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戦神神話  作者: 鈴神楽
神々の世代交代
20/68

古き神と新しき神

遂に時空神、真名との決着を付ける時が来た、そして新たな空席の時空神の席に着くのは?

 その戦いは人の知る者では無かった。

 しかし確実に人の世界に影響を与え続ける。



「あれルーミの負けだね」

 普段連勝している海賊の親分の娘、ルーミが賭け事に負けて拗ねる。



「何故だ、どうして急に犯罪がこうも増えるんだ」

 ルーフェス聖王国の王子ホリが叫ぶ。



「こんなに物価が乱れるのは初めてだ」

 大商業都市ドーゴルの商人ヤーオが首を傾げる。



 世界の理すら変化させる神々の戦いの影響は世界に確実に影響を与えて居た。



「産み立ての卵は美味しいねー」

 ほのぼのと卵料理を食べるヤオ。

「どうしてお前が俺の所で卵料理を食べているんだ?」

 ロート大森林に住む森と植物の神候補、地覆葉が疑問を投げつける。

「だって、人の世界で神々の力が及ばない所ってチークが支配するこの森くらいしかないんだもん」

 極々当然の様に言うヤオに、地覆葉が溜息を吐いて言う。

「まー良いがな。蒼貫槍が消えたのはやはりヤオがやったのか? 出来るかもと思ったが、実際神名者が神を滅ぼせるものなのか?」

 地覆葉の言葉にヤオは首を横に振る。

「普通は無理だよ。蒼貫槍は半ば自爆だもん。若い神は溜めてある力が少ないから、無理やり使わせてやるだけで自然と自滅するの」

「自爆させたられる所が凄いんだよ」

 そう言いながら、地覆葉は肝心要のニーナを見る。

「しかし、こっちの旗頭がこんな状態でよく決戦を行う気に成ったな?」

 その言葉にニーナが縮こまる。

「新名様を侮辱する事は許しません」

 リースがいきり立つが、緑髪人に睨まれ、動けなくなる。

 それでも立ち向かおうとする姿勢を見せるだけ、進歩したのかもしれない。

「仕方なかったんだよ、真名が新名を滅ぼすのに蒼貫槍を使って、失敗した。その所為で、折角、古い神側が確保していた最大戦力が失われて、バランスが崩れたんだから」

 ヤオの解説に地覆葉が言う。

「しかし、こちらの決め手たる時空神にそれ相応の力がない今、勝てたとして、どうするつもりなんだ?」

 ヤオは、少し考えてから言う。

「多分仮の時空神を立てると思う。新名の力が成長するまで、他の力ある神が時空神の代行をするんだよ」

「随分無理やりだな」

 呆れた口調の地覆葉に頷くヤオ。

「仕方ないんだよ、新しい神は、実力では古い神には勝てない。だから相手の隙を突こうと勇み足をするんだよ」

 そんな神名者の会話にローダが入る。

「他人事みたいに言っているが、地覆葉、貴方も新しい神側の存在だろう良いのか?」

 その態度に緑髪人が怒髪天だが、ローダは気にせず、地覆葉を見続ける。

「残念だが、蒼貫槍の時みたいに、向こう側から降りてこない限り神名者には何も出来ないんだよ」

 その言葉にヤオがフォローを入れる。

「神名者はこの世界に縛られてるからね。どんなに頑張っても神が住む世界にはいけない。逆言えば、神の世界にいける神名者ってそれはもう神様と一緒って事だよ」

 舌打ちをするローダ。

「結局、ニーナを護るしか手が無いのか?」

「それが一番大変だけどねー」

 ヤオがそう言って外を見ると、多数の神の使徒が森に入って来ているのを感じる。

「最初にいって置くぞ、この森では一ヶ月持たないぞ」

 地覆葉の言葉に少し残念そうだが、ヤオが言う。

「やっぱり。さてさてどうするかだね」

 その時、強い光が現れる。

 ローダとリースが構え、ニーナが驚くが、後のメンバーは事前に気付いていたのか、平然としている。

「キンカ、今忙しいんじゃないの?」

 ヤオの言葉が示すようにその光の正体は、ギャンブルと海の女神、金海波であった。

『だからこそ、ここに来たのよ』

 悲しそうな顔をして、金海波が言う。

『最後になるかも知れないからヤオちゃんの顔を見に来たのよ』

 冷たい視線が集まる。

『タイミングが最悪だと思うがな』

 白牙の突っ込みに少し顔を赤くしてから金海波が言う。

『神名者、八百刃、貴女に神体を与える。これが我々の決定です』

 その言葉に意味を知っている神名者達は驚く。

「神体って何なんだ?」

 意味が解って居ないローダが尋ねるとニーナが戸惑いながらも答える。

「神体とは、その名の通り神の体。正確に言うならば複数の神から力を受け取る、主神が用いる媒介。神体と契約した神々の神名が刻まれ、その力を自由に使えると言う能力があります。それが故に主神しかその体はもてないとされています。それを神名者に渡すのは前代未聞の事です」

