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戦神神話  作者: 鈴神楽
神々の世代交代
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炎翼鳥が護る国

炎の翼を持つ巨大な鳥に護られた国、そこを襲う邪神の業、そして

 ローランス大陸の小国バードス王国の首都バードラン



「しかし、それだけの持ち合わせでよく旅できたな」

 ローダの言葉に遠い目をしてヤオが言う。

「意外と人間は自然の中では、何とかなるもんです」

 そんなヤオを呆れた視線で見ながら白牙がテレパシーを送る。

『金が無いから、自然に生えてる草や茸を食べたり、自分で狩猟してるってはっきり言え』

 ちなみに、狩った得物の皮をなめして売るのが、ヤオの主な旅費になる。

「まー小国とは言え、首都だ、働き口くらい幾らでもあるだろう。盗賊の上前をはねるなんて事してないで真面目に働けよ」

 前の村を出るローダが、ヤオの懐具合を心配して聞き、愕然とされ、首都までの旅費を奢って貰ったヤオ。

「えーと、前回の食堂の件と良い、必ずこのお礼はします」

 ローダは手を振り言う。

「気にするな、それより特に急ぎの用事は、無いだろ?」

 ヤオが頷くとローダが続ける。

「これからちょっと城に行くんだが、良いか?」

「別に構いませんけど、城にお知り合いでも居るんですか?」

 ローダが山賊に頭から取り返した宝玉を見せる。

「これを返す相手が居るんだよ」

『なるほどな、王宮の人間が関わっていたとなれば、レアなマジックアイテムがあってもおかしくないな』

 白牙が独り納得する。



 ローダ達は、城に入り、控え室で待たされる。

「そーいえば、お前魔法使えるのか?」

 ヤオが少し困った顔をすると白牙が突っ込む。

『流石に、旅費を恵んだ相手が自分の信望する八百刃様だって告げるのは、酷だと思うぞ』

「えーと、魔法みたいな物で、一種の特殊能力だって思ってください」

 ヤオは、ごまかす。

「ふーん。特殊能力者か、それで旅してるのか?」

 勝手に誤解してくれているので、ヤオが頷く。

『まー後天的だが、神名者は特殊能力者だから、嘘は吐いてないな』

 白牙が偉そうに頷く中、ヤオは話を変える為に、近くにあった花瓶に近づく。

「やっぱ王宮にある花瓶は違いますね」

 その時、入り口が開き、人が入ってくる。

 ヤオが振り返った時、

 花瓶が割れる音が響いた。

『やっちまったよ』

 溜め息を吐く白牙。

 ヤオは涙を浮かべながらも花瓶の方を向くと、粉々になった花瓶があった。

 激しい沈黙の中、ヤオが泣きながら謝罪する。

「働いて弁償します。十年でも二十年でも、がんばります!」

 ローダは大きく溜め息を吐いて言う。

「ロイド、すまないが勘弁してくれるか?」

 ローダに話しかけられた、今入ってきたローブを着た男、王宮付き魔導師、ロイドが苦笑して言う。

「構わんよ。こんな小さい子に泣かれて、責められるほど私は鬼じゃないよ」

『実年齢はあんた等を合わせたより上だけどな』

 白牙のそんな突っ込みは当然、ローダにもロイドにも聞こえない。

「すいませんでした」

 ひたすら頭を下げるヤオ。



「今回のことは助かったよ。隣の国まで逃げられては王国の人間を派遣する訳にはいかなかった」

 ロイドの言葉にローダは平然と言う。

「気にするな」

 しかし、直ぐに真剣な顔に成るローダ。

「それより、もう直ぐ戦争になりそうだって話は本当か?」

 ロイドは苦々しい顔をしながら頷く。

「多分な、しかし安心しろ、わが国には炎翼鳥エンヨクチョウが居る」

 そう言って、窓の外から見える、塔ほどもあるシルエットを持ち、炎をその翼に纏った鳥の魔獣を見る。

「バードスの守護者、炎翼鳥か。確かにあれを相手に出来る軍隊はそー居ないな。バードランから出る事が出来たら、大陸征服も不可能じゃないんじゃないか?」

 冗談交じりのローダの言葉にロイドは首を横に振る。

「そーでもないさ、お前が信望する八百刃様が居る」

 その言葉にローダは再び真剣な顔に戻る。

「どういう意味だ。ここ暫く、八百刃様の噂は聞いて無いぞ?」

 ロイドは手を震わせながら言う。

「サハラン砂漠で争う砂漠の民とロートナ王国軍との戦いを仲裁したそうだ。仲裁方法が凄まじい。天を覆うような龍を召喚して、ブレスで砂漠に道を作り、その道以外で砂漠の民を襲えば逆に滅ぼすと言ったそうだ」

