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戦神神話  作者: 鈴神楽
八百刃の回想
34/68

神名者の定め

過去の八百刃と出合った者と合うヤオ。そこにあるのは?

「本当に大丈夫なのですか?」

 ニュームスは城門の前で困惑していた。

「大丈夫だよ。それよりシルバス法治王国に滞在し、その教えを広めている神名者、輝銀地キギンチで良いんだよね?」

「良いも何も、正しき大地と結ぶ法の導き手、法の神候補の神名者、輝銀地に話しを聞けるのなら、これ以上の事は無いですが……」

 不安そうなニュームスにヤオは力強く頷く。

「これでもあちきは顔が広いんだから、大丈夫だよ」

『個を消さないといけない神名者の顔が、広いのは、激しく問題があるのだがな』

 白牙のヤオにしか聞こえない突っ込みを、何時も通り無視して、ヤオが門番に言う。

「そこのお兄さん! あちき、輝銀地に用があるから取り次いで」

 極々当然の様に言うヤオに、門番は、もちろん、隣で聞いていたニュームスも驚く。

「ヤオちゃん、幾らなんでもそれは不味いよ」

 慌てるニュームスと激怒する門番。

「お前何様のつもりだ! 輝銀地様がお前みたいな者に会う訳、無いだろう!」

 それに聞いてヤオは冷たい視線になる。

「何様のつもり? 冗談だったら聞き流してあげるけど、全てに対して平等を重んじる法の導き手、輝銀地が、相手の身分で会うかどうかを別けるなんて思ってるの?」

 門番が感情のままに怒鳴り返す。

「煩い! 輝銀地様に対する無礼は、我々が許さん!」

 門番が槍を、ヤオに突きつけた。

 ニュームスが思わず目を瞑った時、門番の後ろから声がする。

「お前の方が間違っているぞ。輝銀地様は身分で人を判断しない。会う意思と内容によって判断するのだ。お前の発言は、その娘が言う様に、輝銀地様の考えから外れる物だ」

 門番が槍を戻す中、出て来た青年を見てヤオが言う。

「モテルス殿下じゃない、大きくなったね」

 その言葉に青年が驚く。

「初対面だと思いますが?」

 ヤオは少し考えてから言う。

「五歳だと覚えてるかどうか、難しいね。とにかく立派になったね」

 その青年、シルバス法治王国の殿下、モテルスが眉を顰める。

「私は、今年で二十五です。五歳といえば二十年前なのですが」

 頷くヤオ。

「計算は間違ってないよ。最初に言っておくけど、女性に年を聞くのはマナー違反だよ」

 少し困惑した顔で、モテルスが言う。

「随分、お若く見えますね」

「よく言われます」

 暫くの沈黙の後、モテルスが言う。

「輝銀地様へのお客様を、我々が判断するのは問題ですから、輝銀地様に確認しますのでご用件を」

 それに対してヤオはあっさり言う。

「ヤオが、個人的に八百刃の話しをして欲しいって人を連れてきたって、伝えて下さい。紹介料も取る、ヤオの個人的なアルバイトだって、付け加えといてくれると助かります」

 門番の額に血管が浮かぶ。

「小娘、いい加減にしとかんと殺すぞ!」

 それに対して、ヤオが言う。

「さっき注意されたばかりだよ。判断するのは、輝銀地だよ」

 門番は、我慢の限界の様に槍を振り上げる。

「限界がある!」

 モテルスが、そんな門番を抑えて言う。

「落ち着け。輝銀地様にお伝えしますが、その願いは叶えられない可能性が、高いですよ?」

 ヤオが笑顔で言う。

「そこは大丈夫だよ。それじゃあ待合室で待ってるけど、場所変ってないよね?」

 モテルスが頷く。

「はい、輝銀地様とお会いする人の待合室は、三十年以上前から一緒です」

 ニュームスを連れて、待合室に向かうヤオ。



 モテルスは、輝銀地との対面室に赴き、報告する。

 その奥には輝銀地が居るが、カーテン越しで、曖昧な影しか解らない。

『金欠の呪縛は、まだ続いて居るみたいだな』

 特殊な機械から聞こえてくる、カーテンの向こう輝銀地の声が、常と違い、微かに感情がある事に、モテルスが驚く。

『その者に伝えよ、その件は確かに受け付けた。その話しをしている間に、約定を果たせと』

 モテルスは自分の耳を疑っていると、輝銀地が続ける。

『あれとは、金儲けの手助け位はしてやっても良い位の、個人的に知り合いなのだ。何時も金欠で、何度かお金を貸した事がある。労働で返してもらっていたがな』