 それに対して金海波が首を横に振る。

『一回だけ有るのよ、神名者が神体を使った事が。今回と同じ代替わり戦争の際にね』

「神様も結構戦争やってるんだな?」

 ローダの素朴な意見に空気が物凄く重くなる。

「でもよく認めたねー」

 ヤオが聞くと金海波が自慢げに胸を張って言う。

『当然よ、新しき神々の中でも勝つのは無理だとさえ言われていた蒼貫槍を打ち破ったんだもの』

 少し寂しげな顔をするヤオ。

「それで、神体を使ってどうするんだ?」

 地覆葉の言葉に、金海波が答える。

『今の主神の神体の契約の証を奪う。そうする事で古き神々も反抗を諦める』

 ヤオは小さく溜息を吐いた後言う。

「了解。とにかくあちきは、真名を倒せば良いって事だね」

 そう話を締めようとした時、金海波はヤオをじっと見る。

『そして、そこに居る新名が新たな時空神としての力を手に入れるまでの代わりの時空神をやってもらうつもりよ』

 それには誰もが驚いた。

 呆れ顔でヤオが言う。

「何考えてるの、どう考えても神名者に主神やらせるのは間違ってるよ」

 それに対して金海波が言う。

『主神の条件なんだと思う?』

 金海波は、一人ずつに聞く。

「強い事か?」

 ローダ。

「清らかであることです」

 リース。

『高い理想か?』

 白牙。

「平等で有ることですか?」

 緑髪人。

「知識と経験ですか?」

 ニーナ。

「センスだろう」

 地覆葉。

 全員の答えに首を振る金海波、そしてヤオの方を向く。

 全員の視線がヤオに集中する。

「安心できる事。主神に能力や力は求められない。一番大切なのは、神々が自分の力を預けても大丈夫だと思える安心感だよ」

 金海波が頷く。

『全員一致だった。高い能力を持ちながらも人を中心に進められる心こそ、神に必要な要素であり、それを一番に行っている八百刃こそ主神代行に相応しいって』

 ヤオは、物凄く困った顔をするが頷く。

「とにかく真名との決着だけはしないとね」



「お前が決着をつけるまでの間は、俺が責任もって新名を守ってやるよ」

 地覆葉が宣言する。

「頑張ってください」

 拳を握り締めながら言う新名。

「俺の信望は変わりません」

 真っ直ぐの瞳でローダが言った。

 ヤオはそんな全員の顔を見てから答える。

「皆が頑張れば何とかなる。そんなもんだよ」

 そしてヤオの体が動かなくなる。

『八百刃は神体にその魂を移したわ』

 金海波の体に白牙が飛び乗る。

『急いで八百刃の元に』

 白牙の言葉に金海波は頷いて、光となって消えていく。

 そして地覆葉が頭をかきながら言う。

「さてと、少し掃除をしておくか」

 地覆葉の右腕の『地』左腕の『覆』そして背中の『葉』の文字が光る。

『地覆葉の神名の元に、森よ我一部と化せ』

 ロートの大森林が鳴動し、その中に潜んでいた神々の使徒達を消滅させて行く。

 その様子を見て驚くリース。

「凄い能力だな」

 ローダの言葉に緑髪人が胸を張る。

「この森の中でしたら、八百刃様でも我主に勝つのは容易ではありません」

 その言葉に苦笑する地覆葉。

「でも最終的には勝つのは必ず八百刃だよ。それより家に入るぞ」

 そして小屋に戻っていく地覆葉であった。



 八百刃がゆっくり目を開けると何故か鼻息が荒い金海波が居た。

 躊躇無く、八百刃は膝を金海波の脇腹にめり込ませる。

