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戦神神話  作者: 鈴神楽
神々の世代交代
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ダンジョンに潜む者

ダンジョンの眠るマジックアイテムそれを管理する者は?

 ローランス大陸の小国バードス王国の首都バードラン



 ローダは馴染みの酒場に入り、嬉しそうに席に座るなり、周りを宣言する。

「今日は俺の奢りだ、好きなだけ飲み食いしろ」

 その場に居た全員が歓声を上げた。

 ローダは信望する、八百刃様に会えた嬉しさで少し舞い上がっていた。

 次々と注文が行われる。

 ローダの所にも一人のウェイトレスがいつもの酒とおつまみを持って来た。

「お待たせしました」

 その姿を見た時、ローダは噴出した。

 そして服全体にローダが噴出したお酒がかかり困った顔をするウェイトレスをするヤオ。

「おらヤオ、とっとと拭いて次のお客の所だ!」

「はい、マスター」

 おつまみを置いて次の客のところに行こうとしたヤオの腕が捕まれる。

「あのー今は仕事中なので、個人的な話は後にして欲しいんですが」

 額に血管を浮かび上がらせてローダが怒鳴る。

「なんで貴女がこんな所でウェイトレスやってるんですか!」

 首を傾げるヤオ。

「ローダさんも言ったでしょ、旅費を稼ぐ為に真面目に働いているんです」

 ローダの頭の中で、ヤオと八百刃がイコールに結ばれた。

 席に座り、落ち込むローダを尻目にヤオは次のお客様の所に向う。

「すいません。お待たせしまし……」

 何故か客の前でこけて料理をばら撒く。



「ローダ、何荒れてるんだ?」

 昔一緒に冒険もした事もある同業者の言葉を聞き流しながら、ローダは酒を一気飲みする。

「八百刃様の信望者で、真面目だったお前がこんな荒れるまで飲むなんて、初めて見たぞ」

 ローダは机を叩き睨みつける。

「今は、八百刃の名前を出すな」

 殺気すら篭ったその視線に同業者の男も一歩引く。

 怒りの為か十分酔えない状態で酒場を出たローダは、歩きながらも次の冒険の事を考え始める。

「未知のダンジョン攻略だ、シーフの仲間が要るな」

 そんな時、道の端で寒そうにしているヤオが居た。

 一瞬無視しようかと思ったが、その痛々しげな姿にほって置けなくなって近づき声をかける。

「どうしたんですか?」

 一応敬語で質問され、涙目になるヤオ。

 ヤオの代わりに側に居た白牙がテレパシーで答える。

『この馬鹿、お尻触られた拍子に、手に持っていた料理をその客の顔面にぶつけやがった。それもその客がこの商店街のお偉いさんだった所為で、折角の住み込みの仕事をクビになって追い出されたあげく、最後のお金を下水に落として、宿にも泊まれないんだよ』

