ライバル登場
魔獣、神の欠片から生まれる存在。ヤオ以外の神々もその存在の対処の為に動いている
「今回はローレン線の終着駅、ホーレロンに向かう車窓から」
何時もの如く、ヤオが『世界の車窓から』の原稿を書いていると、白牙が言う。
『前から気になっていたんだが、終着駅に着くたびに貰う、機械の体は何なんだ?』
白牙が、ヤオのリュックから飛び出ている、機械人形の足を示す。
「トウヨコ鉄道の目玉企画。始発駅から終着駅まで乗った人にプレゼントする、機械の体のパーツで、全部揃えると、トウヨコマンって、演劇のヒーローが遣っている対巨大魔獣用機械を模した、玩具になるの。マニアには高値で売れるんだよ。今度の駅で全部揃うの。売って、卵料理を山ほど食べるの」
幸せそうなヤオに、大きく溜息を吐く白牙。
「やはり神に成れぬ、落ちこぼれ神名者だな」
そう言って、隣の車両から一人の青年と青い虎が入って来た。
それを見てヤオが頭を抱える。
「人の事をどうこう言う前に、それなんとかしたら?」
ヤオはそう言って、他の乗客を怯えさせている青い虎を指さす。
『私が、汝より低俗と言うか!』
怒る青い虎に、白牙が言う。
『常識が無いと言っている。このような場所で虎の姿をとるのは非常識だ』
その青い虎が嘲る様に答える。
『魔獣としての誇りを失った、汝とは違う!』
白牙の体が変化し始める。
『喧嘩を売るつもりか!』
そんな白牙の頭を押さえて、ヤオが言う。
「あちきに用なの? 紅炎甲の代行者さん」
その青年が宣言する。
「お前に挑戦しに来た。わが主、紅炎甲様に成り代わり、この紅雷がお前を破る!」
白牙が爆笑する。
『何を言うかとおもったら、主の紅炎甲が敵わなかったヤオに、代行者が勝てると思っているのか?』
それに対して、悔しそうな顔をして紅雷が言う。
「確かにまともに戦っては勝てまい。しかし、魔獣討伐なら、お前等より先に終わらせられる。この蒼貫槍様の欠片から生まれた、蒼牙を使う、俺がな!」
ヤオが改めて、青い虎、蒼牙を見る。
「確かに蒼貫槍の力を感じるね。でも何でそんな下らない事を、気にするの?」
紅雷が怒鳴る。
「俺との勝負が、下らないだと!」
ヤオはあっさり頷く。
「魔獣の処理は、神や神名者にとっては義務なだけ、それをどっちが早くこなしたなんて、競っても意味無いよ。魔獣が処理された、それだけで問題は解決なんだから」
はっきりと断言するヤオに、戸惑う紅雷。
『言っておいてやる、ヤオに競争心なんて、上等な物を求めるだけ無駄だぞ。万が一にもそんな物があったら、とっくの昔に神に成っている』
白牙の言葉に、紅雷が馬鹿にした表情をして言う。
「所詮、志が低い、低俗神名者だな! まあいい、どっちが上かは直ぐに解る!」
背中を向ける紅雷。
そして蒼牙が白牙を睨む。
『真名様を切り裂いたからと言って、最強の魔獣の名はお前には、不相応。最強の名は、私にこそ、相応しい。その事をすぐに証明してみせる』
そう言い残し、紅雷の後をついていく。
隣から聞こえてくる、人の叫び声を聞きながら、ヤオが言う。
「なんか面倒な奴に、目を付けられた感じ」
白牙も大きく頷く。
ヤオは、ホーレロン駅で機械の体を受け取ってから、街に出る。
『気になったんだが、紅炎甲の代行者が、魔獣の処理をしているのは、何故だ?』
白牙の質問に、ヤオが答える。
「多分、紅炎甲が前に受肉した時、誓約したんだよ。魔獣が発生した場合、その処理の為に代行者を生み出し、当たらせると。受肉って、魔獣を生み出すのが、一番の問題って言われてるからね。受肉した以上は、その後始末もしろって意味で、そんな誓約を結ばされると聞いた事があるよ」
意外と人が多い町を、ゆっくり歩いていくヤオ。
『それにしても、へんぴな町の癖に、人が多いな?』
ヤオは、『世界の車窓から』の参考として貰っている資料を見て、答える。
「えーと、周りを山に囲まれているけど、どの山も鉱山として優秀で、たくさん働いている人がいるらしいよ」
『そして集まった人間の子供を、魔獣が捕食して居ると言う訳だな?』
白牙の言葉にヤオが首を傾げる。
「そこが問題。本来魔獣は、その象徴する行為が、人で言うところの食事になるんだよ。白牙の何かを切り裂く事や、大地蛇の大地を蠢く動きなどが、それになるんだけど、人を捕食するのは、普通考えられないんだけどね」
