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戦神神話  作者: 鈴神楽
邪神との乱戦
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純愛の矢が番えられる時、八百刃倒れる

戦って勝てる者は居ないと言われる八百刃。しかしその八百刃を破れる時が来た

 ミードス大陸の芸術の街ポリ



 神の世界の最深部で、何時もの様に桃暖風はごろごろしていた。

「それで、次の刺客見つかった?」

 桃暖風の言葉に、紫縛鎖が言う。

「すいません。なかなか見つかりません」

 その時、一人の少女の姿をした邪神が入ってくる。

「紫縛鎖様、その役目を蛍桃瞳ケイトウドウにお任せください」

 面倒そうに紫縛鎖が言う。

「またお前か。恋愛を司るお前に、八百刃が滅ぼせる筈が無かろう」

 蛍桃瞳が必死に言う。

「大丈夫です。私は、八百刃を良く知っています。当然、弱点も!」

 少しの思考の後、紫縛鎖が言う。

「本当か?」

 大きく頷く蛍桃瞳。

「解った。受肉の為の処理をしよう」

 紫縛鎖の言葉に頭を下げる蛍桃瞳。

「ありがたき幸せ」



「なんか反応が変なんだけど、どうしてかしら」

 食堂で休憩しているヤーリに、手がある程度治ったので、手伝っていたヤオが言う。

「ここは、芸術が盛んで、『戦神神話』もどちらかというと、小説と思われているみたいですよ」

 ヤーリが机を叩く。

「馬鹿言わないで! 『戦神神話』に書かれている事は、全部真実よ!」

 白牙が苦笑をしながら言う。

『脚色が多分に、含まれているがな』

 白牙の言葉が聞こえないヤーリは立ち上がる。

「とにかく、『戦神神話』を配布してくるから、ヤオも少し休んだら来るのよ!」

 ヤーリはそう言って出て行く。

『あの娘も、少しは変って来たな』

 白牙の言葉にヤオが言う。

「何度も『戦神神話』を読み返してる。そして親の加護の外に出て、本当の世界に触れてる。もう少ししたら、『戦神神話』の真実にも気付くよ」

 ヤオの言葉に白牙が言う。

『その時が、別れの時か?』

 ヤオは首を横に振る。

「うんにゃ。もうお別れだよ。ほら迎えが来た」

 ヤオが視線を向けた所に、一人の美形の男性が居た。

「お久しぶりで八百刃様」

 頭をさげるその男に、ヤオは手を振る。

「おひさしぶり、貴方の主、蛍桃瞳は元気にしてる?」

 その言葉に、苦笑して頷く、蛍桃瞳の使徒、好繋矢コウケイヤ

「問題は、八百刃様を滅ぼす仕事を、請けた事です」

 白牙が溜息を吐きながら言う。

『相変わらず、紫縛鎖に惚れてるのか?』

 白牙の問いに好繋矢が頷く。

「他の邪神様が、八百刃様の相手をするのを畏怖しているのを、チャンスとばかりに、自分から売り込んでいました」

 大きく溜息を吐くヤオ。

「どうして、止めないの?」

 好繋矢は顔を赤くして言う。

「あれ程、嬉しそうな蛍桃瞳様を、お止めするなんて、出来ません」

 呆れた顔をするヤオ。

「使徒と神が良い仲になるのって、この頃の流行?」

『よしてくれ、それだとヤオと良い仲にならないといけなくなる』

 白牙も呆れた表情で言う。

「厚かましいお願いだと思いますが、どうか蛍桃瞳様を被害が小さい状態で、追い返すようにして下さい」

 頭を下げてくる好繋矢に、ヤオが頷く。

「了解。蛍桃瞳が来ても、適当にあしらってあげる」

「感謝の言葉もありません」

 好繋矢が何度も頭を下げる。

 好繋矢が去った後、ヤオが言う。

