表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦神神話  作者: 鈴神楽
世界の車窓から
49/68

海の女神再び

ホープワールド最大の大きさの魔獣。そしてあの女神が再び

「今回はシーサイド線の大海に面した、モルサルトに向かう車窓から」

 死力を込めて、原稿を書くヤオ。

『無駄な足掻きは、止めたらどうだ?』

 白牙の言葉に、ヤオが怒鳴る。

「うるさい! 少しでも稼いで罰金に充てないと、テルメーさんに貰った、フリーパスが失効しちゃうよ!」

 白牙は器用に、猫の手で罰金の紙を手に取って言う。

『金貨五十枚なんて大金、原稿料でどうにかなる額じゃないだろう』

 涙するヤオ。

「体を売って、稼ぐしかないのかな?」

 白牙が溜息を吐いて言う。

『誰がお前みたいなガキに、金貨五十枚も払うというのだ?』

「あたしが払う!」

 ヤオに金髪の美女が抱きつく。

 ヤオが振り返ると、そこには、ヤオが昔一緒に旅をしたことがある、現役、海の女神の金海波が居た。

「キンカ、今あちき、貴女の冗談に付き合う気は無いよ」

 ヤオの冷たい台詞を吐く。

「こんなに恋してるのに、悲しい」

 泣いたふりをする金海波に、白牙が言う。

『海の女神様が、態々受肉して現れたのが、ヤオの体を買う為だなんて、言わないですね?』

「違うけど、こんなチャンス、なかなか無いじゃない。利用しないては、ないと思うの」

 金海波の言葉に、ヤオが言う。

「本業の話でしょ。手伝うからお金頂戴」

 はっきり言うヤオに、金海波が言う。

「奉仕の精神ないの?」

 ヤオは即座に首を縦に振る。

「あちきは基本的に、お金持ち相手にタダ働きはしない主義なの」

「変ってないわね。問題はあれよ」

 金海波が海を指差す。

「島しか見えないよ?」

 問題の地点を見るヤオに、金海波が答える。

「あれ、深海鮟鱇シンカイアンコウだよ」

 ヤオが固まる。

『深海鮟鱇?』

 白牙が疑問符を浮かべると、金海波が説明を開始する。

「先々代の海の神が、神の大戦で先代の海の神に破れ、その残った力から生まれた魔獣で、この世界、最大の大きさを誇る魔獣。普段は深海でじっとしてるだけなんだけど、何故か、海面近くに浮上しているの」

