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戦神神話  作者: 鈴神楽
八百刃の回想
35/68

笑顔を絶やさぬ強き少女

神名者には、強い制約がある。その為戦いたくても戦えない時があった

「綺麗なお花畑だね」

 ヤオが一面の花畑を見て呟く。

『幾ら見ていても、腹は膨れないぞ』

 白牙の一言に答える様に、ヤオの腹の虫が鳴る。

「もう少し余分に、食料を買っておけばよかった」

 大きく溜息を吐く、ヤオ。

 花と花とを飛び交う蝶を見ながら、ヤオが言う。

「あの子との約束、護れてるかな?」

 白牙が力強く言う。

『大丈夫だ、お前はしっかり護っている、あの九十年前にした約束を』



 ヤオは、大きな城下町に居た。

『間違いないのか?』

 白牙の問いにヤオが頷く。

「間違いなく、この町は滅びるよ」

 白牙が周りを見る、平和そうな街だが、白牙も、戦神候補としてのヤオの能力は、信じていた。

『お前の仕事は、無いのだな』

 少し悩んでから、頷くヤオ。

「この国は幾つもの植民地を作って、そこから生み出される利益で維持されてるの。そして、もう直ぐ植民地の人間達が蜂起するの。それは自分を護る正しい戦い。失敗するなら、あちきが手伝う事もあるけど、成功するから、あちきのする事は無いよ。あちきはただ、大きな間違いが起こらないか、見守るだけ」

