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戦神神話  作者: 鈴神楽
神々の世代交代
17/68

遺跡の謎と神名者の力の源

再び遺跡探索をするヤオ、そして神名者の力の源とは?

 マーロス大陸のメッサーラ遺跡



「この卵が最後!」

 ヤオは財布の残金全てを使って頼んだゆで卵の殻を慎重に剥いて行く。

 そえつけられた塩を振りかけて口に入れようとしたその時、

「よ、ヤオ久しぶり」

 後から肩が叩かれて、ゆで卵は床に落ちて砕け散る。

 ヤオの目に涙を浮かぶ。

「最後の卵だったのに!」

 大泣きするヤオ。

 食堂の全員の視線がヤオの肩を叩いた男、ローダに突き刺さるのであった。

「ゆで卵位奢ってやるから泣き止め」

 その言葉にヤオはえぐえぐしながら言う。

「……オムレツも食べたいよー」

 大きな溜息を付いてローダが言う。

「好きなだけ頼め」

「えーとオムレツとゆで卵とスクランブルエッグと目玉焼き!」

『ついでに刺身を頼む』

 ローダはそう言った白牙に挨拶をしながら席に着く。

「相変わらず、貧乏みたいだな」

 遠い目をして白牙が言う。

『マーロス大陸に来てから更に悪化してる気がする』

「所で仕事しないか?」

 その言葉にヤオは来たばかり目玉焼きの皿を持って隣の席に移る。

「ローダは、直ぐ報酬減額するから、嫌」

 ローダは苦笑する。

「そう言うな、今度の仕事は先払いだ、それだったら良いだろう?」

 その言葉に現在の経済状況を考え、大きな溜息を吐いてからヤオが言う。

「どんなお仕事?」

「なーに遺跡探索さ」

 その言葉に白牙が言う。

『お前も懲りないな、ヤオと一緒にそんなものをやってたら、神経が焼ききれるぞ』

「安心しろ、今回は遺跡の中では別行動だ」

『成る程な』

 ローダ自信たっぷりの答えに納得する白牙。

 そんな二人を見てヤオが言う。

「なんであちきの使徒と信望者は信望対象に対してこんな態度とれるんだろう」

 それに対して二人が口を揃えて言う。

「『お前がちゃんとしてないからだよ』」

 べそをかきながらスクランブルエッグを食べるヤオがだった。



「何で遺跡探索なんてしてるの? ニーナの護衛やってる最中でしょ?」

 ヤオは、前払いとして貰った金貨三十枚を大事にしまいながら尋ねる。

「今度探索する遺跡は神名者、新名様がその力で莫大な財宝が有るって神託したんだよ。ここでその財宝が見つかればニーナの信望も高くなる」

『即物的だが、良い手だな』

 白牙が感心してからヤオの方を向く。

『お前もこー言った信望者獲得の努力をした方が良いのではないか?』

 ヤオは大して気にした様子も無く、答える。

「人は人、あちきにはあちきのやり方でやるよ。まー時間かかっても確実に自分のやる事やってれば信望なんて自然と集まるものだよ」

『その前に飢えて動けなくなる可能性も有るがな』

 白牙の一言に、その場でいじけるヤオであった。



「ということで、第三班はこのヤオについてってくれ」

 ローダがヤオを紹介する。

「ヤオです。頑張りましょう」

 疑惑の眼差しがローダに集まる。

 そして、第三班こと、ひよっこ集団のまとめ役の男、ダーラがローダを集まった人間の死角に連れ込み言う。

「ローダ、あれは何だ?」

 ローダは少し考えた後言う。

「遺跡の場合は、ドジシーフって所か」

 その言葉にダーラが言う。

「お前な、ドジシーフをひよっこ集団と付け合せて何するつもりだ!」

 それに対してローダが言う。

「多分一番命の危険が少ない筈だぞ」

 ダーラは眉間の血管を浮き出させ言う。

「お前も冒険者なら知ってるだろう。ドジなシーフ程危険な物が無い事くらい!」

「この身で確認済みだ。トラップには結構掛るが、致死性のトラップは確実に回避する」

 ダーラが睨む。

「そんな話を信じろと言うのか?」

「俺が信望する、八百刃様の名前に誓って嘘偽りが無い。万が一にも誰かが死ぬ事があったら俺の命やるよ」

 ローダのその言葉にダーラが大きく溜息を吐いて言う。

「お前がそこまで言うなら信じよう」



「信じるじゃなかった!」

 ダーラは大岩から逃げながら叫ぶ。

 そして死角でヤオが大岩を切り裂く。

「これで何回目だ?」

 ヤオが少し考えてから言う。

「確か十二回目」

「その三倍はある筈だ!」

 指をふりふりヤオが言う。

「違うよ、この階に下りてから回数だよ」

 周りの人間は血管の切れる音を聞いた。

「お前は俺たちを殺す気か!」

 半歩下がるヤオ。

「でもでも、即死系のトラップは完璧に排除してますよ」

「だからって気付いておきながら、態々トラップの起動スイッチを押せるか!」

 にじり寄るダーラ。

「わざとじゃないんです」

「わざとじゃなくって、何処をどうしたらこうなる!」

 逃げ回るヤオに追いかけるダーラ。

 そんな二人を見ながらひよっこ達が休憩する。

