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戦神神話  作者: 鈴神楽
邪神との乱戦
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激闘、リングでバトル

強大な力を持つ邪神、紅炎甲との一対一の直接対決の時が来た

 ミードス大陸の武術の街ガーラメ



 紅炎甲の信徒が、必死に対戦の舞台を作っているのを見ながら、ヤーリが言う。

「問題の武術を司る邪神、紅炎甲はどうしたの!」

 ヤオは肩を竦めながら答える。

「まだ来ていないみたいですよ」

「人を呼んどいて、まだ来てないなんて、いい度胸してるじゃない!」

 いきりたつヤーリ。

「呼ばれた方も、呼んだ方も人間じゃないぞ」

 狼打が現れ、突っ込みを入れる。

「貴方、誰?」

 ヤーリの言葉にヤオが答える。

「あちきの知り合いで、元、冒険者のローダ」

 狼打の服装から、時空神、新名の信者と見て、ヤーリが言う。

「新名の信者ね!」

 狼打は首を横に振る。

「俺はこれでも八百刃様の信望者だぞ。今は新名の手助けをしてるがな。それも、八百刃様の教えに従ってだ」

 胸を張る新名の第一使徒。

 白牙が溜息を吐く。

『新名の使徒が、ヤオの信望者と名乗るのは問題だぞ』

 狼打は平然と答える。

「自分の信義は、状況で左右されるものではない」

 狼打の自信たっぷりの言葉に、ヤーリが頷く。

「そうよね、それをヤオにも教えてあげてよ」

 狼打とヤオが視線で会話する。

 複雑な会話の結果、狼打が話を変える事になった。

「調べたんだが、紅炎甲の受肉申請処理が、何故か一週間程、停滞していたらしい」

 ヤオが手を叩き言う。

「なるほど、桃暖風が、紫縛鎖とエッチしていて、進行してなかったな」

 ヤーリが強く反論する。

「一週間って言ってたじゃない、到底出来ないわよ」

 悟りきった顔でヤオが指を振る。

「相手は高位の邪神だよ、人間と一緒と考えないで。あちきは、一年以上エッチしてた事があるって聞いた事あるよ。それも休憩無しの連続で!」

 ヤーリも言葉を無くす。

「何で休憩無しだって解るんだ?」

 狼打の当然な質問にヤオが普通に答える。

「桃暖風は、一度中断すると、そのままあきるから、その後は、続かないって話だよ」

「本気で面倒な邪神だな」

 呆れた顔の狼打の言葉に、強く頷くヤオ。



 二日後、昨日の内に完成したリングの中央に、紅炎甲が現れる。

「八百刃、来ているか!」

 紅炎甲の言葉に誰も答えない。

「そうよ、八百刃様が来て無いじゃん」

 ヤーリが大金払って確保した最前席に座りながら文句を吐く。



『紅炎甲が来た見たいだぞ』

 白牙が『戦神神話』を配るヤオに言う。

「それがどうかしたの?」

 箱から『戦神神話』を取り出しながら、尋ね返すヤオ。

『いや、お前がこんな勝負を気にするわけ無いな』

 つまらない事を聞いたという顔をした白牙に、強く頷くヤオ。

「無駄な争いは駄目って事だよ。平和が一番。戦争反対、人類皆兄弟だよ」

 そうのたまう戦神候補に、激しく問題を感じる白牙であったが、気にしない事にした。



「結局、八百刃様現れなかったのよ」

 ヤーリが食堂で愚痴る。

 ヤオは、頑張ったおかげで頼んでもらった卵料理を、じっくり味わっていた。

「まー、八百刃様も色々忙しいだと思いますよ」

『そうだな、食事の為に必死に『戦神神話』を配ってたな』

 白牙の突っ込みは当然、ヤーリには聞こえない。

「それにしても勝負を挑まれたんだよ? 戦神候補としては受けないのは、おかしくない?」

 不満気なヤーリに対してヤオが言う。

「八百刃様は正しい戦いの護り手だよ。自分主体の戦いなんて、する訳ないじゃん」

 少し悩むヤーリ。

「理屈は解るけど、それでも逃げるのって、かっこよくないよ」

 あくまで感情論のヤーリを置いて、一人、夕食を楽しむヤオであった。



 一週間、紅炎甲は雨の日も風の日も、ひたすら八百刃を待っていた。

 その結果、ずっとリングサイドで待っていたヤーリが風邪でダウンした。

「もー、雨の中ずっと待ってるなんて、馬鹿だよ」

 ヤオが看病しながら注意する。

「でも、あたしが戻ってる時に、八百刃様が来たら、一生後悔するもん。行かないと」

 ヤオは、起き上がろうとするヤーリに、当て身を食らわせ、意識を失わせる。

「サイゾウすまないけど、暫くお願い。あちきは、決着つけて来る」

 ヤオの言葉に、何処からとも無くサイゾウが現れて頷く。

『やるのか?』

 白牙の言葉に困った顔をするヤオ。

「まさか。あちきは、平和主義者の戦神候補よ、話し合いで解決するつもりだよ」

 そしてヤオは、紅炎甲が待つリングに向かうのであった。



「待ちくたびれたぞ、八百刃!」

 紅炎甲の一言にヤオが言う。

「随分、短気な神様だねー」

 腕につけた手甲から炎を噴出して、紅炎甲が言う。

「そんな安い挑発に誰が乗るか!」

 ヤオは呆れた表情になる。

「炎を噴出して言っても、説得力は無いよ」

