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戦神神話  作者: 鈴神楽
神々の世代交代
14/68

神剣を抱く者

山間の小さな国の王が考え、そして神剣を持つ男とは?

 マーロス大陸の山間にある実りが少ない土地、マードラス王国



「この魔法が完成すれば、我が軍は無敵です」

 その魔導師の言葉に王は歓喜の笑みを浮かべる。

「そうか我等を蔑んでいたローロスの人間を見返せるのだな?」

 王の言葉に頷く魔導師、そのローブは蒼かった。



『何時もの事だが、ここで飢えたら、ミイラになるぞ』

 白牙の言葉は、人気の無い岩場で飢えから倒れているヤオに向けられたが、反応は無い。

『第一どうしてお前は飢える? 力だけなら神と競える位高いのに、普通の神名者だったらとっくに食事等無用に成っているぞ』

 そう言いながらも、白牙には答えが解っている。

 ヤオは、ヤオとして人と触れ合いすぎるのだ。

 八百刃として振る舞い、信望の対象とするならともかく、ヤオ個人の事をよく知る人間が多く居る間は、人間としての性質を強く残す。

 それが故に、高位の神名者程、人前に出ることは少なく、人前に出るのは使徒の役目と成っているが、ヤオに関しては、自分の食い扶持を稼ぐ為に自分でバイトをして、その上、堂々と顔を出している。

 はっきりと個別認識してくれと言っている様な物で、これは神名者にとってはマイナスにしかならない。

 しかし、何時もだったら白牙の言葉に多少なりの反応を示すヤオは今日に限って言えば、まったっく無反応だ。

『本気でやばそうだが、近くに食えそうな物はないな』

 白牙あたりを見回した時、そいつは居た。

 こんな岩場で黙々と剣を振るその男の目は何処までも真っ直ぐであった。

『人肉でも食わないよりましか?』

 白牙がそんな物騒な事を考えていた時、男の下に一人の女性が来た。

「アラン、またこんな人気の無いところで鍛錬?」

 その言葉に、男、アランは頷く。

「まーな、俺は少しでも強くなりたいんだ。町じゃ皆、今日明日生きる事しか考えてない。俺はそんな生活は嫌だ。強くなって、偉い将軍になる。そうなればお前は将軍様の奥さんだ」

