八百刃の息子
八百刃の息子と孫と曾孫
マーロス大陸の大商業都市ドーゴル
『ヤオなんでこの町に来た?』
その言葉にヤオは、寂しげに言う。
「予感がしたから」
その言葉に白牙は何も返さない。
そしてヤオはある大きな商店を目指した。
「いらっしゃいませ」
そう言って、頭を下げる女性従業員を尻目にヤオは、奥に居た一人の青年に声を掛ける。
「ヤーバに会いに来たんだけど、居る?」
その言葉にその青年は怒った顔に成る。
「貴方も祖父の死を知って来た、ハイエナですか!」
その言葉に頬をかくヤオ。
「ヤーバの孫なんだ。顔の輪郭なんかはトリスに似てるわねー」
そうじっくり見るヤオにその青年は戸惑う。
今までの相手とはリアクションが違うからだ。
「始めまして、貴方の曾祖母のヤオ。息子のヤーバに会いに来たの」
その言葉を聞いて驚く。
「冗談は止めてください。祖父は、今年で六十ですよ、貴女はその祖父の母親だって言うつもりですか?」
大きく頷くヤオ。
「まー腹を痛めて生んだって訳じゃないから血の繋がりはないけど、赤ちゃんの頃から育てたからね」
ふざけられていると思ったのかその青年は怒る。
「祖父は生死の境に居るんです。ふざけるのは止めて下さい!」
そういった時、奥から責任者風の男が来る。
「お婆さん来てくれたんですね!」
その言葉に青年も驚く。
「ヤーオ、貴方は元気そうね、いい事よ。あー出産祝いはまだだったけど、持ち合わせないから今度来た時で良い?」
苦笑する責任者風の男、ヤーオ。
「今度来て下さるんでしたらいいですよ。私の結婚式以来、ここには寄って下さらないでは無いですか」
その言葉に痛い所を突かれたって顔に成るヤオ。
「他の大陸とか回ってて中々この大陸に戻って来れなかったのよ」
その言葉に苦笑するヤーオ。
「とにかく親父が待ってますから早く奥へ」
ヤオは頷く。
商店の奥には一つの寝室があり、そこに一人の老人、ヤーバが寝ていた。
「お母さん来て下さったんですね?」
頷くヤオ。
「もうこれはお母さんが神様になった後、天国で会うしかないかと諦めてましたよ」
その言葉に白牙が言う。
『何度も教えただろう、死は死だ。死後の世界など期待するな』
その言葉に苦笑するヤーバ。
「相変わらず、白牙はきついですね」
『呼び捨てするなと、これこそ何百回も言っただろうが』
責めるような口調だが、その言葉には深い悲しみがあった。
「私はもう直ぐ死にます。本当はお母さんが神様になるまで生きて居たかったんですが、お母さんの性格じゃ、何時になることやら」
わざとらしい溜息。
「悪かったわね」
そんなヤオの顔に触れてヤーバが言う。
「やっぱりお母さんは変わらない」
その言葉にヤオは物凄い辛い顔をする。
「気にしないで下さい。私は一度もお母さんがお母さんであった事に不満を持った事はありません。まー何度も店の品を壊された時は流石に親子の縁を切ろうかと思いましたがね」
あさっての方を向くヤオ。
「でも本当に良かった、お母さんに会えて」
ヤオは気付いていた、ヤーバの命が後一日も持たないことを。
「最後に聞いて良い?」
「何ですか?」
ヤオの言葉にヤーバが返した。
「あちきの力で延命しちゃ駄目?」
その言葉にヤーバは首を横に振る。
「はい。いけません」
そして大きな溜息を吐くヤオ。
「あちきはこうやって自分の息子の死を見送らないといけないんだね」
辛い辛い一言に、ヤーバが言う。
「そうですね。しかし私は幸せです。お母さんの息子だった事も、こうして死ぬ前にお母さんに会えた事も」
その夜ヤーバは家族が見守る中、安らかに息をひきとった。
『葬式に出なくていいのか?』
町を出て行くヤオに白牙が声を掛けると、ヤオは頷く。
「あちきが葬式にでたら問題になるよ。それにヤーバってあちきの息子なのに天包布を信仰してたから、そっちの形式で葬儀するから、あちきはあまり向いてないよ」
寂しげなヤオに白牙が言う。
『きっとヤオの事は母親として純粋に思って居たかったんだろう』
ヤオは一度だけ振り返った後言う。
「白牙、あちきはこの世界が好き。だから無理に神になる気もしなかったよ」
白牙が頷く。
『そうだな』
「正直、神同士が争うには今でも反対だけど、それでもあちきは、この世界が今のままの方が良い」
そして天を仰ぎ言う。
「新名もそうだけど、あちきも又、現存戦神、蒼貫槍を破る必要がある。それが納得いかなかった。神は人が作る。人に必要とされた神を滅ぼす事は嫌だったけど、今なら言える。あちきはあちきの子孫の為にも、蒼貫槍を倒して、間違った戦争に満ち溢れたこの世界の新しい戦神になる」
『それでどうする、金海波の申し出を受けるのか?』
それに対してヤオが首を横に振る。
「多分、その必要は無い、蒼貫槍はもう直ぐ新名を狙う。ローダの存在と新名のパワーアップで、使徒単体での襲撃でどうにかなるレベルじゃなくなった。自ら体を持って、攻めて来るから、あちきが倒す」
『蒼貫槍はもはや神だ、それも戦神だ。勝てるのか?』
その言葉にヤオが少し困った顔をする。
「まともに考えたら勝てないかもしれないけど、もし蒼貫槍の心が昔のままなら勝てるよ」
『だったら行こう』
白牙が真っ直ぐ前を向く。
「新名の所へ」
ヤオが、神名者、八百刃が戦神を決める戦いへの決意を固め、この世界の運命を決める神の戦いの火蓋は切って落とされようとしていた。