自分が無意味に人殺しをしていた経験から、気軽に白牙が言う。
『偶々、象徴行為が人の捕食だったのでは無いのか?』
「可能性は否定しないけど、なにかしっくりこないんだよね」
首を傾げるヤオであった。
「鬼眼蜂こっちだな?」
山道を疾走する紅雷の言葉に、先行していた蜂の魔獣、鬼眼蜂が頷く。
『魔獣の気配を追跡する能力を持つ、鬼眼蜂が居る限り、私達の負けはありません』
併走する蒼牙に、紅雷が頷く。
「八百刃よ、俺をこけにしてくれた事を、後悔させてやるぞ!」
高笑いをあげる紅雷。
『あいつ等はもう、魔獣の方に向かってるみたいだな』
白牙の言葉に、ヤオが頷く。
「片付けてくれれば、楽で良いよ」
そう言いながら、呑気に山菜御飯を食べるヤオ。
『こんなの相手に、本気で勝負しようとする紅雷に、同情するぞ』
白牙もそう言うが、呑気に高原野菜のサラダを食べている。(実は野菜好き)
その時、一人の少年が周囲に気をつけながら出て行く。
『あのボウズは何をしていたんだ?』
白牙の言葉にヤオは微笑みながら言う。
「服の中に食べ物を隠してるから、親に内緒で、動物を育ててるんだよ」
それに対して白牙が言う。
『腕くらいある、生肉を食べる動物をか?』
ヤオが慌てる。
「それって危ないじゃない!」
慌ててお会計を済ませて、子供の後を追おうとしたが、亭主に止められる。
「お金足りないぞ!」
首を傾げるヤオ。
「でも山菜御飯と高原野菜のサラダで、銅貨三枚だよね?」
亭主がさっきの子供を指し、言う。
「さっきの子供は、あんたの知り合いだろ? あの子が持って行った、肉の代金も払ってくれ」
ヤオが言い訳しようとしたが、亭主が先にとどめをさす。
「違うというなら、あの子は、警邏隊に通報しないとな」
『完全に、お前が子供を見捨てられない性格してると、ばれてるな』
白牙の言葉にヤオは答えず、渋々お金を払うのであった。
「年貢の納め時だ!」
紅雷は大きな熊の魔獣に、宣言する。
その熊の魔獣は、大きく、一撃で家を壊せそうな腕を持っていたが、あっさり両腕をあげる。
『争うつもりはありません。私はここで静かに暮らしたいだけです』
蒼牙が睨みつける。
『ふざけないで! 貴方が麓の町の子供を襲って、食べている事は解っているのよ!』
驚く熊の魔獣。
『本当ですか?』
その驚き方に、紅雷も躊躇する。
そこに、ヤオ達が居た食堂から出てきた少年が駆けて来る。
「熊さん! 御飯もって来たよ!」
そう両手で生肉を掲げると、熊の魔獣が言う。
『トロンボくん、この山は危ないそうだ、早く帰るのだ!』
その少年、トロンボが首を傾げる。
「どうして?」
熊の魔獣は軽く溜息を吐くと、諭すように言う。
『この山には、子供を捕食する、怖い魔獣が居るらしいのだよ。君も、そんな魔獣に襲われる前に、家に帰るのだ』
トロンボは、首を横に振る。
「でも熊さんは、どんどん元気が無くなっているよ。御飯持ってこなくても、良いの?」
生肉を差し出す。
『態々ありがとう、でも駄目なのだよ。私の食事は、何かを壊す事なのだから。でも、この山の自然を壊すわけには行かない』
そして熊の魔獣は紅雷の方を見て言う。
『丁度、代行者の人も来ている、ここで滅びた方が良いのかもしれない』
トロンボは、熊の魔獣にしがみつき、紅雷を睨む。
「熊さんは、殺させないぞ!」
紅雷はトロンボを睨み返して言う。
「邪魔をするのなら、お前も殺す!」
熊の魔獣は慌てて言う。
『お止めください代行者様! 私は大人しく滅びます。ですからこのトロンボくんだけは、見逃して下さい』
必死に頭を下げる熊の魔獣だが、紅雷は右手を蒼牙に向ける。
『我が雷撃と共に敵を貫く槍と化せ、蒼牙』
紅雷の右手から放たれた雷が、蒼牙を包むと、蒼牙が槍へと変化し、紅雷の右手に収まる。
「滅びよ!」
雷撃を纏った蒼牙が、熊の魔獣とトロンボに迫る。
『八百刃の神名の元に、我が使徒に力を我が力与えん、白牙』
蒼牙の変化した槍が、熊の魔獣に突き刺さる前に、白牙の変化した刀が弾く。
「もー、血気盛んな人だね。目的の邪魔になるからって、子供を殺すのはスマートじゃないよ」
ヤオは熊の魔獣の前に立塞がる。
「邪魔をするな、八百刃!」
紅雷の言葉にヤオは言う。
「冷静になったら、貴方達の仲間の警告が、聞こえるくらいに」
その言葉で紅雷は初めて、鬼眼蜂が放つ警戒音に気付く。
