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戦神神話  作者: 鈴神楽
八百刃の回想
30/68

八百刃の初めての戦争

八百刃の力は絶大であり、それは容易に国の運命を変える

「お嬢ちゃんこの先に行くのは止めた方が良い」

 街道を進むヤオに、一人の男性が声を掛けて来た。

「どうしてですか?」

 ヤオの質問に男性は辛そうな顔で答える。

「この先では戦争が起こっている。子供が見るものじゃない」

「その戦争って、何で起こったんですか?」

 ヤオの質問に男性が答える。

「軍事大国が、一つの国を滅ぼそうとしているのだよ。攻められている国は、精一杯がんばっているが、もう時間の問題だ。王族は皆殺しにされ、国民は奴隷に成る。どん底の結末だ」

 男性の腕には奴隷の証と思われる焼き印があった。

 ヤオは笑顔で言う。

「だったらあちきが行かないとね」

 驚く男性。

「君みたいな子供が行っても、何にも出来ない!」

 ヤオは真剣な瞳で答える。

「何にも出来ないと諦める人間に、八百刃の御加護は無いんだよ。自分が正しいと思い、最後までその意志を貫いた時に初めて、八百刃が現れるんだから」

 その言葉に驚嘆して男性が尋ねる。

「君は神名者を信じるのかい?」

 ヤオははっきり答える。

「信じるのは人の心。ずっと前から、そう百年前からそうしてるの」



『一つ聞きたい?』

 隣を歩く白牙の言葉に八百刃が聞き返す。

「なんですか?」

『どうして我が子猫の姿をとらないといけない!』

 子猫の姿をした白牙の言葉に八百刃は、あっさり答える。

「正直、今の私には、あなたを受け入れるだけの力がありません。ですから通常世界に留まって貰っています。貴方の元の姿はままでは、人に恐怖を与える為、仕方ない事なのです」

 その言葉に溜息を吐く白牙。

『仕方あるまい。しかし、受け入れられるだけの力を手に入れたら、こんな事はしないぞ』

 頷く八百刃。



 そんな八百刃達がが、物々しい雰囲気の城下町に着いた。

『この国は、もう直ぐ戦争になるな?』

 白牙の言葉に頷く八百刃。

「だからこそ、私が居るのでしょう」

 八百刃は戦いの善悪を見極める為、人々の話を聞き続けた。

 そして、この国はかなり絶望的な戦争をしようとしていた事を知った。

「相手の国は、言掛りで戦争をして、この国を征服しようとしています。私はこの国を護るべきでしょう」

 そう決意をして、八百刃は王城に入ろうとした。

 城門の衛兵は、城に入ろうとする八百刃を押し止める。

「ここは王城である。お前の様な小娘が来て良い場所では無い!」

 八百刃は冷静に、自分の掌の神名『八』と『百』を見せて言う。

「私は正しき戦いの護り手、神名者、八百刃。この国の戦いに正しきがあると判断し、この国を護りに来ました」

 その言葉に衛兵達は、慌てて膝をつき、国王に取次ぐ。



「貴女様が神名者様で?」

 国王の疑問は、その場に居た全員の疑問であった。

 八百刃は、白牙に視線を向ける。

 白牙も了解したのか、直ぐ様、元の巨大な白き虎の姿に戻る。

「この者は私の使徒、白牙です。これで信じて貰えるでしょう」

 慌てて、玉座から降りて土下座をする国王。

「ご無礼をどうかお許しください」

 他の臣下もそれに続く。

 その後は、八百刃の来訪を感謝する祝宴が始まった。

 その祝宴では、自分達は神名者の御加護がある以上、負けないといった雰囲気の中進み、話は戦争に勝った後、相手国の処理等に移って行った。

「神名者が認めた邪悪な国家等、滅んで当然」

「そうそう、国民は皆、奴隷にすべきだ」

「八百刃様を国教に」

 そんな浮かれまくる人たちを見て、八百刃は困惑していた。

 自分が来るまで必死に国を護ろうとしていた人間達が、今は勝った後の事しか考えていないのだから。

「戦いは始まっていない。それなのに戦争の後の事を考えても仕方ない」



 戦争の明暗は直ぐに判明した。

 元からの戦力差など、戦いの為に生まれたとも思える、八百刃の知略の前では無意味で、確実に相手を撃退して行った。

 有効な戦力を全て失い、敵国は、自分の都を護る事すら儘ならない状態に成っていた。

 そんな中、八百刃の所に来るのは、戦争の後もこの国に残ってもらおうとゴマをする王族の人間のみだった。

 八百刃は、決心した。

「もう私の加護は要らないでしょう。私は次の戦いの場に向かいます」

 王族の人間は必死に止めようとしたが、八百刃の意思は変らず、そのまま国を出ることになった。

『下らぬ連中だったな』

 白牙の言葉に頷く八百刃だった。



 八百刃がその戦争の意外な結末を知るのは、暫く経ってからだった。

 八百刃の御加護を失った国王が悪と言われ、自国の兵すら、敵に回り、あっという間に形勢が逆転し、そのまま、国は滅びた。

 王族は全員殺されたが、国民は意外な事に、新しい国を受け入れた。

『お前のした事は全くの無駄だったな』

 子猫姿の白牙の皮肉に八百刃は首を横に振る。

「違います。逆に悪くしました。私が関らなくても、あの国は護られていたかもしれません。あの国には自国を護ろうとする団結力がありました。私が現れた為、その団結力は失われ、滅びたのです」