「輝銀地様からの伝言は、以上です」

 待合室で待っていたヤオ達にモテルスが言うと、ヤオが頬をかく。

「そーいえば約定があったっけ。まあ良いか、ニュームスの案内は、誰かに頼める?」

 その言葉に、待合室で常に待機している信望者長が頷く。

 びっくりする事の連続で、ニュームスがギクシャクしながら、輝銀地との対面室に向かうのを見送った後、ヤオが言う。

「あちきは、約定を果たすとしますか」

 そう言ってヤオは王宮を進んでいき、その後ろにモテルスが続く。

「約定とは、何なのですか?」

 ヤオが苦笑する。

「実は無い事なんだけど、やっぱ儀礼的にやっておかないと、いけないことみたいだよ」



 王の間では、二人の将軍が、言い争いを繰り広げていた。

「今こそチャンスなのです。ここで攻め入れば、我々の勝ちは間違いありません!」

 血気盛んな髭面将軍の言葉に、もう一人の女性将軍が反論する。

「わが国から戦争しては、義がなくなります!」

 髭面将軍が激情のままに言う。

「綺麗事で国が護れるか!」

 そんな二人に、国王が何か言おうとした時、扉が開き、ヤオが入ってくる。

 ざわめきが起こる中を、ヤオが真っ直ぐ進む。

 髭面将軍が、剣を抜いて言う。

「ここは王の間だ! 関係ないものは去れ!」

 ヤオは、気にした様子も見せず、答える。

「約定の為に来たんだよ。貴方達は、邪魔だから退いてて」

「小娘が!」

 斬りかかる髭面将軍だったが、ヤオは指二本で、その刃を掴む。

 髭面将軍が幾ら力をいれても、少しも動かない。

 ヤオはそのまま捻ると、髭面将軍は、あっさり壁まで吹っ飛ぶ。

 ざわめき、女性将軍が国王の前に立塞がる。

「何者かは知りませんが、これ以上の狼藉は許しません!」

 ヤオに剣を向けようとした時、国王が言う。

「そこまでだ! それ以上、そのお方に無礼を働いてはならぬ」

 国王が立ち上がるとヤオに近づく。

 止めようとする女性将軍を、国王の側に居た大将軍が、目で制止する。

 王の間の全員の視線が集まる中、国王は、片膝をつき、頭を下げて言う。

「態々足をお運び頂き感謝致します、正しき戦いの護り手、八百刃様」

 その一言に誰もが驚愕する。

「それでは、新たなる約定を結びます、良いですね?」

 ヤオの言葉に国王が頷く。

「我がシルバスは、正しき戦いの護り手、八百刃様の名の下に、常に正しき戦いをする事を、誓います」

 ヤオは胸を開き、右掌の『八』と左掌の『百』と左胸の『刃』を並べて宣言する。

「その誓いが護られる限り、八百刃の名の下に、シルバスの戦いを護る事を宣言する」

「ありがたき事、感謝致します」

 国王の返礼の後、ヤオが胸をしまって言う。

「輝銀地との約束とは言え、面度臭いね」

 その一言に、国王が苦笑しながら立ち上がり言う。

「そう仰らないで下さい。人には八百刃様との約定が確かである事を示す、必要があるのですよ」

 肩を竦ませるヤオ。

「こんな約定に、何も意味も無いけどね。常に正しい戦いをしているのだったら、約定なんて無くてもあちきが護るよ」

 そんなヤオの言葉を半ば無視して、国王が周りの人間を見て言う。

「我がシルバスは、八百刃様との約定を結んでいる。その約定がある限り、我等が義を失う事は出来ない。そして義を失わない限り、どんな苦しい戦いでも、八百刃様の御加護の下に、必ず勝てる。私は二十年前、それを確信した」

 国王の言葉に女性将軍が大将軍を見ると、大将軍が頷く。

「あの時は、本当に国が滅びる寸前だった。それを八百刃様が救って下さったのだ」

 モテルスはそんなヤオの後姿を見て、記憶が呼び戻された。

「あの時の人」



 輝銀地の対面室では、輝銀地が、ニュームスに二十年前の事を話始める。

『あの時は、相互の理解が足りないゆえの戦いで、私が干渉する事が出来なかった。そこに八百刃が現れたのだ』



「輝銀地様のお力は借りられないのですか?」

 若き頃の大将軍が、軍議の場でそう漏らすと、即位したばかりの国王が言う。

「今回の戦いは、相手が約を破った訳ではない、相互の価値観の違いから起こった物だ。輝銀地様は、この国に滞在してくださっているが、この国を守護してくださっているわけではない」