 ローダはそのテレパシーに一瞬驚くが、炎翼鳥がしていたのと、刀から猫の姿に戻る姿を見ていたので、理解する。

「それで、ここで座ってる訳か。さすがに酒場街だぞ、治安はそんなに悪くないですが、小さな外見な貴女が居たら、邪まな事を考える奴が出てきますよ」

 ヤオは少し考えてからローダの顔を向けて問いかける。

「そいつ等倒して迷惑料もらっても良いよね?」

「やめろ! 正しき戦を守り手、八百刃が、何が悲しくて町のチンピラ倒して、金をとるなんてまねするんだ!」

 ヤオはローダの肩に手を置き言う。

「綺麗な真水だけでは、人は生きていけないんだよ」

「神名者だろうが!」

 力の限り突っ込むローダに反論するヤオ。

「神名者だって一応人の分類に入るんだい」

『まー不老不死の存在を、人と言い切れるのはお前くらいだろうがな』

 冷めた突っ込みを入れる白牙。

「とにかく、俺の宿に来い」

 それに対してヤオは首を横に振る。

「駄目だよ、八百刃だって知ってる人に、施し貰うわけには行かないから」

 その言葉にローダが大きく溜め息を吐き、ふっきる。

「明日からダンジョンに入るから、一緒に来てくれ。パートナーとして儲けも分ける。そこから返してくれれば良い」

 嬉しそうな顔になるヤオ。



「にしてもシーフの真似事まで出来るとは意外だな」

 バードランのそばで発見されたダンジョンのドアのトラップをあっさり外すヤオに感心するローダ。

「伊達に百十四年も生きてません。大抵な事だったら出来るよ」

 胸を張るヤオだったが、胸を張った時に動かした手で、壁の変なスイッチを押してしまうと、上から水が流れてくる。

「さっきお前が言っていたトラップだよな?」

 ローダが額に血管を浮かび上がらせて言うとヤオも冷や汗をかきながら答える。

「そーだね。気付いていても押してしまうなんて、絶妙な位置に配置されてるねー」

『ヤオがドジなだけだろ』

 白牙はヤオの頭の上に避難しながら突っ込む。

「とにかくどうにかしろ!」

 渾身の力で叫ぶローダであった。



「無事にお宝の間に着きました」

 ヤオの言葉にローダは何も答えない。

 白牙は、そんなローダの肩を叩き言う。

『あんだけトラップに引っかかって、無事だって事だけを良かったと思った方が、精神衛生上いいぞ』

 ローダは後を見て、トラップの痕とダンジョンのガーディアンの死骸を見て言う。

「確かに一人だったら、こんだけのトラップやガーディアン相手に無傷じゃすまないな」

 何故かトラップの大半を事前に気付き、致死性のあるトラップは確実に無効化していくのに、ちょっとしたトラップに引っかかりまくり、ガーディアンを呼び出してしまうヤオに故意を感じ、自分を鍛える為にわざとやってるのではと考えると、白牙が首を横に振る。

『考えてる事は解かるが、本気で天然だ。幅一センチの板は渡れても、幅一メートルの板から落ちる存在なんだよ』

 果てしなく理不尽な存在に疑問を抱きながらも、ローダはお宝の間を見回す。

 そこには幾つものマジックアイテムがあった。

「マジックアイテムは高値で売れるから、沢山儲けられるぞ」

 ヤオはじっくりそれを見つめてから言う。

「まー売る時に蒼貫槍の力が篭っているって言う必要在るけどね」

 その一言にローダが眉を顰める。

「本当か?」

 ヤオは頷き答える。

「蒼貫槍って邪神になって五十年も経ってないの。だから自分の力を誇示する為に、自分の力を込めたマジックアイテムをダンジョン等に隠して、それを手に入れられる力ある者に使って貰い、更なる争いと崇拝を生み出そうとするの」

「おもいっきり危険なマジックアイテムじゃないか!」

 ローダが大声を出すが、ヤオは困った顔をする。

「良くある話しだよ。あちきとしては余計な干渉するのは不味いんだよね」

『まーここでこのアイテムを処分なんてことしたら蒼貫槍と全面戦争だな』

 白牙が淡々と同意する。

「戦わないのか?」

 ローダは先の戦いで使われた魔法砲の事を思い出し、怒りがこもった顔になるが、ヤオは気にせず答える。

「前にも言ったよ、人は綺麗な水だけでは生きていけない。力を欲するのも人間。あちきはそれが過剰になった時に止めるのが仕事。正しい意思同士で戦う戦争に余計な干渉をしないよ。これは処分するって事は、必要以上に人の戦いに干渉する事だよ」

