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戦神神話  作者: 鈴神楽
八百刃の回想
31/68

狼青年

嘘をつき続けると嘘がばれ易く成る。しかし嘘をつき続けるそれも嘘だったら・・・

「普通、貢物にイミテーションを入れる?」

 ヤオは、ぶつぶつ文句を言いながら、少ない旅費で買った、温泉卵をパクパクと食べていた。

『しかし、何で温泉に来ているのだ?』

 白牙の極々自然な突っ込みにヤオは少し考えてから、あっさり答える。

「なんとなく」

 その一言に白牙の爪が伸び始める。

『何故か急に耳が遠くなった気がするが? もう一度聞いて良いか?』

 ヤオは心配そうな顔をして言う。

「大丈夫? なんとなくって言ったけど、ちゃんと聞こえてる?」

 白牙の爪が、地面を切り裂く。

『その冗談は笑えないぞ!』

 頬をかきながらヤオが言う。

「呼ばれた気がしたんだよ。感覚的な物だからなんとなくとしか表現できないけど」

 白牙がそれで何とか納得して言う。

『お前を呼ぶものか、心当たりは?』

 白牙の言葉に遠くを見て言う。

「悲しい戦いをする時の気配がするよ」

『悲しい戦いか』

 そんな会話をしている時、一人の傷だらけの兵士が歩いて来た。

 慌てて駆け寄る、この町の保安隊の人間。

「どうしたのですか?」

 それに対して兵士が最後の気力を振り絞って言う。

「町を護る砦が一隊の傭兵に落とされた。早く応援を……」

 そこで男は意識を失う。

『関係ありそうだな?』

 白牙の言葉に頷き、ヤオは砦に向かった。



 ヤオが砦側に行った時には、そこには一人の眼鏡をした傭兵には、絶対見えない青年が立っていた。

「私の要求は一つ、この町の放棄。私は、特殊な魔法を開発した。それをこの町で試したいので、町の皆様には避難して頂こうと考えている次第です」

 それを聞いて周りに詰め掛けた野次馬の一人が怒鳴る。

「ふざけるな! ここは俺達の町だ! 好きにさせてたまるか!」

 同意の声を上げたとき、青年は何か呪文を唱える。

 するとピンク色の霧が、広がっていく。

「これがその魔法です。それを吸い込んだ人間は笑い死にするでしょう」

 その言葉を誰も信じなかったが、そのピンクの霧を吸い込んだ人間がいきなり爆笑し始めたのを見て、一斉に逃げ出していく。

 ヤオを残して誰も居なくなった。

「貴女は逃げないのですか?」

 青年の言葉にヤオがあっさり言う。

「だって、あちきにはそんな笑い茸の粉末は、効かないから」

 その答えに驚く青年。

「気付いていたのですか?」

 大きく頷くヤオ。

「ついでに言えば、あなたがこの街から、人を追っ払いたい理由が別の事だって事も解るよ」

 言葉を無くす青年にヤオが何を思ったのか、昔話を始める。

「昔々、二十五年ほど前のお話。人は彼をほら吹きと呼んでいたよ」



「魔獣が出たぞ!」

 その言葉に、町の人々が逃げ出す。

 その様を見て、白牙が言う。

『魔獣が出たと言っているが大丈夫か?』

 ヤオは、オムライスを食べながら答える。

「うん。魔獣の気配は全然しないもん」

 ヤオがオムライスを食べ終わった時には騒ぎもおさまっていた。

 ヤオがその町に居る間にそんな事が何度も起きた。



「魔獣が出たぞ!」

 その言葉に町の人間が誰も反応しなくなるのにそう時間はかからなかった。

『何の意味があるのだ?』

 白牙が、そう叫んで回る青年を見続ける。

 ヤオはその青年に近づき言う。

「ねーねー魔獣ってどんな魔獣?」

 素朴な少女の様な質問に、待っていましたとばかりに青年が答える。

「大きな狼さ、どんな戦士も敵わない様なね」

 ヤオは笑顔で言う。

「もっと聞かせて?」

 青年はここぞとばかりに、その魔獣の怖さと強さを説明した。

『ヤオも何を考えているのだ?』

 首を傾げる白牙。



 その夜、宿屋に泊まっていたヤオが、外を眺めていた。

『何か見えるのか?』

 白牙の問いにヤオは、常人では見えない、夜の闇を歩く、昼間の青年と一匹の魔獣を指さす。

「何してると思う?」

 白牙は驚いた感じで言う。

『何で、本当に魔獣が居るのだ?』

 ヤオはあっさり言う。

「昼間青年の話を聞いた時から居るって事は解ってたけど、目的は解らない」

『解っていた?』

 白牙の質問にヤオが答える。

「簡単だよ、魔獣が出たって嘘を言ってるのに、魔獣の情報が細かすぎたよ」

『嘘にどんな意味があるのだ?』

 ヤオがベッドに戻りながら答える。

「もしも明日あちきが、今見た事を町の人に言ったらどうなると思う?」

 白牙が少し考えてから言う。

『町の人間は嘘だと思うな? つまり今の魔獣を見られても、多くの嘘の魔獣発見情報と紛れさせる事で、嘘だと誤認識させる。でも問題は、ヤオが言うとおり、何でこんな事をするかだ』

