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戦神神話  作者: 鈴神楽
八百刃の回想
22/68

八百刃の怒りに触れた国

今は何も無い平原そこには八百刃の怒りに触れた国が存在した

「白牙ここに来るの、何年ぶりだっけ?」

 ヤオの問いに白牙が少し考えた後答える。

『約五十年ぶりだ』

 そう言って二人は、今は何も無い平原を見る。

「あちきも若かったって事で」

 その言葉に白牙が溜息を吐く。

『そうかもな、新名に力を渡す前までだったら、この平原が十倍になっていただろうな』

 ヤオも素直に頷く。

「どっちにしてもここにあった国が無くなるって事実だけは変わらなかったよね」

 白牙が地面を穿り返し言う。

『戦いを侮辱した者の末路は常に決まっている。それを解っていない国だった』



「ねーねー白牙、ここの卵美味しいね」

 本気に嬉しそうに言うヤオに溜息を吐く白牙。

『お前は、何を考えているんだ。信望者を増やす努力しないか?』

 少し考えてからヤオが呑気に答える。

「あーゆーのは自然と増えるもので、何かすれば増えるって物じゃないと思うよ」

 その言葉に白牙が爪を伸ばし(本気で伸びてます)言う。

『だからといって何もしなければ減る一方だぞ!』

 スクランブルエッグを食べながら平然とヤオが答える。

「別にいーじゃん戦神の信望者なんて増えないに越したことは無いよ。平和が一番」

 白牙が大きな溜息を吐く。



 ヤオは、何気なく町を歩いていた。

 少し前に大きな戦いに関り、当座の旅費がある為、平穏だった。

 そしてその時、一人の少女が兵士達に嘆願する姿を目撃する。

「兄さんを返して!」

「うるさい!」

 すぐさま突き飛ばされるが、少女は諦めなかった。

「兄さんは王宮の研究施設に居るはずなんです。お願いします!」

「ぐだぐだ言うと処刑するぞ!」

 剣を抜く兵士に、ヤオが近づき笑顔で言う。

「女の子には優しくしないといけないよ」

「邪魔をすればお前も」

 振り下ろされた剣はヤオの指で受け止められる。

「気になったんだけど、貴女のお兄さんってどうして王宮の研究施設なんかに居るの? 研究員か何か?」

 ヤオはそのままの姿勢のまま、少女に聞く。

 少女は首を横に振った。

「高額な報酬を払ってくれる仕事があると言って、王宮の研究室に行ったんです。もう一ヶ月も帰ってないんです」

 その言葉に眉を顰めるヤオ。

「それってかなりやばいねー」

 ヤオは、受け止めていた剣を捻り、男の手から奪い取る。

「刃向う気か!」

 周りの兵士が取り囲む。



「それで王宮の研究室で何をやってるの?」

 兵士達全員をあっという間に倒したヤオがまだ意識がある兵士の一人に問いただす。

「俺達も詳しいことは知らないんだ。ただ今後の戦いを大きく変えるものとしか……」

 ヤオは難しい顔をして言う。

「今後の戦いを変える研究ね」

『何かきな臭いな?』

 白牙の言葉にヤオは頷く。

「あちきはこれに呼ばれたのかもしれないね」

 そしてヤオは少女を連れて王宮に向かった。



「ヤオさんって強いんですね」

 後ろを向き、今まで倒してきた兵士達を見て呟く少女にヤオは頷く。

「まーね。強くないと勤まらない職業だからね」

『戦神候補を人の職業と一緒にするな』

 少女には聞こえない白牙の突っ込みに苦笑するヤオ。

 そしてヤオは、王宮の研究室の扉を開く。

 そこには沢山の人だったものが収められていた魔法玉があった。

 それを見た途端、ヤオの顔から表情が消えた。

 そして、研究所の奥で肥満した王冠を被った男が現れて言う。

「お前が何処の手のものかは知らんが、これを見られたからには生かして帰しはしないぞ!」

 そして魔法玉の一つが開き、そこから数人の人だった物が一つになって生まれた異形の化け物が歩みだす。

「これこそがわが国が開発した、最終兵器、人を触媒とした人造魔獣だ! もはや人としての死を超越したこの化け物には、どんな兵器も通用しない。この人造魔獣を持って世界を我が手に収めるのだ!」

