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戦神神話  作者: 鈴神楽
世界の車窓から
47/68

恐怖と幻との戦い

攻撃力だけが戦闘を左右する訳ではない。たとえ攻撃力が無くても勝つことは可能である

「今回はシーサイド線を、深い森林に面したモリットに向かう車窓から」

 ヤオは、原稿を書いていたが、途中で力尽きて、簡易テーブルに突っ伏す。

「お腹すいたよ」

 涙するヤオ。

『前回の宿代がきいたな』

 白牙の言葉に頷くヤオ。

「相変わらず情けないな!」

 前回と変らず、蒼牙を虎の姿のまま連れて、周りの乗客を怖がらせながら登場する紅雷に、ヤオは反応しない。

 必死に堪える紅雷に、白牙が言う。

『空腹で気力が無いのだ。諦めて今日は退散しろ』

 眉を顰める紅雷。

「高位の神名者なら、肉体の依存率が低く、食事は要らない筈だが?」

 白牙がカロリーの消費を抑えるために、あまり動かないヤオから視線を外して呟く。

『高位の神名者はな』

 答えになって無い答えだが、紅雷にも何が言いたいのかは解った。

『情けない魔獣の主にはぴったりだ。とにかく今回こそ、私が、お前より勝っている事を証明する』

 蒼牙の言葉に白牙が言う。

『最初に言っておくが、自分が最強だとは思わん。そもそも私は、最強の存在を知っている。それを無視して、最強の名を語るのは、無意味だ』

 白牙は、今度は確りヤオを見ると、蒼牙が怒鳴る。

『私は絶対に認めない! 私がそれを証明する!』

 それに紅雷が頷く。

「神名者等が、最強名を冠する自体、間違いなのだ!」

 ここまで言い争いになっているのに、ヤオは反応しない。

 その時、紅雷が言う。

「解った、今度の勝負に勝ったら飯を奢ってやる」

 ヤオがにじり寄る。

「その言葉に、二言は無いわね!」

 軽く後退をしながら紅雷が言う。

「……ああ。それより、同じ相手を狙って、足の引っ張り合うのは、無駄だから、どちらが先に倒すか競わないか?」

 強く頷くヤオ。

「どんな条件でも良い。勝負だよ!」

 紅雷は二枚の紙を置く。

「今度の町には二体の魔獣が出る。一体は、女性の姿をして、困惑させる奴。もう一体は、出現場所しか解らない相手だ。さあどちらをとる?」

 不敵な笑みを浮かべる紅雷に、ヤオは迷わず、正体不明の方をとる。

「こっちで良いよ」

 少し驚いた顔をする紅雷。

「そっちで良いのか?」

 ヤオは微笑を浮かべて言う。

「何であちきがこっちを選んだか、解らないようじゃ、あちきには勝てないよ。奢る、お金を用意しといてね」

「黙れ! その名に敗北を刻み込んでやる!」

 怒り肩で去っていく紅雷。

『どう言う事だ、ヤオ?』

 白牙が問いかけるが、ヤオは再び横になり、体力温存モードに移っていた。

 白牙は溜息を吐くが心配はしていなかった。

『ヤオが負ける訳は、無いな』



 駅に着いて、急ぎ駆け出す紅雷達を、見送りながらヤオが言う。

「白牙、まだ理由を聞きたい?」

 白牙が頷くと、ヤオが説明を開始する。

「簡単。相手にとって不利なカードを渡したかったからだよ。不明な相手と言う事は、凄く弱い可能性もある。それを相手に渡したら、相手の対処スピードが読めない。もう一枚の方は、出現時間までハッキリしてる」

