慎重で大胆な奴
勇気とはここでというところで出すもの。今回は一人の臆病者と言われた男のお話
ヤオが厄介になっているキャラバンは、道が雪で完全に埋まってしまった為、動けなくなっていた。
「つまらない!」
当然、子供達が騒ぐ。
中には、白牙を玩具にする、命知らずな子供も居た。
『ヤオ! あんな雪、炎翼鳥で消せ!』
珍しく感情的な白牙の言葉に、ヤオは苦笑する。
「戦争の為に魔術で降雪したんじゃないから、あちきにはどうこうする権限ないよ」
こっちも珍しく正論を言うヤオ。
子供達への対応もしっかりしている。
「ヤオちゃん、子供投げちゃ駄目!」
「ヤオ頼む、子供にナイフ投げ教えてくれるな」
「ヤオ、子供と一緒に悪戯しないでくれよ」
こんな感じでヤオは基本的楽しそうだ。
「ねーねーヤオ、何か面白いお話してよー」
一人の女の子がそう言う中、後ろでは男の子達が度胸試しから帰ってくる。
当然ヤオは本当に危なくなったら、直ぐに助けられる準備をしてあったので行かせていた。
「お前が大人にちくるから、ちゃんと出来なかっただろう」
「でも子供達だけじゃ危ないよー」
「お前それでも、ついてるのかよ!」
「危ないものは危ないよ」
数人の男の子相手に、弱々しいが、危なさを主張する男の子を見てヤオが話し始める。
「それじゃあ一番勇気ある、臆病者のお話をしましょうか?」
「それって変だよ?」
首を傾げる女の子にヤオが言う。
「それは、三十年ほど前に本当に居た。一人の青年の話だよ」
「この国には新たな支配者が必要だ!」
男達は、今の腐った国王に反意を示す国民であった。
毎日のように酒場に来ては、国王に対する不満を言い、打倒国王を叫んでいた。
大半が血気盛んな若者であった。
ヤオは、そんな酒場で旅費稼ぎのウエイトレスのバイトをしていた。
『ヤオ、ほっといて良いのか? あれはくだらない争いの元になるぞ』
足元に居る白牙の言葉にヤオが小声で答える。
「大丈夫、本当にやる気だったら、人が居る所では絶対しないよ。あれは単なる酒の席の愚痴だよ」
その集まりに一人の青年が来て言う。
「マールそんな事言っては駄目だよ。もし王宮の人間に聞かれたら大変だよ」
それに対して、マールと呼ばれた青年が反論する。
「何弱腰になってるんだルーク! 今の王宮の人間は、糞豚国王の腰巾着しか居ない。俺達が立ち上がらないでどうする!」
「そうだそうだ! これ以上税金が上がったら飢え死にする人間が出るぞ!」
「無理やり軍に徴集されている人間も居るんだぞ!」
「王女に水着の着用義務を定める法律を作ろうとしてるんだぞ!」
「無駄な治水工事で税金を無駄遣いしてるんだぞ!」
「大商人と繋がってるって話もある!」
「あの綺麗な王女を隣の大国の王子と結婚させて、大金をせしめようとしてるんだぞ!」
次々に国王に対する文句を言う若者達。
その時、兵士が酒場に入ってくる。
「ここに国王に反意を示す者が居ると通報があった。大人しく差し出せば他の者には危害を加えないぞ!」
その言葉に途中で来たあの青年、ルークが言う。
「この人達です」
ずばりマール達を指さす。
「ルーク貴様!」
詰め寄ろうとするマールにルークは目線をずらして言う。
「当然だろ、僕は君たちの巻き添えで、怪我をしたくないんだよ」
「お前は! 友達も売る最低な男だったのかよ!」
マールがルークを殴り飛ばす。
それが決定的になり、マール達は兵士に連れて行かれた。
その間、ルークはマール達に睨まれ続けていた。
周りの人間からも最低な人間を見る目で見られ続けた。
そしてルークが店から追い出されるように出て行った後、ヤオが濡れたタオルをもって出て行く。
追いつくと濡れたタオルを差し出す。
「殴られた所冷やした方が良いよ」
ルークはヤオの行動に驚いた様子で言う。
「どうして僕に?」
「お礼かな? あの時貴方があー言ってくれなかったら、あの酒場の無関係な人間が兵士に酷い目に合わされて居たよ。下手すると、匿ったって難癖つけられて、金品没収なんて馬鹿げた事してたかも」
『そーなったらヤオに叩きのめされてたな』
足元の白牙はルークに聞こえないのを承知で呟く。
