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戦神神話  作者: 鈴神楽
世界の車窓から
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護る事と護られる事

何かを力だけで護ろうとするのは正しい事なのか?

「今回はシーサイド線を港の街、サカルトに向かう車窓から」

 毎度の事ながら『世界の車窓から』の原稿を書くヤオ。

『ヤオ、戦いの臭いがあるみたいだが、戦争でもしているのか?』

 白牙の言葉にヤオが答える。

「戦争はしてないよ。ただ、海賊がここの港を狙って、何度も襲撃してるって話を聞いてるよ」

 呆れた様子で白牙が言う。

『海賊は、幾ら潰しても、直ぐ現れる、ゴキブリみたいな奴等だからな』

 ヤオが頷く。

「でも、この街って、海賊の被害が殆ど無いんだよ」

 眉を顰める白牙。

『おかしいだろう、街の警備隊程度に撃退される海賊なんぞ、そうそう居るとは思えないぞ?』

 ヤオも再び頷き言う。

「それなりに裏があってね。あちきのカンが間違ってなければ、魔獣が関わっているよ」

 面倒そうな顔で白牙が言う。

『それにしても、魔獣が大量発生しているな』

 ヤオも困った顔で頬をかく。

「前の大戦の後も、こんな感じになったって、聞いたことあるよ」

『邪神達を撃退しまくった、戦神候補も居たのも、利いたのだろう』

 白牙の言葉に、ヤオがそっぽを向く。

「降りかかる火の粉を、払っただけだよ」



 サカルトの街に着き、『世界の車窓から』の原稿を提出して、前の原稿料を受け取ってから、街を散策するヤオ。

『比較的、落ち着いた街だな』

 白牙の言葉に頷いてから、ヤオは手近の屋台のおじさんに言う。

「焼き串、一本下さい」

「はーい、嬢ちゃん可愛いから、肉一つ、おまけだ!」

 そう言って、焼けすぎている肉を一つさしてから焼き串を渡す屋台のおじさんに、何気ない事の様にヤオが言う。

「街を護ってくれている魔獣も、食べ物を食べれれば、良いのにね?」

 何も気付かずに、屋台のおじさんがあっさり頷く。

「そうだな、だけど魔獣って食事とらないそうだぞ」

 物知り顔で言う屋台のおじさんに、ヤオが続ける。

「でもお礼はしたいよ。あそこに会いに行くのって、やっぱ駄目かな?」

「駄目駄目、あの崖には子供が近づいちゃいけないって、言われてるだろう?」

 屋台のおじさんは注意する。

「解りました。子供は近づきません」

 素直そうに返事をするヤオに、屋台のおじさんも納得した顔をする。

 焼き串を食べながら、屋台から離れるヤオに、白牙が言う。

『つまり、この街を護る魔獣が、崖に潜んでると言う事だな?』

 ヤオは頷いて言う。

「問題があるか、確認に行かないとね」

『子供は近づかないのでは、ないのか?』

 白牙の揶揄に、ヤオは肩を竦めて言う。

「そうでしょ。でもあちきは、あのおじさんより年上だから良いんだよ」



 崖に移動するヤオが奥に進むと、そこには、一頭のサイが居た。

『貴女は、何者ですか?』

 その犀の言葉にヤオが言う。

「神名者、八百刃。正しき戦いの護り手だよ」

 驚いた顔で答える犀。

『まさか、あの有名な八百刃様に会えるとは、思いもしませんでした。それで、私にどの様なご用があるのでしょうか?』

 警戒の表情を見せる犀。

「魔獣って、野放しにしてはいけないって決まりがあるの。退治するか、使徒にするかなんだけど、あちきとしては、現状で問題ないのならほっといても、良いと思ってるよ」

 呑気なヤオの言葉に、安堵の息を漏らし、犀が言う。

『それでしたらほっておいて貰えませんか? 私にはこの街を海賊から護る役目があるのです』

 不思議そうに白牙が言う。

『何故この街を護る?』

 犀は遠い視線をして答える。

『私は、生まれてから百年も経っていない若輩の魔獣です。そんな私は、少し前まで、暴れまくっていました。それを諭してくれたのが、この街に住む賢者様でした。私はその恩に、答える必要があるのです』

 ヤオは、頬をかいて言う。

「うーん、納得してもいい気もするけど、問題が一つ。貴方を狙う輩が出てくる可能性があるけど、そこは大丈夫?」

 犀は頷く。

『それが無い様に、こうやって身を隠しています。問題ありません』

 ヤオは頷き、その場を離れる。



『本当にほっといて、大丈夫なのか?』

 宿で白牙が言うと、ヤオは首を横に振る。

「多分駄目。この街の住人は油断しきってる。直ぐにばれて大問題になる。魔獣を保持しようとしたら、王家みたいな、他者に文句をつけられない存在じゃないと駄目なんだよ。そうしないと余計な突っ込みが入る。でも本人達が頑張って居るのに、駄目だって言うのも、あちきの主義から外れるんだよ」

