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戦神神話  作者: 鈴神楽
世界の車窓から
45/68

ライバル登場

魔獣、神の欠片から生まれる存在。ヤオ以外の神々もその存在の対処の為に動いている

「今回はローレン線の終着駅、ホーレロンに向かう車窓から」

 何時もの如く、ヤオが『世界の車窓から』の原稿を書いていると、白牙が言う。

『前から気になっていたんだが、終着駅に着くたびに貰う、機械の体は何なんだ?』

 白牙が、ヤオのリュックから飛び出ている、機械人形の足を示す。

「トウヨコ鉄道の目玉企画。始発駅から終着駅まで乗った人にプレゼントする、機械の体のパーツで、全部揃えると、トウヨコマンって、演劇のヒーローが遣っている対巨大魔獣用機械を模した、玩具になるの。マニアには高値で売れるんだよ。今度の駅で全部揃うの。売って、卵料理を山ほど食べるの」

 幸せそうなヤオに、大きく溜息を吐く白牙。

「やはり神に成れぬ、落ちこぼれ神名者だな」

 そう言って、隣の車両から一人の青年と青い虎が入って来た。

 それを見てヤオが頭を抱える。

「人の事をどうこう言う前に、それなんとかしたら?」

 ヤオはそう言って、他の乗客を怯えさせている青い虎を指さす。

『私が、汝より低俗と言うか!』

 怒る青い虎に、白牙が言う。

『常識が無いと言っている。このような場所で虎の姿をとるのは非常識だ』

 その青い虎が嘲る様に答える。

『魔獣としての誇りを失った、汝とは違う!』

 白牙の体が変化し始める。

『喧嘩を売るつもりか!』

 そんな白牙の頭を押さえて、ヤオが言う。

「あちきに用なの? 紅炎甲の代行者さん」

 その青年が宣言する。

「お前に挑戦しに来た。わが主、紅炎甲様に成り代わり、この紅雷コウライがお前を破る!」

 白牙が爆笑する。

『何を言うかとおもったら、主の紅炎甲が敵わなかったヤオに、代行者が勝てると思っているのか?』

 それに対して、悔しそうな顔をして紅雷が言う。

「確かにまともに戦っては勝てまい。しかし、魔獣討伐なら、お前等より先に終わらせられる。この蒼貫槍様の欠片から生まれた、蒼牙ソウガを使う、俺がな!」

 ヤオが改めて、青い虎、蒼牙を見る。

「確かに蒼貫槍の力を感じるね。でも何でそんな下らない事を、気にするの?」

 紅雷が怒鳴る。

「俺との勝負が、下らないだと!」

 ヤオはあっさり頷く。

「魔獣の処理は、神や神名者にとっては義務なだけ、それをどっちが早くこなしたなんて、競っても意味無いよ。魔獣が処理された、それだけで問題は解決なんだから」

 はっきりと断言するヤオに、戸惑う紅雷。

『言っておいてやる、ヤオに競争心なんて、上等な物を求めるだけ無駄だぞ。万が一にもそんな物があったら、とっくの昔に神に成っている』

 白牙の言葉に、紅雷が馬鹿にした表情をして言う。

「所詮、志が低い、低俗神名者だな! まあいい、どっちが上かは直ぐに解る!」

 背中を向ける紅雷。

 そして蒼牙が白牙を睨む。

『真名様を切り裂いたからと言って、最強の魔獣の名はお前には、不相応。最強の名は、私にこそ、相応しい。その事をすぐに証明してみせる』

 そう言い残し、紅雷の後をついていく。

 隣から聞こえてくる、人の叫び声を聞きながら、ヤオが言う。

「なんか面倒な奴に、目を付けられた感じ」

 白牙も大きく頷く。



 ヤオは、ホーレロン駅で機械のパーツを受け取ってから、街に出る。

『気になったんだが、紅炎甲の代行者が、魔獣の処理をしているのは、何故だ?』

 白牙の質問に、ヤオが答える。

「多分、紅炎甲が前に受肉した時、誓約したんだよ。魔獣が発生した場合、その処理の為に代行者を生み出し、当たらせると。受肉って、魔獣を生み出すのが、一番の問題って言われてるからね。受肉した以上は、その後始末もしろって意味で、そんな誓約を結ばされると聞いた事があるよ」