 白牙は少し考えてから言う。

『あまり好きな展開では、ないのだな?』

 ヤオは素直に頷く。

「この町の人間に、悪意はないんだよ。それでも多くの被害が出る」

『嫌だったら、防げば良い』

 白牙のストレートな言葉に、ヤオは苦笑して、首を横に振る。

「悪意が無いからって、植民地の人間を犠牲に、良い生活していたのは、罪なんだよ。第一、あちきは正しい戦いの護り手、自由を得る為に戦う人とは、戦えない」

『前から思っていたが、神名者とは不自由なものだな』

 大きく頷くヤオ。

「大きな力と引き換えに、様々な義務と制約を受ける。それが神名者だよ」

 そんな時、一人の花売りの少女が、笑顔でヤオに花を見せる。

「お花、如何ですか?」

 対処に困って、頬をかいているヤオの前で、一人の男が出て来て、まだ胸も膨らんでない少女に言う。

「馬鹿娘! 何度も言っただろうが、お前が花を売るのは、男だけだってな」

 その言葉にヤオは溜息を吐く。

「やっぱり、そっちの花売りな訳ね」

 少女を引っ張っていこうとする男に、ヤオが笑顔で言う。

「ねー、貴方も花売りなんでしょ?」

 ヤオの言葉に、男が卑しい笑みを浮かべる。

「お金持ってるんだったら、白い花を売ってやるよ」

 ヤオは側の壁を、素手で壊して言う。

「赤い花を売ってくれると、助かるんだけど?」

 冷や汗を垂らす男。

「俺は、花売りじゃないんだよ」

 ヤオが少女に近づき、言う。

「だったら、花売りの少女とは、関係ないよね?」

 男はヤオが何を言いたいのか、悟った。

「こいつは親無しだぞ。どこにも行くところなんて、無い」

「そんな事は、もう直ぐ関係なくなるよ。花売りなの? 違うの?」

 男はもう一度、壁を見て、逃げ出していく。

 困った顔をする少女に、ヤオが言う。

「花売りってどんな仕事か、聞いてたの?」

 その少女は笑顔で答える。

「うーんと、花買ったくれた人の家に行って、花を置いてくるんだって」

 白牙が首を傾げる。

『意味不明なのだが?』

『花売りって場所によっては、売春行為の指すんだよ。まともな花売りだったら、あんな花弁が落ちた花なんて売らせないから、そっちじゃないかと思ったら、ビンゴだった訳』

 ヤオのテレパシーでの返事を聞き、白牙は少女が持っていたかごを見ると、確かにいい加減な入れ方をされていて、花弁が落ちている物もあった。

「そのお花、どうしたの?」

 ヤオの言葉に少女が言う。

「あのおじさんがお花売るから、お花摘んでこいって言ったから、秘密の場所から摘んで来たの」

 嬉しそうに言う少女に、ヤオが言う。

「お姉ちゃんにも、教えてくれる?」

 少女は精一杯、難しい顔をして悩むが、直ぐ笑顔になって言う。

「おねえちゃんにだけ、特別だよ」



「綺麗だね」

 岩に囲まれ、花が咲き乱れる場所で、ヤオがそう言うと、少女が全身を使って頷く。

「あたしの秘密なの!」

 ヤオはそこに浮かぶ蝶を見て、呟く。

「白牙、気付いてるよね?」

 白牙が頷く。

『ああ、最初は何で寄り道してるのか不明だったが、この蝶は魔獣だな』

 白牙の答えに、ヤオが頷く。

「花におかしな気配を感じたから、もしかしてと思ったんだけど。正解だったよ」

 そんな話しをしている間も、蝶達は少女の周りを舞っていた。

『神名者様、どうか、見逃して下さい』

 そんな蝶からのテレパシーが、ヤオに流れてくる。

『私達は、この地から離れるつもりはありません。ただ、ここで飛んでいるだけで良いのです』

 その言葉にヤオが言う。

『それは無理、多分この場所は、戦争で荒れるから』

 それを聞いて、蝶達の動きが慌ただしくなる。

『それでは、この子はどうなりますか?』

 ヤオは少しだけ躊躇した後、答える。

『多分、死ぬよ』

 その言葉の後、蝶達の動きがさらに乱れる。

 それで少女も異変を察知したのか、ヤオの方を向く。

「おねえちゃん、蝶々さんに何かしたの?」

 ヤオは首を横に振る。

 すると少女は精一杯、拳を握り締めて言う。

「蝶々さん、安心して。蝶々さんたちは、あたしが護るよ!」

 その言葉に、蝶達がヤオを見る。

『神名者様、この子だけは助けて頂けませんか? その願いが叶うのでしたら、私達は滅びても構いません』

 ヤオは首を横に振る。

「あちきは、正しい戦いの護り手、その戦いが正しい限り、手を出せないよ」

『ならば私達の手で護るまで』

 蝶達は、飛び立つ。

『どうする?』

 白牙の問いにヤオが悲しそうに言う。

「あちきには、何も出来ないよ」



 さっきまでヤオ達が居た城下町は、蜂起した植民地の兵士達によって、制圧されていった。

 多くの血が流れ、何も知らずに居た町の人間が、死んで行く。

 その死体の中には、先程の男も居た。

 そして少女は、困惑の中、蝶の魔獣を探していた。

「蝶々さん、何処!」

