龍と共に飛ぶ
約束を護るそれが、どれだけ大変なのか、それは約束を護ろうとするものしか解らない
キャラバンの下働きをするヤオ。
料理の下拵えの手伝いを終えて、キャラバンの頭の所に行った。
「料理のお手伝い終わりました。次何をすれば良いんですか?」
「今は、仕事は無いな。そうだお茶でも入れて来てくれ」
キャラバンの頭の言葉に頷き、直ぐにお茶を入れてくるヤオ。
「おまたせしました」
そして直前でこけて、お茶をお客様に思いっきりぶっかける。
「あちー」
慌てるヤオ。
「すいません、今拭きます」
そしてお客様と顔をあわせる。
「君は卵料理お持ち帰りの!」
「八百刃のお話収集してた人!」
ヤオとニュームスの再会であった。
「ほー、二人は面識があったのかー」
キャラバンの頭の言葉に頷くヤオ。
「前、お話をするかわりにご飯奢って貰った事あるの」
「そしていつの間にかにお土産まで奢らされました」
ニュームスの言葉にヤオは笑顔で答える。
「細かい事を気にしちゃ駄目だよ」
「まさかこんな所で再会出来るとは思わなかったよ」
ニュームスが気を取り直して言う。
「あちきはいつも旅してるからね。冬くらいみを寄せる場所無いと辛いんだよ。それよりニュームスさんこそ、どうしてキャラバンの頭の所に居るの?」
ヤオの質問にニュームスが言う。
「私は、このキャラバンに伝わる八百刃の逸話を聞かせて貰って居たんだよ」
キャラバンの頭が頷く。
「戦争の原因の貴族を探す為に八百刃様がこのキャラバンに居たと言う話をした所だ」
「面白い話でしたよ。八百刃様が当時のキャラバンの頭に無理難題を突きつけていた軍人を諭し、改心させるところなど実に良い」
ニュームスの言葉に白牙が呟く。
『何時から、脅されて、逃げ帰るのを改心したと言う様になったんだ』
ヤオはそんな言葉を無視して言う。
「良かったですね」
「ああ、次は何処に行こうか悩んでる」
ニュームスがそう言うと、ヤオは少し考えてから言う。
「そーだ、あちきも一つ八百刃のお話しましょうか?」
その言葉にニュームスが言う。
「どんなんだい、これでも良く聞く話しは知ってるつもりだよ」
ヤオは空を指差す。
「戦争に巻き込まれた、一人の男性と天道龍のお話」
その言葉に興味をそそられるニュームス。
「ほー、それは聞いた事が無いな、聞かせてくれるかい」
そしてヤオが語り始める。
「あれは、六十年程前のお話だよ。その当時は、魔法と風の動きを利用したグライダーって乗り物があったの」
『さっきから、グライダーを何度も見るな』
白牙の言葉にヤオも頷く。
「ここら辺は、魔法と力学の研究が盛んだからね。そんな技術を戦争の偵察だけに使ってるんだから勿体無いよね」
『戦神候補が勿体無いっていうのか?』
大きく頷くヤオ。
「だって、あの技術があればもっと情報伝達が早くなって、産業や学問、その他もろもろに役立つのに、戦争の有利性を維持する為、国外に持ち出すことを禁じてるんだよ。絶対に勿体無いよ」
そんな事を言っていると、大きな荷物を持った男性とぶつかり、男性の方が倒れる。
「ごめんなさい」
ヤオは慌てて助け起こす。
「良いんだよ、ところで怪我は無いかい?」
男性は直ぐそう言ってヤオを心配した。
「あちきは大丈夫だよ」
そしてその男性は大きな荷物を持ち直す。
「それじゃあ、僕は急いでるから」
「おじさんも気をつけてね」
手を振るヤオ。
その夜ヤオは、酒場でウエイトレスをやっていた。
『何で神名者がウエイトレスをやらないといけないのだ?』
ヤオは笑顔で言う。
「こうすれば情報も集まるし、旅費も稼げる、一挙両得って奴だよ」