「今夜、言うよ。これ以上ヤーリを巻き込む訳には行かないからね」



「ちょっと、それじゃあ、やめるって言うの?」

 夕食の席でヤオが言うと、ヤーリは驚いた顔をして、メインデッシュのステーキ(自分だけでヤオは、ゆで卵一つ)を床に落としながら言う。

「うん。新しい護衛を雇うまで一緒に居るけど、決まった時点でお別れだよ」

 ヤーリが信じられないって表情になる。

「何で? まさか、ゆで卵一つってのが、気に入らないの?」

 ヤオは少し考えてから言う。

「それもあるけど」

『飢え死にするより、ましだと思うぞ』

 白牙の突っ込みは、無視してヤオは続ける。

「ヤーリもそろそろ気付いたんじゃない? 山の様に『戦神神話』が有ったとしても、本当意味では、読めていないって事に」

 ヤーリが自分の後ろにある『戦神神話』の山を見る。

「自分が読むのには、一冊あれば良い。そしてそれを伝えるのにも」

 ヤオの言葉に、ヤーリがゆっくり頷く。

「そうだよね。こんなやり方、八百刃様の考えから外れるよね。あたしは、何でも手に入れられていた。『戦神神話』を初めて見たとき、感動したの。力も何も無い人を助けてくれる救世主。きっとあたしは、八百刃様も手に入れたかったんだと思う。でも読めば読むほど、違和感が出てきた。八百刃様は、何で最後の最後まで助けてくれないのか? 八百刃様がこの『戦神神話』にある様な力を持っているんだったら、もっと早く助けてあげればいいんじゃないかって」

 ヤオが苦笑する。

「そうやって考える事が大切なんだよ。『戦神神話』の内容が合ってる、間違ってるじゃなくってね。それを読んだ自分が、どうしたいか、もう一度考える必要があるんだと思うよ」

 ヤーリは背伸びをして言う。

「あたし、一度お父さんの所に帰る。そして、これを書いたニュームスさんに会ってじっくり話してみる」

 頷くヤオ。

「そこまで解ってるんだったら、もうお別れだね。サイゾウ、後はお願いね」

 立ち上がるヤオ。

「また何処かで会える?」

 ヤーリの言葉にヤオが答える。

「ヤーリが正しい戦いをしてれば、何時か会えるよ」

 その時、ドアが開き、好繋矢が入って来て、弓矢を向ける。

「なんのつもり?」

 辛そうな顔で好繋矢が言う。

「蛍桃瞳様が、紫縛鎖様と約束してしまったのです。貴女を滅ぼせなかったら時は、自分の神の力を、全て差し出すと」

 大きく溜息を吐くヤオ。

「相変わらず、命懸けで、恋愛してるわ」

『本当にな』

 白牙も同意しながらも、ヤオの前に出る。

「ヤオ知り合い?」

 ヤーリの言葉に、ヤオが困った顔をした時、好繋矢が言う。

「やはり知らなかったようですね。その御方が八百刃様だと言う事に」

 爆笑するヤーリ。

「冗談も休み休み言ってよ、何で戦神候補の八百刃様が、卵料理食べたいと縋りつくヤオな訳?」

 真面目な顔で好繋矢が答える。

「八百刃様は、前の主神、真名様を滅ぼした後、新たな主神、新名様にその力の大半を譲ったのです。その為、いまの八百刃様は人と同じ食事をしなければならない程、力が落ちているのです」

 ヤーリが必死に反論する。

「冗談じゃない! 神名者が食事をしたい為だけに『戦神神話』を配るなんて変でしょ!」

 その言葉に、ヤオも白牙もそっぽを向くが、好繋矢が懐かしむ表情で言う。

「昔からそういう御方でした。信望者から寄進を拒み、お金を貰うのも自ら動いた時のみ。自分はあくまで象徴とし、最後の最後まで自力で戦う者を、例え信望者でなくても助ける。真の意味での正しい戦いの護り手。その高尚さ故に、他の神や神名者から嫌われて、金運を無くされ、苦労なされている尊い御方です」