 ローダも唾を飲み込む。

「八百刃様は神では無いという話しだが、到底信じられない。砂漠に道を作るなど神の御技としか言い様が無い」

『でその八百刃様は、割れた花瓶がどうにか戻らないかと必死に組み立ててると』

 そうぼやく白牙の目の前には、途中まで積みあがった欠片が崩れ、溜め息を吐くヤオが居た。

「まあ、お前が居る国が、八百刃様の御心に反する事をする訳が無いから大丈夫だろう」

 ローダの言葉にロイドは強く頷く。

「当然だ。姫様に限ってそんな事は無い」

 その時、ヤオが白牙にテレパシーで命ずる。

『争いの気配がする。ちょっと確認してきて』

 白牙は頷き、外に出て行く。



「ペードラスの襲撃だそうですね」

 病弱な国王に代わりバードスを治める姫、コーリンの言葉に将軍が頷く。

「少数で進入したらしく発見が遅れました」

「言い訳は聞きたくありません。それで防衛は可能なのですね?」

 姫の言葉に将軍は胸を張り宣言する。

「当然です。我等バードス軍が、あのような少数の兵に敗れる訳はありません!」

 その場に呼ばれたロイドは独り、少数で攻めて来る真意を悩んでいた。

「今すぐにも進軍して殲滅して見せます」

 そう進言する将軍にロイドは慌てて言う。

「お待ち下さい。わが国に何度も侵略を試みて着たベードラスが、本当に少数の兵で来たのでしょうか? 伏兵が居て、こちらの進軍と同時にその伏兵が出て来る可能性もあります。ここは相手の動きを見てから動くべきだと判断します」

 将軍は鼻で笑う。

「その様な弱腰ではますますつけこまれます。万が一伏兵が在ったとしても、我等には炎翼鳥が居る。このバードランに攻めて来た事を後悔させてやるわ」

 コーリン姫も頷く。

 その時、白牙が窓からどさくさに紛れて、この王の間に入ってきたヤオの側に降りて、テレパシーで話す。

 すると、ヤオが少し困った顔をした。

 不自然と思いローダが聞く。

「どうしたんだ?」

 少しだけ躊躇した後、ヤオが言う。

「あいつ等、蒼貫槍ソウカンソウが作った魔法砲持ってきてるらしいよ。多分炎翼鳥でも殺されるよ」

 その言葉に、コーリンが激怒する。

「我等の守護神、炎翼鳥が滅びる何て事は無い!」

 しかし、ロイドは違った。

「蒼貫槍といえば、戦を司る邪神の名ですね。どうしてそんな事が解かるんです」

「白牙は、以前実物見たことあるし、なにより、ここまで近くに来ればあちきには解るよ」

 ローダが驚く。

「ってお前その猫の言葉解かるのか?」

 それに対してヤオが首を横に振り言う。

「白牙は猫じゃないよ。こー見えても元魔獣なの」

「魔獣それが? 笑わせないで! 例え、邪神の武具だろうとも炎翼鳥は負けません!」

 そうコーリンが宣言した時、砲撃の音がした。



「この五十年、あの炎翼鳥の所為で、こんな小国で足止めを食っていたが、それも今日までだ!」

 その男、ペードラス王国の将軍がそう言って、この日の為に手に入れた、魔法砲を前進させる。

「あの炎翼鳥を撃ち落せ!」

 そして魔法砲台から打ち出された通常の数倍の威力を持つ冷却の魔法は、炎翼鳥の翼を凍りつかせ、地面に堕ちさせる。



「わらわは信じぬ!」

 そう言いながら、コーリンは走り続けた。

 城の中庭に堕ちた炎翼鳥の姿を確認し、近づこうとするコーリンを押し留めるローダ。

「駄目だ、まだ炎が消えてない」

「放せ! 炎翼鳥は、わらわが生まれる前から国を護ってきた大切な、大切なものだ!」

 暴れるコーリンを押し留めるローダ。

『コーリン姫逃げるのだ』

 炎翼鳥の言葉にコーリンは驚く。

「炎翼鳥、貴方は喋れたの?」

『心で話している。私を撃ったあの兵器は、邪神の業で作り出された物、人の身で対抗する術は無い。早く逃げるのだ』

「そんな、貴方はずっとこの国を護ってきた守護神。貴方に勝るものなどない筈です!」

 コーリンの言葉に、炎翼鳥は首を横に振る。

『私は所詮、魔獣でしか無い。この国の先代の国王は魔法に長け、このバードランと言う限定された空間だけなら、生きながらえさせる術を見つけ、己の魔法使いとしての長寿と引き換えに、死にかけていた私を助けてくれた。私はただその恩に答えたいが為に、ここに居たに過ぎぬ』