 重苦しい空気が漂ったその時、敵の強襲の知らせが舞い込んだ。



 そんな大人達の苦悩など関係ない子供、五歳のモテルスは、煩い使用人を撒いて、一人で城下街に来ていた。

「もう僕は、一人で大丈夫なのだ」

 そう呟く子供が、大丈夫だった例がなく、モテルスは、強襲して来た敵国の軍人に捕まってしまった。

「こいつ、金持ちのぼんぼんだな。こいつを人質にすれば大金せしめられるぜ!」

 兵士の一人がそう言うと、モテルスが言う。

「僕はこの国の王子だぞ!」

 その言葉に、爆笑する兵士達。

 ひとしきり笑った後、兵士の一人が言う。

「こんな戦中に、王子様がこんなところに居るわけ無いだろうが!」

 兵士の言葉に、大泣きを始めるモテルス。

「子供を人質にしようなんて、正しい戦いとは言えないね」

 兵士達が振り返ると、そこにはまだ幼さが残る、ポニーテールの少女が居た。

「こっちは、金持ちそうじゃないな」

 その一言に、その少女が怒鳴る。

「うるさい! どうせ途中で狩った獣の毛皮買ってもらえないと、文無しだよ!」

 その少女、ヤオが、そこに居た兵士を全滅させるのには、五分を必要としなかった。

 モテルスは戦うヤオの後姿をずっと見ていた。

 絶対の強者のその姿を。



 若き大将軍は必死に戦っていた。

 例え始まりが些細な行き違いだとしても、自分がこの国を護るしかないのだから。

「我等は、我が誇りを持って常に正しい戦いをする。それが全てだ!」

 その言葉に相手側の将軍が言う。

「愚かなり、戦いは常に勝ったものが正しいのだ! 行け!」

 止めとばかり、最後の突撃の命令が下る。

 その時、強大な鳥、九尾鳥が現れる。

「少なくともこの世界では逆だよ、あちきが、八百刃が居る限り、正しき者が勝つんだよ!」

 ヤオはそう宣言して飛び降りると、平然とシルバスの若き大将軍の前に降り立ち、敵国の将軍に告げる。

「ここは引きなさい。貴方達にも言い分があるかもしれないけど、部下に町の略奪させるようでは、正しいとは言えないよ。部下の教育をし直して、改めて来なさい」

 その言葉に、敵国の将軍が言う。

「魔獣なんぞに恐れて、軍人が務まるか! 突撃!」

 ヤオが右手を天に向けると、上空の九つの尾を持つ鳥が舞い降りてくる。

『八百刃の神名の元に、我が使徒に力を我が力与えん、九尾鳥』

 ヤオの右掌に『八』の文字が浮かび、九尾鳥が弓と化し、黄色い尾羽が矢に転ずると、弓に番い放つ。

 それは地上を水平に走る、雷だった。

 たった一発で、相手の兵力の三分の一が戦闘不能になっていた。

「今回は大人しく下がるのね」

 シルバスの兵士が追撃をかけようとした時、ヤオが今度はシルバスの方に、弓を向ける。

「相手に正義がなく、国を護るという正しい戦いをしていたから護ったけど、ここで追撃するなら、正しきが無かったと判断するよ」



『八百刃は何処にも属さない。ただ純粋に正しい戦いを護り続ける。自信満々の様に見えて、実は全く逆だ。常に自分のやっている事が正しいか、確認しながら、精一杯な事をやり続けている。それだからこそ、戦う人間は、八百刃を信望するのだ』

 ニュームスは輝銀地の言葉をメモする。

「八百刃の顔を知っている人間が居ないのですが、どうしてですか?」

 ニュームスの言葉に輝銀地が答える。

『神名者が神になるには、個を捨てる必要がある。その為には個人としての顔や声、性格などは、忘れさられるようになっている。あれはそれを嫌っているが、あれの力が高まれば高まるほど、神名者が本当に覚えていて欲しい人間以外からは、個人としての情報が抜けていく。例え、ここで私が八百刃の姿をお前に見せたとしても、それは直ぐに記憶から消える』

「そうですか」

 輝銀地の言葉に、残念そうな顔をする、ニュームスであった。



 取材が終わり、ヤオは紹介料を貰って、ほくほく顔でニュームスと別れた。

 城下町を歩くヤオの前に、モテルスが出てきて言う。

「今、自分を責めていますよ」

 ヤオが首を傾げる。

「どうして? 別にあちきが八百刃だって解らなくても、別に良いじゃない」

 モテルスが首を横に振る。

「子供心に貴方の顔を忘れないと、決心して居たのですよ。それが本人に会っても、全く気付かないのですから」

 ヤオが苦笑する。

「神名者は、そう言うものだから仕方ないよ」

「本当に幼いですが、初恋だったのですよ」

 モテルスの言葉に、ヤオが笑顔で答える。

「昔から初恋は実らない物だよ、諦めなさい」

 頷き去っていき、一人の女性と一緒に歩き始めるモテルス。

「我々は人とは同じ道を歩めない。解りきった事だと思ったが?」

 ヤオは隣に立つ、美青年を睨む。

「輝銀地が街に出るなんて珍しいね」

「お前と違って真面目に神様を目指して、人との関係を絶っているからな。顔を晒し続けて、お前は神になりたくないのか?」

 ヤオは両手を見る。

「あちきはもっともっと強くなりたい。皆が自分の道を進む手助けが出来る様に」

 苦笑してから、輝銀地が言う。

「ところで紹介料、半分よこせ」

 お金を慌てて両手で握り締めるヤオ。

「何で?」

 輝銀地が断言する。

「当然だろう、お前の話に乗るほどは知り合いだが、タダ働きするほどでは無い」

 その言葉にヤオが言う。

「あんたは生活費が要らないんだから、いいじゃん!」

「それだったら、今度、正しいかどうか関係なく、シルバスを護ってくれるか? お前が言っているのは、そう言うことだぞ」

『確かに』

 輝銀地の冷徹な言葉に、ヤオの足元に居た白牙も頷く。

 ヤオは泣く泣く、半額を渡したのであった。

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