震天動地、戦神の交戦
戦神蒼貫槍との決戦の時
「相手も本気って事だな」
闘甲虫を展開し、必死に蒼貫槍の使徒を蹴散らすローダ。
『新名の神名の元に、空間に新たな理を与えん、我が示す道以外の道を断て』
ニーナの右胸の『新』の文字が浮かび、ローダが応戦する場所以外から近づけない理を追加する。
リースは必死にローダの手助けをするが、今までの様な、信徒による間接的な襲撃でなく、使徒自信の直接的な襲撃では、リースは殆ど役にたたない。
「これだけの使徒を使って来るなんて、蒼貫槍は確実に私達を排除しようとしていますね」
ニーナが苦々しく言うとローダが言う。
「お前は間違っているのか?」
ニーナが目を瞬かせる。
「お前が間違っていない限り、これは正しい戦いだ。正しい戦いには常に八百刃様の御加護が有るから絶対勝てる」
ニーナはヤオに対して、砕けた態度を取っていても、ローダの八百刃に対する信望は確固たる物が有る事を知った。
それが例え現役の神と相対する事になっても変わらない事に驚きと感嘆を覚えた。
ニーナが、自分の信望者リースを見ると、蒼貫槍の使徒の圧倒的な力に完全に怯えていた。
その二人の差が、ニーナには自分と八百刃の差に思えた。
「あの人の居る場所は遠く、高いですね」
ニーナはリースに微笑みかける。
「ここは私の力で守られています。信じて下さい」
その一言に、リースは新名を信用していない自分に気付く。
「すいません。そうですよね、ここは新名様の力で守られる場所、この場所での安全を信用しないで何処を信用すればいいか解りません」
リースから不安が消えると同時にリースの力が僅かに上がる。
それを確かに感じとり、ニーナが小さく呟く。
「私達の力は人の思い。だからその思いを受け止めら受け皿になる事こそが大切なんですね」
そんなニーナの成長があったとしても絶対的な戦力差は如何様にもし難かった。
そしてその時、マードラス王国で兵士達に寄生した触手の化け物が襲ってくる。
「あんな化け物まで」
ニーナが絶望に支配されかけた時、全てを燃やし尽くす様な炎が視界を埋めた。
下位の使徒達はそのまま消し炭になるが、触手の化け物だけは、急速的な回復能力で復活していく。
しかし、上空に開いた穴に吸い込まれる。
「言っただろう、正しい戦いには常に八百刃様がついているって」
ローダの自信たっぷりな言葉に答えるように、炎の翼を持つ鳥、炎翼鳥が頭の上にヤオを乗せて現れる。
その横には巨大な竜、天道龍まで居る。
「お待たせー。ローダ、雑魚をきっちり仕留めなさいよ」
ローダは頷く。
「お任せください八百刃様」
そして八百刃が天を仰ぐと天から蒼い光が舞い降りる。
『ひさしいな、八百刃』
蒼いローブを身に纏った、暗い蒼い瞳と髪を持った存在、邪法戦神、蒼貫槍が現れた。
「本当だね、もう直ぐ神になるって時に、態々あちきに喧嘩売ってきたっけ」
歯軋りをする蒼貫槍。
『そう、あの時はお前が強力な魔獣を使徒にしていると知らず遅れをとったが、今回は違う! 見よ、これを』
蒼貫槍の腕の振りに反応するように大地が鳴動する。
地面が割れ、天にひびが入り、そこに数十体の終末の獣が現れる。
『ハハハハハ! 幾らお前の使徒でも、これだけの数の終末の獣を相手には出来まい!』
ヤオは冷静に言う。
「貴方はあの時から変わってないね」
その言葉に蒼貫槍が言う。
『何を偉そうに! 神となった我力を見よ!』
次々と蒼い雷が落ちる。
その直撃を食らって、落下する天道龍にヤオは右手を向ける。
