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戦神神話  作者: 鈴神楽
八百刃の回想
33/68

九首鳥と九尾鳥

力で戦うだけが、八百刃の実力ではないのです

「白牙、あちきが死んだら卵料理をお供えして」

 街道の脇で飢え、倒れるヤオの言葉に白牙が返す。

『そのネタは前もやったぞ。それに本気で危なくなったら、そこら辺の旅人でも襲って食事にするぞ』

 ヤオが非難の視線を向けるが白牙が平然と言う。

『安心しろ、お前に人肉を食えとは言わないから』

 口論する気力も無いヤオが黙っていると、ニュームスが通りかかる。

「こんな所で何しているのだい?」

 ヤオは、元気が無い声で答える。

「もう直ぐ飢え死にする所です」

 大きく溜息をついてニュームスが言う。

「食料をあげますよ」

 そう言って、携帯食を出すニュームスに飛びつくヤオであった。



「御馳走様でした。貴方は命の恩人です」

 思いっきり頭を下げるヤオに、ニュームスが言う。

「だったら、前とは違う八百刃の話しがあるのだったら聞かせてくれないかい?」

 その言葉にヤオは頷く。

「それでしたら、九首鳥キュウシュチョウとの出会いのお話をします」

 ニュームスが首を捻る。

「九尾鳥の間違いじゃ無いのかい?」

 ヤオが笑顔で言う。

「九首鳥で良いんですよ。九尾鳥って魔獣は存在しなかったんですよ」

 驚いたが、興味深そうな顔になるニュームスが言う。

「面白そうな話だね、本当に面白かったら、取材料も払うよ」

 それを聞いて嬉しそうな顔にするヤオ。

「ラッキー。それじゃあ話しますね。あれは九十五年以上前の話し、八百刃がまだ、白牙と二人で旅をしていた頃です」



『神名者の仕事と言うのは、田舎を回る旅芸人みたいな物なのだな』

 白牙の少し蔑んだ言葉にヤオは平然と頷く。

「よく勘違されるけど、神名者は人に信望されてなんぼの世界の人間だから、地道に世界中を回るのが正道なんだよ」

 それに対して白牙が、街道を歩く修験者を示し言う。

『神名者の中には一箇所に留まって、信望者の方から来させる者も居るみたいだが?』

 ヤオは、全く気にした様子も無く答える。

「それはあちきとジャンルが違うもん。あちきは正しい戦いの護り手、戦場が向うから来てくれはしないよ」

 そう言いながらヤオが歩いていると、メインの街道から人が脇の街道に流れていくのが見えた。

「どうしたんだろう?」

 そして分かれ道に立つ兵士に声をかける。

「皆さんどうして脇道に行くんですか?」

 兵士が何度も言っているのか飽き飽きした様子で答える。

「メインの街道に魔獣が陣取っているんだ。危なくて行けやしない」

 それを聞いて、白牙が言う。

『強そうな魔獣か?』

 ヤオは、この位置からは常人の視界では捕らえられないそれを、一階層上の認識を利用して見る。

「かなり高位の神名者の残した肉体から生まれたものだね。でも少し変な事になってる」

「お前その猫と話してるのか?」

 兵士の言葉にヤオは頷いて言う。

「おじさんもずっとここに立ってるのも疲れたでしょ?」

 いきなりの質問に戸惑いながらも頷く兵士。

「あちきが、きっちり対応してあげる」

 そう言ってヤオは、そのままメインの街道を進む。

「危ないぞ、引き返せ!」

 慌てて駆け寄ろうとする兵士。

「白牙、こっから先は人が居ないから、元の姿に戻って良いよ」

 その言葉に答えて、白牙が元の姿に戻る。

 その姿を見て、兵士が止まり、他の旅人達も驚く。

「魔獣がどうしてこんな所に……」

 それに対してヤオが振り返り宣言する。

「あちきは、正しき戦いの護り手、神名者、八百刃。これから問題の魔獣の対応とります。一日もすれば元通りの道を進めますのでご安心を」

 それにその場に居た全員が土下座をする。

 歩きながら白牙が言う。

『毎度毎度、私を証明書代わりにするな』

 苦笑するヤオ。

「仕方ないでしょ、神名者の証なんて、そうそう立てられるものじゃないんだから」



 ヤオが暫く歩いた後に見たのは、空中で大きな鳥の九本の首同士が取っ組み合いをしながら戦う風景だった。

『何、変なことしているのだ?』

