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戦神神話  作者: 鈴神楽
神々の世代交代
15/68

神名者を求める者

人は神を求める、それが地上にあるとしたら求めるのは必然なのかもしれない

 マーロス大陸の大森林ロート



「さて、今夜はまともな人間のご飯が食べれるぞ!」

 ニコニコしながら森の中を歩くヤオに白牙が溜息を吐いてから言う。

『幾らお金ないからって、神名者の知り合いの所に押しかけるのは、止めないか?』

 その言葉に首を傾げるヤオ。

「どうして、チークとは友達だから良いと思うよ」

『友達ってな、一応神名者同士はライバルみたいなもんだろうが?』

 白牙の言葉にも気にした様子見せず、歩き続けながらヤオが答える。

「関係ないよ、神名者は必要だから選ばれてる。基本的、神名者は全員神様に成るんだから気にするだけ無駄じゃん」

 競争心って物が欠落しているヤオである。

 そんなヤオ達の目の前に一組の旅行者が居た。

 一人の少年を、屈強な男達が囲み、中心に美形の男性が居た。

「この組み合わせって例のあれだね」

 ヤオが呟くと白牙も頷く。

『ここに来ると何時も居る気がするぞ』

「まー居場所が解っている神名者って少ないからね」

 ヤオはそう言って、近づくと屈強の男達が警戒する。

「最初に言っておくけど、何処の王子様か知らないけど地覆葉チフクヨウを自分の国の招くことは無理だよ」

 その言葉に屈強の兵士たちは驚く。

「お前何故それを知っている。まさかホホラ王子の手のものだな!」

 そういってヤオを囲む。

「違うよ、良くあることだから解るの。前に来た時も同じ事を考えてた王族が居たからね」

 その言葉に中心に居た少年が苦笑する。

「そうですよね。誰もが考える事ですよね」

「そうそう。でも誰も成功してないよ」

 ヤオの言葉に対して美形の家臣が言う。

「しかし、ホラン王子が王位に着くにはそれしか無いのです」

 白牙が眉を顰める。

『おいおい王家のお家問題だぞ、大丈夫か?』

 ヤオも頬を掻きながら心の中で答える。

『チークのお客様だからあちきは関係ないよ』

『神名者を招きたいんだったらお前でも良いんだぞ』

 白牙の言葉にヤオは思いっきり口に出して言う。

「それは無い」

『断言するな!』

 白牙がテレパシーで怒鳴る中、ホラン王子が不思議そうな顔をしてヤオを見る。

「なにが無いんですか?」

 ヤオは笑顔で答える。

「地覆葉の代わりにあちきが貴方達の国に行くって話しです」

 その言葉に、爆笑する一堂。

 ヤオはそれを見て心の中で白牙に言う。

『ほらね』

 物凄い悲哀を感じさせる白牙がそこに居た。



 結局一緒に行くことになったヤオとホラン王子。

「詰まりホラン王子様は、第一王妃の子供だけど、第二王妃の息子ホホラ王子って人の方が、年上で、軍功を挙げていたから、崩御した国王のあとを継ぐって話しが挙がっているって事だよね」

 ヤオが現状を要約するとホラン王子が頷く。

「はい。第一王子の息子と言ってもまだ十五の私には大きな後ろ盾もありません。ですから、その後ろ盾になって頂ける神名者として、この森に住む植物と森の守護者、地覆葉様を我が国に迎えいりたいのです」