『何か凄く持ち上げられていないか?』

 白牙の呟きに、ヤオが頬をかきながら言う。

「色々と世話してるからね」

『そういえばそうだったな。最初に会ったのも、蛍桃瞳と一緒に居て、蛍桃瞳に一目惚れした挙句、使徒になった奴だったな』

 白牙が過去を思い出すように呟いた。

 ヤーリが意外そうな顔をしてヤオを見る。

「嘘だよね?」

 縋る思いで呟くヤーリに、ヤオが首を横に振る。

「本当の事だよ」

 その場に崩れ落ちるヤーリ。

「そんな、あたしが信じようとしていた存在が、卵一つで泣いたり笑ったりする、ガキだなんて」

『心底、ショックだろうな』

 白牙が溜息を吐く。

 そんなヤーリを無視して好繋矢が矢を射る。

 ヤオは大きく避けると、その後方では大きな穴が開く。

「勝てると思ってるの?」

 ヤオの言葉に、好繋矢は意外にも大きく頷く。

「はい。今の私でしたら勝てます。私は自分の大切な者を護る為に戦っています。正しき戦いの護り手、八百刃様が正しき戦いをする者に危害を加えられる訳がありません」

 ヤオが渋々頷く。

「そうだね」

 しかしそんなヤオの前に白牙が出る。

『だからこそ我等、八百刃獣が居るのだ!』

 宣言と同時に、白牙は、人を一飲み出来るサイズの虎に変化する。

「白牙、殺しちゃ駄目だよ!」

 ヤオの言葉に、白牙が首を横に振る。

『前までとは違う。最後の力まで振り絞ってくるだろう。それを打ち砕くしか、勝利は無い!』

 ヤオが真剣な顔で断言する。

「勝利は必要ないよ。例え何度も襲われる事になっても、相手を滅ぼす事だけを求める様では、あちきの存在の意味が無くなるよ!」

 白牙がヤオの目を見て言う。

『お前は自分の価値を解っていない。お前は何があっても、滅びてはいけない存在なのだ。万が一にもお前が滅びれば、神々のバランスが失われるぞ』

 ヤオが苦々しい顔をするが、はっきり言う。

「それでも、あちきは、あちきが選んだ道を行く。それから外れるんだったら、貴方との付き合いも、ここまでだよ」

「八百刃様のその高尚なお考え、素晴らしいと存じますが、我々は清水だけでは暮らせていけません。そして私は、蛍桃瞳様が居ない世界など必要としません」

 次々と、精神を打ち砕く矢を射る好繋矢。

 白牙はそれらをその爪で叩き砕き、一気に跳びかかる。

 必死に矢を射る好繋矢だったが、最初から相手にはなっていなかった。

 床に押し付けられる好繋矢。

『襲撃を止めると言えば、我の象徴たる白い牙を、その身に受けずに済むぞ』

 白牙の言葉に、好繋矢が首を横に振る。

「例え届かなくても、自分の全力を注ぎ続ける。それが真実の愛です」

 揺るぎの無い瞳に、白牙が諦めた表情になる。

『ならば、滅びるが良い』

 大きく口を開けて噛みついた。



 好繋矢は呆然としていた。

『ヤオ、何でこんな事をした!』

 白牙は、自ら白牙の牙の前に腕を突き出したヤオを怒鳴る。

「当然だよ、あちきは正しき戦いの護り手。好繋矢が正しい戦いをしているのだったら、護らないといけないの」

 ヤオの噛まれた右腕が、激しく震える。

『お前を滅ぼそうとした奴だぞ!』

 白牙の言葉に、ヤオが苦笑する。

「そんな事は関係ないんだよ」

 ヤオは最後の力を使って、好繋矢に言う。

「今は、逃げなさい。貴方の力では白牙は越えられない。手段を考えて、またやり直しなさい」

 好繋矢が何とか答える。

「しかし、それでは蛍桃瞳様が……」

 ヤオは怒鳴る。

「ここで貴方が滅びても、蛍桃瞳が滅びるのが止まる訳じゃない。大切な者を護る為にだったら、敗北を受け入れる強さも必要だって事を知りなさい!」

 好繋矢が拳を握り締めて頷く。

「蛍桃瞳様の次に、尊敬させてもらいます」

 そのまま消えていく好繋矢。

 そして倒れるヤオ。

『ヤオ!』

 白牙が慌てて駆け寄る様子を、ただ見ていたヤーリが呟く。

「これが本当の八百刃様? 全然『戦神神話』と違うじゃない」

 その呟きに答える者は居ない。

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