「でも友達を売った事には変らないよ」
ルークの弱々しい言葉にヤオが苦笑する。
「いまの段階で捕まっても大した罪には出来ない。それに貴方何かするつもりでしょ?」
その言葉にルークが驚く。
「どうしてそれを?」
ヤオが答える。
「タイミングが良すぎるよ。貴方が来た直後に兵士が来るなんて。多分密告したのは貴方でしょ?」
ルークは心底驚いた顔になる。
ヤオはお店に戻っていく最中に振り返り言う。
「貴方の戦いが正しければ、八百刃の御加護があるよ」
一人残されたルークが呟く。
「僕の戦いは間違っていない。そーだろミーナ」
翌日の王の間で、マール達が見世物にされていた。
「これが朕に反意を持つ愚か者か。どいつもこいつも愚鈍な顔をしておる」
自分の一番動きが鈍そうな、デブデブ国王が言う。
「そうであろう王子よ」
デブデブ国王の言葉を従うしか能が無いデブ王子が頷く。
「はい父上、偉大なる国王に逆らうなど、愚か者の証明です」
次に王女の方を向くデブデブ国王。
「そうであろう王女よ」
王女は何も答えず、そっぽを向く。
そこにルークが入って来たので、マール達が驚く。
「ルークお前がどうしてここに!」
それに対してデブデブ国王が言う。
「知りたかろう! この者がお前達を売ったのだ」
「貴様!」
マールがルークに飛び掛ろうとするが、兵士に押さえつけられる。
「良い様だ! 友に裏切られて、牢獄に行くのだからな!」
そしてデブデブ国王はマール達に見せ付けるように褒美の入った袋を持ってルークに近づく。
「ほれ、友を売った褒美だ!」
「ルーク貴様、そんな金の為に!」
そう叫ぶマークの顔を見る為、デブデブ国王が視線を逸らした時、ルークは隠し持っていたナイフで、デブデブ国王の首を切りつけた。
デブデブ国王はそのまま即死する。
衛兵達がルークを囲む。
「僕は、今の国王のやり方に賛同できなかった。友達を売ってチャンスを作り、殺した。覚悟は出来ている」
目を瞑るルーク。
そこに王女が駆け込む。
「ルーク死んでは駄目! ルークが居なくなったら私は誰を愛せって言うの!」
「ミーナ離れるんだ、ここで僕と仲が良いと解れば、君も国王殺しの共犯にされる」
諭すように言うルークに、首を大きく横に振るミーナ王女。
「それでも良い。貴方と離れ離れになるくらいなら」
「ミーナ、君は死んでは駄目だ」
「ルーク、貴方こそ」
二人の世界に腹をたて、デブ王子が叫ぶ。
「もー良い。二人とも殺せ!」
躊躇する衛兵達。
「お前等も処刑されたいのか!」
その一言に、後を押されて、槍を構える衛兵達。
ミーナ王女を必死に庇うルーク。
『八百刃の神名の元に、我が使徒に力を我が力与えん、九尾鳥』
その声が響いた後、白い矢が衛兵達の眼前を射抜いた後、デブ王子の直ぐ横の壁に大穴を空ける。
一斉に声がした方向を見るとそこには、ヤオが居た。
誰もが必死に他に誰も居ない事を必死に確認した後、ヤオに視線を向ける。
「あちきは、正しい戦いの護り手、神名者八百刃。そこの青年が王女を思い、闘うのは正しいからあちきが護るよ!」
皆が信じられない顔をする。
『だから言っただろうが、せめて買った荷物くらい置いてから登場しろと』
買い物途中の荷物を背負って居る事を注意する白牙にヤオが言う。
「駄目だよ、そんな事をしたら、誰かに持っていかれちゃうよ。そしたら店長に怒られてお給金減らされるんだから!」
その後、本当に八百刃だと信じてもらうまで、王宮の壁に穴が数個増えた。
「それでその人と王女様はどうなったの?」
キャラバンの少女の質問にヤオは笑顔で答える。
「結婚して、恐怖で引篭もりなったデブ王子の代わりにその国で善政を行い、いい国にしたんだよ」
いつの間にかに話を聞いていた男の子にヤオが言う。
「つまり、勇気なんて本当に必要な時だけ出せば良いって事だよ」
罰が悪そうな顔をする男の子達にヤオが言う。
「でも子供の時は、無茶して自分の限界を掴むのも大切。あの一番高い木に登りに行こうか!」
目を輝かせる男の子達。
その後、キャラバンの頭にこっぴどく怒られるヤオであった。