『本気で良くある話しだな』

 そういう白牙に、ヤオは一行を一度見渡してから心の中で答える。

『そう、よくある話みたいだよ』

 そして一行は地覆葉が隠棲する小屋に到着する。

 ホラン王子が躊躇するなか、ヤオはあっさり扉を叩く。

「チーク遊びに来たよ」

 一行が驚く中、扉が開き、そこに緑の髪の男性が居た。

「これはこれはお久しぶりですヤオ様」

 そう言って、頭を下げるとヤオは、気楽に質問する。

「おひさ、チークは居るんでしょ?」

「はい地覆葉様でしたら、中に。ところで後のお人たちは」

 ヤオは振り返り言う。

「森の中であった毎度な人達」

 その言葉に緑髪の男性が言う。

「お帰り下さい。地覆葉様はこの地を離れるつもりはございません」

 その言葉にホラン王子の側近の美男子、トレートが言う。

「しかし、その娘には会うのだろう。我々とも会って貰っても構わないだろ」

 緑髪の男性の顔が激怒する。

「貴様等何様のつもりだ、このお方は百年以上神名者をやっていらっしゃる正しき戦いの守り手、八百刃様だ! お前等の様な人間と同一にするな!」

 その言葉に全員が驚く中、ホラン王子が問いかける。

「あの有名な八百刃様なんですか?」

 その言葉にヤオが頷く。

「まーね。因みあちきも一つの国に所属するつもりないからね」

 中に入っていくヤオ。



 部屋の中には神名者としては高齢の四十過ぎの外見を持つ、静かだが存在感がある男性、地覆葉が居た。

「チークおひさ! また神格化が進んだねー」

「お前は前と変わらないな。その割には力だけは一段と高まっている。それだけの力があればただ黙っているだけでも神になれるんじゃないか?」

 地覆葉の言葉にヤオは首を横に振る。

「あちきは一人で居るなんて無理。寂しくって死ぬね」

「お前は兎か」

 呆れながら緑髪の男性、地覆葉の使徒、緑髪人リョクハツジンに命ずる。

「久しぶりに紅茶を飲むとしよう」

 その言葉に緑髪人が頷きお茶の用意を始める。

「あちきも手伝うよ」

 そう言って立ち上がろうとした所で思いっきりこけるヤオ。

「力が上がりすぎて、人間の体が追いついてきてないぞ」

 地覆葉の言葉にヤオは顔をさすりながら言う。

「解ってるけど、不思議と神格化が進まないんだよね」

「お前も私みたいに隠棲するか?」

 さぐる様に地覆葉が言うと、ヤオは、表情を変えず、答える。

「さっきも言ったでしょあちきはそんな事したら死ぬよ」

 そんな会話を聞きながら白牙言う。

『それより本題に入ったらどうだ?』

 その言葉にヤオは頷き言う。

「お金貸して」

 白牙の爪がヤオに振り下ろされる。

「危ないなー」

 当然、簡単に避けるヤオを白牙が怒鳴る。

『ふざけるのも大概にしろよ!』

 その時、緑髪人が来て怒鳴る。

「その言葉はそっくりそのままお前に返すぞ。自分の主に対してその態度は何だ!」

『うるさい、お前には関係ない!』

 睨み合う白牙と緑髪人を置いて、地覆葉が棚を探る。

「金は無いな。これを金にしろ」

 そう言って宝石を渡す地覆葉。

 ヤオはそれを受け取り

「ありがとう。それじゃ後は、確認事項で、新しい時空神候補の新名が蒼貫槍に狙われているよ」

 その言葉に溜息を吐く地覆葉。

「まさか俺の代に主神の代替わりにぶち当たるなんてな」

 それに対してヤオが首を横に振る。

「多分、それはちがうよ、主神の代変わりだから、あちき達は神名者なんだよ」

 その言葉に地覆葉が言う。

「不思議な話しだな、肉体の依存率と反比例する神格が低いお前が、一番神としての心構えが出来ている」

 そう言ってから紅茶に口をつける。

「飲み物を飲んだのは本当に一ヶ月ぶりだ。私はもう直ぐ神になるだろう。それでもお前のその力と心に勝てるとは思えない」

 ヤオは呑気に答える。

「神や神名者がお互いを比較する事自体が間違いなんだよ」

 地覆葉が苦笑する。

「そー思えるのが凄いんだ。それでお前はどうする」

 ヤオは紅茶の香りを楽しみながら答える。

「あちきは自分からは動かないよ。正しい戦いが行われる場所にあちきが導かれる、それだけだよ」

 その言葉に地覆葉が溜息を吐く。

「詰まり、人が今の世界をどう思うかがこの戦いの行方を左右すると言うことか」