 意外と人が多い町を、ゆっくり歩いていくヤオ。

『それにしても、へんぴな町の癖に、人が多いな?』

 ヤオは、『世界の車窓から』の参考として貰っている資料を見て、答える。

「えーと、周りを山に囲まれているけど、どの山も鉱山として優秀で、たくさん働いている人がいるらしいよ」

『そして集まった人間の子供を、魔獣が捕食して居ると言う訳だな?』

 白牙の言葉にヤオが首を傾げる。

「そこが問題。本来魔獣は、その象徴する行為が、人で言うところの食事になるんだよ。白牙の何かを切り裂く事や、大地蛇の大地を蠢く動きなどが、それになるんだけど、人を捕食するのは、普通考えられないんだけどね」

 自分が無意味に人殺しをしていた経験から、気軽に白牙が言う。

『偶々、象徴行為が人の捕食だったのでは無いのか?』

「可能性は否定しないけど、なにかしっくりこないんだよね」

 首を傾げるヤオであった。



鬼眼蜂キガンホウこっちだな?」

 山道を疾走する紅雷の言葉に、先行していた蜂の魔獣、鬼眼蜂が頷く。

『魔獣の気配を追跡する能力を持つ、鬼眼蜂が居る限り、私達の負けはありません』

 併走する蒼牙に、紅雷が頷く。

「八百刃よ、俺をこけにしてくれた事を、後悔させてやるぞ!」

 高笑いをあげる紅雷。



『あいつ等はもう、魔獣の方に向かってるみたいだな』

 白牙の言葉に、ヤオが頷く。

「片付けてくれれば、楽で良いよ」

 そう言いながら、呑気に山菜御飯を食べるヤオ。

『こんなの相手に、本気で勝負しようとする紅雷に、同情するぞ』

 白牙もそう言うが、呑気に高原野菜のサラダを食べている。(実は野菜好き)