『それでは、直ぐに、ここを離れるのか?』

 白牙の言葉に、ヤオは窓から海を見て答える。

「嫌な予感が凄くする。多分、近いうちに海賊が襲ってくるよ」

『しかし、あの犀の力があれば、海賊位なんとかなるだろう?』

 眉を顰める白牙の言葉に、ヤオが言う。

「そーゆー油断が、一番危ないの。第一、相手に魔獣が居ないって、保障は無いよ」

 白牙が目付きを鋭くする。

『感じるのか?』

 ヤオは首を横に振る。

「戦神候補としてのカンだよ」

 白牙は大きく溜息を吐く。

『お前の戦神候補のカンが外れた事は、無いな』

 頷くヤオ。



 海上の海賊船の上で、船長が言う。

「この街だな、魔獣に護られた街というのは?」

 部下の一人が答える。

「へい、間違いありません」

 高笑いをあげる船長。

「俺達の戦力が、また一つ増えると言うわけだ! 今夜は前祝だ!」

 騒ぐ海賊達。

 海賊船の奥では、魔獣が、自分の出番を待っていた。



 夜明けと共に、海賊船が、港町に迫って来た。

 それに対して街の警備隊の男が、船で近づき言う。

「大人しく帰れ! そうしないと新型投石器で、お前達の船を破壊するぞ!」

 その脅しに、海賊船の船長が大声で答える。

「誤魔化すのは、止めておけ! お前達が、岩を隕石の様に打ち出す魔獣を抱えている事は、知ってるんだ!」

 警備隊の人間は少し驚いたが、すぐさま余裕を取り戻す。

「それが解ってるなら尚更だ! とっとと帰れ、さもないと降岩犀コウガンサイの、岩石攻撃を食らうことになるぞ!」

 海賊船の船長が、余裕たっぷりの態度で言う。

「出来るものだったら、やって見ろ!」

 警備隊が激怒して、崖に居る、犀の魔獣、降岩犀に合図を送る。



 崖に居た、降岩犀が言う。

『愚かな人間だな』

 降岩犀の周囲にある岩が、質量を減らして、浮かび上がる。

 そして、浮かび上がった岩は、風に乗って海賊船の上空に達した所で、突然、質量を取り戻し、降下して行く。

 降岩犀は、海賊船の沈没を確信したが、しかし岩は、ことごとく弾かれる。

『馬鹿な……』



 信じられないのは、警備隊も一緒だった。

「どう言う事だ?」

 海賊船船長が高笑いをあげる。

「魔獣を保持しているのは、お前達だけではないと言う事だ!」

 一匹の猿がマストの上で手を振り、空間が歪ませて、降岩犀が降下させる岩を、弾いていた。

「俺達に空把猿クウハエンが居る限り、俺達には、あんな攻撃は通じない!」

 怯む、警備隊達。

 そして邪悪な笑みを浮かべて、海賊船船長が言う。

「もう一体の魔獣の力も、見せてやるぞ」

 次の瞬間、海賊船の傍に居た警備隊員達が呻き倒れていく。

 左右を見回した警備隊員の目に、蠅が映る。

「無限に増殖し、病原体をバラまく、蠅の魔獣、菌蠅キンハエだ! 直ぐには死なないから安心しろ」

 海賊船船長の言葉に答えられる人間は残っていなかった。



 どんどん倒れていく街の住民を見て、慌てる降岩犀。

『こんな馬鹿な事があって良いのか?』

「力が、力を呼ぶんだよ」

 いつの間にかに来たヤオが言葉に、降岩犀が懇願する。

『八百刃様! どうかそのお力で、お助けください!』

 ヤオは首を横に振る。

「あちきの仕事は正しい戦いを護る事だよ。貴方以外が戦って居ないのに、あちきの出番は無いよ」

『私はどうすればいいのだ?』

 降岩犀が絶望した時、海賊船から輝石魔術で増幅した船長の声が、聞こえてくる。

『魔獣よ、良く聞け! このままほっておけば、お前が護っていた街は滅びるぞ。助けたかったら、俺が配下となれ!』

 降岩犀が凄く悔しそうな顔をして呟く。

『それしか、方法がないのか?』

 その時、ヤオが街を指差す。

『苦しんでいる人を見せて、何を言いたいのですか?』

 それを見たとき、降岩犀は驚く。

 よろよろになりながら、魔術大砲を海賊船に向けようとしている、警備隊が居たからだ。

『馬鹿な、動ける状態では、無い筈!』

 降岩犀の言葉にヤオが頷く。

「多分まともに撃てない。それでも、貴方を失いたくないんだよ」

 困惑した表情で降岩犀が言う。

『どうしてです? 私はこの街を護る為にいるのです。私を差し出して、救われるのでしたら、差し出すのが普通です』

 ヤオが苦笑する。

「人間って言うのは、そんな理性的な生き物じゃないよ。自分の命が失われるかもしれなくても、大切な存在を奪われるのを、容認出来ないんだよ。この街の人間は、貴方の事を本当に感謝していて、そして、大切に思ってるんだから」

