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戦神神話  作者: 鈴神楽
神々の世代交代
3/68

山賊に狙われる村

山賊に狙われた村、そしてそこに救う為に現れた冒険者

 ローランス大陸の大国ロートナ王国の国境付近にあるコートンの村



 ヤオは食堂の前で必死に残金を数えていた。

「何度数えても、銀貨五枚に銅貨十枚しかないよー」

『自分が八百刃だって黙ってて、金貨三十枚払っていればそうなるな』

 白牙の冷たい突っ込みに怯むヤオ。

「でも、あそこで名乗ったら、通行料無料にしろって意味にしか取られないよ」

『して欲しかったろ?』

 何の反論も出来ないヤオは、もう一度残金を数えはじめる。



 ヤオは食堂に入ると、メニューを見て、安くて量がある物を探す。

『俺は、あの川魚の焼き物な』

 平然とそんな事を言う白牙。

「あんたには魚のアラを頼んであげるからねー」

 ヤオは笑顔で無視する。

『お前な、八百刃獣だからって、そんな扱いして良いと思ってるのか!』

 騒ぐ白牙にヤオは小声で答える。

「八百刃獣としての態度がとれる様になったら考えてあげる」

 結局、ヤオはここら辺で大量に取れる芋のグラタンの大盛と魚のアラを頼んだ。

『百十四年も生きてて、どうして金に困る生活しなきゃいけないんだろうな?』

 完全に愚痴モードに入る白牙をあくまで無視するヤオ。

「はいお待ちどう、芋のグラタンの大盛、茸はサービスしといたよ」

「ありがとうございます」

 本当に嬉しそうにヤオがフォークを突き刺した時、バランスが崩れグラタン皿が引っくり返る。

 言葉を無くし、ひたすらこぼれたグラタンを凝視し、今にも泣き出しそうな顔になるヤオ。

 そんなヤオを無視して魚のアラを食べて白牙。

 そのとき、側に居たお兄さんが言う。

「おばちゃん、この子にグラタンセット出してあげて」

 そう言って銀貨を投げる。

「了解、了解」

 ヤオはそのお兄さんの方を向き、少し申し訳なさ気に言う。

「あのー奢ってもらって良いんですか?」

「いいって事よ、育ち盛りの娘が遠慮するな!」

 お兄さん、ローダが胸を叩く。

 不老不死で百十四歳ヤオは笑顔で頭を下げる。

「いつかきっとこのお礼はします」

 そしてヤオは本当においしそうにグラタンセットを食べた。



『それでこれからどうするんだ?』

 白牙の言葉に、木の上で身を隠すヤオが言う。

「この付近には山賊が居て、そいつ等がこの町に良くたかりに来てるらしいの。ついでに言うとさっきのお兄さん、ローダさんはそれを撃退する為に呼ばれた冒険者だったりするの」

 白牙が頷く。

『まー一応鍛えられてたしな。多分ただの山賊なら倒せるだろうな』

 ヤオも頷く。

「逃げる山賊を追っかけて、溜め込んだお宝の一部を掠め取る予定」

 白牙は大きく溜め息を吐く。

『神名者が山賊の上前をはねるなんて堕ちる所まで、堕ちたな』

「背に腹は変えられないんだよ」

『変える背も無いしな』

 少しにらみ合う二人だったが、そうしてる間にも、山賊の襲撃が始まった。

 ローダは、予測通り強く、山賊達をばったばったと倒していく。

 ヤオは嫌な予感を感じ、山賊の頭を見る。

「あいつマジックアイテム持ってるよ」

 そして、宝玉の形をしたマジックアイテムはその力を発動させた。



 ローダは、確実に山賊の数を減らしていっていたが、頭と思われる男がマジックアイテムを取り出したのを確認し、慌てて距離を取る。

 それにあわせる様に一斉に矢が放たれた。

 ローダは、咄嗟に自分に当たる矢を全て払い除けたが、全身に何かが突き刺さる感じを覚え、体中から血が噴出し、片膝を着く。



『シャドースナイパーだな。一時的に影と本体のリンクを強め、影に受けるダメージを本体に反映させるマジックアイテムだが、そんなレアな奴を良く山賊程度の連中が持っていたな?』