 そこで苦笑するヤオ。

「夕方にしか出てこない相手に対して、無理に探しても無駄足だって事くらい解らないのに、あちきに勝てると思う?」

 白牙が首を横に振るが、質問を続ける。

『しかし、不明な奴が強敵の場合もあるだろう?』

 不思議そうな顔をしてヤオが言う。

「白牙、まさか、あちきが魔獣相手に苦戦する可能性があると思ってる?」

 その言葉に、白牙が即答する。

『空腹で、倒れる前に見つかると、良いな?』

 腹の虫をならしながらヤオが頷く。



 そして夕焼けが沈む森を背景に、海岸線で、問題の魔獣が、絶世の美女の姿をして、現れた。

『お前が好き勝手できるのも、ここまでだ!』

 蒼牙が叫ぶ。

『そうかしら?』

 意味有り気な女性の視線に蒼牙が振り返ると、そこには骨抜きされて居る紅雷が居た。

「おお、貴女こそ、美の女神だ!」

 蒼牙がその爪を伸ばして言う。

『紅雷が居なくても、私一人で倒せる!』

 女性に襲い掛かるが、女性は軽く微笑んだ後、紅雷の方を向いて言う。

『助けて下さい。そこのカッコイイお兄様!』

 紅雷は頷き、蒼牙の前に割り込む。

『邪魔だ、どけ!』

 紅雷は、手に赤い雷撃を籠めながら言う。

「私の美の女神に、手出しはさせん!」

 本気のその目に、蒼牙が大きく溜息を吐いた後、超高速で紅雷を避けて、その爪を女性に振り下ろすが、空振りする。

『幻術?』

 その幻術の女性が、高笑いをあげて言う。

『所詮は、力に頼るしかない虎ね! この私、光凝狐コウギコには勝てないわよ!』

『狐の分際で、そんな幻術が、何時までも私に効くと思っているの?』

 その時、赤い稲妻が蒼牙を襲う。

「その人に、危害を加えさせない!」

『紅雷……』

 不敵に微笑む光凝狐の幻影を睨む、蒼牙であった。



「こっちも探し出すのに時間掛かってしまったね」

 空腹で倒れそうなヤオの言葉に、白牙が辺りに立ち込める霧を見て言う。

『ようやくと言う所だな』

 その時、何処からとも無く、一匹の狼が現れて、下品な笑いと共に言う。

『新しい得物が来やがった。さー俺の食事になりな!』

 白牙は狼の方を見るが、ヤオは、まるっきりあさっての方を見る。

『ヤオ、何をしている?』

 ヤオは元気の無い声で言う。

「あんまり動きたくないから、幻影と遊ぶ気ないよ」

 狼の魔獣が驚く。

『まさか、この幻影に一発で気付くとは。しかし、これはどうかな?』

 次の瞬間空中からオムレツがふって来て、地面に落ちて食べられなくなる。

『そんな幻影がどうした?』

 白牙が呆れた声を出すが。

「止めて、そんな恐ろしいもの見せるのは!」

 ヤオは、大ダメージを受けていた。

『幻影なのは、解ってるんだろう?』

 白牙の言葉にヤオは頷く。

「幻影だって解ってても、あんな恐ろしいものは、見てられない!」

 白牙が大きく溜息を吐くと、狼の魔獣が言う。

『面白い奴だな。そうやって、俺の、幻霧狼ゲンムロウの餌になってくれ!』

 次の瞬間スクランブルエッグが地面に落ちて、駄目になる。

「駄目!」

 ヤオが目を瞑り、後退を始める。

『私が始末するぞ?』

 呆れきった口調で白牙が言うと、幻霧狼が動揺する。

『待て! そうだ、もっと深層にある、恐怖の幻影を作ってやる!』

 次々に落ちていく卵料理の幻影が消えた次の瞬間、幻霧狼が叫び声をあげる。

『そんな、そんな訳がない。この世界がそんな状態だなんて!』

 ヤオの視線が鋭くなった。

『八百刃の神名の元に、我が使徒に力を我が力与えん、白牙』

 ヤオの右掌に『八』の文字が浮かび上がり、白牙が刀になる。

 ヤオは、先程視線を向けていた、何も無い所に白牙を振り下ろす。

 そして、霧が晴れていき、そこに絶命寸前の幻霧狼が、姿を現す。

