当に母性の力で放たれる炎」

 大母凰が言葉を無くしている。

「あちきは戦神候補だよ、相手の力が何なのか位わかるよ。そして意思をコントロールして、攻撃対象から外れることも可能だね」

 数倍の大きさの大母凰が畏怖し後退する。

 ヤオは、右手を白牙に向ける。

『八百刃の神名の元に、我が使徒に力を我が力与えん、白牙』

 ヤオの右掌に『八』の文字が浮かび上がり、白牙が刀に変化する。

「貴女がそれを護るのは、何故?」

 ヤオの質問に大母凰が叫ぶ。

『我が子供だから、命に代えても護る!』

 その言葉にヤオは大きく溜息を吐く。

「トーレさん、こういう茶番は嫌いだよ。なんでこんな嘘をすり込んだの?」

『さすがと戦神候補と言う訳だな。そう、その二匹は元々一つの魔獣。お互いの力を殺しあって居たので、二匹に分けた。力は強力だが、成長が遅い紅月氷鳳を護る為に、自分の卵として産せた』

『どんな理由であろうと、紅月氷鳳が私の子供だって事には変りません!』

 そんな大母凰をヤオは、切り殺す。

『どうか紅月氷鳳だけは……』

 滅び行く大母凰。

 それをきっかけに卵の殻が壊れて、周囲を冷気が覆う。

『なんて力だ。通常の魔獣では考えられない』

 萬智亀の言葉に、必死に耐える新狼と紅雷は答えられないが、ヤオが強い意志をこめた瞳で答える。

「制御を考えなければ可能なんだよ。大母凰の炎が、この冷気を抑制する事で、コントロール出来る筈だった。それが、こんな状態になるって事は、後は滅びるだけ。子供のそんな悲しい姿見せたくなかった」

 悲しそうな顔を一瞬するヤオだったが、白牙を構えて、殻から出てくる紅月氷鳳と相対する。

 周囲はもう氷結が始まっている。

 しかしヤオは平然としている。

『我は、力尽きるまで全てを凍らせる者なり!』

「たかが、魔獣の力で……」

「蒼牙、力を貸せ!」

 空駆馬が寄り添い、体温を維持する新狼と、蒼牙と自分の放つ雷の熱で、何とか堪える紅雷。

『全てを凍らせる』

 ヤオの白牙を振り下ろす。

 その一撃が、空間を切り裂き、冷気の行き場所を奪う。

 それは一瞬だったが、それで十分だった。

 暴走し、行き場所を失った冷気が紅月氷鳳に襲い掛かる。

『全てを凍らせ……』

 それが紅月氷鳳の最後の言葉だった。

 強烈過ぎる冷気が天井を崩壊させて、天に昇る月を赤く光らせていた。



 ボルサから遠く離れた、街の一室で、トーノが言う。

「制御を失った魔獣のデータがとれた。これで又一つ研究が進んだ。きっとこの手に、不老不死の技術を手に入れてみせる」

 強い決意を込めて、拳を握り締めて居た。



「フェニックステールについては、俺達の方で調べる事になると思う」

 新狼の言葉にヤオが言う。

「そうしてくれると助かるよ」

 去っていく新狼に手を振るヤオに、紅雷が言う。

「今回は、狼打からの依頼だから受けてやったが、次は勝負だ!」

 蒼牙と共に去っていく紅雷。

 そしてヤオは、大きく溜息を吐く。

「ねえ、あれの弁償ってあちきがしないといけないのかな?」

 ヤオの言葉に白牙が頷く。

『八百刃獣の罪は、主であるお前の罪だな』

「やっぱりそーか」

 遠くを見るヤオの後ろでは、狂料狒々が料理勝負で物凄いトラブルを起こしていた。



 ヤオはかなりの額の弁償金を払わされる事になり、狂料狒々は、ヤオの世界の中でも水牢粘に閉じ込められる事になるのであった。

○新八百刃獣



・狂料狒々(キョウリョウヒヒ)

料理をする事を至上の喜びとし、全ての生き物を食材と勘違いしている。

全ての食材を切り裂く爪を持つ。

元ネタ:セリオンさんと忍神さん(大感謝)



○その他魔獣



爆音牛バクオンギュウ

動きが遅いが音に反応して大きくなる。

だが、単純な戦闘力は低い。

元ネタ:忍神さん(大感謝)



激音蝙蝠ゲキオンコウモリ

激しい音を武器に、相手を打ち砕く。

不音蝙蝠とは同じ神を元にしている、兄弟みたいな関係って裏設定あり。

元ネタ:セリオンさん(大感謝)



針射蜂シンシャホウ

毒のまとった針を撃ち出す、お尻の所にゲージがあり、そのゲージの数だけ針を撃てる。

弾の回復には時間が必要。

元ネタ:hiroshiさん(大感謝)



迷彩蛾メイサイガ

羽から散らばる鱗粉で、全てのものを迷彩にしてしまう。

元ネタ:忍神さん(大感謝)



融魔鵺ユウマヤ

魔獣の死骸と融合して、その能力を使う事が出来る。

複数の能力を同時に使用し、更にパワーアップさせられる。

元ネタ:忍神さん(大感謝)



大母凰ダイボオウ

母性愛の塊の魔獣。

強大な炎で卵を護る。その力は並みの魔獣の数十倍である。

元ネタ:セリオンさん(大感謝)



紅月氷鳳コウゲツヒョウオウ

絶対的な冷気を持って敵を粉砕する。

元々は大母凰と一つの魔獣として開発されて居た。

元ネタ:hiroshiさん(大感謝)

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