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戦神神話  作者: 鈴神楽
邪神との乱戦
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戦神候補の証明

ついに邪神との直接対決の時! ヤオは邪神に打ち勝つ事が出来るのか?

 ミードス大陸の悪業の街、メルボン



「読んで下さい」

 ヤオは地道に『戦神神話』の配布活動に勤しんでいた。

 労働の汗を拭うヤオを見て、白牙が呟く。

『地味な労働の汗を拭う神名者は、ヤオくらいだな』

 ヤオが諦めた表情で返答する。

「仕方ないじゃん、ちゃんと配らないと、ご飯食べさせてもらえないんだから」

 ヤオは、手元にあるコッペパンにかぶりつきながら、一人食堂でお金がかかった朝食を食べる、ヤーリを見る。

「産みたて卵かけご飯って、美味しいんだろうな?」

 物欲しげな表情をするヤオを、白牙が睨む。

『止めろ! お前には、神名者としての誇りは無いのか!』

 ヤオは悟りきった顔で言う。

「誇りじゃ、ご飯食べられないんだよ」

『ちゃんと神名者をやっていれば、ご飯食べる必要は無いぞ』

 白牙の突っ込みを無視して、通行人に『戦神神話』を配るヤオであった。



「まだ十冊しか、配れてないの?」

 ヤーリの言葉に頷く、ヤオ。

「昨日も配りましたし、元々この町は商業の町ですから、タダの物はあまり信用されないんです」

「貧乏人は、タダの物なら何でも貰うって、聞いたけど?」

 白牙が不思議そうに呟く。

『不思議だ。今の台詞に悪意を感じない』

 ヤオは少しだけ頬をひきつらせる。

「ここは商人が多く、金勘定しないと生きていけない人間が多いんです。そう言う人たちは、タダと言っても信用しない。逆に詐欺じゃないかと怪しまれるんです」

「どうして、人の善意を信じられないのかしら?」

 本気で解らない風のヤーリであったが、手を叩き言う。

「そうよ、信じる心を持った人間が集まる所で配れば、良いのよ!」

 首を傾げるヤオ。

「そんな場所ありますか?」

 大きく頷くヤーリ。

「あるわ!」



「流石にまずいと思いますよ」

 ヤオの言葉にヤーリは気にした様子も無く『戦神神話』の配布を行う。

「何で? 邪神の教会とはいえ、信徒が多い場所。きっと信仰心が強い人間が居るわよ」

 そんな二人の前を、敵意バリバリの視線で通って行く、黒染筆の信徒達。

「邪神の信者になる様な人間よ、信仰する基礎はある筈よ」

 得意気に言うヤーリに対して、グサグサ刺さる視線を堪えながらヤオが言う。

「幾ら基礎があっても、もう他の神の信徒が、そうそう鞍替えする訳ありませんよ」

 ヤーリが熱意を持って言う。

「大丈夫! あたしは元々天包布の信徒だったけど、この『戦神神話』を読んで、八百刃の信望者になったんだから」

 なんとも言えない顔になるヤオ。

『実物を知ったら、直ぐに元に戻るな』

 諦めきったコメントをする白牙。

 そんな馬鹿話しをしている間に、ヤオ達は黒染筆の信徒に囲まれていた。

「もしかして、信望者になりたくて来たの?」

 呑気なヤーリに、ヤオが大きく溜息を吐く。

