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戦神神話  作者: 鈴神楽
邪神との乱戦
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邪神大戦の終結

邪神との対決の奥に隠された真実とは?

 ミードス大陸の芸術の街ポリ



「それで、ヤオは大丈夫なの?」

 ヤーリは、ヤオをベッドに寝かせ、元の子猫サイズに戻った白牙に言う。

『解らない。新名に力を渡す前だったら大丈夫だった筈だが、今のヤオでは、貯めている力が殆ど無い。最近の邪神との攻防でも、少なくない力を消耗している。難しい』

 解るように強めたテレパシーの答えに、ヤーリが言う。

「でもヤオは、八百刃様なんでしょ? だったら死なない筈よね?」

 縋るような言葉に、白牙が苛立ちを込めて言う。

『神名者は死なない。ただ滅びるだけだ。安心しろ、ヤオが滅びれば、お前はヤオの事を忘れる。悲しい思いはしないで済む』

「そんな事は関係ない!」

 感情的なヤーリの言葉に、白牙がその爪を突きつける。

『煩い、黙れ! ヤオは残った最後の力で、滅びを回避しようと死力を尽くしている最中だ。邪魔をするなら滅ぼすぞ!』

 その爪にナイフが当たる。

「お嬢様には、危害を加えさせない!」

 サイゾウが現れて、ヤーリを庇う。

「サイゾウ? 何で貴方がここに?」

 戸惑うヤーリの言葉に、サイゾウが答える。

「お嬢様を護る為です」

 その一言でヤーリは全てを理解した。

「つまりあたしは、お父様の掌の上で遊んでいたって事?」

 サイゾウは何も答えない。

『解ったら、ガキはとっとと父親の所に帰れ!』

 白牙がそう言うと、ヤオを凝視して動かない。

 そして、部屋を出て行くヤーリ。



「あたしは、何をしていたのかしら?」

 意気消沈したヤーリの言葉に、必死にフォローするサイゾウ。

「気にする事はありません。また天包布様の信徒に戻れば良いだけです」

 ヤーリはサイゾウを睨む。

「あたしは、八百刃様の信望者を辞めるつもりはない!」

 意外そうな顔をするサイゾウ。

「どうしてですか? お嬢様は、八百刃様の真実の姿を見て、失望なされたのでは無いのですか?」

 ヤーリは首を横に振る。

「あたしの思っていた八百刃様、そう『戦神神話』に載っていた八百刃様とは、確かに違っていたよ。でも、あたしが本当に望んでいた、常に全力で正しい戦いをする者を護る八百刃様は、そこに居たんだよ!」

