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戦神神話  作者: 鈴神楽
世界の車窓から
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回復能力を持つ魔獣を求めて

神の怪我は直ぐ治るか、凄く時間が掛かるかの二つに一つ。新狼レベルでは後者が多い

「今回はバイダー線の山に囲まれた工業の街、マルマッセに向かう車窓から」

 何時もの様に『世界の車窓から』の原稿を書くヤオに、白牙が話しかける。

『しかし意外だな。あの狼打があんな事を依頼してくるなんて』

 何故かヤオの隣の席に居る萬智亀が言う。

『狼打様にも、息子に対する愛情があると言う事じゃな』

 ヤオも頷く。

「とにかく、狼打に頼まれた様に、マルマッセの近くにある、魔獣が集まっている山に向うよ」

『釈然としないが、解った』

 白牙が頷くと、萬智亀が言う。

『本当に助かる。新狼様の怪我の治療の為に、八百刃様が態々動いて下さるとは、思わんかった』

「狼打が報酬を約束してくれたしね」

 その時、隣の車両が騒がしくなる。

『あいつ等は、学習と言う言葉を知らないな』

 白牙の言葉に答える様に、虎の姿の蒼牙を連れてやってくるのは、紅雷である。

「今回は主神、新名様の代理、狼打様からの依頼だ! 先に問題の魔獣を捕まえた方だけに、報酬を払うと言う話だ。先に手に入れ、お前に俺の本当の実力を解らしてやるぞ!」

『今度こそ、私が最強の魔獣だと言う事を証明する』

 珍しくヤオも付き合う。

「報酬無しはきついから、今回は、頑張るよ」

 普通に答えるヤオに、紅雷が指を突きつける。

「お前は勝てない。何故ならば、お前は探す魔獣が何なのかわかって居ない。しかし俺には鬼眼蜂が居る。このリードは決して覆せない!」

 高らかに勝利宣言して、去っていく紅雷。

『大丈夫ですかな?』

 萬智亀の言葉に、ヤオが落ち着いた様子で言う。

「多分ね」



 マルマッセの駅を降りて、紅雷は鬼眼蜂に導かれるままに進んでいく。

「幾ら戦闘力が高い八百刃でも、魔獣を探すのは専門外だろう。先に問題の魔獣を見つけて、俺の方が優れている事を証明してやる!」

『当然。何時までも、格下扱いされてたまらない!』

 やる気まんまんの蒼牙。

 鬼眼蜂が警告音を出す。

 紅雷が周囲を警戒すると、突如竜巻が発生して、紅雷に襲い掛かる。

 紅雷と蒼牙は咄嗟に横に跳び、難を逃れる。

『ここから先は、兄貴の陣地だ! 勝手に入ってくるんだったら俺が相手だ! ヒック』

 真っ赤な顔をした猿の魔獣が、そう言って大見得をきるが、その足つきは不安定で、千鳥足になっている。

 鬼眼蜂が猿の後方を示し、大きな羽音を鳴らせる。

「その猿が護ってる先に、問題の魔獣が居るんだな! さっさと倒して行くぞ!」

 紅雷は蒼牙に掌を向けて呪文を唱える。

『我が雷撃と共に敵を貫く槍と化せ、蒼牙』

 槍に変化した蒼牙を振るい、凄まじい雷撃を放つ。

 すると、猿は自分の後ろにあったデカイ貝の後ろに隠れる。

「そんな貝で防げる雷撃では無い!」

 紅雷の言葉に反して、その貝はものの見事に雷撃を弾いてしまう。

「馬鹿な……」

 驚く紅雷に、鬼眼蜂が羽根を鳴らして、貝も又、魔獣である事を伝える。

「防御力に特化した魔獣か。しかし、いつまでも俺達の攻撃を防げるとは思うなよ!」

 そう言って自分の赤い稲妻と、蒼牙の青い稲妻の増幅を開始する。

『逃げてばかりだと思うなよ!』

 猿の魔獣は、貝の口を開かせると、その中にある液体を物凄いスピードで飲み始める。

『来た、来た、来た!』

 酔っ払い特有の、規則性の無いステップをし始めたと思うと、そのまま物凄い回転を始めた。

 それは、竜巻を生み出して、紅雷を襲う。

「馬鹿な!」

 必死に蒼牙を地面に突き刺して、堪える紅雷。

『ただの竜巻と思うな!』

 猿の言葉に答えるように竜巻は、無数のカマイタチを生み出して、動けない紅雷を切り裂く。

 槍型の蒼牙から、紅雷の手が離れる。

「しまった!」

 紅雷は竜巻に巻き込まれて、その突風の中でも発生するカマイタチを食らい、そのまま崖から落ちていく。

『紅雷!』

 虎の姿に戻った蒼牙が叫ぶ。

『戦況を読む能力は、まだまだだな』

