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戦神神話  作者: 鈴神楽
世界の車窓から
44/68

魔獣探索紀行

鉄道で旅するヤオ。その行く手に待つのは?

 時空神が新名に替わってから百年の月日が経過した。

 世界は、輝石魔術と言う、技術的に習得できる魔法の誕生と、それを動力源にした機械技術の発展により、大きく変貌しようとしていた。

 そして、新技術の機関車を用いるトウヨコ鉄道が、ワーレル大陸にその線路を張り巡らせて居た。



「今回はローレン線を、砂漠の街、シオアスに向かう車窓から」

 ヤオが口で言った事を紙に書きとめている。

『それ、止めんか?』

 嫌そうな白牙の言葉に、ヤオが首を横に振る。

「こうしないと雰囲気出ないの。今は昔と違ってお金が無いと、本当に何も出来ないから、こうやってトウヨコ電鉄がスポンサーになっている、アドマチック出版の機関車の旅を推奨する雑誌『世界の車窓から』の原稿書いて、小金を稼がないと」

 そう言いながらも、車窓から見える風景を、意外にも綺麗な言葉に変えていくヤオ。

『しかし、この頃魔獣が多いな?』

 諦めた様子の白牙の言葉にヤオが頷く。

「本当に困ったもんだよ」

 白牙も頷く。

『ああ、百年前の神々の戦いで破れたり、傷を負った神の欠片や、桃暖風の気まぐれによる、邪神との対決で受肉した肉体の欠片等が、百年という歳月を経て、魔獣化しているらしいからな。狼打とこないだ会ったが、愚痴っていたぞ』

「あちきとしても、無視するわけ行かない、だから次のシオアスに行くんだけどね」

 肩を竦めるヤオの言葉に、白牙が言う。

『砂漠の命とも言って良い水場に住む魔獣だったな?』

 頷くヤオ。

「そう、竜の魔獣。一説には、前の海の神の欠片から生まれたって話だよ」

『変では、ないか?』

 白牙の言葉をあっさり肯定するヤオ。

「そう、変だけど、あちきの知覚にも、海の神の力を感じるよ」

『何か裏がありそうだな』



 シオアスに着いたヤオを待っていたのは、水不足で騒ぐ住民だった。

「行政は、何をやっているんだ!」

「早く魔獣を滅ぼせ!」

「俺達を干乾びさせるつもりか!」

 ヤオは頬をかいて言う。

「なんか大変な事に成ってるね」

 頷く白牙。

『急いで現場に行った方が良いな』

 ヤオは首を横に振る。

「先に原稿を出してくる」

 そういって、トウヨコ鉄道の駅にある、アドマチック出版用の投函箱に走っていく。

『あの性格は、二百才を越しても、治らなかったな』

 大きく溜息を吐く白牙であった。



 問題の水場では、竜が町の人間と争っていた。

『ここは、わたさん!』

 竜の動きに合わせ、水が、攻撃を仕掛け、男達をあっさり弾き飛ばし、戦闘を終了してしまう。

「覚えてろよ!」

 去っていく町の人たち。

『助けなくて、良かったのか?』

 白牙の言葉にヤオが頷く。

「だって、状況解らないし、第一、あんな直ぐに退散する人達を、どう助けろって言うの?」

 白牙もそれには頷く。

 そしてヤオは、その竜の前に立って言う。

「貴方のお名前、何て言うの?」

『礼儀も知らない小娘だな。そんな小娘に教える名など無い!』

 ヤオは右手を掲げて力を込める、そこに『八』の文字が浮かぶ。

「あちき以外に、『八』を刻んだ者は居ないと思うよ」

 その一言に竜が驚き、動きを止めて言う。

『初めてお会い致します。私の名は水流操竜スイリュウソウリュウと申します。元々は、海に居ましたが、私の力で、この水場の水を無駄なく循環させれば、人助けに成ると頼まれて、ここに来ました』

 白牙が小さなテレパシーで言う。

『魔獣とは、そう言うものなのか?』

 実は、生まれはヤオと大差ない白牙は、力こそあるが、若い魔獣だったりする。

「海の海流を操る魔獣は結構いるんだけど、一番の原因は新しい海の神様でしょ?」

 ヤオの言葉に水流操竜が頷く。

『よくお解かりで。いまの海の神様はチャラチャラし過ぎです。ギャンブルなど海の男には、必要ないのです!』

 強い主張に、白牙が視線でヤオに問いかけるが、ヤオは敢えて無視して話を続ける。

「その貴方が、どうしてここで暴れているの?」

 水流操竜は、激しい動きを再開させる。

『問題はそこなのです! やって来てみれば、私の力を悪用して、水をこの町だけで独占しようとしていたのです! そんな無法は許されません!』

 白牙が、再び視線で話しかけるので、ヤオが諦めて小さなテレパシーで答える。

『前の海の神様って凄いストイックで、仁義に厳しい神様だったの。その反動で今の海の神様に、あれが選ばれたの』

 白牙が納得できない表情だが、渋々頷く。

「つまり、嘘つかれたから帰りたいけど、砂漠の真ん中からは、自分ひとりでは帰れないって訳ね?」

 ヤオの言葉に水流操竜が大きく首を縦に振る。

『その通りです。すいませんが、海まで連れて行ってくださいませんか? お礼は必ず致します』

 ヤオが少し悩んでから言う。

「あちきの八百刃獣になれば、その位はできるけどそれでも良い? 当然、一時的な処置だから直ぐ、約定を破棄して、元の魔獣に戻せるよ」

 深く頭を下げる水流操竜。

『ありがとうございます』

 その時、一人の青年がやって来た。

「スイ、海に帰ってしまうのか?」

 水流操竜が困った顔をする。

『すまない。これ以上ここに居ても意味が無いのだ』

 青年が悲しそうな顔をしたが、笑顔で言う。

「今までありがとう。スイが水流を操って水を送ってくれたから、私達の村が救われた。感謝してる。でもこれ以上居たら魔獣倒しの専門家に殺されてしまう。早く海に帰って、平和に暮らしてくれよ」