 暫くそんな事をしていた後、ヤオが止まる。

「この遺跡、遺跡じゃない」

 いきなりの言葉にダーラが止まる。

「白牙、急いでローダ所に行ってから、他の班の助人に行って、この遺跡は、現役だって。まだ神の力が残ってる」

 その言葉に白牙は頷く、床を容易く切り裂きながら進んでいく。

「おいどういう意味だ、生きてるって」

 次の瞬間、遺跡が鳴動する。

 ひよっこ達が怯える。

「何なんだ、これは!」

 ダーラが怒鳴るが、ヤオは少し考えた後、呟く。

「ローダに嵌められた」

 その言葉に驚くダーラ。

「嵌められたってどういうことだ!」

 ヤオが答える。

「新名のパワーアップの為に、この遺跡を目覚めさせたかったんだ」

 周囲の壁が急速に復元していく。

「さっきから意味が解らないぞ! ローダは言ったぞ、誰も死人を出さないと」

 その言葉にヤオは嫌そうに頷く。

「その為にあちきを連れてきたんだ。つまり、この遺跡の財宝の話しを含めて、全てローダの計画だろうね」

 大きく溜息を吐くヤオ。

 次の瞬間、遺跡の壁がヤオに迫ってくる。

「危ない!」

 ダーラが叫ぶが、壁はヤオにぶつかる前にはじけ飛ぶ。

「急速に力を抜かれて、遺跡が真に遺跡になろうとしてる、最後の足掻きだよ」

 少し悲しそうな顔をするヤオ。

「時間が無いのは解るけどねー、真の神に成るのはこーゆー事じゃないのになー。ローダには少しお仕置きが必要だね」

 そういって両掌を足元に向ける。

『八百刃の神名の元に、我が使徒を召喚せん、闘威狼トウイロウ

 ヤオの右掌に『八』、左掌に『百』の文字が現れて、一匹の狼、闘威狼が現れる。

 闘威狼は周囲の、遺跡の戦う意思を吸収して巨大化していく。

「八百刃って、お前は……」

 ダーラが驚いている間も闘威狼は大きくなっていった。



「これで良かったんでしょうか?」

 遺跡から少し離れた場所で、時空神候補の女性、新名ことニーナが呟くとローダが言う。

「これからの蒼貫槍との対決にはお前のパワーアップが必要だ。それは解っているよな」

 ローダの態度に新名の信望者のリースは何か言いたげであったが、堪える。

「解っています。何時までも八百刃の信望者である貴方の力に頼っている訳には行きませんから」

 ニーナが強い決意を込めて言うとローダも頷く。

「だったら強くなる努力をすることだ。この遺跡に眠る神の力を手に入れれば、ニーナの力は大きくなる筈だったな?」

「はい。今の所はまだ小さいですが、あの遺跡全ての力を手に入れられれば……これは」

 その時、遺跡が崩壊し、その中から、一匹の巨大な狼が現れる。

 そしてその頭の上にはヤオが居た。

「ローダ、力の意味を勘違いし過ぎだよ。力とは必要ならば自然と手に入る物。今のニーナが必要としてる力はこーゆー力じゃないよ」

 そう言って、ガレキの山を指差す。

「新名、貴方が力を手に入れる為に、危険を犯した所為で、あそこにはたくさんの人が埋っているよ。それをどうするの?」

 ヤオの言葉にニーナはローダ、ヤオをそしてガレキを見てから胸を曝け出す。

 ローダとリースがそっぽを向く中、ニーナの右胸の『新』と左胸『名』の文字が光る。

『新名の神名の元に、世界に新たな理を与えん、遺産よ遺跡となり人々を救え』

 次の瞬間、折角手に入れた力全てを使って、ニーナは神の力を残した遺跡を普通の遺跡にし、人々を救い出す。

 そしてその一部始終を見ていた人間から自然と声が上がる。

「あれが新たな神名者、新名様のお力か」

「神の御業じゃ」

「凄い、そしてなんて慈悲深いんだろ」

 そしてその後、ヤオを見る。

 巨大な狼を従わせるその姿は、正に人々が描く戦神そのものであった。



「結局パワーアップしたのか?」

 あの事件の後始末を終えた後、ローダが聞くとニーナが頷く。

「はい。あの時の私の事を見ていた人が強い信望を持ってくださった為です」

「それは良かったな。こっちはそれどころじゃないがな」

 闘威狼の力に影響されて、大きくなった闘甲虫が重くて思うように動けないローダであった。

「大丈夫ですか?」

 ニーナが心配そうにするが、リースがいい気味とばかりに笑顔で言う。

「自分が信望する神名者からの罰です。我々が介入する事ではないですよ」

 大きく溜息を吐くローダ。

「何時になったら元の大きさに戻るんですか八百刃様!」

 ローダの心からの叫びが周囲を響き渡る。



「どうして、あちきについて来るか聞いて良い?」

 ヤオが自分の後についてくるダーラを始めとする第三班の面子に言う。

「信望する神名者の後についていくそれだけです」

 あの格好良いヤオを見て、新しい信望者になったのだ。

『これも神名者の仕事だ』

 白牙がそしらぬ顔のままヤオだけに聞こえる声で言った。

 結局まくまでに、信望者達の食費等で折角のお金の大半が消えたのであった。

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