奴隷の開放への戦い
奴隷オークションに出されるヤオだが、大人しく落札される訳は無く・・・
ヤオは奴隷売買オークションの舞台に立たされていた。
まだ小さいヤオには、一部のロリコン以外興味を示さなかった。
しかし、ヤオの一言が大きく変える。
「これって合法ですか?」
オークション会場が爆笑に包まれる。
見るからにガラの悪いヤクザの親分風な男が言う。
「非合法に決まってるじゃないか!」
その一言にヤオが微笑む。
「良かった。合法的だったら、途中で逃げ出すのが心苦しかったから」
あからさまな言葉に誰もが驚く。
慌てて係員が駆け寄る。
「黙れ! 値が下がるだろう」
ヤオはその係員を足払いでこけさせると、腕の縄をあっさり引き千切る。
奴隷商人達が一斉に駆け込んでくるが、ヤオは慌てず騒がず、確実に一人ずつ、気絶させていく。
十分後には、殆ど無傷で気絶している奴隷商人の山が出来ていた。
「じゃあここに居る奴隷は皆解放してね、非合法なんでしょ?」
その言葉に、意外な戦闘力に驚きながらも先程の男が言う。
「馬鹿言ってるんじゃねーよ、奴隷に幾ら金払ってると思ってるんだ!」
その言葉にヤオが笑顔で答える。
「非合法で幾らお金のやり取りがあってもそんなの無意味だよ。少なくともあちきの前じゃ」
「舐めるな!」
何人もの強面の男が自分の得物でヤオに襲い掛かるが結果を態々言う必要は無いだろう。
「どうもありがとうございます」
そう言って奴隷となっていた少女の一人が頭を下げる。
「別に良いよ。それよりこれからどうする?」
その言葉に奴隷達は暗くなる。
その時、今まで離れていた白牙がやってきて、テレパシーで言う。
『あの奴隷の話をしてやれ。多少は参考になるだろう』
ヤオが頷き言う。
「これからする話は、二十年前に本当に居た一人の奴隷の話だよ」
「うーんどうしよう」
路銀が尽きかけていたヤオは悩んでいた。
『無意味に卵料理セットの大盛りなんて頼んでいるからそうなるのだ』
白牙の言葉に大きな溜息を吐くヤオであった。
その時、一人の質素な格好をした少年が通りかかった。
「お前どうしたんだ?」
「路銀がゼロに成ったからどうやって生活しようか悩んでいるの」
その言葉にその少年が言う。
「生活するのにお金が要るなんて随分リッチなんだな」
その言葉に驚くヤオ。
「でも何を買うのもお金が必要だよ」
「買えばな」
そう言うと少年は、露店の一つに駆け寄ると、両手を叩く。
「ラッシャイ、ラッシャイ安いよ。今買わないと損だよ」
その様子に通行人が止まる。
少年は品物の果物を一つ掴むと喋り始める。
「この果物を見てくれ、この色艶そんじょそこらの物じゃないぜ。さーさーじっくりと見てくれよ」
少年はその果物を素早く動かして一通りの人間に見せた後元の位置に置く。
「今日ここであったのが巡り合せ、買うっきゃないよ」
少年の啖呵に引きずられる様に、通行人が次々と果物を買ってしまう。
殆どの果物を売り切った後、少年が露店の亭主と交渉して形の悪い果物を譲り受けていた。
そしてヤオの前に戻ってきて言う。
「こうやれば幾らでも食べ物なんて手に入るさ」
そう言って果物にかじりつく。
「あのー分けて貰えます?」
思いっきり媚を売るヤオに少年が言う。
「解ってると思うが代償は払ってもらうぜ」
その言葉にヤオは、エッチな事を想像する。
「お前旅をしているんだろ。他の国の話をしてくれよ」
『お前相手にエッチな要求する変態はそうそういないから安心しろ』
白牙を思いっきり踏みつけるヤオであった。
「海か、広いんだろーな」
ヤオが果物を食べている横で少年が夢見る顔で言う。
「君だったら路銀なくても海までいけそうな気がするけどなー」
ヤオの言葉に少年は腕の刺青を見せる。
「俺は奴隷さ。金なんて持ってない。だからあんな方法で欲しいものを手に入れてた。それも仕事と仕事の合間の短い時間だけ」
悲しそうな言葉にヤオは何も言えずに居た。
「そろそろ帰って仕事しないと殺されちまう」
そう言って少年が走っていく。
『勿体無いあれだけの才気があれば何をやっても成功しように』
頷くヤオ。
『それはともかく本題だ。ここはもう直ぐ戦争になるが、どうする?』
白牙の言葉に悩むヤオ。
「難しい所だね。今回の戦争は、鉱山の利権を巡っての物だからどっちが正しいとも言い辛いんだけどね」
『でも元々は隣の国の物であろう』
白牙が調べてきた情報を確認する。
「最初は、でもこの国の人間があの鉱山を見つけるまでは見向きもしなかったって話だよ」
その確認の為に、ヤオはこの町に長く滞在していた。
『だが、お前がここに居るって事は必要とされているって事だろう』
白牙の言葉にヤオが頷く。
「そーなんだよね。あちきがここに居ないと正しい戦いを続けられない人間が居るって事なんだと思う」
数日後、戦争は起きた。
双方ともあまり正式な軍隊を向かわせていない為、散発的な衝突が続いていた。
『これは泥沼の戦いになるな』
その言葉にヤオが首を横に振る。
「多分明日大きな動きがあるよ」
ヤオの言葉の正しさは翌日証明された。
山の元々の持ち主の国が大きく疲労した様子で、かなりの戦力減の状態になろうとしていた。
