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戦神神話  作者: 鈴神楽
邪神との乱戦
36/68

邪神との戦いの始まり

真名の死によりパワーバランスが崩れた神の世界。そこで八百刃は何をするのか?

「オムレツの大盛一つ!」

 食堂でヤオが嬉しそうに注文する。

「俺は、地ビールだけで良い」

 狼打は、注文すませて、ウエイトレスを遠ざける。

『人間の時の癖は、一年やそこらでは抜けないみたいだな』

 白牙の言葉に苦笑する狼打。

「使徒になってから、空腹なんてもんとは無縁だからな」

 そしてヤオを見る狼打。

「高位の神名者は、神や魔獣と一緒で、食事が要らない筈だが、何でヤオは飢え死にしかけるんだ?」

 その言葉に白牙が言う。

『確かに力だけなら、間違いなく高位の神名者だが、人間時代のお前みたいに、八百刃としての象徴でなく、ヤオとしての個での記憶が強いと、肉体に縛られるのだ』

「面倒だな」

 狼打が呟いている間に、地ビールとオムレツが届く。

 本気で嬉しそうな顔をしてオムレツを食べるヤオ。

 いい加減なれた狼打が言う。

「さっきも言ったが、邪神の動きが活発になっているらしい」

 ヤオが少し考えた後言う。

「まあね。人の邪な心を司る神だもん、主神の影響力が弱い今のうちに、自分のテリトリーを広げようとするのは当然だよ」

 あっさり言うヤオに意外そうな顔をする狼打。

「それを許していいのか?」

 ヤオは難しい顔をして言う。

「狼打もしかして勘違いしてる? 邪神は、通常の神と敵対関係だとでも思ってた?」

 頷く狼打。

「そうじゃないのか、八百刃様と蒼貫槍は敵対関係だった筈だぞ」

 頬をかきながらヤオが言う。

「個人的に恨み買ってたし、お互いの教えが相容れないから、半ば敵対関係だったのは本当だけど、蒼貫槍は真名の指示を受けてたでしょ? 基本的には、邪神も神には違いないの。問題なのは、神々のバランスを管理する主神、新名の力が弱い事だね」

 舌打ちする狼打。

「人事みたいに言いやがって、お前が代行やってれば邪神が勝手に動くなんて無かったんだろがー」

 オムレツの最後の一欠けらを食べながら、ヤオが言う。

「この味が忘れられなくて。神様になると肉体なくなるから、面倒な受肉しないと食事出来なるからね」

 その言葉に大きな溜息を吐く狼打。

「お前は、神の世界のパワーバランスより、卵料理をとったのか?」

 ヤオは首を横に振る。

「今後の展開もろもろ考えて、あそこであちきが主神代行受けるのと、新名が新しい主神になるのでは、ほぼ同じくらいのメリットとデメリットがあると判断したから、卵料理食べれる方を選んだだけだよ。別にパワーバランスを無視した訳じゃないよ」