 嫌そうな顔をしてヤオが続ける。

「何故かの一言で、済まされる問題じゃないよ。深海鮟鱇が少し動くだけでも、この大陸の海岸線の街が壊滅するよ」

 金海波はあっさり頷く。

「下手すると、周囲の大陸も、致命的なダメージを負うね。大きく動いたら、大惨事は確実だね」

「それで、原因と対策は?」

 ヤオの言葉に金海波が言う。

「原因は今の所不明。今、金鱗人に調べさせてる。対処方法は、白海鯨を使って、強制的に深海にお帰りいただくつもり」

 思案顔でヤオが言う。

「そうすると問題は、やるタイミングだけど、調査終わってからが、ベストだけど?」

 金海波が、深海鮟鱇の周りの海を指差す。

「新しく出来た島と勘違いして、新領土だと馬鹿な事言ってる奴らが居るから、出来るだけ早い方が良いね」

 ヤオは溜息を吐く。

「あちきも、キンカも、白海鯨の制御で精一杯になるから、イレギュラーに対抗する手段が無いと、厳しいね」

 その時、隣の車両から悲鳴があがる。

 そして、蒼牙を連れた紅雷が現れる。

「八百刃、勝負だ!」

 手を叩くヤオ。

「丁度良い奴が居た」



「何で俺が、お前等に協力しないといけないんだ?」

 モルサルトの街に着いて、事情を聞いてから、紅雷が文句を言い始める。

「理由は簡単だよ、魔獣を制御するのが神様の関係者のお仕事で、貴方も神の関係者だから」

 ヤオの説明に紅雷が言う。

「そんな問題だったら倒せば良いだろう? それとも、あんな大きな相手は倒せないのか?」

 ヤオが大きな溜息吐き、金海波が大爆笑する。

「あんた良いよ! さすがは紅炎甲の代行者だ!」

 不機嫌そうな顔をする紅雷に、呆れた表情で白牙が言う。

『少し考えろ、あれだけの質量が海で高速で動けば、大津波が発生して、到底防ぎきれず、この海に面する陸地に、大きな被害を及ぼすぞ』

 紅雷は、何も言えなくなる。

「あちきと金海波は、白海鯨の制御で、余力が全く無くなるの。イレギュラーの対処、多分、深海鮟鱇が海面に出てきた原因の方をお願いね」

「やれば良いのだろう!」

 苛立ちながら答える紅雷を見て、口を押さえて笑っている金海波が居た。



『いやー、天下の八百刃様を乗せられるなんて、嬉しいです』

 そう言うのは、海面を高速で移動する、イルカ、船翼海豚センヨクイルカであった。

「こいつは、あたしが前に受肉した時に残した、肉体の一部を元に生まれた魔獣なんだ」

 金海波の説明に頷く船翼海豚。

『この穢れの知らない少女のフトモモに挟まれる快感は、何物にも勝ります』

 ヤオは無言で、船翼海豚の上に立つ。

「間違いなく、金海波の影響を受けてるね」

『立ったら、安定悪いですよ!』

 船翼海豚の言葉に、ヤオは首を横に振る。

「バランス感覚には、自信はあるから安心して」

『そんな、酷い!』

『ここまで、元の神の影響を受けてるとは』

 白牙も呆れた口調で言う。

「それより、そろそろ始めるんだろう?」

 最初から、船翼海豚の背中に立っていた紅雷の言葉に、ヤオが頷く。

 金海波が海面に立ち、ヤオはそこから少し離れた所まで、船翼海豚を移動させる。

 そしてヤオと金海波が唱える。

『金海波と八百刃の神名の元に、我等が使徒を具現せん、白海鯨』

 海が白く輝き、白い巨大な鯨、白海鯨が具現化する。

 大きさこそ、深海鮟鱇に負けるが、海の女神と戦神候補の力で具現した白海鯨は、圧倒的な力で、周囲の海水を制御して、深海鮟鱇を海底に導いていく。



 ヤオと金海波が、白海鯨に力を注いでいる間、紅雷は、深海鮟鱇に先行して海底に向っていた。

『何で俺が、こんな雑用をしないといけないんだ!』

 心の声で文句を言う紅雷に、槍の姿に変化している蒼牙が言う。

『これが現状のお互いの力関係。いつか覆して見せる』

『当然だ!』

 そんな二人に、高速で近づく存在があった。

 紅雷が蒼牙を構えるが、直ぐ相手も止まり言う。

『我は金鱗人。金海波様の使徒の一人』

 紅雷が蒼牙の構えを解いて言う。

『お前がか。それで、トラブルの原因は解ったのか?』

 金鱗人は、少し不機嫌そうな顔をしていたが答える。

『海底に、海蛇の魔獣が存在した。勝ち目が低い為、応援を求めに来た』

 笑みを浮かべる紅雷。

『俺向きの展開に、なってきたぞ!』

『殲滅して、私たちの力をしめそう!』

 蒼牙も乗り気になる。

『早まるな、強敵だ! ここは、八百刃様の判断を仰ぐべきだ』

 鼻で笑い、紅雷が言う。