『どういうことだ?』
白牙の言葉に、ヤオがいう。
「ここ数日ね、深夜に極々小さな夜襲が繰り返し行われたの。無論それで大きな戦果は見込めなかったけど、本当の目的は相手を夜寝かせない事。数日そんな事をされたら、戦争経験が低い軍隊は確実に消耗するよ」
白牙がうなる。
『つまり優秀な軍師が居るって事か?』
ヤオは首を横に振る。
「だれが考えたかは実は見当はついてるよ」
「お久しぶり」
ヤオは軍の野営地に居た。
その声に、下働きをしていたあの時の少年が驚く。
「お前、どうやってここまで来たんだ?」
ヤオは微笑んだまま応えない。
「ところで今日は夜襲をしないの?」
少年は驚く。
「何の事を言っているんだ」
「細かい夜襲で相手の気勢を殺ぐなんて真似、ちゃんとした軍師がつくか、貴方みたいになりふり構わない人間しか思いつかないの」
ヤオの説明に少年が苦笑する。
「この戦争に勝てば俺は自由の身に成れる。だから出来るだけの事はする。もしお前が敵国のスパイだというなら」
そう言ってナイフを構える少年にヤオが言う。
「違います。それより忠告、多分この戦いは引き分けで終わるよ」
その言葉に少年が驚く。
「俺達は圧倒的に押してる。あと少しで勝てる!」
ヤオは野営地を指差して言う。
「簡単だよ、幾らなんでも鉱山の利権を失う可能性があるっていうのに本気じゃない。引き分けになる事が事前から決まってるよ」
「冗談はよせ!」
少年の言葉にヤオは問題の山を指差す。
「あの鉱山ね、実は毒素を含むガスが漏れ出してるの。このまま使い続けたら工夫に死人が出る筈だよ。それで、相手側に一度渡し、もう一度戦争を仕掛けて取り返すって筋書きが出来てる筈だよ」
少年が反論する。
「そんな事をして、どうなる。工夫が死ぬ事は変わらないじゃないか!」
ヤオが困った顔をしながらも応える。
「そうすれば、工夫が死んだのを敵国の所為に出来る。そして沢山の工夫を失わされた大義のもとに、国力を全て使って、ここ以外にも多くの鉱山を持つ敵国に攻め込む事が出来る」
愕然とする少年にヤオが言う。
「だから気をつけてね、今有利に進んでるから、逆にこちらが不利になる筋書きが組まれている可能性があるから」
何も応えられない少年を残してヤオはその場を去る。
「きっと嘘に決まってる。俺達は勝って自由を手に入れられる」
少年はそう自分に言い聞かせて居た時、奴隷兵達の野営地に敵軍が一斉に襲ってきた。
「見張りはどうしたんだ!」
「逃げるぞ!」
その時、奴隷達が必死に作った簡易砦の門が閉まる。
「開けてくれ、俺達がまだ中に入っていないぞ!」
必死に扉を叩く奴隷兵。
少年の脳裏にヤオの言葉が過ぎる。
そして少年は貸し与えられていた刃こぼれだらけの剣を抜く。
「俺は戦う。これは俺達を捨て駒にしようとする汚い奴等の策略かもしれない。だとしても俺は自由を手に入れるために戦い、そして勝つ!」
他の奴隷兵達も門が閉まって逃げ場が無い事を気付き、覚悟を決めて武器を手に取る。
その時、拍手が聞こえてくる。
「やっぱ貴方って根性あるね」
砦の壁の上に座っていたヤオが嬉しそうに言う。
「そうか、お前は、お偉いさんに通じて居たんだな!」
少年の言葉に首を横に振るヤオ。そして両手を地に向ける。
『八百刃の神名の元に、我が使徒を召喚せん、大地蛇』
ヤオの右掌に『八』、左掌に『百』が浮かび上がる。
大地がうねり、とても立っていられない状況になった大地から巨大な蛇が出てくる。
『我は偉大なりし八百刃様の使徒、八百刃獣の一刃、大地蛇なり。正しき戦いを汚す者どもを打ち砕かん』
そして大地蛇は、砦も相手も全て蹴散らしてしまった。
「それでその後どうなったんですか?」
話を聞いていた奴隷の少女が質問にヤオが答える。
「鉱山の毒ガスの事を公表して、工夫を救い。そうする事で王の信用を得た。今はその国の大臣の一人だよ」
信じられないって顔をする奴隷達にヤオが言う。
「自分の道を信じて進む以上、きっと道が開ける。貴方達も自分達の道を見つけるんだよ」
手を振るヤオ。
奴隷達が店を出て行った後。
「白牙、金目の物を探すよ!」
その言葉に溜息を吐く白牙。
『お前なー、今さっきまで良い話ししてたんだから、そのまま終わらせようという気は無いのか?』
その言葉にヤオが気絶している男達の懐を探り、金銭を物色しながら言う。
「誰も見てないから良いんだもん」
そう嬉しそうにしていると、奴隷の少女が戻ってきてその様子を見た。
「何してるんですか?」
ヤオは咄嗟に言い訳が思い浮かばず白牙を見るが、白牙はそっぽを向く。
「何やってるんですか?」
奴隷の少女の冷たい視線にヤオはさっと金品を出して言う。
「故郷に帰るにもお金が必要でしょ? 悪人の金だけど貴方達に使ってもらえれば罪滅ぼしになる筈だから」
「そうだったんですか。ありがたく使わせてもらいます」
あっさり受け取る奴隷の少女。
そして外から奴隷達の声が聞こえる。
「本当か本当に良い人だ」
「助かったこれで村に帰れる」
「本当あの人は神様みたいな人だ」
ヤオ自身は、残った金品を探すのに必死でそれ所ではなかった。
ヤオは、数日分の食費分しか見つけられなかった。