『お前の信望者って、こんな困った性格の人間が多くないか?』

 白牙の言葉を否定できない、悲しいヤオであった。



 神殿の中央で、縛られるヤオとヤーリ。

「放しなさい! この邪教徒が!」

 ヤーリが騒ぐが、ヤオは落ち着いている。

『どうする?』

 足元で白牙が呟くと、ヤオがテレパシーで答える。

『さすがに殺される気はしないけど、倒すのは論外。どうにかして脱出しないとね』

 そんな事を考えていると、教会の上部が黒く染まる。

 その中心が弾けて、黒いローブを羽織った男、邪神、黒染筆が現れる。

「良くぞ八百刃を捕らえた、我が信徒達よ」

 その言葉に、そこに居た信徒達がその場で平伏し、頭を床にこすり付ける。

「悪法の神、黒染筆。実際会うのは初めてだね」

 ヤオが呑気に言う。

「当然でしょう! 神や神名者に直接会うなんて、あってたまりますか!」

 ヤーリの言葉に白牙が言う。

『隣で縛られているのが神名者だって知ったら、どう思うだろうな』

 白牙の緊張感ない言葉を無視して、ヤオが言う。

「逃げるよ!」

 ヤオは、ヤーリと一つに縛られているままの状態で立ち上がると、教会の窓から飛び出る。

「何やってるの!」

 ヤーリの文句を、聞き流しながら、ヤオは縄から手だけを抜き出して、自分より体積がまさるヤーリを背負いながら、高速で駆け抜けていく。

 そうしている間に、無数の邪獣が迫ってくる。

『黒染筆の降臨で、パワーアップしているぞ!』

 併走する白牙の言葉に頷きながら、ヤオが言う。

「予測は出来たけど、流石にこの数は面倒だね」

 壁と壁の間を跳びながら、建物の屋根に移動するヤオ。

「まだ意識あります?」

 ヤオの疑問に答えるべきヤーリは、目を回していた。

『知ってて、聞いているのだろ?』

 白牙の言葉に舌をだすヤオ。

 ヤオは、ヤーリを屋根の上に寝かせていると、邪獣が次々に襲ってくる。

『八百刃の神名の元に、我が使徒に力を我が力与えん、白牙』

 ヤオの右掌に『八』が浮かび、白牙が刀になる。

 次々と振るわれる白牙の一撃は、確実に邪獣を滅ぼしていく。

『単純過ぎないか?』

 刀になった白牙の質問に、ヤオが言う。

「何か作戦があるんでしょう。まー予測はつくけど」

 平然と言うヤオに白牙が言う。

『お前に勝てる作戦などあるのか?』

 その言葉にヤオが頷く。

「比較的に単純だけど確実な方法だよ」



 教会で、黒染筆が血の様なワインを口にしていた。

 悠然と結果報告を待つ、黒染筆に対して、神官が言う。

「しかし、大丈夫なのですか?」

 その言葉で黒染筆は不機嫌そうな顔をする。

「この悪法の神である私の考えに、間違えがあるというのか?」

 神官は慌てて平伏する。

「すいません! すいません! すいません!」

 黒染筆は直ぐに気を取り直して答える。

「ある意味その心配は当たっていた。昔の八百刃ならば、今回の作戦で倒す事など到底出来ないだろう。しかし、今の奴は力の殆どを、新たな主神、新名に与えている。一年やそこらで溜まる力では、この町に潜む我が信徒達の波状攻撃を受け止められない。奴の信望者も増えないように事前に細工もしたからな」