「煩い!」

 リング全体に、人間ならば瞬時に焼き殺す炎が満ちる。

 ヤオがリング内に入ると、ヤオの周りは炎に包まれた。

「見よ! この圧倒的な力」

 勝ち誇る紅炎甲に、ヤオは大きく溜息を吐く。

「何で、当然な事で勝ち誇ってるんですか?」

 ヤオの冷静な突っ込みに、戸惑う紅炎甲。

「あちきは、神名者。貴方は、現役の神様。能力が上なのは当然でしょ」

 何も言い返せない紅炎甲だった。

 ヤオはそんな紅炎甲に言う。

「貴方は蒼貫槍の仇討ちみたいに言ってるけど、冗談は止めて。あれは蒼貫槍とあちきの戦いだった。貴方にとやかく言われる筋合いは、全くないよ」

 その一言に、やっと自分の意見を言えると、喋り始める紅炎甲。

「神名者が神に勝てるのが、どだいおかしいのだ! お前が卑怯な事をしたに決まっている!」

 ヤオは少しだけ困った顔をする。

「やっぱり貴方は、戦いと武術の試合を混合してる」

「一緒だ! 強きものが勝つ、それだけだ! いざ尋常に勝負!」

 爆炎の弾を放つ紅炎甲。

 爆炎の弾は、リングを縦横無尽に駆け巡る。

 ヤオは両手を前に向ける。

『八百刃の神名の元に、我が使徒を召喚せん、炎翼鳥』

 ヤオの右掌に『八』、左掌に『百』が浮かび上がり、目の前に炎の翼を持った鳥の魔獣、炎翼鳥が現れる。

 そのまま、ヤオは右手を炎翼鳥に向けて唱え続ける。

『八百刃の神名の元に、我が使徒に力を我が力与えん、炎翼鳥』

 次の瞬間、炎翼鳥は、真っ赤な炎を噴出す盾に変化する。

「そんなちんけな盾で、我が攻撃を防げると思ってか!」

 そう怒鳴りながら、次々と爆炎攻撃を繰り出す、紅炎甲。

 ヤオはそれを炎翼鳥の盾で逸らしていく。

 リング上を巡る爆炎の弾は、加速的に増えていく。

「何時まで避け続けられるかな? 幾ら神名者と言え、我が生み出した爆炎の直撃を食らい続ければ、滅びるしかあるまい!」

 その時、爆炎が、紅炎甲の自身を護る障壁にぶつかる。

 眉を顰める紅炎甲。

「馬鹿な我が力で生み出した爆炎が、我に害をなせる訳が無い!」

 しかし、爆炎の弾は連続して、紅炎甲に害をなす物を防ぐ障壁に、ぶつかっていく。

 ヤオは爆炎の弾を逸らしながら言う。

「別に難しい事じゃないよ、あちきが爆炎をそらすときに、炎翼鳥の力を爆炎に付加したの。微々たる力だけど、それでもその爆炎は貴方だけの力で維持された、貴方に無害な爆炎の弾では無くなったんだよ」

 その言葉に紅炎甲が言葉を無くす。

 自分の周りには、八百刃を逃がさないために張った強固な結界で、跳ね返され続ける爆炎の弾が、無数存在していた。

 そしてその大半が、炎翼鳥の力を付加された、自分に害なす力なのだから。

 慌てて、消しにかかるが、自分に害なす存在になった爆炎の弾は、コントロールを受け付けなくなっていた。

「……馬鹿な」

 そうこう言っている間に、爆炎の弾はどんどん紅炎甲の障壁に当たっては、弾かれ消滅していく。

 当然、ヤオのところにも爆炎の弾が襲い掛かるが、ヤオはそれに炎翼鳥の盾で逸らして、紅炎甲に向かわせる。

 そして遂に、障壁が打ち破れる。

「信じんぞ!」

 無数のとも思える爆炎の弾が、紅炎甲に襲い掛かる。



 紅炎甲の結界が無くなったリング。

 その中心には、焼け焦げた紅炎甲の死体があった。

「長く生きた邪神がこの程度で滅びはしないでしょ」

 ヤオの言葉の正しさを示すように、赤く輝く紅炎甲が姿を現す。

『姑息なマネを!』

 それに対してヤオが答える。

「これが戦いと武術の試合の違いだよ。武術の試合は、相手を上回ることが目的だけど、戦いは、相手に勝つことが目的。だから勝てれば、相手より弱くても、全く問題ないんだよ」

 悔しげな顔で紅炎甲が言う。

『覚えておけ! この借りはきっと返すぞ!』

 消えていく紅炎甲に、手を振るヤオ。

「もう二度と来ないでね」

『楽勝だな?』

 白牙の言葉にヤオは両手を見せる。

「暫く使い物にならないよ」

 ヤオの両手は、真っ黒にこげて居た。

 元の姿に戻った炎翼鳥も、三周り位小さくなっていた。

『強かったのだな』

 しみじみと呟く白牙にヤオが答える。

「当然の事を言わないでよ、相手は武術の邪神だよ、神名者が犠牲無しに、勝てる相手じゃないよ」



「それで、八百刃様と紅炎甲の戦いの影響で、両手が使えなくなったから『戦神神話』の配布が出来ないって言うの?」

 ベッドの上のヤーリが、射抜きそうな視線でヤオを見る。

「えーと、口で銜えて配って良いんだったら、可能かと」

 ヤオが視線をずらしながら答える。

「そんな失礼な事が出来る訳ないじゃない! 貴方のご飯は、パンとミルクだけね!」

 ヤーリの痛烈な一言に、ヤオが青くなる。

「せめて古い奴で良いんで、卵一個位お願いします!」

 哀願するヤオに、ヤーリはそっぽを向き相手にしない。

「駄目ったら駄目! あたしをほっといて、八百刃様にあった罰よ!」

 ヤオの卵なし生活は、それから一ヶ月続くのであった。

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