 その時になって自分が裸なことに気付く。

「そうか、服はきちっとイメージしないと出てこないのか」

 そう言って、頭の中に何時もの服をイメージすると普通に何時もの服が現れる。

「酷いよ、八百刃」

 涙目で抗議する金海波に白牙が呆れた様子で言う。

「非常事態に八百刃の裸に欲情するお前が悪い」

 そして白牙が八百刃の肩に移る。

「行くか?」

 八百刃は頷く。

「こうなった以上早く決着つけないとね」

 真名がいる場所に移動する。

 それは一瞬で済んだ、そこは正に神殿であった。

「ここに真名が居るんだな」

 八百刃は目を閉じて周囲の気配を確認する。

 確かに真名の気配を感じるそして同時に無数の神の残骸を感じる。

「もうこんなに神が滅んだんだ……急ぐよ」

 八百刃は、神殿に入って行った。



 主神、時空神それは同義語であった。

 そして今の時空神の名は真名と言う。

「遂にこの時が来たか」

 時空を司る時空神は未来を読む力もあった。

 その予測した未来の中には今の状況もあった。

 自分が予測した未来の中でも失敗と言って良い未来の中にあった事が起りつつある事は理解していた。

 どの従神の力を使おうとも、回避が出来ない事も予測済みだった。

 そして最後の方法を取らざる得ない事を理解した上で、その時を待っていた。

「あちきが来る予想もしていたんですよね?」

 自分の前に立つ八百刃の言葉に真名が言う。

「ああ、失敗の予測の一つだ。この未来が来る気がしたから、私はお前を神名者にする事を最後の最後まで反対した」

 それに対して八百刃が言う。

「神名者は神が決めるじゃなく、人が望むからこそなるものだよ」

 頷く真名。

「そうだ。だから私がここで滅び様としているのも人が望むゆえの結果だ」

 真名は遠くを見るように語る。

「結局神とは何であろう。生まれるのも消えるのも人の意思に左右される。信望され、信仰され、忘れ去られたら消えていく。まるで人こそ真の主と言わんばかりでは無いか」

 八百刃は首を横に振る。

「違うよ、あちき達は単なる代表者でしかないんだよ。でも代表者だから、良くも悪くも決断して、導く義務がある」

 真名はそんな八百刃に言う。

「お前は、代替わりを迫られているのに滅びない私を悪とするか?」

 八百刃は苦笑する。

「存在しようとする心は正しいよ。それを否定しようとする者こそ悪だよ。そしてあちきは、自分が悪になろうとも、今の世界を守りたい」

 その言葉に真名が笑顔で言う。

「お前に滅ぼされるのなら、そんなに悪い結末ではないのかも知れないな」

 二人がお互いを見詰め合う。

「しかし、最後まで足掻かせて貰おう」

 真名の言葉に八百刃は頷く。

「行くよ、白牙」

「解った」

 八百刃の手の中で何時もの刀の姿でなく、まるで一本の大きな牙の様になる白牙。

 八百刃が駆ける。

「見るが良いこれが我、最大の力だ!」

 真名の声に答えるように、空間が変質する。

 時間が急速に巻き戻される。

「他の神では有効になるまでに時間がかかるだろうが、たった百十四年しか生きていないお前だったら有効のはずだ!」

 そして振り下ろされた白牙。

 その場に崩れる真名。

「やはり、確実に白牙を始末させるべきだったか」

 その言葉に頷く、十歳の姿をした八百刃が居た。