 ヤオは両手で何かを包むようなポーズをとる。

『八百刃の神名の元に、我が使徒を召喚せん、風乱蝶フウランチョウ

 右掌の『八』左掌の『百』が出て、一匹に蝶が現れる。

『おひさしぶりです。八百刃様』

 蝶のテレパシーにヤオは笑顔で答える。

「おひさしぶり、早速だけど、この下の空気を乱して戦闘を不能にして」

 そして蝶が舞い降りた瞬間、突風が起こり、矢はあさってに飛び、大の男ですら飛ばされそうになった。

「もう駄目だ、引け」

 頭の言葉に山賊が引いて行くのを見ながら、ヤオは両掌を逃げていく山賊に向ける。

『八百刃の神名の元に、我が使徒を召喚せん、影走鬼エイソウキ

 山賊の一人の影が少し膨らんだ。



「ドジッたな」

 傷を押さえながらローダが呟く。

「そうだね」

 パニックに陥っている村人に代わって、ローダの傷の治療をするヤオ。

「随分手馴れているな?」

 ローダの言葉にヤオが笑顔で答える。

「まーね」

 そう言って薬箱を閉めた時に、小指を挟み、涙目になるヤオ。

 そして、ローダが言う。

「これも八百刃様を信望する心が、低い所為かもな」

 そう言って落ち込むローダを見上げながら白牙が呟く。

『ヤオが召喚出来るから近くに信望者が居ると思っていたが、こいつだったか』

「あんな山賊がマジックアイテム持ってるとは誰も思わないよ」

 ヤオの励ましにローダは首を横に振る。

「予想は出来たんだ。山賊の頭は元々魔法協会に居た魔導師で、何かしらのマジックアイテムを盗んで逃げて山賊の仲間入りしたんだと。内緒にしといてくれよ、この村からの依頼はついでだった。はした金でも稼げれば御の字だと思ってな」

『どっかの神名者と違ってちゃっかりしてるな』

 ヤオは少し考えた後答える。

「あちきは追跡できると思うけどどうする?」

 それに対してローダは即答する。

「頼む」

 二人は山賊のアジトに向った。



『どうして、山賊のアジトに案内するんだ?』

 肩に乗る白牙の問いに対して、ヤオは珍しくテレパシーで返答する。

『あちきの信望者だから、多分この人は成功したら八百刃の御加護だって思うタイプだよ。その上、この人が山賊を相手している間に山賊のお宝を掠め取れるよ』

『珍しく前向きな発案だな』

 ヤオが胸を張った時、目の前に枝があり、顔面に直撃する。

「おーいヤオちゃん大丈夫か?」

 話が聞こえてなかったローダが心配そうに聞く。

「大丈夫です」

 顔を抑えながら答えるヤオ。

 そして、二人は、一つの洞窟を見つける。

「ここでいいのか?」

 ローダの問いにヤオが頷く。

「山賊が逃げる時に追跡用の魔法を見たいなのをかけたから間違いないよ」

 そう言いながら、影走鬼が送ってくる、情報を吟味し、お宝の隠し場所の見当をつける。

「あちきは、外で待ってるから頑張って来てください」

「任せておけ」

 そう言って、見張りをあっさり無力化して進入するローダ。

『俺達も行くか?』

 ヤオは頷いて、普通に歩いて入り、山賊が居る前を通るが、まるで気付かれない。

『気配を消しただけなのに気付かないもんだな』

 白牙が呑気に言う。



「何度来ても同じ事だ!」

 そう言ってマジックアイテムを取り出す山賊の頭に、ローダは不敵な笑みを浮かべる。

「その力を示せ、シャドースナイパー!」

 そして再び矢が放たれる。

 ローダは前回同様、自分に当たる矢だけを防ぎ、影に何本もの矢が刺さる。

 山賊の頭は勝利の笑みを浮かべたが、ローダは平然としている。

「何度も同じ手に掛ると思うなよ」

 そう言って、一つの人形を見せる。

「身代り人形だと!」

「マジックアイテムを持ってるのはお前だけではないんだよ!」

 山賊の頭は慌てて別の宝玉を取り出す。

「こいアイアンゴーレム!」

 しかしなんの反応も起きない。

「失敗作みたいだな」

 そしてローダは山賊の頭を斬る。



『そこそこやるな?』

 刀の状態で白牙が言う。

「そーだね。あちきの御加護を感じてくれれば御の字だね」

 山賊の宝を背負うヤオの背後では、真っ二つになったアイアンゴーレムが崩れていた。



「本当にありがとうございます」

 ローダに頭を下げる村人達。

「全ては八百刃様の御加護だよ。お前もそう思うだろ?」

 ローダはそう言って、ヤオの方を向く。

「そーですね、ローダのお兄さんがこの村に来た事を含めて」

 自分のリュックにお宝を詰めようとした時、中身がこぼれた。

「あーそれ山賊に盗まれた私の髪飾り」

 痛い視線が集中する。

 そして、ローダはヤオのお宝の詰まった風呂敷を取り上げる。

「なるほど、最初から山賊の上前を掠め取るのが目的だったのか。それで追跡の魔法を掛けてた訳だ」

 重苦しい空気が流れる。

「八百刃様も言っている。自分は常に正しい戦いをする者の側に居ると。解かっているな」

 子猫姿の白牙が溜め息を吐く。

『側には居るが本人が正しい行いをする訳じゃないんだがな』



 山賊の宝は全て村に返され、ヤオは、無駄骨を折ったのであった。

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