「もう一匹魔獣が居るのか?」
次の瞬間、氷の蔦が、紅雷の動きを封じた。
「この程度の蔦くらい!」
必死に蒼牙を振るって、蔦を切る紅雷であったが、氷の蔦の増加率の方が早かった。
『仲間が放つ警戒音にも気付かないで、相手のテリトリーに入った、お前達の負けだな』
白牙の言葉に蒼牙が怒鳴る。
『煩い! お前達に負けた訳ではない!』
ヤオは熊の魔獣に言う。
「その子を連れて下がってて。来るよ!」
熊の魔獣は頷き、トロンボを肩に背負い下がる。
そして山の木々の間から、背中から蔦を生やした虫が現れた。
「なるほど、冬虫夏草を母体したから、普通では考えられない、捕食行動をとっていたんだね」
納得するヤオ。
『冬虫夏草って何だ?』
「その名前の通り、冬は虫で夏は草の不思議生物ではなく、虫から生ずるキノコの事なんだけど、変なタイミングで寄生された虫と神の欠片とが干渉した為、こんな変則的な魔獣になったんだね。植物の属性が強いのか、明確な意思は感じられない。これは倒すしかないね」
『待ってください。子供達が奥に捕らわれています!』
熊の魔獣が言うように、奥に子供達が氷付けになっている。
「大技は使えないって訳だね。植物属性を利用して、高速で再生するから、少し面倒」
そう言いながらも子供達を見捨てる気が無いヤオだったが、熊の魔獣はトロンボを降ろして、その冬虫夏草の魔獣に突っ込む。
一斉に氷の蔦を放つ、冬虫夏草の魔獣だったが、熊の魔獣は叫び突っ込む。
『よくも子供達を!』
なんと熊は向かってくる氷の蔦を力技で破壊して行き、そのまま子供達が捕らわれている氷まで行き、そのままそれを持ち上げて、安全圏まで後退する。
『なんて馬鹿力だ』
白牙が驚く中、ヤオが熊の魔獣のおかげで開放された、紅雷に言う。
「後は任せて良い?」
紅雷は、冬虫夏草の魔獣を睨み言う。
「手出しなどさせん!」
紅と蒼の雷撃が、蒼牙から噴出す。
「一撃で終わりだ!」
『滅びよ!』
紅雷と蒼牙の叫びと共に放たれた一撃で、冬虫夏草の魔獣、氷蔦虫が、完全に滅ぼされた。
「少しは、回復したみたいだね?」
熊の魔獣にそう話しかける、トロンボを連れてきたヤオ。
『しかし、物を壊せない私には、滅びの運命は、避けられません』
熊の魔獣の言葉にトロンボが悲しそうにしがみつく。
「熊さん、死んじゃ、駄目!」
『トロンボくん』
そしてヤオが言う。
「あちきの使徒に成る気無い? あちきの使徒になれば、普段はここに居て、必要な時だけ呼び出しに答えて、破壊行為が出来るよ」
戸惑う熊の魔獣。
『使徒になるのに、この山を離れなくても、良いのですか?』
ヤオが大きく頷き、白猫モードにもどった白牙が言う。
『他にもそう言う魔獣が、八百刃獣には居るから安心しろ』
嬉しそうに熊の魔獣が言う。
『ありがとうございます。私の名前は和怒熊と言います』
ヤオは胸元を開き、両手と並べる。
『八百刃の神名の元に、我が使徒と化さん、和怒熊』
ヤオの右掌に『八』、左掌に『百』、胸に『刃』の文字が浮かび、八百刃獣に新たな魔獣が加わった。
そこに紅雷が現れる。
「貴様、人の得物を横取りしたな!」
少し呆れた顔でヤオが言う。
「文句あるんだったら相手するけど、力を使いきった貴方達が、あちきの相手になると思う?」
槍のままの蒼牙が怒鳴る。
『最初から、そのつもりだったな!』
「卑怯者が!」
紅雷の言葉をあっさり無視して、トロンボと一緒に街に戻るヤオであった。
その夜、宿屋でヤオは、景品の機械の体を上機嫌で開梱していた。
「これを売れば、卵料理いっぱい食べられるぞ!」
そして、出てきたパーツを見て、固まる。
『この機械の体は、足が三本あるのか?』
白牙は空々しい言葉を言う中、ヤオが落ち込む。
「ダブりが出るなんてずるいよ……」
○新八百刃獣
・和怒熊
普段は温和だが、怒ると物凄い怪力になる。
元ネタ:WEB拍手(大感謝)
○紅雷が使役する魔獣
・蒼牙
蒼貫槍の欠片から生まれた、雷を放つ槍に変化する魔獣。
普段は虎の形態している。
元ネタ:WEB拍手・エアスト・ノインさんの魔獣のミックス(大感謝)
・鬼眼蜂
魔獣追跡能力を持つ、蜂の魔獣。
元ネタ:梟さん(大感謝)
○その他魔獣
・氷蔦虫
冬虫夏草の一種が魔獣化したもので、本能的に、得物を捕らえ、備蓄する性質を持つ。
氷の蔦が武器だった。
元ネタ:WEB拍手(大感謝)