「貴方には、完全に消えてもらう」

 ヤオの手から籠められた圧倒的な力を受けて、白牙が、幻霧狼を何も言えない間に消滅させる。

 ヤオは、霧が晴れたあと、後退した先に待っていた、粘体の牢屋を見つける。

 ヤオが近づくと、そこには、何人もの人間が捕まって居た。

「大人しく放した方が、身の為だと思うよ」

 ヤオの脅しに、その牢屋が答え、捕まえていた人間を解放する。

『殺していません。だから滅ぼさないで!』

 牢屋から返事が返ってくる。

「攻撃力も無く、報復を恐れた幻霧狼が、幻影で貴方の所に誘き寄せて、貴方が捕まえるって手順だったわけだね」

 牢屋は大人しく頷く。

『僕は、水牢粘スイロウネンって言います。何かを閉じ込めて置くことで力にするんですけど、自分の力だけでは捕まえられないのです』

 その言葉にヤオが言う。

「あちきの使徒になったら、あちきの世界の中で、他の八百刃獣を入れとかせてあげるよ」

 全身を揺する水牢粘。

『本当ですか! なります!』

 ヤオは、胸を開き、両手と並べる。

『八百刃の神名の元に、我が使徒と化さん、水牢粘』

 ヤオの右掌に『八』、左掌に『百』、胸に『刃』が浮かび、水牢粘が、新たな八百刃獣になる。

『よろしくお願いします』

 ヤオの世界に消えていく水牢粘。

「多分勝ったから、御飯奢ってもらえるね」

 町に戻ろうとしたヤオに、白猫の姿に戻った白牙が言う。

『あいつは、何を見たのだ?』

 ヤオは振り返らずそのまま言う。

「それ以上は言わない、幾らなんでも貴方を滅ぼしたくないから」

 白牙はそれ以上追求しなかった。



『さー、同士討ちでもしてなさい』

 光凝狐の言葉に蒼牙が言う。

『あまり甘く見ないで貰いたい』

 蒼牙の全身から、凄まじい青い雷撃が、四方八方に放たれる。

 雷光が、光凝狐の光の幻像を打ち砕き、光凝狐が狐の姿を明らかにする。

 それを見て、紅雷が拳を振り上げて言う。

「俺の純情を!」

 紅雷の手から放たれた赤き稲妻は、あっさり光凝狐を滅ぼすのであった。



「ビックサイズオムレツ追加!」

 ヤオが嬉しそうに注文する。

 紅雷は不機嫌そうな顔をしながら、自分もやけ食いしていた。

『諦めろ、それより蒼牙はどうした?』

 白牙の問いに紅雷が言う。

「お前達の顔を見たくないと、宿で待っている」

「親子丼もお願いね!」

 嬉しそうにヤオが御飯を食べる。

 そして支払いの段階になった時、紅雷が言う。

「サイフ落とした! 探してくる」

 お店を、急ぎ足で、出て行く。

「ちょっと、置いてかないでよ!」

 ヤオがそう言ったとき、お店の人間に囲まれていた。

「まさか食い逃げする気は、ありませんよね?」

 その言葉に涙するヤオ。

「紅雷の馬鹿!」

 結局、紅雷のサイフは、見つからず、紅炎甲の信者からの寄付金が届くまでの三日間、ヤオは食堂でウエイトレス等々をやる破目になった。

○新八百刃獣



水牢粘スイロウネン

スライムで、強固な牢獄を作る。

自分から相手を取り込む事は出来ないが、一度取り込めば、高位の魔獣でも脱出は不可能。

移動力は低い。

元ネタ:梟さん(大感謝)



○その他魔獣



光凝狐コウギコ

光を操り、美しい女性の姿をとり、人を、特に男を騙す恐ろしい奴。

元ネタ:セリオンさんと忍神さんのミックス(大感謝)



幻霧狼ゲンムロウ

体から噴出す霧で、相手を恐れさせる事を至福とする。

復讐を恐れるが、攻撃力が無い為、水牢粘と組んで居た。

元ネタ:セリオンさんと忍神さんのミックス(大感謝)

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