 ヤオは返事をしない。

『ヤオ、外のはどうするのだ?』

 白牙の言葉にヤオは少し困った顔をして言う。

「あちきの感が正しければ、あちきの出番があるかもしれないから監視しておいて」

 その言葉に白牙は頷き、外に出て行く。

 白牙が出て行ったのを確認してから地覆葉が言う。

「何時見ても禍々しいな。真名には、あれを滅ぼせと言われて居たのだろう?」

 何食わぬ顔をしてヤオが言う。

「真名からはそういわれてたみたいだけど、あちきが受けたのは暴れている魔獣を鎮める、それだけだから最初の八百刃獣にしたんだよ」

「本当に大物だよ、お前は」

 半ば諦めに近い差を感じながら、肩を竦める地覆葉だった。



「これからどうするのですか?」

 そう言ったのは、ホラン王子に付き従う若き騎士、ロースであった。

「諦めるのは早すぎます。もし地覆葉様が駄目でも八百刃様はホラン王子に好感触を抱いているみたいですから」

 トレートがそう進言するとホラン王子が躊躇する。

「しかし本当にそれで正しいのであろうか?」

 トレートが断言する。

「それしか方法が無いんです」

 その言葉にホラン王子が躊躇しながらも頷くとトレートが周りの兵士達に指示を出し、野営の準備を始める。

 その夜、ホラン王子のテントに侵入者が居た。

 その手にはホラン王子を殺す刃が握られていた。

「お命頂戴致します!」

 その時、ホラン王子が掛けていた毛布が撥ね上がり襲撃者を襲う。

「お前だったとは……」

 ホラン王子が寝ている筈の場所からロースが剣を手に立ち上がる。

「ホラン王子はどうした!」

 襲撃者の声にこたえ、悲しい瞳を見せるホラン王子が入り口から死角になる位置から出てきて言う。

「八百刃様の助言です。一番信用できる騎士と寝なさいと。まさか本当に襲撃者が来るとは思いませんでした。それも貴方だなんて」

 その言葉に襲撃者、トレートが言う。

「黙れ、ホホラ王子こそ、真に王位に相応しきお方だ、お前の様な気弱な王など、存在していい訳が無い!」

 その言葉にホラン王子が真っ直ぐな瞳で言う。

「貴方の行動は兄上の知る事なのか?」

 その言葉にトレートが答える。

「これはホホラ王子から受けた崇高な命令ですよ」

 その言葉にホラン王子が決断した。

「私は、正直悩んでいました。自分が王位に着くより兄上の方がいいのでは無いかと。しかし今はっきりと解りました。私は王位につきます」

 その言葉にトレートが驚く。

「いきなり何を言うんだ!」

「八百刃様は、私に御教授してくれました。神名者を悪用しようとして滅びた国が有る事を。兄上は自分の王位の為にそれをしようとした。国民に危険を背負わせる王を私は認めません」

 トレートが舌打ちした後、テントの外に控えさせていた兵士に指示を出す。

「この愚か者を殺せ!」

 その時、兵士達の姿が変化する。

 驚き振り返ると、さっきまで兵士達だったそれは、粘液の固まりに変化した。

 トレートが粘液によって地面に押し付けられる。

 その横にヤオがしゃがみこみ言う。

「感謝しなさいよ、緑髪人が貴方の国を滅ぼすって騒いでたのを、ホラン王子が二度とこの様な事をしないと言う誓いを立てる事で回避したんだから」

 ホラン王子は頭を下げる。

「大いなる慈悲に感謝します」

百姿粘ヒャクシネンもう良いよ」

 その言葉に答え、粘液はスライムに変化する。

 体力を使い果たしたトレートを縛るロースを横目にヤオが言う。

「原因が貴方の兄だとわかった以上、貴方は貴方の兄に勝たないといけない、解るよね?」

 その言葉にホラン王子は頷く。

「解っております。必ず王位につき、八百刃様と地覆葉様との誓いを果たします」

 そしてホラン王子達は自分の国に戻っていった。



「駄目だね、十年前ならともかく、今は出せて金貨五枚だな」

 地覆葉から貰った宝石の金額に愕然とするヤオ。

 金貨五枚を握り締めてヤオが叫ぶ。

「チークの引き篭もり。偶には外に出ろ!」

『借りといて何偉そうに言ってるんだ』

 大きな溜息をつく白牙であった。

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