 ヤオはベッドに横になりながら言う。

「何かしら必要なんだよ。一応相手の出身は解ったから、人に化けられる奴を向かわせたけどね」

 そのまま眠るヤオの寝顔を見ながら白牙が言う。

『何時も思うが、神名者は寝る必要は無い筈だが?』

 ヤオは、予備枕を抱きながら言う。

「この雰囲気が良いんだよ」

 寝ながら返事をする、器用なヤオであった。



 次の日の朝、領主の息子が狩の途中で町に寄った。

「この町には、ろくな娘も居ないな」

 領主の息子は、そう言って溜息を吐き、楽しい事を思い出した表情になる。

「そうそう、あの町の娘は中々良かったがな」

 高笑いをあげた時、遠くの方から声がする。

「魔獣が出たぞ!」

 その言葉に領主の息子に従う者たちは、驚く。

 しかし、町の人間は平然としていた。

「あれは、馬鹿な若者の悪ふざけですよ」

 朗らかに答える町人の言葉に領主の息子の一行はすっかり油断したが、青年が狼の魔獣に乗って現れた。

 言葉を無くす町人達。

「なにが悪ふざけだ!」

 怒鳴る領主の息子に、狼に乗った青年、魔獣が出たと言い回った青年が言う。

「俺の名は、ウルフス。お前に手篭めにされたあげく、婚約して居た相手の家族から、婚約破棄された娘の兄だ!」

 その言葉に、領主の息子は言葉を無くす。

「あの娘の兄だと? それがどうして魔獣と共に現れたのだ?」

 それに対して、狼の魔獣が答える。

『決まりきった事を言わせるな! お前を殺す為だ! ルフナは、真に優しい娘だった! それが今では家に閉じ篭もっている。全てお前の所為だ!』

 狼の魔獣に乗った青年、ウルフスも頷く。

「妹の苦痛をその身で味わえ!」

 腰に挿したナイフを抜き、斬りかかるウルフス。

 周りの兵士が対応しようとするが、魔獣の爪の一撃で、弾き飛ばされる。

 一人残された領主の息子が腰を抜かして、必死に這って逃げようとしていた。

 ウルフスは、狼の魔獣から降りて、領主の息子に詰め寄り、ナイフを振り上げた時、領主の息子の前にヤオが立つ。

「つまらない事しない! そんな事をしても妹さんは救われないよ」

「邪魔だ、どけ!」

 ナイフを持たない手で払いのけようとするウルフスだったが、ヤオはあっさりその手を掴みと、捻って空中で一回転させて背中から地面に落とす。

「はい失敗!」

『邪魔をするな!』

 狼の魔獣がヤオに襲いかかろうとした時、狼と同じ大きさになった白牙がその前に立塞がる。

『止めておけ、この娘、なりは、ガキそのもので、性格もガキだが、一応神名者、正しい戦いの護り手、八百刃だ』

 その言葉に胸を張るヤオを見て狼の魔獣は、自然と後退する。

 本能的に勝てない相手と理解しているのだ。

「正しい戦いの護り手が、何で俺の戦いの邪魔をする!」

 ウルフスの言葉にヤオがあっさり答える。

「貴方の戦いが間違ってるから。貴方が本当にしなければいけないのは妹さんを励まし、支える事だよ。こんな無駄な事の為に、どれだけ妹さんをほっておいてるの?」

 その言葉に何も言い返せないウルフス。

 領主の息子が何時の間にかに立ち上がって言う。

「解ったか! 私の様に正しい者は、常に天に護られているのだ!」

 自慢する領主の息子はヤオの方を向き言う。

「良くやった。そなたをこの領土の国教にしてやろう」

 偉そうに言って、八百刃の肩を叩く領主の息子。

 次の瞬間、その腕が白牙の爪で切り落とされる。

『不敬にも程があるぞ!』

 のたうち回る領主の息子をその足で押さえつけて、白牙が今にもその頭を噛み砕こうとした時、ヤオが止める。

「白牙、止め」

 白牙が、苛立ち気に領主の息子を解放する。

 その領主の息子の元に行ってヤオが言う。

「あちきは、正しい戦いの護り手なの。貴方はそうだと言うなら、その証拠を見せてくれる」

 ウルフスを示しヤオが続ける。

「あの者と一対一で戦って勝ったら、あなたの不敬を見逃してあげる」

 その言葉に、領主の息子が言う。

「そんな、片腕が無くって勝てる訳が無い!」

 クレームをあげる領主の息子にヤオが笑顔で言う。

「正しい戦いなら、勝てるよ」

 ウルフスが領主の息子を睨む。

「やるのなら幾らでも相手になるぞ!」

 その言葉に逃げようとする領主の息子の服を掴みヤオが言う。

「言っておくよ、正しい戦いをせず逃げたのに、後でこの男と戦おうというのなら、間違った戦いだから、あちきが相手になるよ。もちろん貴方のお父さんの配下でも同じだよ。そん時は、この領主の軍を全滅させないとね」