 サイゾウは何もいえない、彼自身もそれを痛感していたからだ。

「あたしは、あの八百刃様の為に何かしたい。でも何をすれば良いの?」

 サイゾウが答えに困っている時、その目にヤーリの馬車に積まれた『戦神神話』が入る。

「お嬢様、今でしたら本当に正しい『戦神神話』を伝えられますか?」

 ヤーリも『戦神神話』を見る。

 そして強く頷く。

「今だったら出来る」



「よくやったわね、好繋矢。貴方のおかげで八百刃を滅ぼし、紫縛鎖様に近づくことが出来るわ」

 上機嫌な蛍桃瞳。

「喜んで頂けて、大変光栄でございます」

 頭を下げる好繋矢だったが、その表情は激しく暗かった。

 その暗さを悟らせない為、頭を上げない好繋矢。

「紫縛鎖様が、このあたしの為にとってくださった受肉許可を使って、八百刃の止めをさしに行くわよ!」

 嬉しそうに言う蛍桃瞳。

「了解しました」

 平静そうな声を心掛ける好繋矢を連れて、蛍桃瞳はヤオが倒れる、ポリの町に向かうのであった。



 月の光が、ポリの町を照らす中、天から神の声が響き渡る。

『我が名は蛍桃瞳! 恋愛を司る神なり。 今宵、この町は私の加護の元、全ての愛の為の行動を許可する!』

 その声と共に、人々は、今までは秘めていた思いを暴走させた。



「いやー、止めて!」

「好きなんだ、良いだろう!」

「あたしには、他に好きな人が!」

「そんな事は関係ない! 俺の思いを受け取ってくれ!」



「お兄ちゃん、私、前からお兄ちゃんの事を愛してたの!」

「私もだ、妹よ!」



「あたしの恋の邪魔する奴は皆殺しよ!」

「そんな、あたしは、ただ話していただけなのよ」

「うるさい! あの人は私だけのものよ!」



『相変わらず節操が無い奴だな』

 白牙は舌打ちをして、まだ動けないヤオを一瞥したあと、天に居る蛍桃瞳に、向かっていく。



「あら、これは忌みなる獣、白牙じゃないの。まだ殺されていなかったのね?」

 蛍桃瞳の言葉に白牙が本来の姿に戻りながら言う。

『煩いわ! 八百刃様に危害をなそうというなら、相手になるぞ!』

 失笑する蛍桃瞳。

「まさか、使徒単独の力で、神に勝てると思ってるの?」

『やってみなければ、解らん!』

 跳びかかる白牙。

 そこに好繋矢の矢が飛んでくる。

『何度やっても同じだ!』

 白牙が前回同様、弾こうとしたが、逆に白牙の爪が弾かれる。

「前回と同じと思わないで下さい。今の私は、蛍桃瞳様の力を受けています。貴方にも、負けません」

 白牙が歯軋りをする。

「忌みなる獣と言っても、所詮は魔獣。神の力の前では無力なのよ」

 高笑いをあげる蛍桃瞳。

 圧倒的な不利な状況でも、白牙は少ないチャンスを掴む為に、必死に攻撃をするが、その攻撃は全て、好繋矢の矢で弾かれる。

「真名様すら滅ぼした魔獣も、これで御終いね!」

 蛍桃瞳が高らかに宣言した時、その声がした。

『八百刃の神名の元に、我が使徒に力を我が力与えん、白牙』

 白牙はその呪文に答えて、刀の姿になり、宿屋の屋根に居たヤオの右手に収まる。

 驚愕する蛍桃瞳。

「どうして? 貴女は白牙の牙のダメージで、動けない筈じゃ?」

 ヤオは下を指差す。

 蛍桃瞳と好繋矢が下を見ると、先程までの無秩序な行動が、愛の為に全力で、大切な人を護る戦いに、変って居た。

「どういう事?」

 困惑する蛍桃瞳に対して、ヤオがあっさり答える。

「はっきり言えば自爆だよ。愛の為に戦うのは正しい戦い。蛍桃瞳がした愛の暴走が、暴走して愛する人を傷つける対戦相手と、その暴走から愛する人間を護る、あちきの力になる正しい戦い手を、無数に生み出したんだよ」