『八百刃の神名の元に、我が使徒に力を我が力与えん、天道龍』
ヤオの右掌に『八』の文字が浮かび上がると、天道龍が持ち直し、更に大きくなっていく。
そして円を描くと、世界を跨ぐ門を作る。
『無駄だ、異界とて、これだけの終末の獣を受け止められるだけのキャパシティーは無い!』
次々に蒼貫槍が蒼い雷を打ち下ろし続ける。
『八百刃の神名の元に、我が使徒に力を我が力与えん、炎翼鳥』
ヤオの右掌に『八』の文字が浮かび上がると、炎翼鳥の炎が強まる。
そして炎翼鳥は天道龍の上空に炎を放ち、凄まじい熱量を発生させる。
熱量により周囲の空間が歪み、蒼貫槍の蒼い雷も歪みによって、天道龍から逸れる。
『無駄だ、そんな大技何時まで持つ! 私はまだまだ出来るぞ!』
そう言って連続して蒼い雷を放ち続ける。
「蒼貫槍あんたは自分が何で負けたか解っていないね」
『何を言うか、さっきも言った、お前が強力な魔獣を使徒にしているのを知らなかったから負けたのだ!』
それに対して、ヤオが答える。
「違うよ、力しか見てないからだよ。戦いは力と力のぶつかり合いじゃない。それに気付けない限りあちきには勝てないよ。例え神様に成ってもね」
『ふざけるな! 力こそ全て、そして今私はお前の何倍もの力を持ち、そして終末の獣を従えて居る。その力にお前が勝る事は出来ない! だからお前はここで滅びるのだ!』
それに対して、ヤオは平然と答える。
「力をまともに食らう必要は無いし、そして使える力は自分のだけじゃない。そう貴方のその強大な力を持ってすれば、終末の獣すら滅ぼせるんだよ」
ヤオは両手を大地に向ける。
『八百刃の神名の元に、我が使徒を召喚せん、大地蛇』
地面が鳴動し、大地に住み大きく捲れあがり、終末の獣達を一箇所に集める。
天道龍がゲートを閉じ、降下したと思うと再びゲートを開く。
『降下した所で結果は変わらん! 吸い込みきれる訳が無い!』
「そう、大出力過ぎる力は拒絶される。それでも大きな力で無理やり押し込む事は出来る。そして再びそのゲートを開いた時どうなると思う」
ヤオのその言葉に蒼貫槍が鼻で笑う。
『自分で自分の首を絞めたいのか? 再びゲートを開けばそこから戻ってくるに決まっているだろうが! お前がしようとした結果がそれだ!』
その時、ゲートから蒼い雷が溢れ出した、その力は絶大で、八百刃獣ですら滅ぼせない終末の獣達をいとも容易く消滅させていく。
「凄い力だよね。他の神でも終末の獣を完全に滅ぼすなんて真似は簡単には、出来ないよ」
ヤオの言葉に愕然とする蒼貫槍。
『まさか先程のゲートは私の雷を溜め込む為に……』
「うん、完全な終末の獣を受け止められる程の異世界なんてそうないし、吸い込む力にも限界があったから、逆に無理やり入ってきてくれる様な力を呼び込む大きな的と、的から逸らせて、目的の場所に入れさせる細工をしたんだよ」
そして地面を指差して言う。
「そして、目標を一箇所に集めて、溜め込んだ力を逆流させてやればこうなる」
『馬鹿な私の完全なシナリオが……』
蒼貫槍の顔から生気が失せていく。
「これが八百刃の戦い方なの」
ニーナの呟きにローダが頷く。
「八百刃様は常に力で全てを解決するわけでは無い。その時に必要な事を見極めて、もっとも有効な手段を取れる。必要なのは、力の大きさではなく、その力をどれだけ正しく、有効に使えるかだ」
ローダは、ヤオに命じられた通り、蒼貫槍の使徒から二名の戦いの目的でもある新名を守り続ける。