 白牙の言葉に、ヤオは首を横に振る。

「あちきも解らない。だけどほっておけないね」

 ヤオは右手を白牙に向ける。

『八百刃の神名の元に、我が使徒に力を我が力与えん、白牙』

 ヤオの右掌に『八』が浮かび、白牙が槍に変る。

「いけー!」

 ヤオが放った槍が九本の首の鳥の翼に直撃して、撃墜した。



「結局どうして争う破目になったの? それも自分同士で」

 ヤオの言葉に、九本の色違いの首を持つ、鳥の魔獣、九首鳥が言う。

『我々は、自分こそ、真の頭だと思っている。それで真の頭を決める為に争っている』

 比較的冷静な青い頭が答えに溜息を吐くヤオ。

「何考えてるんだか、貴方達は頭が九個あるように見えるだけで、本質的には一体なのよ。それなのに上や下はないよ」

 それに対して赤い首が炎を吹きながら反論する。

『煩い! 我等は皆違う考えを持っている。つまり体は一つでも魂は九つなのだ!』

 他の首も同意するように頷く。

『面倒だ、一つ残して他の首を切り落としたらどうだ?』

 白牙の危険極まりない意見を無視してヤオが言う。

「一つ聞いて良い?」

『なんだ?』

 少しのんびりした様子を持つ緑の首が言うとヤオが尋ねる。

「何で真の頭を決める必要があるの?」

 それに対して、茶色の首が答える。

『前まで、毎日お弁当をくれに来てくれた少女が居た。その子がこの頃来なくなったのだ』

 その落胆は全ての首が同じ様である。

 そんな様子を見て白牙言う。

『何故落胆する、我々魔獣は己の性を満たせばそれが力になる。お前等の性はその小娘のお弁当を食べる事ではあるまい』

 それに対して、黒い首が答える。

『まだ若いお前には解るまい。魔獣は、神の力を持つ獣。普通の獣と違う、異なるもの。唯一なる存在。簡単に言えば孤独なのだよ』

 白い首が続けて言う。

『その孤独を癒してくれる存在こそ、本当の意味で我等を生かしてくれるのだ』

『解らんな』

 苛立つ白牙をほって置いてヤオが言う。

「それと貴方達が真の頭を決める必要があるのと、どう関係するの?」

 それに対して銀色の首が答える。

『心配になり、ここを通る旅人に聞き続けた、少女がどうなったのか? すると一人の旅人は、答えてくれた。その少女は九つある全ての首にお弁当を差し出せるほど裕福では無い。それでも無理をしていたが、遂に蓄えが尽きて、九つのお弁当を用意出来ない為、ここに来られないのだと』

 その言葉にヤオの頬をかく。

「もしかして、その旅人が言ったんじゃない? どの首が真の首かと決めれば、作るお弁当が減って、又来てくれるって?」

 九首鳥の全ての首が頷くとヤオは大きく溜息を吐いて言う。

「もっと簡単な解決方があるよ」

 その言葉に、驚く九首鳥。

 黄色の首が慌てて言う。

『それを教えてくれ』

 ヤオははっきり言う。

「量を気にしないから、一つの弁当を九つに別けてくれって言えば良いんだよ。最初からおなかを膨らませる為に食べてんじゃないんだから」

 その言葉に全ての首が激しく頷くと金色の首が言う。

『それを伝えればきっと又来てくれる。急がなければ!』

 飛び発とうとする九首鳥にヤオが言う。

「その巨体で何処に行くつもり?」

 その言葉に九首鳥は羽ばたきを止める。

「あちきが伝えて来るから、その少女の事を教えて」

 そしてヤオは、九首鳥から、少女の情報を受け取り、少女が居る筈の街に向かう。



『つまらんがこれで無事終わりだな』

 街に向かう途中で、子猫の姿に戻った白牙の呟きにヤオが首を横に振る。

「多分駄目だよ。あちきは万が一の可能性を信じて動いてるの」

 白牙が怪訝そうな顔をするが、ヤオの予想は的中した。

『少女が死んでいるとは、どういうことだ?』

 白牙の問いにヤオが聞き込みして結果を話す。

「九首鳥が居る道が止まってね、物の出入りがかなり制限されてる。ある一つの店以外、大赤字をだしてるんだよ」

 ヤオは、閉店している店を視線で示す。

「そして、そのあるひとつの店って言うのは、この状況を察知していたみたいに大量の貯蓄をしていた為、自分達の言い値で商品を売って、莫大な利益を生み出してる。ついでに言えば、問題の少女の家にその店の人間が何度も押しかけている。さて導き出される答えは何でしょう?」