 その言葉に神官が頷く。

「神託に示されたように、八百刃の信望者が身内に居るものをマーケットから外せと、黒染筆様の名の下に広めてあります」

 その言葉に満足そうに頷く黒染筆。

「所詮は戦うしか能が無い戦神候補。我が智謀の前では、戦闘力等、無意味だという事を痛感しながら、滅びるが良い」



「あちきの力切れを待つ作戦だよ」

 余裕たっぷりな態度で解説するヤオに、こっちも平然と白牙が言う。

『見事に嵌っている気がするが?』

 笑顔でヤオが答える。

「この状況って篭城に似ていない?」

『確かにな。世間一般では援軍の当ての無い篭城戦は、戦いを長引かせるだけだと言うぞ?』

 白牙も余裕たっぷりな態度で質問する。

 二人は、そんな会話をしながらも、黒染筆の信徒が生み出す邪獣達を蹴散らしていた。

「ここで問題です。黒染筆の信徒の特徴はなんでしょ?」

 その言葉に白牙が答える。

『大半が表のルールで、痛い目を見た奴等だな。自分の考えを反映させられる裏のルールを守護する黒染筆は、俗に言う不文律の中で生きる奴等にとっては都合が良い存在だ』

 その言葉にヤオが言う。

「そんな存在が、権威ある人間使って、何かを命令するって事が何を意味しているのか、解る?」

 ヤオが意味ありげな視線を、圧倒的な戦闘能力を見せる八百刃に恐れて居る黒染筆の信徒に向ける。

 一歩引く一同にヤオが宣言する。

「あちきは、正しい戦いの護り手だよ。そして正しい戦いは法律と相反する場合がある。だけど、あちきは貴方達の不文律に干渉するつもりは無いよ」

 その言葉に、黒染筆の信徒達に動揺が走る。

「貴方達は、何で戦うの?」

 その言葉にお互いを見合った後、代表で一人の男が答える。

「黒染筆様の神託だからだ!」

 ヤオは肩を竦める。

「不思議な事だね、黒染筆の教えは自分の有益なルールを守れの筈。ここであちきを倒す事に、貴方達にどんな有益な事があるの?」

 お互い見合う信徒達。

 そしてヤオが止めの一言を言う。

「ルールを決めるのは貴方達で、それを護るのが黒染筆だった筈だよね。貴方達が崇める黒染筆様は、ルールを押し付けたりした事ない筈だよ。つまりあれは偽者じゃないの?」

 自分達に有利な理論展開に、頷く信徒達。

「貴方達は黒染筆様の名前を利用する神官と、黒染筆様のふりをした道化に騙されてる可能性あるわ。貴方達のルールでは、それって違法じゃない?」

 見事に扇動される信徒達。

「よくも、騙してくれたな!」

「あの神官野郎!」

「神様の名を利用するなんて、ぶち殺してやる!」

 教会に向かっていく信徒達を見て、ヤオが白牙を戻す。

『舌先三寸で騙したな。本物の黒染筆を、偽者だと勘違いさせるんだからな』

 ヤオが言う。

「篭城戦を仕掛けられた時に気をつけないといけないのは、損得勘定を考えさせない事。篭城戦まで持ち込めれば、八割方勝てる事が明確だから、誰もが勝った後の事を考える。あちきが白牙だけで相手したんで、攻めなければ攻撃されないなんて誤解して、攻めない理由を探し始めていた所に、丁度良い言い訳を提示すれば、そっちに飛びついてしまうのは当然なんだよ。あちきは戦闘能力だけで、戦神候補の訳じゃないって事を忘れていたね」

『戦いの流れを見る能力。それこそがお前の最大の能力だったな』

 白牙の言葉に胸を張るヤオ。

『金の流れも、これくらい見れれば良いんだがな』

「さて、黒染筆が信徒にたこ殴りされるのを、見学に行きますか」

 白牙の言葉を無視して、教会に戻っていくヤオであった。



「それで、逃げ帰ってきたのか?」

 邪神の盟主との対面の間で、紫縛鎖が必死に頭を下げる、黒染筆を睨みつける。

「自分の信徒を傷つける訳には行きませんので仕方なく。今回は上手くかわされましたが、次こそは……」

 紫縛鎖が腕に巻きつけていた鎖を放つ。

 黒染筆は紫の鎖に縛られ、そのまま床の下に開いた穴に飲み込まれる。

「我が鎖の呪縛の中で、反省しろ」

『八百刃は、相変わらずね』

 カーテンの奥から聞こえる、邪神の盟主の声。

「はい。しかし、次こそは確実に滅ぼして見せます」

『久しぶりに会いましょう』

 その言葉に驚く紫縛鎖。

「まさか、受肉なさるつもりで?」

 その言葉にカーテンの影が、ゆっくり頷く。

 紫縛鎖は暫き、躊躇したが、頭を下げる。

「解りました。準備を始めます」



「今日は、いっぱい配れました」

 笑顔で言うヤオに、ヤーリが満足そうに頷く。

「そうね、『戦神神話』を補充しないといけないわね」

 ヤオはご褒美を待つ犬みたいな表情をしていたが、ヤーリはさっさと馬車に乗ってしまう。

 慌ててヤオが言う。

「あのーいっぱい配ったんで、リッチな夕食を食べさせてもらいたいんですが?」

 その言葉にヤーリが言う。

「ごめんなさい。あたし今、そんなにお金無いの。『戦神神話』の補充と一緒に、お金貰ってくるから、これで暫く食べてて」

 金貨を一枚投げ渡すヤーリ。

 ヤオがしっかりそれを受け取ってから言う。

「これじゃあ、宿代にしかなりませんよ!」

 しかし、ヤーリの馬車は、そんなヤオを残して去って行くのであった。

『少しは金の流れを見る力を、身につけた方が良いかもしれんな』

 白牙の呟きは、少ないお金でどう暮らしていくかを考えるヤオの耳には、届かなかった。

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