 白牙のテレパシーに、蒼牙が驚き、振り返ると、そこにはヤオ達が居た。

「面白い組み合わせだね。酒を飲んでパワーアップする猿の魔獣と、防御力が高く、酒を生み出す能力を持つ貝の魔獣なんて」

 ヤオが呑気に言う。

『今は、お前等に構っている暇は、無い!』

 蒼牙が慌てて、紅雷が落ちた崖に向おうとした時、子猫の姿のままの白牙が立塞がる。

『邪魔をする気か!』

 それに対して白牙が言う。

『無駄な事をするな』

 次の瞬間、ヤオの影から、影の鬼、影走鬼が、紅雷を抱きかかえて現れる。

 驚く蒼牙。

 ヤオの肩に乗っている萬智亀が言う。

『八百刃様も姑息ですな。相手に魔獣の探索をさせて、その相手をあの影走鬼に追わせる。自分はゆっくり追いかけて、相手を出し抜こうとする』

「紅雷が、魔獣を見つける能力を持つ魔獣を持ってるのを知ってたからね。無駄に動き回るより、効率が良いでしょ?」

 あっさり言うヤオ。

『卑怯者め!』

 蒼牙のクレームを無視して、猿に近づくヤオ。

『お前も三頭狛ミトウハクの兄貴の力を悪用しようと思ってるな! 思い知らせてやる!』

 猿の魔獣は再び貝から酒を飲む。

 そして再び回転を開始しようとした時、ヤオが言う。

「言っとくけど、あちきはそこに倒れている雑魚とは違って強いよ。さっき程度の竜巻じゃ、へでもないよ」

 ヤオの余裕たっぷりな態度に、猿の魔獣が言う。

『ならば更に強く』

 再び酒を飲み始める猿の魔獣。

『攻撃するなら、今のうちじゃぞ』

 萬智亀の言葉にヤオが言う。

「そんな、それじゃあ、あちきが攻撃の隙を作るために、相手を挑発してるみたいじゃないですか。違いますよ」

 猿の魔獣も頷く。

『当然だ! そんな隙は、この貝の魔獣、酒造貝シュゾウカイがカバーするわ』

 そう言いながら、酒を飲み終わり、再び回転を始めようとした時、ヤオは、両手を大地に向ける。

『八百刃の神名の元に、我が使徒を召喚せん、大地蛇』

 ヤオの右掌に『八』、左掌に『百』が浮かび、地面が鳴動して、大地を蠢く大蛇、大地蛇が召喚される。

『八百刃様、如何しますか?』

 ヤオはあっさりという。

「地面揺らして」

 大地蛇が地面を揺らすと猿の魔獣がおもいっきりこける。

『何のこれしき!』

 必死に立ち上がろうとするが、猿の魔獣は立ち上がれない。

 そんな情けない様子を呆然と見ている萬智亀と蒼牙。

「あの猿の魔獣は、故意的に酔うことで、平衡感覚を狂わして高速回転に対して耐性をつけてるの。だから一度こけてしまったらまともに立てなくなる」

『そんな馬鹿な事があると言うのか?』

 蒼牙の言葉に、ヤオは倒れている紅雷にも聞こえるように言う。

「力は有限なの。だからその有限な力を有効に使う為に、色々細工をする。あちきは、そんな細工の弱点を突くのが、得意なんだよ」

 萬智亀を降ろし、ゆっくりと歩み寄るヤオ。

「下らない力だ」

 紅雷は搾り出す様に言うと、萬智亀が突っ込む。

『その下らない力に、多くの者が敗れたのじゃ。代行者よ、八百刃様が特別な事を認識するべきじゃな』

 紅雷は歯軋りをする。

『そう八百刃様は特別なのじゃ』

 萬智亀が意味ありげな言葉を紡いだ。

 ヤオが、立てない猿の魔獣の近寄った時、無数の針が飛んでくる。

『危ない!』

 萬智亀の言葉に、ヤオは慌てず騒がず、傍に居た白牙に右手を向ける。

『八百刃の神名の元に、我が使徒に力を我が力与えん、白牙』

 ヤオの右掌に『八』が浮かび、白牙が刀に変化する。

 ヤオは、白牙で、完全な不意打ちであった針を全て叩き落す。

 後方にとんだ針のいくつかは、凶悪的な冷気を放ち、刺さった木々を完全に破壊した。

「不意打ちするんだったら、後方からにしなよ。前方からだったら、幾らでも対応できるよ」

 ヤオの余裕満々な表情に、隠れていた、針鼠の魔獣が遁走する。

『こらまて! 凍火針鼠トウカハリネズミ逃げるな!』

 猿の魔獣が騒ぐが、あっという間に姿が見えなくなって居た。

 そしてヤオは、猿の魔獣の傍に行き言う。

「貴方の兄貴って言う魔獣に会わせて下さい。お願いします」

 そう頭を下げるヤオに、猿の魔獣はすっかり毒気を抜かれてしまう。



酒風転猿シュフウテンエンが無礼を働いた様で、すいませんでした』

 三つの頭を持った狛犬の魔獣、三頭狛ミトウハクが、三つ、全ての頭を下げる。