「そうだね、戦神の死骸から相手を破る力の凝縮した牙から転じた白牙の力が無ければ、人間に戻ったあちきでは貴女を倒せなかったよ」

「私の負けだ」

 そして長き間、主神の媒介だった神体から、真名の意思が抜け落ちる。

 それと同時に八百刃は元の姿に戻る。

 崩れていく、神殿から八百刃は神体を持って脱出する。



「真名が消えたぞ」

 地覆葉の言葉にニーナも頷く。

 そしてローダがまるで眠っているようなヤオの体を見る。

「この体はどうなるんだ?」

 地覆葉が少し考えた後言う。

「多分、自然に崩れて、魔獣の元になるんだろうな」

 その時、ヤオの目が開く。

「おはよう。やっぱ自分の体は良い」

 そう言って起き上がるヤオに全員が驚く。

 そして光と共に金海波が現れる。

『ヤオちゃんどうするつもりなの!』

 それに対して、ヤオが言う。

「無理に代理つける必要は無いでしょ、新名に新しい時空神になってもらえばいいんじゃん」

 それを聞いてニーナが驚く。

「でも私力も信望も足りません。それに安心感も……」

 それに対してヤオはニーナに一つの珠を差し出す。

「これは真名の神体から取り出した、真名の記憶。これが貴女に足りない意思を与えてくれるよ。あと信望だけど」

 手を繋ぎ、ヤオはニーナに自分の中に溜まっている信望の力を流し込む。

「これで十分でしょ」

 驚く金海波と地覆葉。

 ニーナにいたっては何も言えない状態である。

『何考えているの、折角溜めた信望の力を渡してしまうなんて!』

 金海波の言葉に、ヤオが言う。

「時空神はどうしても必要だよ。だけどあちきが代理になったらまた同じ様な争いになる。だからここは直接、新名に引き継いで貰うの」

 溜息を吐く金海波。

『もうそれしかないじゃない』

 慌てているニーナにヤオが言う。

「さてさて、神になるとしたら使徒一人位いないとしまらないね。ローダ、新たな時空神、新名の使徒になりなさい」

 その言葉に他人事って顔をして飲み物を飲んでいたローダが噴出す。

「いきなり何言ってるんだ、ヤオ! 俺は八百刃様の信望者だぞ」

「別に問題ないよ。人の使徒って別に少なくないし、第一、ローダ貴方は、ニーナがちゃんと自分の事を守れるまで助けるんでしょう。神になった以上、人の一生くらいでは達成出来ないよ。それを無理だからやらないなんて言うの?」

 その言葉にローダはもう一度、新たな時空神、新名を見る。

「解ったよ」

 そして最後にニーナがヤオと向かい合う。

「本当に良いんですか? あたしに全ての信望を渡して?」

 ヤオは力強く頷く。

「最初からになるだけだよ。頑張りなよ」

 そしてここに新たな時空神が生まれた。



 この後、新たな時空神、新名の名はリースの手によって人の世に知れ渡り、新名の第一の使徒、狼打ロウダの手による救済と共に信仰を集めていく事になる。



「チークあちきの荷物は何処?」

 詰め寄るヤオに地覆葉が頬をかいて言う。

「もう要らないと思ったから処分しちまった」

 その言葉に崩れるヤオ。

 白牙はそんなヤオの横に来て言う。

『お前を不幸にしてる神様は生き残ったみたいだな』

 その言葉にヤオは涙目で拳を握り締めて言う。

「あちきは負けない」

 ヤオの戦神になる為の旅は、まだまだ困難が多そうである。

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