 信じられない蛍桃瞳。

「馬鹿いわないで! 愛の為に動いているのよ、即座に奇麗事に成る訳が無い!」

 ヤオが苦笑する。

「そうだね、何もなければ暴走だけが、起こっていたかもね。でも、あちきの信望者が正しい戦いを、焚きつけてんだよ」



「貴方たちのもっとも大切な者は何ですか? 今こそ、それを護るんです!」

 『戦神神話』片手に必死に語りかけるヤーリと、そのヤーリを必死に護るサイゾウ。

 その意思を、ヤオは強い信望心として受け取り、復活したのだ。



「愛するものを護る為に戦っている人たちの為にも、あちきは貴女を倒す!」

 両手を天に向けるヤオ。

『八百刃の神名の元に、我が使徒を召喚せん、天道龍』

 ヤオの右掌に『八』、左掌に『百』が浮かび、天に巨大な竜、天道龍が現れる。

 ヤオはその頭に乗って、蛍桃瞳に接近する。

「こんな馬鹿な事があって良い訳無い! あたしと紫縛鎖様の恋を邪魔するものは、残らず消えないといけないのよ!」

 蛍桃瞳は、その力を好繋矢に注ぎ込む。

「好繋矢! あたしの愛の力を思い知らせてあげなさい!」

 好繋矢は頷き、自分の存在する力、全てを追加して矢を射る。

 ヤオは苦笑する。

「その力借りるよ!」

 ヤオは天道龍に右掌を向ける。

『八百刃の神名の元に、我が使徒に力を我が力与えん、天道龍』

 天道龍はヤオの力を得て、空中で円を描く。

「引っ張り出すよ、紫縛鎖を!」

 ヤオは、蛍桃瞳の紫縛鎖を思う愛の力と、好繋矢の矢に秘められた縁を結びつける力を使って、天道龍の作った時空の穴から、紫縛鎖を呼び出した。

 しかしその時、天道龍の作る穴に強大な力が通り抜けようとして、時空自体に歪みが発生する。

 そして、その場に居た全てのものが弾き飛ばされた。



「ここって時空の狭間?」

 ヤオは上下すら定まらない場所で、手に持っていた白牙とも別れて、独り立っていた。

『そして、どんな存在も干渉出来ない場所』

 その言葉にヤオは振り返ると、そこには桃暖風が居た。

「貴女がついて来てたのですね? それでは、天道龍が作る穴が壊れる筈です」

 肩を竦めるヤオ。

『全ては予定通りです。紫縛鎖による八百刃の抹消指令から始まり、全ては、この会合の為に行われし事です』

 桃暖風の言葉にヤオが真剣な顔になる。

「全ては、この場所で、私と話すために計画された事だと言うのですか、影の時空神、実名ミナ様?」

『やはり、貴女は気付いていたのですね。私がこの世界の核を形成する、もう一人の時空神だという事に』

 ヤオは頷く。

「前々から疑問に思っていました。この世界を形成する時空神が代替わりすると言うのに、この世界の連続性は維持されたままだと言う、異常性に。そして、真名様との対決で、実名様がこの世界の核を形成している事をしりました。だからこそ新名に、時空神の仕事を引き継がせました」

 頷く実名。

『貴女のその判断には、感謝します。そしてこの世界の真実も知ってもらおうと思います。この世界は、神々育成システムでしかありません。この世界で滅びたといわれる神は、実際には、本来の神の仕事ついているだけなのです』

 ヤオが頷く。

「そんな気がしていました。神が人々の意思から生み出されるこの世界の仕組みは、始点と終点が逆転したおかしな物です。始めから神々の育成為だけに存在するのであれば、合点が行きます」

『そしてこの世界の役目は終わりつつあります。最後にして最大の目的、八百刃という戦神を生み出す事に因って、終焉するでしょう』

 その実名の言葉にはヤオも驚く。

「どういうことですか?」

 実名が淡々と語る。

『そのままの意味です。戦いと言う何かを生み出すために、何かを壊す行為を正しい意味で司る神を生み出す、それこそがこの世界の最大の目的。幾多の戦神が生まれましたが、大半の者が邪神となり、そして残ったものも、不完全な状態で戦神となっていきました。その為に、何度も神々の世代交代を行わせて、世界の在り方を変えて来ました。貴女はその結果で生み出される、最高の戦神なのです』

 ヤオは蒼貫槍や白牙の元になった戦神の事を思い言う。

「私一人の力でここまでなった訳ではありません。数多の戦神の努力の末の結果だと考えます」

 実名が微笑み言う。

『そう言う貴方だからこそ、真の戦神に成れるのでしょう。先程も言いましたが、この世界は貴女が神になった時、終焉を迎えます』

 その言葉にヤオは重みを感じた。

「詰り、私が神になった瞬間、この世界が無くなると言うのですか?」

 実名は頷く。

『同時に、別の世界で生まれた、唯一の神である私も、滅びる事になるでしょう』

 ヤオの顔に悲しみが走ると、実名は苦笑する。

『悲しむ事はありません。私は嬉しいのです。私はこの世界では思うように動く事は出来ませんでした。ようやく開放されるのです。しかし貴女はこの世界を無くさない為に、神に成る事を拒む時が来るとも思っています。その時の為に言っておきます。貴女は必要されているのです。世界の壁を無視して、下位の世界を荒らす存在が多数居ます。そんな存在を制御する為に、貴女が必要なのです。ですから時間がかかっても構いません、しかし正しい戦神に成ってください。そうでなければ、この世界の意味が無くなります。どうかお願いします』

 頭を下げる実名。

 ヤオは何も答えない。

『もう直ぐ、元の世界に戻ります。解っていると思いますが、ここでの話は他言無用です』

 ヤオはそれにだけは、頷いた。



『結局どうなったんだ?』

 疲れ果てて、だれている白牙が言う。

「桃暖風の飽きたの一言で、あちきの襲撃は終了。本当に身勝手な邪神だよね」

 ヤオは白牙を肩に乗せて、歩いていた。

「ヤーリ達、無事家に帰れると良いね?」

『あのサイゾウが居る限り、大丈夫だろう』

 白牙の言葉に頷くヤオ。

「それじゃあ、次は何処に行きますか?」

『そんな事より、早く信望を集めて、神に成る方法を考えろ!』

 耳元で怒鳴る白牙に対して、ヤオは能天気に言う。

「急がない急がない。一日一歩、三日で三歩、三歩進んで二歩戻るっていう言葉があるくらいなんだから、ゆっくり行こうよ」

『戻ってどうするんだ!』

 怒鳴る白牙を気にせず、ヤオは歩み続ける。

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