「いいえ、気にしてません。それよりお願いした件ですが、良いですか?」

 ヤオの言葉に、三頭狛は、三つの頭間で相談した後、言ってくる。

『条件が一つあります』

 紅雷が怒鳴る。

「条件をつけられる立場だと、思ってるのか!」

 ヤオは、裏拳で紅雷を黙らせてから言う。

「お金関係でしたら、直接狼打に相談して下さい」

 三頭狛は首を横に振る。

『貴方の使徒にして下さい。私達の能力は、攻撃、防御、回復と明確に分かれていますが、基本的に戦闘向きなのです。その為、多くの神名者が私を手に入れようと、ここに来ました。しかし、どの神名者も、私を本当の性を気付いてくれませんでした』

 ヤオが苦笑する。

「難しいですね。貴方の性は、あちきの勘違いでなければ、他者を助ける事。自らが、人の助けたる神名者には考えも出来ない事です」

 その一言に、三頭狛が頷く。

『想像した通りのお方です。貴方でしたら、私は仕えても良いと思います』

「了解しました。でも、新狼の回復だけはお願いしますよ」

 ヤオの言葉に、三頭狛の首の一つがわかれる。

『回復役の私が、行きましょう。私が融合すれば、その新狼と言う存在も、回復します』

『これは助かります』

 萬智亀が安堵の息を吐く。

『兄貴がこの御方に仕えるんだったら、俺も仕えるぞ!』

 酒風転猿も手を上げる。

 こうしてここに新たな八百刃獣が誕生した。



「それで、このでかい貝は何なんだ?」

 神の世界で、萬智亀と回復能力を持つ三頭狛の頭を回収してきた空駆馬の背中に、くくり付けられた酒造貝を見て、狼打が聞く。

『この貝が作る酒は回復能力を助ける働きがあります。狼打様への出産祝いだそうです。必ず狼打様が最初に御飲み下さいと、八百刃様から伝言を承っています』

 萬智亀の言葉に、狼打は、少し考えてから、闘甲虫の力を宿した盾を構えて、貝を開ける。

 針が飛び出て、闘甲虫の力を宿した盾に当たり、大きな氷の塊を作る。

 酒造貝の中に隠れていた凍火針鼠は、ビクビクしながら言う。

『八百刃様から伝言があります。あまり余計な事を詮索するな、だそうです』

 その言葉に狼打が頭をかく。

「気付かれていたって事だな」

 萬智亀が頷く。

『今回の一件が、私が八百刃様と触れ合い、情報を盗み出すための仕掛けだと言う事は、最初から気づいて居たのでしょ。表層部は読み取れましたが、深層部に関してはまるで駄目でした』

「流石は八百刃様、一筋縄では行かないな」

 溜息を吐く狼打だったが、にやりと笑う。

「それでも雇い主にトラップ仕込むのはルール違反だな」



『これが、報酬です』

 萬智亀が、狼打から預かった金貨五枚をヤオに渡す。

「半額ってどう言う事!」

 ヤオが騒ぐと、萬智亀が言う。

『出産祝いの趣向の所為とだけ言っておきましょう』

 その言葉に、白牙が言う。

『何かしたのか?』

 ヤオは舌を出して言う。

「ちょっとお茶目な悪戯しただけだよ」

 笑って誤魔化すヤオに、釈然としない物を感じる白牙だが、それ以上突っ込まなかった。

『そう言う事ですので』

 さっさと帰っていく萬智亀の背中に向けてヤオは力いっぱい怒鳴る。

「狼打のケチんぼう!」

○新八百刃獣



三頭狛ミトウハク

三つの頭を持ち、それぞれ回復・防御・攻撃に分かれた能力を持ち、分離する事も出来る。

それぞれが、他者と合体して、相手を回復したり、防具になったり出来る。

元ネタ:忍神さんとエアスト・ノインさんと梟さんのミックス(大感謝)



酒風転猿シュフウテンエン

酒に酔う事で、周囲の風を操って、物凄い竜巻とカマイタチを生み出せる猿。

元ネタ:忍神さんとhiroshiさんのミックス(大感謝)



○その他魔獣



凍火針鼠トウカハリネズミ

背中から飛ばす針で、敵を凍らせる。

臆病な正確の針ねずみ

元ネタ:忍神さん (大感謝)



酒造貝シュゾウカイ

その内部に酒を生み出す貝で、危険が及ぶと直ぐに、貝を閉じて防御体制に入る。

因みに作られた酒には痛みを消して、多少時間が掛かるが、ダメージを回復させる能力がある。

元ネタ:エアスト・ノインさんと忍神さんのミックス(大感謝)

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