 水流操竜が暗い顔をして、ヤオの方を向く。

『彼の村を救う術は、ありませんか?』

 ヤオが頬をかく。

「ちなみに、ここの水源って何?」

 水流操竜が答える。

『この水場の底に、古参のお方、水産蛙スイサンア様が居て、周囲の大気から、水を生み出しているのです』

『そいつに、村の所まで移動してもらえばいいだろう?』

 白牙があっさり言うが、水流操竜は首を横に振る。

『それが駄目なのです。長い間じっとしていた為、自分の力では動く事は出来ないのです』

「まー、古参の魔獣だったら、場所に縛られても仕方ないんだけど。ちょっと考えさせて」

 水流操竜にそう断ってから、青年の方を向くヤオ。

「詳しい事情を、説明してくれる?」

 魔獣と対等に話す少女に驚きながらも、青年が説明を開始した。



『結局、このシオアスは、周囲の人間に水を売って暮らしている水売りの街で、それを効率よく行う為、水流操竜を連れてきたが、逆効果になってしまったのだな』

 食堂で、サボテンのサラダを食べながら白牙が言う。

「正直、それほど酷くなければ、無視しても良かったんだけど」

 砂鳥の卵炒めを食べながらヤオは、青年に案内された、幾つかの村の惨状を思い出す。

「あそこまで酷いと、戦争になりかねない。そうなる前に解決しないとね」

『それで、手はあるのか?』

 白牙の問いにヤオが言う。

「水流操竜には、倒されてもらうよ」

 首を傾げる白牙。

『どうして、そうなる?』

 ヤオは、視線を向けずに、後ろに隠れている男をフォークで示す。

「あの時も監視されていた。何かしてたらすぐ気付かれる。今回の事は、町の人間に、知られる訳には行かないからね」



「やーやー、我こそは偉大なる戦いの神の候補者、八百刃なり!」

 町民が見守る中、ヤオが大見得をきる。

『わざとらしいぞ!』

 町民には聞こえない白牙の突っ込みを無視して、水流操竜が言う。

『愚かな町民に雇われたか。いまここで、返り討ちにしてやる!』

 凄まじい水流がヤオに向かって放たれる。

 ヤオは、右手を白牙に向ける。

『八百刃の神名の元に、我が使徒に力を我が力与えん、白牙』

 ヤオの右掌に『八』が浮かび、白牙が刀になる。

 ヤオは、白牙で次々と水流を切り裂き、水流操竜の頭に乗って、宣言する。

「大人しく、私の使徒になるのなら、命だけは助けよう」

『解りました。どうかお命だけはお助けください』

 頷き、ヤオが胸元を開き、両手と並べる。

『八百刃の神名の元に、我が使徒と化さん、水流操竜、水産蛙(小声)』

 ヤオの右掌に『八』、左掌に『百』、胸に『刃』の文字が浮かび上がり、水流操竜がヤオの持つ異空間に吸い込まれる。

 消えていった水流操竜を見て町民から歓声があがった。



 青年の村の近くの、枯れて居た筈の池に、水が溜まり始めていた。

「ありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいのか、解りません」

 そんな村人達にヤオは釘を刺す。

「解ってると思いますけど、独占しようとしたら、場所を移しますからね?」

 村人達は、あっさり頷く。

「解っています。水が無い苦しみは、我々が、一番よく知っているのですから」

 そしてヤオが、池の底に居る水産蛙に話しかける。

「水産蛙さん、使徒としての約定を、解除しますよ!」

 しかし水産蛙からは、意外な返事が返ってきた。

『このまま約定されたままで、結構です』

 首を傾げるヤオ。

「どうしてですか?」

『私は、もう二度と違う景色を見ることが無いと思っていた。しかしこうして違う景色を見られた。私は、常はここに居て、貴方様の呼び出しに答え、違う風景を見てみたいのです。宜しいですか?』

 ヤオは頷く。

「それじゃあ後は、水流操竜を海に連れて行くだけだね」

 ヤオの言葉に、召喚されて、青年と話していた水流操竜が答える。

『私もこの恩を返す為に、貴方の真の使徒として働かせて下さい』

「いいけど、海に戻らなくても良いの?」

 水流操竜は大きく頷く。

『はい。構いません。それでは又会おう』

 ヤオが持つ特殊空間に戻っていく、水流操竜だった。



 そしてヤオの鉄道での、魔獣探しの旅は続くのであったが、一つ、後日談。

「嘘?」

 とある駅でその通知書を受け取ったヤオが愕然とした。

『どうしたヤオ?』

「原稿料、あてにしてたのに!」

 ヤオの手からこぼれた通知書には、シオアスの町が閉鎖される為に、その回の原稿がボツに成った事が書かれていた。

○新八百刃獣



水流操竜スイリュウソウリュウ

水の流れをコントロールする能力を持つ。

金海波の前代の海の神の欠片から生まれた。

仁義にあつい性格をしている。

元ネタ:hiroshi さん(大感謝)



水産蛙スイサンア

大気中より水を生み出す力を持つ、高位の魔獣。

高齢の為、自分の意思では動けない。

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