「でしたら、これからもここに居てこの国を護りなさい!」

 コーリンは涙ながらも声を張り上げるが、炎翼鳥の炎はどんどん弱くなっていく。

 その時、城壁が砕かれ、そしてその破片がコーリンに迫る。

「コーリン姫!」

 ロイドが叫ぶ中、コーリンは見た、最後の最後の力を振り絞り自分を庇い、その命を燃やし尽くそうとしている炎翼鳥の姿を。

『早く逃げるのです!』

 そして、城壁の穴から、ペードラス王国の将軍が姿を見せる。

「今ここで止めをさしてやろう。そしてこの国も終わりだ!」

 力を使い尽くし動けぬ炎翼鳥の前にコーリンが立つ。

「これ以上、炎翼鳥を傷つけさせぬ! いままでこの国を護ってきた守護神をわらわが護る!」

 その言葉にペードラス王国の将軍が爆笑する。

「バードスの姫は頭が悪いと見える。そんな小さな体でどうやってその巨大な炎翼鳥を守ると言うのだ」

 その声に答えるように、城の人間達が炎翼鳥の前に立ち、盾となる。

「今までわらわ達は炎翼鳥に頼りきっていた。しかしこれからは違う。今度はわらわ達が炎翼鳥を護る!」

 兵士が、メイドが、コックが、将軍が頷く。

「愚かな! 例え何百人の人間が盾になろうと蒼貫槍様から授かった魔法砲の敵ではない、撃て!」

 魔法砲が咆哮をあげ、全員が死を覚悟し、目を瞑った。

 しかし、邪神が生み出した魔法砲に因る死は、コーリン達には届かなかった。

「炎翼鳥、貴方に聞くよ、この人達を護りたい?」

 刀となった白牙を片手に持ち、ヤオが炎翼鳥に問いかける。

『私は、護りたい。この者達を護りたい』

 そしてヤオは胸のボタンを外すと、白牙が元の猫の姿に戻り、地面に降り立つ。

 ヤオは右手を上に、左手を下にして胸と一列に並ぶ様にしてから、最後の選択を促す。

「汝、炎翼鳥はあちきの新しい使徒になる? なるんだったら、この人達を助ける力を与えられるよ」

 炎翼鳥は、理解した、目の前にいる存在が尋常の者でないことを。

『汝の使徒になろう。だから私に力を!』

 ヤオが頷く。

『八百刃の神名の元に、我が使徒と化さん、炎翼鳥』

 そして右掌に『八』、左掌に『百』、左胸に『刃』、八百刃の全ての神名が浮かび上がり、ここに新たな八百刃の使徒、八百刃獣を生み出した。

 炎翼鳥は強く羽ばたき、上空に上がり、ヤオがペードラス王国の将軍の方を向く。

「貴方達の戦いは間違ってる。邪神の力を使う者に正義は無いよ。大人しく自分の国に帰ったら」

 口調も姿も普段のヤオとは変わらない。

 しかし後で見ていたローダですら解かった。

 それは絶対人が逆らってはいけない物だと。

「だ……黙れ! お前が何者だとしても、邪神様から授かったこの魔法砲があれば負けはしない! 撃て!」

 魔法砲が吼えるが、それだけだった。

 炎翼鳥が放つ炎が、魔法の氷を一瞬の内に消し去った。

『愚かな人間よ、その魔法砲は確かに邪神の業で作られた物。人間の手や只の魔獣では抗う事も出来ぬであろう。しかし』

 炎翼鳥は翼を広げ、その神々しい姿を見せ付ける。

『神名者、八百刃様の使徒、八百刃獣となった我が前では、無力!』

 炎翼鳥が翼の羽ばたきと共に放たれた炎は、一瞬で魔法砲を爆散させた。

 頼みの綱の魔法砲が無くなったペードラス王国の兵は、バードス王国軍の手によって制圧された。



「数々の御無礼、深くお詫び致します」

 コーリンは片膝を着いて言うが、顔を上げられない。

 絶対的な力を持つ存在に、畏怖しているのだ。

 他のものは至っては、頭を地面につけて、土下座する状態で固まっている。

「別に良いよ。それより大丈夫なの?」

 ヤオの質問にコーリンはようやく顔を上げる。

「どういう意味でございますか?」

「もう炎翼鳥の守護はないけど、やっていけるの?」

 コーリンは強い意志を込めた瞳で言う。

「はい。あの時の誓いを曲げるつもりはありません」

 ヤオは頷き、出口に向う。

 ロイドは平伏したまま金貨の袋を差し出して言う。

「これは我が国に助力したお礼です」

 ヤオは首を横に振って言う。

「今回は炎翼鳥が貴方達を救ったいと言う願いを叶えさせただけ、あちきがお金を貰う謂れは、無いよ」

 そして歩き出すヤオ。



 少し行った所でヤオの足が止まる。

『ねー最初に魔法砲を斬ったお礼として少し位貰っても良いかな?』

 ヤオはテレパシーで白牙に聞くが、白牙は溜め息をついて言う。

『バーカ、そんな事して見ろ、折角の信望が薄れるぞ』

『でもでもあちき達ってお金本気で無いよ。せめて次の町に行くまでの旅費くらい貰っても良いかなと思うんだけど』

『止めろ、そんな細かいお金請求したら、それこそ信望が無くなるぞ』

『うーんでも、そんなにお金要求する事をあちきはやってないよ』

『だったら諦めろ。これも神様になる為に必要な事だ』

『神様になるのが多少遅れても良いからここはお金を貰った方が……』

『只でさえ、神格化が遅れてるのにそんな事出来るか……』



 何故か歩みを止めたヤオに、バードスの人間はどんな意味があるのか深く悩み、後世の歴史書に幾つもの諸説を産むことになった。

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