『最終判断に、卵料理があがる事が、一番の問題だ』

 白牙の言葉に狼打が強く頷く。

 そんな時、外から大声が聞こえた。

「八百刃様は実在します!」

「冗談は寝て言え! そんな神様より強い神名者が居る訳ないだろうが!」



 狼打が外に出ると、一人の眼鏡をかけた少女が、一冊の本を掲げながら宣言する。

「このニュームス著、『戦神神話』にも書かれている八百刃様は今も、この世界の何処かで正しい戦いを護っているのよ!」

 そう言うと、少女は馬車に積み込んでいた本、ニュームスが書き、発行した、八百刃の逸話が載った本、『戦神神話』を配り始める。

「どうしたら、ここまで美化できるんだ?」

 内容をざっとみて狼打が首を傾げた。

 少女と向かい合っていた男が、『戦神神話』を地面に放り捨てる。

「神名者にこんな芸当が出来るか! こんなものは信望者を望む、八百刃の虚言に決まっている!」

 その言葉に、狼打は店内を見る。

「お姉さん、オムライスの大盛追加ね!」

 ヤオが嬉しそうに注文しているのを確認してから、足元に居る白牙に言う。

「あれが、そんな事をすると思うか?」

『そんな、向上心があったらとっくに神に成っている』

 狼打も頷くと白牙が続ける。

『だが、ニュームスは知っている。八百刃の良い噂だけを信じ、集めていた男だ。ヤオも幾つか話しをして、情報料を貰っていた』

 呆れた顔をする狼打。

 そんな二人を他所に、少女が言う。

「八百刃様の良さを、貴方達みたいな邪神教徒が解るわけない!」

 その言葉に狼打の視線が鋭くなる。

「我等が神、黒染筆コクセンヒツ様を侮辱するつもりか!」

 少女が頷く。

「当然よ! 邪神なんて、死んでしまえ!」

 男がマントを広げ、そこから一つの筆を取り出すと、空中に不気味な化物を描く。

邪獣顕現ジャジュウケンゲン

 男の言葉に答え、空中に描かれた化物が現実化し、少女に襲い掛かる。

「あたしは、間違っていない。だから戦う!」

 少女は『戦神神話』を振り上げて、邪悪な化物と向かい合う。

 狼打が助人に入ろうとした時、少女の手から『戦神神話』がすっぽ抜けて少女の頭に直撃する。

 そのまま気絶する少女を中心に、物凄く重い沈黙が、周囲を支配した。

 そこに口の周りのケチャップを拭きながら、ヤオがやってくる。

「まーかなり変則的だけど、正しい戦いだからね、手助けしないとね」

 ヤオは右手を白牙に向ける。

『八百刃の神名の元に、我が使徒に力を我が力与えん、白牙』

 ヤオの右掌に『八』の文字が浮かび、白牙が刀に変化する。

 周囲が話題に上がっていた、高位の神名者が目の前に現れて、ざわめく。

「嘘だ! ハッタリだ! もし本当だとしても、黒染筆様の神器、黒筆クロフデで生み出した、邪獣に勝てる訳が無い!」

 男がそういって、邪獣をヤオにけしかける。

 ヤオは白牙の一閃で、邪獣を消滅させる。

「まだやる?」

「覚えて居ろよ! 黒染筆様の力は、こんなもんじゃないのだぞ!」

 逃げ帰る男を見送りながら、ヤオが言う。

「狼打、あちきはこの子を連れて町を出るから」

 その言葉に狼打が言う。

「何で逃げるように出て行く?」

 その言葉にヤオが言う。

「今はこの子が戦おうとしていたから助けたけど、あいつが復讐に来た時も、この子が戦う保障が無いよ。もしそうなったらあちきは戦えないからね」

 ヤオは少女を馬車に乗せるとさっさと町を出て行った。



 暫く行ったところで少女が目覚める。

「あたし、どうしたのかしら?」

 ヤオが馬車を操りながら答える。

「本で頭を打って気絶してたの。でも度胸が有るね、邪教の信徒相手に、一歩も引かないんだから」

 その言葉に少女が胸を張って言う。

「あたしは八百刃様の信望者です。自分が正しいと思う戦いを貫くは、当然の事よ!」

 その言葉にヤオが言う。

「だったら邪教信徒と敵対する事もあるでしょうから、護衛にあちきを雇いません? あちきはこう見えても、強いんだよ」

 その言葉に少し悩んでから少女が言う。

「本当に強いんだったら、雇ってあげるわ。あたしの名前はヤーリよ」

 ヤオがガッツポーズをとって言う。

「これで暫くの生活費はゲット。あちきはヤオ、宜しくお願いしますね」

 そうして、二人(正確には一名と一人・神名者の数え方は一名二名だから)の旅が始まった。



 神の世界の最深部。

「八百刃はやはり、我々と敵対するつもりのようです」

 真っ黒な服を着た邪神の男、黒染筆が目の前に広がる強大な力を持つ一柱の邪神に、カーテン越しに告げると、カーテンの前に立つ、紫のローブを纏った邪神の男、紫縛鎖シバクサが言う。

「やはりな!」

 紫縛鎖は頷き、怒りを込めて言う。

「あれには、蒼貫槍を滅ぼされた借りがある。今の奴は、自力で大きな力を使うことは出来ない。そこを狙って滅ぼし、我等、邪神の力を広めるのだ!」

 黒染筆が頭を下げる。



「それで、どうしてこの金額になるかもう一度聞いて良いか?」

 狼打の言葉に、ウエイトレスが言う。

「ですから、オムレツにオムライスそして、当店特製の卵料理御膳(お持ち帰り用)合計で金貨一枚と銀貨一枚です」

 舌打ちする狼打。

「へんなところで、確りしてやがるな」



 会計を済ませた狼打が神の世界に戻って、新名に言う。

「ヤオにはいっぱい食われたが、目的は達成された。これで暫く、邪神達の注目は、ヤオの方に向くはずだ」

 新名は心配そうな顔をする。

「でも大丈夫でしょうか? 幾ら八百刃さんでも、力の大半を私に譲った今の状況では、まともに邪神と遣り合えると思えません」

 それに対して狼打は自信たっぷりな表情で答える。

「大丈夫。俺は正しい戦いの護り手、八百刃様を信じる」

 その顔に新名も安心する。

「がんばってください八百刃さん」



 そして神々のパワーバランスは、やはりヤオに任されたが、肝心のヤオは、

「美味しいよ! 流石、金貨一枚もしただけはあるね!」

 嬉しそうな顔をして卵料理御膳を食べていた。

「あたしにも、別けて下さい」

 ヤーリが言うと笑顔で答えるヤオ。

「良いよ」

 そんな様子を見て白牙が言う。

『卵料理一つで、本気で幸せになる神名者が居て、いいのであろうか?』

 その問いに答えられる存在は、居なかった。

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