白牙は何か根本的に間違っている気がした。
その時、グライダー乗り軍人の話が耳に入った。
「ところで、あいつはどうした?」
「ああ、グライダーで世界を回りたいって言ってた馬鹿だな」
「確か、自力でグライダー作るって、裏山に篭っているって話だぜ」
「万が一、出来たとしても、国が管理していないグライダーは撃墜されるのにな」
馬鹿笑いをする男達。
男達の話が気になったヤオは深夜、問題の裏山に行った。
暫く探索すると、一人でグライダーを作る昼間の男性が居た。
「君は昼間の?」
頷くヤオ。
男性が心配そうな顔になって言う。
「こんな夜更けに危ないよ」
ヤオは笑顔で答える。
「あちきは大丈夫だよ。それよりおじさんの方が危ないよ。おじさんが裏山でグライダーを作っているのが、ばれているよ」
男性が苦笑する。
「解ってるでも、僕は約束したんだよ、一緒に空を旅しようと」
ヤオは小指を立てて言う。
「彼女?」
男性は爆笑した後、言う。
「違う違う、友達さ、小さい頃からのね。妻と子供には迷惑かけてる。今夜はもう遅いから明日、街まで送るよ」
その夜、ヤオはその男性、マークスからグライダーの良さや空から見る風景のすばらしさを聞かされる事になった。
『面白い男だな』
足元からの白牙の言葉に寝不足なヤオは頷く。
「でも、凄くタイミング悪い気がする。あちきが居るって事は、ここで戦争があるって事だよ、そんな時に一人で軍事機密の筈のグライダーを作るって事はスパイに間違えられるかも」
まるで、ヤオの言葉に答える様に、複数の人間がざわめく。
そしてヤオが来た方向から、マークスが兵士に捕らえられて歩かされていた。
ヤオは、兵士が掲げていた罪状を読む。
「『この者、敵国にグライダーの技術を売り渡した売国奴なり』か」
白牙が呆れた口調で言う。
『読み通りだな。ものの見事に誤解されたな』
ヤオは頭をかきながら言う。
「少し調べますか」
マークスの処刑の日、ヤオはその処刑台の前に居た。
『助けないのか?』
白牙の言葉に首を横に振るヤオ。
「助けるだけだったら簡単だけど、それじゃ駄目なんだよ」
その時、天が暗くなる。
『我は天道龍、マークスの親友なり。我が親友は、我と共に飛ぶためにグライダーの研究をしていた。決して敵国に売るために有らず』
天を覆いつくす巨大な龍の言葉に、驚愕する民衆の中でマークスが言う。
「すまない。天道龍、僕は君と飛べなくなったよ」
真摯に頭を下げるマークス。
『馬鹿を言うな、お前が研究の為とは言え、お前が戦争の手助けをする訳が無い!』
天道龍の言葉にマークスはただ謝罪だけをする。
「本当すまない。長寿の君が生きてる間に生まれ変って、その時に約束を護るから待ってて欲しい」
『我は認めぬぞ!』
天道龍は、マークスを助ける為、周りの兵士に向かってブレスを吐いた。
恐怖のあまり、動けない兵士達。
誰もが兵士達の死を覚悟した時、ヤオの声が響く。
『八百刃の神名の元に、我が使徒に力を我が力与えん、白牙』
ヤオの右掌の『八』の文字が光り、白牙が剣と化す。
そのままヤオは、天道龍のブレスを切り裂く。
『邪魔をしないで貰おう』
天道龍はヤオを睨みつけるが、ヤオは、無視してマークスの方を向く。
「あちきは貴方の戦いが正しいと認めるから、助力するけど、それで良いんだよね?」
ヤオの言葉にマークスは頷く。
「出来れば天道龍には、あまり怪我させないで下さい」
「了解、この神名者、八百刃に任せておきなさい。さー貴方達は、処刑を続行させなよ」
ヤオが兵士達に告げて、天道龍と相対する。