 その時、一人の少年が周囲に気をつけながら出て行く。

『あのボウズは何をしていたんだ?』

 白牙の言葉にヤオは微笑みながら言う。

「服の中に食べ物を隠してるから、親に内緒で、動物を育ててるんだよ」

 それに対して白牙が言う。

『腕くらいある、生肉を食べる動物をか?』

 ヤオが慌てる。

「それって危ないじゃない!」

 慌ててお会計を済ませて、子供の後を追おうとしたが、亭主に止められる。

「お金足りないぞ!」

 首を傾げるヤオ。

「でも山菜御飯と高原野菜のサラダで、銅貨三枚だよね?」

 亭主がさっきの子供を指し、言う。

「さっきの子供は、あんたの知り合いだろ? あの子が持って行った、肉の代金も払ってくれ」

 ヤオが言い訳しようとしたが、亭主が先にとどめをさす。

「違うというなら、あの子は、警邏隊に通報しないとな」

『完全に、お前が子供を見捨てられない性格してると、ばれてるな』

 白牙の言葉にヤオは答えず、渋々お金を払うのであった。



「年貢の納め時だ!」

 紅雷は大きな熊の魔獣に、宣言する。

 その熊の魔獣は、大きく、一撃で家を壊せそうな腕を持っていたが、あっさり両腕をあげる。

『争うつもりはありません。私はここで静かに暮らしたいだけです』

 蒼牙が睨みつける。

『ふざけないで! 貴方が麓の町の子供を襲って、食べている事は解っているのよ!』

 驚く熊の魔獣。

『本当ですか?』

 その驚き方に、紅雷も躊躇する。

 そこに、ヤオ達が居た食堂から出てきた少年が駆けて来る。

「熊さん! 御飯もって来たよ!」

 そう両手で生肉を掲げると、熊の魔獣が言う。

『トロンボくん、この山は危ないそうだ、早く帰るのだ!』

 その少年、トロンボが首を傾げる。

「どうして?」

 熊の魔獣は軽く溜息を吐くと、諭すように言う。

『この山には、子供を捕食する、怖い魔獣が居るらしいのだよ。君も、そんな魔獣に襲われる前に、家に帰るのだ』

 トロンボは、首を横に振る。

「でも熊さんは、どんどん元気が無くなっているよ。御飯持ってこなくても、良いの?」

 生肉を差し出す。

『態々ありがとう、でも駄目なのだよ。私の食事は、何かを壊す事なのだから。でも、この山の自然を壊すわけには行かない』

 そして熊の魔獣は紅雷の方を見て言う。

『丁度、代行者の人も来ている、ここで滅びた方が良いのかもしれない』

 トロンボは、熊の魔獣にしがみつき、紅雷を睨む。

「熊さんは、殺させないぞ!」

 紅雷はトロンボを睨み返して言う。

「邪魔をするのなら、お前も殺す!」

 熊の魔獣は慌てて言う。

『お止めください代行者様! 私は大人しく滅びます。ですからこのトロンボくんだけは、見逃して下さい』

 必死に頭を下げる熊の魔獣だが、紅雷は右手を蒼牙に向ける。

『我が雷撃と共に敵を貫く槍と化せ、蒼牙』

 紅雷の右手から放たれた雷が、蒼牙を包むと、蒼牙が槍へと変化し、紅雷の右手に収まる。

「滅びよ!」

 雷撃を纏った蒼牙が、熊の魔獣とトロンボに迫る。

『八百刃の神名の元に、我が使徒に力を我が力与えん、白牙』

 蒼牙の変化した槍が、熊の魔獣に突き刺さる前に、白牙の変化した刀が弾く。

「もー、血気盛んな人だね。目的の邪魔になるからって、子供を殺すのはスマートじゃないよ」

 ヤオは熊の魔獣の前に立塞がる。

「邪魔をするな、八百刃!」

 紅雷の言葉にヤオは言う。

「冷静になったら、貴方達の仲間の警告が、聞こえるくらいに」

 その言葉で紅雷は初めて、鬼眼蜂が放つ警戒音に気付く。

「もう一匹魔獣が居るのか?」

 次の瞬間、氷の蔦が、紅雷の動きを封じた。

「この程度の蔦くらい!」

 必死に蒼牙を振るって、蔦を切る紅雷であったが、氷の蔦の増加率の方が早かった。

『仲間が放つ警戒音にも気付かないで、相手のテリトリーに入った、お前達の負けだな』

 白牙の言葉に蒼牙が怒鳴る。

『煩い! お前達に負けた訳ではない!』

 ヤオは熊の魔獣に言う。

「その子を連れて下がってて。来るよ!」

 熊の魔獣は頷き、トロンボを肩に背負い下がる。

 そして山の木々の間から、背中から蔦を生やした虫が現れた。

「なるほど、冬虫夏草トウチュウカソウを母体したから、普通では考えられない、捕食行動をとっていたんだね」

 納得するヤオ。

『冬虫夏草って何だ?』

「その名前の通り、冬は虫で夏は草の不思議生物ではなく、虫から生ずるキノコの事なんだけど、変なタイミングで寄生された虫と神の欠片とが干渉した為、こんな変則的な魔獣になったんだね。植物の属性が強いのか、明確な意思は感じられない。これは倒すしかないね」