 白牙が本気でつまらなそうに答える。

『その店の人間が、少女を使って九首鳥を悪用しようとしたが、同意しなかったから殺して、その存在だけを上手く利用した。そんなありふれたシナリオだな』

 ヤオが大きな溜息を吐く。

「九首鳥から話を聞いた時からおかしいと思った。幾らなんでも偶然通りかかった旅人が、九首鳥にお弁当をあげてた少女の懐具合まで知ってるなんてあるわけないないからね。止めは、争えとばかりの提案していた」

『嘘で誤魔化す方が、戦いの護り手なのに穏便主義者なお前には、向いていると思うが?』

 馬鹿にした口調の白牙の言葉にヤオは首を横に振る。

「真実を伝えて、本当の意味での戦い方を教えるよ」



 それから数日後、問題の店から客は居なくなった。

 一連の企みの噂が流れた上、商売敵達の輸送スピードが信じられない程に速くなったからだ。

『お前は本当に人にこき使われていて、良いのか?』

 背中に乗る白牙の言葉に、大量の荷物を背に載せて、問題の町と他の町を往復続ける九首鳥が言う。

『ここで我が、奴等を殺そうとしても八百刃様が防ぐだろう。しかし、こうやって居る限り、奴らが苦しむ様を見ていられる。八百刃様は意外と残酷な神名者だな』

 九首鳥が言うとおり、問題の店は落ちぶれ続け、噂を聞きつけた人間からは、石が投げつけられた。

『八百刃が言っていた、人を殺した罪は決して死では償えない、殺した事を認めて償い続ける事だけが唯一の方法だと』

 白牙の言葉に九首鳥が同意する。

『あの姿を見るたびに普通に殺さなくてよかったと思う』

 そして、問題の店が無くなったのは、それからたった一週間後の話だった。



『八百刃様、お願いがあります』

 九首鳥の言葉に、ヤオが言う。

「あちきは、戦いの事以外は無力だよ」

 九首鳥は、高らかに鳴くと九本あった首から色が抜けて、尾羽が九つに分かれ、それぞれの色が移行した。

 すると色が抜けた首のうち八本が消えていった。

『これから我は九尾鳥となります。多くの頭が有った為、余計な事を考えてしまいました。我には頭は要りません。この頭は八百刃様の言葉を聞くために残しましたが、これからは八百刃様が我の頭になって下さい』

 ヤオは九尾鳥を見て言う。

「それは、自分で考えて動く事を止める、逃げじゃないの?」

 それに対して九尾鳥ははっきり答える。

『我は我の考えで八百刃様を選びました。もしそれが間違っていた時は、それは我が罪と思い、償います』

 その一言にヤオは頷き言う。

「了解。貴方には間違ったと思わせないと誓いましょう」

『ありがたき幸せ』

 一つになった頭を下げる九尾鳥だった。



「そうして、九尾鳥は八百刃獣になったんだよ」

 ヤオの話を聞いて、必死にメモを取るニュームス。

「本当にいい話だ。やはり八百刃は、単なる戦いを司る存在ではないな」

 ヤオが物欲しげな顔をしてニュームスを見る。

「それで取材料なんですけど……」

 ニュームスが少し考えてから言う。

「払うのはかまわないよ。それと君だったら、八百刃にあった事がある人を知らないか?」

『お前もその一人だ』

 常人には解らない白牙の呟きを無視してヤオが言う。

「知らないことも無いですけど、難しいですよ?」

 その言葉にニュームスが言う。

「もし紹介してくれたら、これだけ払おう」

 そう言って、金貨が入った小袋を見せる。

 ヤオはその手を握り締めて言う。

「任せてください!」

「そうかお願いするよ」

 そんな二人を見て白牙が呟く。

『自分が調べている八百刃が目の前のヤオだと知ったら、情熱の全てが瞬時に消えるだろうな』

 本当に幸いな事に、白牙の呟きは、けしてニュームスの耳には届かないのであった。

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