『お前では無理でも、俺達だったら大丈夫だ!』

 そして高速で潜水していく。



『あれだな!』

 紅雷の見る先には、大きな黒い炎に包まれた海蛇の魔獣、黒焦海蛇コクショウウミヘビが居た。

『食らえ!』

 赤い雷撃が、黒焦海蛇を直撃するが、それだけだった。

『馬鹿な、俺の雷撃が通用しないのか?』

 その答えは周囲の生物が痺れて、沈んでいくことで判明した。

『雷撃が、海水で拡散したと言うのか?』

『そういうことだ、おぬしの力で、完全な拡散は防がれているが、威力は激減しているな』

 金鱗人が解説するが、紅雷が反発する。

『ならば、拡散しても有効な一撃を、放てば良いのだ!』

 そういって、蒼牙を振り上げる。

 蒼牙を紅雷の赤い稲妻と蒼牙自身の青い稲妻が覆う。

『食らえ!』

 紅雷の必殺の一撃が放たれる。

 同時に黒焦海蛇が炎を噴出す。

 その炎は、紅雷の雷撃を粉砕して、紅雷達に大ダメージを負わせる。

『愚かな者』

 そう言って、弾き飛ばされた紅雷を、受け止めた金鱗人。

『くそう!』

 悔しげな表情をする紅雷に、金鱗人が言う。

『あいつは深海の闇を、炎の力に変える能力を持つ。深海に居る限り、奴は強敵だぞ』

 その言葉に歯軋りをする紅雷。

『それでは、俺では勝てないと言うのか!』

 素直に頷く金鱗人に紅雷が忌々しげに言う。

『八百刃の様な力が無いと勝てないって、言いたいんだな!』

 金鱗人が首を横に振る。

『例え八百刃様がお前程度の力でも、あいつに勝てる。八百刃様は、そういう御方だ』

 舌打ちをして周囲に雷撃を漏らす紅雷。

 その時、黒焦海蛇が、紅雷達から少し遠ざかる。

 怪訝に思い周囲を見ると、自分の体が、漏れた雷撃で光っている事に気付く。

『成る程な、お前は光を嫌うのだな!』

 紅雷は蒼牙を回転させる。

『蒼牙! どんどん雷撃を放て!』

『借りは、返す!』

 次々に放たれる雷撃が、暗い闇の世界であった海底を照らす。

『止めろ!』

 叫び、次々に炎を吐き出す黒焦海蛇。

 しかし今度は槍姿の蒼牙に、あっさり弾かれる。

『終わりだ!』

 紅雷の渾身の一撃が、黒焦海蛇の首を斬りおとした。



「お疲れ様」

 深海鮟鱇を黒焦海蛇の居なくなった海底に戻したあと、受肉期間は短い方が、生まれる魔獣の力が弱まると、周囲(特にヤオと金鱗人)に言われて、渋々帰って行った金海波の代わりに、ヤオが言う。

 紅雷は少し顔を赤くするが、照れた様子で言う。

「当然の事だ!」

『あの程度の魔獣に苦戦するようなら、最強は名乗れない』

 蒼牙は、白牙を睨みながら言う。

「次こそは、お前に勝つ!」

 そう言って去っていく紅雷を見ながら、ヤオが言う。

「金海波から貰ったお金で、罰金を払えたし、良かったわ」

 そして残った船翼海豚が言う。

『八百刃様、私を使徒にして下さい!』

 明らかに嫌そうな顔をするヤオ。

『使徒にしてくれないと、暴れまくります!』

『諦めろ、ヤオ』

 溜息を吐きながら、頷くオを見て、船翼海豚が言う。

『やった! これでまた、あの至福の時を過ごせるチャンスが出来た』

 使徒にした後、問答無用で、ヤオの世界に押し込められる船翼海豚であった。



 ヤオが次の街を目指し駅に着くと、駅員が一枚の通知書を渡す。

「アドマチック出版からです」

「ありがとうございます」

 それを開きヤオは叫ぶ。

「うそ!」

 ヤオの手からこぼれた通知書には、ようやくすると、次の様に書かれていた。

『罰金を受けた人の記事を直ぐに載せるのは、倫理的にも問題がある為、暫く貴殿の原稿の休載を決定しました。当然、その期間の原稿料は、発生しません』

 通り抜ける海風による揺れが、ヤオのサイフの軽さを物語って居た。

○新八百刃獣



船翼海豚センヨクイルカ

水中翼船と同じ原理で、体を浮かせ高速で水上を航行する海豚の魔獣。

ロリコンでヤオがタイプ。

元ネタ:忍神さん(大感謝)



○その他魔獣



深海鮟鱇シンカイアンコウ

普段は深海に居る、滅茶苦茶でかい鮟鱇で、実は海流を操る能力を持つ。

ボケから、テレパシーの会話も出来ない。

元ネタ:忍神さん(大感謝)



黒焦海蛇コクショウウミヘビ

海底の闇に住んでいて、深海の闇を、炎に変化させる能力を持つ。

元ネタ:梟さん(大感謝)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