 ローダはその横顔に、八百刃の一面を見た。

「だから、これをどうするかはローダさんが判断して、元々あちきは助人なんだからその権利はないよ」

 ローダは少し考えた後言う。

「蒼貫槍の力が篭っていない物教えてくれ。それだけ持って帰る」

 ヤオがその言葉に頷き、分類しようとした時、その声が掛る。

『それじゃこまるのよ!』

 白牙が溜め息を吐き呟く。

『想像は出来たがな』

 ローダとヤオが振り返った先には蝙蝠女が居た。

『私は蒼貫槍様の使徒、闇翼蝙蝠アンヨクコウモリ。ここに来た以上、そのマジックアイテムは持って帰って貰わないと、私が蒼貫槍様に叱られる』

 白牙が頷く。

『そーいえば細かい事をねちねち気にする性格だったな』

「白牙、本当の事だからって使徒の前でそういう事を言うのはいけないよ」

 たしなめるつもりなのだろうが、火に油を注ぐ結果になったヤオの一言に切れる闇翼蝙蝠。

 ヤオはローダの方を向いて聞く。

「あちきとしては不必要に蒼貫槍の使徒と争いたくないから逃げることを勧めるけど、どうする?」

 ローダはきっぱりと首を横に振る。

「俺は、蒼貫槍がこないだの様な事に力を貸している以上気に入らないからやるぞ」

 剣を構えるローダにヤオは両手を向ける。

『八百刃の神名の元に、我が使徒を召喚せん、闘甲虫トウコウチュウ

 一匹の巨大な甲虫が現れてローダの体を覆い、手に持った剣も淡い光がともる。

「相手の攻撃を直撃でも食らわないかぎり、防御出来て、攻撃も直撃させられればダメージ与えられるよ。パートナーとしての助力だよ」

 闇翼蝙蝠が驚く。

『まさか神名者、八百刃だなんて!』

「何処を見てる!」

 そう言ってローダが剣を振るうが、あっさり避けられる。

「あちきは、信望者に助力はしたけど、それ以上はしないよ」

 その言葉に闇翼蝙蝠が微笑む。

『そうでしょう。所詮半神、邪神様には逆らえないでしょう。蒼貫槍様が毛嫌いする八百刃の信望者を目の前で殺せば、蒼貫槍様に褒めていただける!』

 そういって、超音波攻撃をするが、ローダの鎧と化した闘甲虫が防ぐ。

 ローダは一気に詰め寄ると、闇翼蝙蝠がさっきと同じ様に避けようとするが、壁と天井に当たる。

「ここがダンジョンだって事を忘れるな!」

 一太刀で真っ二つにする。

 地面で蠢く闇翼蝙蝠に対してヤオが脅しを入れる。

「今回は、貴女にここのマジックアイテムに関する責任があったから手を出さなかったけど、ローダに復讐しようとするんだったら、あちきが相手になるよ」

 そしてローダとヤオは、蒼貫槍に関係ないお宝を持って町に戻っていった。



「まーまーな稼ぎだな」

 金貨五十枚になった儲けを机の上に並べるローダにヤオも嬉そうにうんうんと頷く。

「まー最初に情報料として俺が金貨十枚な」

 ヤオは少し寂しそうな顔をするが頷く。

「山分けとしてまず二十枚ずつ」

 山を半分にするローダに手を伸ばすヤオ。

「まーここの宿代と首都までの旅費として五枚返してもらうぞ」

 そう言ってヤオの山から五枚の金貨をとる。

 物凄く悲しそうな顔をするヤオだが、自分から言った事なので頷く。

「あと、冒険中に貸し出したランタン等のアイテム壊しただろうその弁償として六枚貰うぞ」

 それには、流石にヤオが抗議する。

「それは、必要経費だから二人で折半した方がいいと思います!」

「お前の分だけの金額だ、文句は無いだろ」

 ローダの正論に引くしかないヤオが、残り九枚になった金貨を受け取る。

「安心しろ、最初のグラタンセットは俺の奢りだから請求しないぞ」

 いじいじと解かりきった金貨の枚数を数えるヤオにローダは微笑み続ける。

「もしかして、八百刃様を信望する者として請求は遠慮した方が良かったですか? それでしたら今回の儲け全て渡しますよ?」

『完全に性格読まれてるな』

 白牙が溜め息と共に呟いた。



 ヤオは金貨八枚(非常食を買ったため一枚減った)持ってバードランを旅立った。

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