 笑顔のヤオの隣で、不機嫌そうに領主の息子達が乗ってきた馬車群(従者の分を含めて十台)を一撃で粉砕する白牙。

 そして逃げ帰って行く領主の息子達。



『余計な真似をしてくれたな!』

 狼の魔獣の言葉に、ヤオは天を指差す。

 するとそこに大きな竜、天道龍に乗った一人の少女が居た。

「兄さん!」

「ルフナ!」

 ウルフスが叫ぶ。

 降りてきたその少女、ルフナの隣には一人の男が居た。

「御兄さんすいません。私が不甲斐無いばかりにルフナに辛い思いをさせてしまいました」

 そう土下座をする男。

「そんな、気にしないでダード」

 ルフナがその男、ダードにくっつく。

 ウルフスはダードの胸倉を掴み言う。

「何のつもりかは知らんが、お前の家族がルフナにどんな思いをさせたのか解っているのか!」

「許されると思っていません! しかし二度とあんな思いをさせません!」

 ダードの答えに、ウルフスが何も言えなくなる。

 ヤオは、その手を下ろさせて言う。

「これから貴方達は偏見と戦わないと行けないよ。でもそれが正しい戦いだったらあちきは貴方の戦いを護るよ」



 ヤオが町を出て、暫くした所で、狼の魔獣がやってくる。

『何の用だ?』

 子猫の姿の白牙が聞くと、狼の魔獣が言う。

『もうあいつ等に俺は要らない。俺は戦う為に生まれた。そしてお前は正しい戦いの護り手だ。丁度良いと思わないか?』

 狼の魔獣の言葉に素直に頷くヤオ。

「あちきの事はヤオで良いよ」

 そして狼の魔獣が言う。

『俺の名は闘威狼だ』



「って話が昔あったんだよ」

 ヤオの言葉を聞いて、青年が言う。

「全て解って言っているのですね。八百刃様」

 青年が諦めた表情で言う。

『どういうことだ?』

 白牙の言葉にヤオが言う。

「温泉って何だか知ってる?」

『そんな物は知らん!』

 そんな白牙に対して、青年が言う。

「温泉は、地下を流れるマグマの熱で地下水が温められた物です。詰り多くの温泉は活火山の側にあるのですよ」

 ヤオは、砦から見える火山を見る。

「あの火山が爆発するんだ?」

 頷く青年。

「長い間の研究の成果です。しかし誰も信じてくれなかった。だからこんな手段を使いました。でも予測の誤差がまだある以上、何回もやる必要がありますが、その話に在った様に、本当の危険の察知を遅らせる事になりますね」

 苦笑する青年に、ヤオが言う。

「あちきは正しい戦いの護り手、貴方が強くこの町を救いたいとした戦いを助けるよ!」

 そう言って両手を大地に向ける。

『八百刃の神名の元に、我が使徒を召喚せん、大地蛇』

 ヤオの右掌に『八』、左掌に『百』が浮かび上がり、大地が鳴動して、巨大な蛇、大地蛇が出てくる。

「でっかい岩壁を作って!」

『仰せのままに』

 大地蛇はそう答えると、あっという間に、大きな大地変動で、火山と町の間に大きな岩壁を作ってしまう。

 青年が頭を下げる。

「ありがとうございます。傭兵を雇う為に殆どのお金を使ってしまってこんな物しかありませんが」

 そう言ってから、自分の持っていた純金のアクセサリーを渡す。

 ヤオはそれを受け取り、去って行く。



 青年は、砦を攻めた危険な魔術師として逮捕された。

 国の王は、魔術師の優秀な頭を知っていて、罪滅ぼしの為と、国の魔法機関での仕事を与えた。

 そして、その青年は、その優秀な頭を王国の為に有効に使って、国の繁栄に大きく貢献した。



「情報屋って意外とお金とるんだね」

 残り寂しくなった旅費を数えるヤオ。

『あの青年が優秀な事をうまく、国王に流れる様に情報操作するなんて無茶な頼みだ、金額がかかるのは当然だろう』

 平然と言う白牙の横で深く溜息を吐くヤオであった。

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