『まだだ、私にはまだ、この圧倒的な力がある。所詮、終末の獣など、お前の八百刃獣をひきつけるただの囮だ。私が直接戦えばお前を倒すなど造作も無い事だ!』
そう言って蒼貫槍は自分の力の象徴である蒼い槍を生み出す。
「決着を付ける時だね」
ヤオは足元で出番を静かに待っていた白牙に右手を向ける。
『八百刃の神名の元に、我が使徒に力を我が力与えん、白牙』
ヤオの右掌に『八』の字が浮かび上がり、そして白牙は一振りの刀になる。
蒼貫槍は空中を駆け、一気に間合いを詰める。
『我力に勝てると思うなよ!』
鋭い槍の一撃が放たれる。
「さっきと同じだよ、大きい力を無理に受ける必要なんて無いよ」
ヤオは、白牙を使い、槍の一撃を受け流す。
受け流された蒼貫槍の力は、後にあった山を打ち砕く。
「自然破壊だね」
軽く溜息を吐きながら、ヤオは蒼貫槍の攻撃を全て受け流していく。
『これならどうだ!』
蒼貫槍が手を天に振り上げ、降ろす。
それと共に無数とも思える蒼い雷がヤオを襲う。
「学習能力が無いね」
炎翼鳥の吐き出す炎の超高熱が、空間を歪め、全ての雷を散らす。
大地は、一瞬の内に砕かれる。
その場で生きているのは、ニーナの作った結界の中に居る者達だけだ。
その外に居た蒼貫槍の使徒達は、残らず死に絶えた。
『負けない負けない!』
蒼貫槍のラッシュは続く。
しかしヤオはもうこの戦いの結末を理解していた。
『力こそ全て、そうだ、力こそ全てなのだ!』
蒼貫槍が渾身の力を込めた突きを、ヤオは素手で受け止める。
「もうお終いだよ」
次の瞬間、蒼貫槍の象徴である槍が砂の様に崩れていく。
『何故だ、私の力はこんな物では無い!』
大きな溜息を吐いてからヤオが言う。
「神の力は無限じゃないよ。人間の信仰を溜めて強くなる。たった五十年位の信仰心で無理に力を使い続ければ、神となる為に溜めた信望心をも削ることになる。そしてそれを使い果たした時、神に待つのは……」
蒼貫槍の姿がどんどん崩れていく。
蒼貫槍は崩れながらも何かを求めるように蠢く。
『私は力が欲しかった。人間の争い止める力が! しかし人間はどれほど強い力を見せても争いを止めない。どうしてだ! 私は人間の争いを止めたかっただけなのだ!』
ヤオは少し躊躇した後言う。
「人は争いを止められない。だからこそ戦神が必要なんだよ。貴方のやろうとした事は、自分の存在を否定することでしか無かったんだよ」
そう言ったヤオ自身がショックを受けた様な顔で居る。
蒼貫槍は、逆に憑き物が落ちた様な表情をして言う。
『そうだったのか。随分皮肉なものだな、何故戦神は、戦いを嫌う者が成るのだろうな?』
その疑問にヤオが自分の信じる物全てを込めて言う。
「嫌う物だからこそ選ばれるだと思う。嫌いだからこそ本当に必要な戦いだけを選べるから」
蒼貫槍は苦笑する。
『そうか、つまり私は選べなかったから邪神になってしまったのだな』
全てを理解した様な表情をしながら蒼貫槍は消える。
『ヤオは、知っていたのか蒼貫槍の思いを?』
刀から元の姿に戻った白牙の言葉にヤオは強く頷く。
「当然だよ、自分と同じ道だもん。どんだけ強い苦悩があったかなんて直ぐ解った。だからこそ、どうにか一緒に戦神に成りたかった」
本当に辛そうなヤオの顔に、白牙は何も言えない。
しかし、ヤオは直ぐに天を向く。
「バランスは崩れたよ。多分これから本格的な争いが始まる。その決着を決めるのは」
そう言ってヤオは下に居るニーナを見る。
「まだ若い神名者だよ」
『きつい戦いになるんだな』
白牙の言葉に頷くヤオであった。