 降岩犀がヤオを見て懇願する。

『私に、この街を救わせて下さい』

 ヤオが淡々と言う。

「あちきの使徒に成るって考えて良いの?」

 降岩犀は頷く。

 ヤオは、胸を開き両手を並べる。

『八百刃の神名の元に、我が使徒と化さん、降岩犀』

 ヤオの右掌に『八』、左掌に『百』、胸に『刃』の文字が浮かび上がり、新たな八百刃獣がここに生まれた。

 ヤオはそのまま右掌を降岩犀に向ける。

『八百刃の神名の元に、我が使徒に力を我が力与えん、降岩犀』

 降岩犀は、自分の力だけでは届かない、海底の岩の軽くし、一斉に海面に浮上させる。



 降り注いでいる岩を見て、海賊船船長が高笑いを続けていた。

「この力があれば、俺等の国も生み出せる!」

 その時、海賊船を大きな衝撃が襲う。

「何が起こった!」

 船長がそう叫んだ時、海賊船の甲板を、海底から浮上した岩がぶち抜いていく。

「そんな馬鹿な!」

 その時、空中にあった岩を跳び渡って、海賊船まで来たヤオが、笑顔で言う。

「素直に降参した方が良いよ」

 海賊船船長が、最後の賭けに出る。

『このままだと街の人間が病気で死ぬぞ! それでもいいのか!』

 声の増幅器を使って、降岩犀に怒鳴る。

 岩が一瞬だけ止まる。

 ヤオが溜息を吐く。

「さすがに、病原菌をばらまく魔獣は、ほっておけないね」

 海賊船船長の懐から、小さな瓶を取り出す。

 そこには小さな蠅が入っていた。

「増殖する魔獣って、本体が滅びると全て消えて、その効果も消えるって、知ってる?」

 そう言いながらヤオは、その瓶を握りつぶす。

 消えていく増殖した蠅たち。

 マストに居る空把猿へ、ヤオが言う。

「こいつみたいに滅びたくなかったら、大人しくあちきの使徒になりなさい」

 その言葉に、海賊船船長が怒鳴る。

「お前の能力を使えば、こんなガキ一人、瞬殺出来るだろう!」

 しかし、空把猿はヤオの前の樽に手をかけ、頭を下げる。

「これが有名な反省のポーズだね」

 ヤオの言葉に直ぐ頷く、空把猿。

 海賊船船長の方を向いて言う。

「さて魔獣を失ったけど、まだやる?」

 海賊達が直ぐ降伏した。



 サカルトの街を鉄道で去っていくヤオが、ヤオの管理する世界に居る降岩犀に話しかける。

『ここに残っても良いんだよ?』

 しかし、降岩犀ははっきり答える。

『これ以上ここに居ても、敵を産むだけですから』

 そして、ヤオは街の外を見ると、子供達が降岩犀の居た崖に、花を置くのを見えた。

『ところで一つきいて良いか?』

 声を掛けてきた白牙の方をヤオが向く。

『お前の袋に入っている金銀財宝は何だ?』

 遠くを見てヤオが言う。

「海賊の戦利品。殆どは街の人間に渡してきたけど、一部ぐらい良いでしょ?」

 その言葉に、偶々通りかかった鉄道警備官が言う。

「駄目に決まっているでしょ。犯罪に関わった物品を鉄道で運ぶのは犯罪ですので、没収します」

「えー、そんな!」

 抗議の声を上げたヤオに、警備官が一枚の紙を差し出す。

「早めに払ってください」

 鉄道利用法違反の罰金が、そこに書かれていた。

『下手な欲をだすから、損をするのだ』

 高額な罰金に青褪めるヤオであった。

○新八百刃獣



降岩犀コウガンサイ

周囲の岩石を上空に浮かべて、急降下させて攻撃する犀。

実は、無機物、特に岩に対しての重力操作能力である。

元ネタ:セリオンさんとエアスト・ノインさんのミックス(大感謝)



空把猿クウハエン

周囲の空間を操る能力と、器用さが売りで、高い所に上る事をエネルギー源とする。

元ネタ:セリオンさん(大感謝)



○その他魔獣



菌蠅キンハエ

病原菌を撒き散らす事を得意とする。増殖能力を持つハエの魔獣である。

元ネタ:セリオンさん(大感謝)

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