「アランの馬鹿!」

 真っ赤にする女性、ミーナ。

 そんな田舎町の幼馴染な恋人を演じる二人の直ぐ側では、ヤオが獰猛なアリに集られて居た。

『止めろ、ヤオの体なんで食ったら化け物になるぞ!』

 トラブルを避ける為に、白牙が必死に蟻を追い払う。

 その騒ぎに、アランが気付く。

「おー行き倒れだ」

「何呑気な事を言ってるのよ、早く助けないと」

 そうしてヤオは、マードラス王国の首都に入る事になる。



「助かりました」

 頭を下げるヤオ。

「良いって事よ」

 アランが鷹揚に言うが、ミーナが白い目で見る。

「何偉そうに言ってるのよ、確かに運んだのはあなただけど、ご飯を作ったのもあたしだし、貴重な食料を出したのもあたしよ」

 その言葉に小さくなるヤオ。

「えーと大したお礼は出来ませんが」

 周りを見渡し武器が飾ってあるのを見て、ヤオが笑顔で言う。

「鍛冶屋の心得もありますから武器なんて作りましょうか?」

 その言葉に立ち上がるアラン。

「本当か? 俺は、武功を挙げたいんだが、良い武器が無くてな!」

 溜め息を吐く、ミーナ。

「あのねーこんなお子様がまともな武器を作れる訳ないでしょ?」

 アランはもう一度ヤオを見て、悩みながら答える。

「万が一って事もあるだろ?」

 とにかくヤオはアランの為に武器を作る事なった。



「お嬢ちゃん危ないよ!」

 ヤオは工房の鉄を溶かす炉の脇でこけて、火の中に突っ込みかけるが、右手だけで体重を支えて、難を逃れる。

 周りの職人達が大きく溜め息を吐く。

「あんな危なっかしい動きされたら、こっちが生きたここちしねえ」

「あー代わりにやってあげたくなるが」

 そう言う職人たちが、見る親方は、ヤオの動きの一部始終を凝視していた。

「何が気に入らないのか、凝視してるもんなー」

 そして親方がヤオに近づいて頭を下げる。

「御見それしました、さぞ名の高い名工の元で修行なされたのですね」

 ヤオが照れた様子で答える。

「そんな事無いですよ。ただ少しの間、マッドライと一緒に修行して居た事があるの」

「あの伝説の名工マッドライの工房で修行して居たのですか?」

 驚愕の表情を見せる親方。

 白牙が遠くからそんな風景を見ながら呟く様に思う。

『完全に誤解しているな、とうの本人と一緒に修行した時代があるんだよな。戦神としての基礎知識だってな』

 ドジッ子ぶりを披露しながら、一本の刀を打つヤオ。

「うそみてい、どうしてあんなドジやっててこんな凄い剣を打てるんだ?」

「謎だ」

 弟子達が信じられない物を見る中、一緒についでにうった刀を親方が受取る。

「それでは次の王宮に納品にこの刀も持って行かせてもらいます。お約束通り、売れた本数かける金貨十枚をお支払いすると言うことでいいですね?」

「はい」

 上機嫌で、お礼用に打った刀を手にアランさんの家に向うヤオに白牙が言う。

『本当に無駄に芸が多いな』

「まーね芸は身を助けるって言うでしょ」

 久しぶりの大金の予感に嬉しそうなヤオ。

『発揮できる機会が無いと金には成らないがな』

 白牙の鋭い突っ込みは、ヤオの耳に届く事は、無かった。



「すっげー! こんな見事な刀初めて見た!」

 素直に感心するアランにミーナは驚き目を丸くする。

「ヤオちゃんって凄いんだねー。もしかして旅の鍛冶屋だったの?」

 それに対してヤオは首を捻る。

「うーん色々やってるけど、これと言った仕事はしてないな、一番よくやってるのはウェイトレスかな?」

「勿体無いなー」

 アランが率直に答える。



 ヤオが鍛冶屋で刀をうつ毎日を過ごしていた頃、アランは王宮の軍隊に入っていた。

 そんなある日、訓練するアラン達の元に一人の蒼いローブを纏った魔導師がやってきて言った。

「お前達を最強の兵士にしてやろう」

 そしてその呪文は兵士達を変化させていった。



「アランも王宮の兵士として真面目に働いてくれれば、お父さんもアランとの結婚を許してくれるよね。そして未来の将軍婦人か?」

 アランにお弁当を持ってきたミーナがにやけるその目の前で、人外の化け物が蠢いて居た。

「何これ!」

 それは蠢く触手の塊であった。

 その触手はミーナに襲い掛かる。

「キャー!」

 ミーナは腕で顔を覆うが、そんな事で触手は防げる筈は無い。

 だが、触手はミーナに触れる事は出来なかった。

「大丈夫か、ミーナ」

 アランが触手を切り落していた。

「アラン、これは何?」

 ミーナはアランにすがり付いて説明を求めるが、アランは化け物の後に居る、蒼いローブの男を睨む。

「お前、何者だ!」

 その言葉に魔導師は答える。

「ワシは王に使える魔導師だ。さっきもいったであろう? 最強の兵士にするんだよ、蒼貫槍様のお力に因ってな!」

「お前邪神の信徒か!」

 そしてアランは刀を構える。

「そんな刀一本で、蒼貫槍様から頂いた、最強の魔獣は敗れない!」

 そんな怪物にミーナは怯えるが、アランはミーナを庇うように立って宣言する。

「俺は負けない。俺は信じる。正しき神を、戦神、八百刃を!」

 その言葉に反応する様に、刀が光輝く。

 その光に触手の化け物は怯む。

「なんだ、その光は!」

 アランの一撃は触手を大きく切り裂く。

「たかが人間の分際で! まだだ、こいつは周りの生き物を吸収し、無限に生き続ける最強の魔獣だ!」

「また終末の獣を作ってるんだねー。一体何体作るつもりなのか?」

 その少女の言葉に魔導師が振り返ると、城の城壁に腰をかけるヤオが居た。

 その姿を見て、魔導師が呻く。

「貴様は八百刃!」

 ヤオは冷たい瞳で言う。

「終末の獣を生み出す事の意味を貴方は知っているの?」

「蒼貫槍様が望む犠牲は全て尊い物だ!」

 その言葉にヤオが言う。

「自分の考えが無い戦いは間違いだよ。あちきは、そんな間違いを正す為に居る」

 ヤオは掌を天に向ける。

『八百刃の神名の元に、我が使徒を召喚せん、天道龍テンドウリュウ

 右掌に『八』、左掌に『百』の文字が浮かび上がり、天空を覆うような竜、天道龍が現れる。

 その巨体にその場に居る皆が驚く中、ヤオはそのまま、右手を天に上げたまま続ける。

『八百刃の神名の元に、我が使徒に力を我が力与えん、天道龍テンドウリュウ

 右掌に『八』が強く輝き、天道龍はその身で輪を作り出す。

 そこに大きな異世界への扉を開ける。

 その扉は終末の獣の成りそこないを吸い込んでいく。

 天道龍を従え、降り立つヤオ。

「異界との扉を開くだと!」

 ヤオはアランを指差して言う。

「あちきがうった刀を通して、アランの強い信望の心が力になったよ」

 笑顔のヤオを見て、驚くアラン。

「ヤオ、お前が八百刃様なのか?」

 そして天道龍をバックにヤオが王城から一部始終を見ていた王様に向って言う。

「あちきは正しい戦いの守り手、あんた等が間違った戦いをするなら、あちきを敵に回すと思ってね」

 悠然な態度で呟くヤオに、王はその場にしゃがみ込み失禁する。



 その後、マードラス王国では、現王が引退し、国外で産業を勉強していた王子が帰国し、産業を盛り上げた。

 そしてマードラス王国を守る守護隊の隊長はあの八百刃のうちし、刀を携えていたと歴史書は語る。



「三本しか売れなかったの?」

 凄く悲しそうな顔をするヤオ。

「すまないなー、いきなり王様が軍の拡張を止めた所為で、武器が殆ど売れなかったんだ。売れた三本も偶々町に来ていた傭兵が買ったんだよ」

 呆然とするヤオの耳に鍛冶屋の親方の言葉が続く。



「そうそう、材料費は、殆ど原価でいいからな」

 そう言って、三十枚の金貨のうち半分を持って行ってしまった。

『自業自得だな』

 白牙が溜め息を吐き、ヤオが崩れ落ちる。

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