 その声が、植民地兵達を呼ぶ。

「ここにも居るぞ! 俺達を虐げていた奴らが!」

 少女に迫る兵士達。

 その時、蝶の魔獣が植民地兵達を、風で吹き飛ばす。

『大丈夫か?』

 蝶の魔獣のテレパシーは、神名者や魔獣には聞こえても、少女には聞こえなかった。

 少女は、倒れた植民地兵達に近づく。

「大丈夫?」

 その一言に植民地兵は驚く。

「お前、我々が怖くないのか?」

 少女は笑顔で答える。

「怖くないよ。だって皆、友達だもん」

 唖然とする植民地兵達、その時、城からの反撃が始まった。

 植民地兵と少女がそちらを向いた時、城の兵士が言う。

「愚かな植民地兵など、皆殺しにしろ!」

 号令と共に放たれる砲撃が、植民地兵を殺す。

 植民地兵が少女を指さす。

「この少女は我々とは関係ない、攻撃を止めろ!」

 しかし、城の兵士達は、取り合わない。

「くだらん命乞いをするな!」

 砲撃が放たれる。

『止めろ!』

 蝶の魔獣達は必死に風を起こし、防ごうとするが、圧倒的な数の砲弾に、少女は巻き込まれた。

 植民地兵が少女を庇った為、少女は即死しなかった。

 しかし、少女の小さな体は、確実な死のカウントダウンを始めていた。

「愚かな植民地兵を一掃してくれる!」

 城の兵士の前にヤオが立つ。

「愚かなのは、貴方達だよ」

 ヤオは右手を白牙に向けて唱える。

『八百刃の神名の元に、我が使徒に力を我が力与えん、白牙』

 ヤオの右掌に『八』が浮かび上がり、白牙を刀に変化させると、ヤオは次々と砲台を破壊していく。

「勝敗なんて、もう決まっているよ」

 ヤオが兵士達に城を見させる。

 城は燃え、国旗は降ろされ、王族の死体が吊らされていた。

 呆然とする城の兵士達をほっておき、ヤオは、少女の傍に行く。

『貴女がもう少し早く来てくだされば、この少女は助かった筈!』

 蝶の魔獣の言葉に、ヤオは何も言わない。

 少女が笑顔で言う。

「おねえちゃんって、強いんだね」

 ヤオは首を横に振る。

「あちきは弱いよ、自分の一人じゃ、戦いを止める事も出来ない。あの人達が貴女を護ろうと戦ったから、力を貸せたんだよ」

 その言葉に少女が言う。

「それだったらあたしが戦えば、おねえちゃんも戦ってくれる?」

 ヤオは強く頷くと少女が言う。

「あたしは、皆が幸せを邪魔する人たちと戦いたいの。でもあたし力弱いから、今まで何も出来なかったの。おねえちゃんが助けてくれたら戦えるよね?」

「当然、貴女が戦う意思を無くさない限り、あちきは絶対勝たせてあげる」

 断言するヤオ。

「良かった。安心したら眠くなっちゃった。起きたらいっぱい戦うから、お願いね」

 そのまま目を閉じ、少女は二度と目を開けることは無かった。

『この少女は不幸な生い立ちだった。両親を早く亡くし、親戚をたらい回しにされた。それでも少女は何時も、笑顔を絶やさなかった。そんな少女が、何故こんな死に方をしないといけないんだ!』

 蝶の魔獣達の言葉にヤオが言う。

「あちきの力不足だよ」

 立ち上がり少女の遺体を清めて、墓を作るヤオ。

 そして墓の前に立って、胸をさらし、両手を並べる。

 八百刃の文字を少女の墓に見せて、ヤオが宣言する。

「八百刃の名の下に、汝の戦い、人の幸せを邪魔する人との戦いを助け続ける事を宣言する」

 そんなヤオの周りを、蝶の魔獣が舞いながら言う。

『ならば私は、それを汝の使徒となって見届けよう』

 そうして、風を操る蝶の魔獣、風乱蝶が八百刃獣になった。



「あの子との約束があるから、細かい事にも力を使えて、あちきは助かってるけど、あの子の希望に叶ってるのかな?」

 花畑で呟くヤオ、その時、強引に出てきた風乱蝶が言う。

『今のところは大丈夫だ。だがより一層の精進をしろ』

 その言葉に微笑むヤオだったが、倒れた。

「……おなか空いた」

『白牙よ、本気で八百刃様は、神名者なのか?』

 風乱蝶の言葉に、白牙が凄く思考した後言う。

『間違いない……筈だ』

 そんなヤオの傍に、一人の男が来る。

「お前って、本当に、何時も飢えてるな?」

 ヤオがその男を見た。

「狼打? どうしてここに?」

 狼打は、食べ物を差し出しながら言う。

「新名から頼まれた。邪神に大きな動きがあると、伝言する様にな」

 ヤオは食べながら言う。

「詳しい話しを聞かせて」

 狼打も頷く。

「最初からそのつもりだ。飯くらい奢ってやるから、安心しろ」

 狼打の言葉に、嬉しそうな顔をするヤオ。

「さー行こう。直ぐ行こう!」

 町に向かって駆け出すヤオ。

 そんなヤオを見ながら狼打が、白牙達に言う。

「お前達も苦労するな」

 白牙は大きな溜息を吐く。

『諦めている』

 そして狼打達も町に向かうのであった。

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