『待ってください。子供達が奥に捕らわれています!』

 熊の魔獣が言うように、奥に子供達が氷付けになっている。

「大技は使えないって訳だね。植物属性を利用して、高速で再生するから、少し面倒」

 そう言いながらも子供達を見捨てる気が無いヤオだったが、熊の魔獣はトロンボを降ろして、その冬虫夏草の魔獣に突っ込む。

 一斉に氷の蔦を放つ、冬虫夏草の魔獣だったが、熊の魔獣は叫び突っ込む。

『よくも子供達を!』

 なんと熊は向かってくる氷の蔦を力技で破壊して行き、そのまま子供達が捕らわれている氷まで行き、そのままそれを持ち上げて、安全圏まで後退する。

『なんて馬鹿力だ』

 白牙が驚く中、ヤオが熊の魔獣のおかげで開放された、紅雷に言う。

「後は任せて良い?」

 紅雷は、冬虫夏草の魔獣を睨み言う。

「手出しなどさせん!」

 紅と蒼の雷撃が、蒼牙から噴出す。

「一撃で終わりだ!」

『滅びよ!』

 紅雷と蒼牙の叫びと共に放たれた一撃で、冬虫夏草の魔獣、氷蔦虫ヒョウチョウチュウが、完全に滅ぼされた。



「少しは、回復したみたいだね?」

 熊の魔獣にそう話しかける、トロンボを連れてきたヤオ。

『しかし、物を壊せない私には、滅びの運命は、避けられません』

 熊の魔獣の言葉にトロンボが悲しそうにしがみつく。

「熊さん、死んじゃ、駄目!」

『トロンボくん』

 そしてヤオが言う。

「あちきの使徒に成る気無い? あちきの使徒になれば、普段はここに居て、必要な時だけ呼び出しに答えて、破壊行為が出来るよ」

 戸惑う熊の魔獣。

『使徒になるのに、この山を離れなくても、良いのですか?』

 ヤオが大きく頷き、白猫モードにもどった白牙が言う。

『他にもそう言う魔獣が、八百刃獣には居るから安心しろ』

 嬉しそうに熊の魔獣が言う。

『ありがとうございます。私の名前は和怒熊ワドユウと言います』

 ヤオは胸元を開き、両手と並べる。

『八百刃の神名の元に、我が使徒と化さん、和怒熊』

 ヤオの右掌に『八』、左掌に『百』、胸に『刃』の文字が浮かび、八百刃獣に新たな魔獣が加わった。

 そこに紅雷が現れる。

「貴様、人の得物を横取りしたな!」

 少し呆れた顔でヤオが言う。

「文句あるんだったら相手するけど、力を使いきった貴方達が、あちきの相手になると思う?」

 槍のままの蒼牙が怒鳴る。

『最初から、そのつもりだったな!』

「卑怯者が!」

 紅雷の言葉をあっさり無視して、トロンボと一緒に街に戻るヤオであった。



 その夜、宿屋でヤオは、景品の機械のパーツを上機嫌で開梱していた。

「これを売れば、卵料理いっぱい食べられるぞ!」

 そして、出てきたパーツを見て、固まる。

『この機械の体は、足が三本あるのか?』

 白牙は空々しい言葉を言う中、ヤオが落ち込む。

「ダブりが出るなんてずるいよ……」

○新八百刃獣



和怒熊ワドユウ

普段は温和だが、怒ると物凄い怪力になる。

元ネタ:WEB拍手(大感謝)



○紅雷が使役する魔獣



蒼牙ソウガ

蒼貫槍の欠片から生まれた、雷を放つ槍に変化する魔獣。

普段は虎の形態している。

元ネタ:WEB拍手・エアスト・ノインさんの魔獣のミックス(大感謝)



鬼眼蜂キガンホウ

魔獣追跡能力を持つ、蜂の魔獣。

元ネタ:梟さん(大感謝)



○その他魔獣



氷蔦虫ヒョウチョウチュウ

冬虫夏草の一種が魔獣化したもので、本能的に、得物を捕らえ、備蓄する性質を持つ。

氷の蔦が武器だった。

元ネタ:WEB拍手(大感謝)

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