 そして、八百刃は暫く目を瞑った後言った。

「あちきはこれからヤオと名乗る。そして戦いをずっと見守り、本当に必要になった時に加護を与えるよ」

 白牙は鼻で笑う。

『短い寿命と弱き力しか持たぬ人間が、最後の最後まで足掻けない。お前は国を滅びるのを見守るだけになる』

 八百刃いや、ヤオは首を横に振る。

「あちきは人の心を信じる。最後の最後まで足掻き続けられる強い心を持っていると」



 新名に力を与えて、力を大幅に減少しているヤオは、戦争が起こり、首都まで攻め込まれる今まで何もしていなかった。

「最後まで諦めるな! 俺達の後ろには無力な国民と忠誠を誓う国王が居るんだ!」

 国王の為に、国民の為に、諦めず剣を振り続ける兵士。

 絶望的な状況にも関らず諦めず、指示を出し続ける将軍。

『人間は本当に諦めが悪い生き物だ。どう頑張っても、ここから相手を押し返す事は出来ないのは明白だ』

 白牙の言葉にヤオは笑みで答える。

「理屈や論理だけでじゃ、人の魂の力には勝てないって事だよ。何かを護りたいものがある人間の意志に、勝る物が無いって証明だよ」

 そしてヤオは、腰を掛けていた城門から飛び降りると、攻め込まれている方を向き言う。

「貴方達の戦いは正しい?」

 将軍は突然の登場に驚くが即答する。

「当たり前だ、君は早く城門の中に!」

 ヤオは更に言う。

「貴方達は、正しき戦いの護り手、神名者、八百刃を信じ、その名の元に宣言して、自分達の戦いが正しき戦いと!」

 ヤオの言葉に、将軍が兵士達を見ると兵士達は頷く。

 将軍は意を決し、宣言する。

「俺は、この世に正しき戦いがある事を信じる。そしてそれを護る八百刃を信じ、その名の元に宣言する。俺達の戦いは正しいと!」

 その言葉に相手国の将軍が言う。

「無駄な事を! 八百刃等、弱きものが作り出した幻影だ! この世は力こそ全て!」

 護り側の将軍は答える。

「正しき思いの力は、間違った力には負けない!」

 ヤオはその言葉に頷くと、両手を天に向ける。

『八百刃の神名の元に、我が使徒を召喚せん、天道龍』

 右掌に『八』、左掌に『百』が浮かび、天を覆う竜、天道龍が現れる。

 そして天道龍は、敵国の兵達をそのブレスで消し去って行った。



 敵兵が去った後、将軍はヤオの前に膝をつく。

「八百刃様と知らず、御無礼をしました」

 八百刃は微笑み言う。

「構わないよ。貴方達のその強い心を知れて、あちきは満足だから。後は、奉げ物を貰って退散するだけだしね」

 その言葉に、将軍は慌てて、兵士を伝達に走らせる。

 すぐさま、この国の最後の宝だと思われる、金銀財宝がヤオの前に並べられる。

 国王もヤオの前に膝をつく。

「八百刃様の御加護は、この程度の財宝では答えられるものだとは思いません。しかし、これがわが国の精一杯です」

 ヤオは尋ねる。

「これはあちきの物って事で良いのね?」

 その言葉に国王が頷く。

 ヤオは、その中から、高そうなブレスレットを取って言う。

「残りの物は、天道龍が壊した町の修復代にして、残ったら頑張った兵士や国民の為に使ってよ」

 そして、去って行く八百刃を、国王や将軍達は深く頭を下げて見送った。



「イミテーション?」

 ヤオは、隣国の町で貰ったブレスレッドを査定した質屋の答えがそれだった。

「でもでもこれ、王宮に有った物だよ?」

 信じられない顔をして聞き返すヤオに、質屋の親父が答える。

「よくある話だ。本当に国民の為を思う国王は、他国への見栄の為に本物に近いイミテーションを安く作るのは」

 はした金を手に涙し、ヤオが叫ぶ。

「どうして教えてくれなかったの!」

 届く筈の無い泣き言を言い続けた。

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