『神名者とは言え、邪魔はさせん!』
天道龍が、空中で円を描き、空間に穴を開けるとそこに周囲の物を吸い込ませていく。
周りの人間は驚愕するが、ヤオは、平然と吸引力に乗り、吸い込まれる直前で、空間の穴の端を、刀になった白牙で切り裂く。
強烈な反動により天道龍は、弾き飛ばされた。
弾き飛ばされていく天道龍を心配そうな顔で見るマークスに、着地したヤオが言う。
「大丈夫、大きな怪我はしてないよ」
「ありがとうございます。神名者様にこんな事をお願いするのは無礼と思いますが、天道龍の事をお願いします」
動かない頭を精一杯さげるマークス。
「解ったよ、事情は説明しておくよ」
そしてマークスの処刑が執行された。
弾き飛ばされた天道龍は最後の力を振り絞り、飛び上がろうとした時、ヤオがその眼前に居た。
『我はお前を許さない。きっと滅ぼしてくれる』
天道龍の脅しを何処吹く風と無視して、ヤオが言う。
「グライダー技術を相手の国に売り渡したのはマークスさんの奥さん。息子の治療の為にどうしてもお金が必要だったんだって」
意外な事実に天道龍が驚く。
『まさかマークスはそれを知っていたのか?』
ヤオは強く頷く。
「ばれればマークスさんに代わって奥さんが処刑されてた。だからマークスさんは自分が処刑される事を選んだんだよ」
『三人で生きる道も有っただろう!』
天道龍の言葉にヤオは頷く。
「確かにそうだね、マークスさんが貴方との約束を護る以上に奥さんや子供に気をかけてれば十分、家族仲良く生き残る道もあったし、貴方との約束に固執しないで、グライダーを捨ててこの国を出れば、あの時点でもどうにか出来たかもしれない。それでもマークスさんは貴方との約束が大切な事を否定したくなかったし、生きている以上は護りたかった。そして同時に家族も大切だった。それでだした結論が、自分が処刑される事だった。それだけだよ」
愕然とする天道龍。
『どうして、自分の命を捨ててまで我との約束の固執したのだ? 人間の寿命など我や汝に較べれば一瞬だと言うのに』
ヤオが真っ直ぐ天道龍を見て言う。
「だからこそ、自分の生きた証明として貴方との約束を護りたかった。今は死んで、生まれ変ってからでも」
『人は生まれ変わるものなんだろうか?』
天道龍の言葉に対してヤオは手を横に振る。
「あちきの管轄外だよ」
『我も約束を護りたい。その為には我が寿命でも足りぬかも知れない。だから不死の汝の使徒に成りたいが宜しいか?』
「そうして天道龍は、八百刃獣としてマークスさんが生まれ変わるのを待つ事になったの」
ヤオの言葉にニュームスが興味津々で言う。
「なるほど、面白い話だ、因みにその両国はどうなったんだい」
ヤオが苦笑する。
「結局、その両国の中間にあった、常に戦争の被害を受けた小さな国に八百刃の加護があって、今は無くなった。グライダーの技術も戦争のどさくさで無くなって、今ある風の力だけで飛ぶグライダーの技術は三十年程前に開発されたものだよ」
「中々面白い話を聞かせてもらったよ」
ニュームスが満足そうに頷く。
「だったら、追加料金頂戴」
そう掌を差し出すヤオにニュームスがあっさりお金を出す。
『自分の過去の話をしてお金をせびるなんてな、堕ちる所まで堕ちたな』
白牙の言葉を黙殺するヤオであったが、ヤオの手の中のお金は即座にキャラバンの頭に奪われる。
「これは、お茶をこぼしたペナルティーとしてもらっておく」
言葉を無くすヤオであった。
そんなキャラバンの上をグライダーが飛んでいく。
その翼には、開発者の名前、マークスの名が、一匹の龍と共にあった。