 白牙が焦っていた。

 今がとても危険な状態だと理解していたからだ。

『ヤオここは一旦後退しよう。冷静になって対処すべき事態だ』

 ヤオは何かを堪えるように頷き、下がろうとした時、一緒に来た少女が叫ぶ。

「あれは兄さんの腕輪!」

 少女が指差す先には肉に埋もれた腕輪が見えていた。

「兄さんあたしよ!」

 その言葉に人造魔獣の動きが止まり、その口から聞き取り辛い言葉が発せられる。

『す・ま・な・い。兄さんは……帰れない』

 絶望にその場に膝を付く少女。

「そんなどうして兄さんが……」

 そしてこの国の王は、近場に居た技術者に言う。

「どういうことだ、奴の人としての意識が残っているでは無いか! 屑の思考など全て消してやれと言った筈だぞ!」

「すいません。直ぐに!」

 そう言って技術者が何かの操作をすると、人造魔獣は短いうめきをあげた後、再び動き出す。

「兄さん……」

 何もする気力を失った少女に白牙が少女にも解るレベルでテレパシーを発する。

『今すぐ逃げろ。この国が無くなるぞ。家族が居るのだったら少しでもこの国から離れろ』

 少女が驚く。

 ヤオは右手を白牙に向けて唱える。

『八百刃の神名の元に、我が使徒に力を我が力与えん、白牙』

 右掌の『八』の文字が強く輝き、白牙は数メートルの刀身を持つ刀に変化する。

 そしてヤオは白牙を振り上げて、その国に居る全ての者に向かって神託を下す。

『我は戦を司る神名者、八百刃なり。この国は戦いを汚し、人の体と心と魂を汚した。その罪は、贖える物ではない。よって我が神名の元、この国の消滅が決定した。この国を捨てる者はされ、この国を捨てられぬ者は、この国と共に消えよ。選ぶ自由を汝らに与えん』

 ヤオが白牙を振り下ろした時、王城は真っ二つになった。



 国に居る殆どの者が国を捨て、少しでも遠くに逃げようと駆ける。

 その後ろでは、大きな蛇、大地蛇が蠢き、大地が崩れ、天を覆うような竜、天道龍が放つブレスが容赦なく、国の痕跡を打ち砕いていく。

 そして白い閃光が走るたび、そこに国があった証が確実に打ち砕かれて行った。



「私の国が滅びると言うのか?」

 唯一王城で残った場所に一国の王だったものが居た。

 九つの色の尾羽を持った鳥、九尾鳥に乗ったヤオが宣言する。

『汝、国と共に消えよ!』

 そしてヤオは飛び上がり、唱える。

『八百刃の神名の元に、我が使徒に力を我が力与え、我が威光と化さん、九尾鳥』

 ヤオの右掌の『八』、左掌の『百』、胸の『刃』の文字が激しく輝き、九尾鳥は大きな弓と化す。

 大地蛇が、王都を囲む土壁を作る。

 ヤオは、九尾鳥が変化した弓から伸びる九本の尾羽の内、黄色と赤と白の尾羽を引くとそれは巨大な矢と変化し、巨大な弓から放たれる。

 黄色い矢は雷撃となり、残っていた建物を全て打ち砕く。

 赤い矢は火炎となり、地上の全てを焼き尽くす。

 白い矢は光りになり、圧倒的な力で、地面を平らにした。

 大地蛇が土壁をなくした時、そこにはただの平原が広がっていた。

 どんなに想像力豊かなものが居たとしても、ここが王都だったとは想像もつかないであろう。

 そこにあった国の名は八百刃の怒りに触れる禁句となり、近隣の歴史書からも抹消され、八百刃を畏怖する人々の口からその名は紡がれる事は二度と無くなり、その国は完全に消えた。



「人と人とが争うのは確かに好きじゃないけど、それ以上に人の体や心を捻じ曲げて、戦いに使おうとした国をあちきは許せなかった」

 今はもう古き主神を倒した、もっとも神に近い存在になったと言われるヤオがその平原を見て呟いた。

 その平原にはいまだ何も無い。

 八百刃の怒りは確実にその地を人の踏み入れさせない地に変えた筈であった。

 だが、その平原を一人の男が鍬で開墾していた。

 ヤオは気になってそばに寄る。

「おじさん何故ここを開墾するの?」

 男は無言で鍬を振るう。



 ヤオはそれから一週間その男を見続けた。

「嬢ちゃんは、何でこの地を開墾する俺が気になるんだ?」

 ヤオは平原を見渡し言う。

「ここって何にも無いよ? そんな所に何を作るの?」

 男は鍬を振り下ろして宣言する。

「何かを作るのはこれからだ。俺が何かをする度にこの地には何かが増えていく。そしてこの平原を豊かな地にしてみせる」

 その言葉にヤオは笑顔で言う。

「解った。だったらあちきがおまじないをしてあげる」

 そう言ってヤオが手を地面に当てた。

 暫くしてから立ち上がり言う。

「おまじない終了。もうここは貴方の国だよ」

 その言葉に首を傾げる男。

「どういうことだ」

 ヤオは荷物を背負って旅立つ準備をしながら言う。

「ここにはかって神名者の怒りに触れた国があったの。だから全ての意思あるものがここを嫌っていたの。でもその怒りが解けた事を意思あるもの全てに伝えたから、もうここは大丈夫だよ」

 そしてヤオは歩き始める。

 男はヤオの言葉を不思議に思いながらも鍬を振る。

 すると今までは土が拒絶して居た気がしたが、それが無くなって居た。

「大地の意思が神名者の怒りが解けた事を知ったって事か?」

 自分で言いながらも全然信じる気が無い男であった。

 その後、男は、この平原に新たな国を作ることになるのであった。



『それでどうするんだ、食料』

 白牙の突っ込みにヤオが溜息を吐く。

「まさか答え聞けるのに一週間かかるとは思わなかったよ」

 残り少なくなった食料を見てヤオが周りを見渡す。

「本気で何にも無いよこの周辺って」

『正に自業自得だな』

 白牙の呟きが全てだった。

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