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戦神神話  作者: 鈴神楽
神々の世代交代
12/68

広き海に生きる一族

ムーツ王国での若者の暴走、そして戦いを司る者の力

 世界の海と港の大半を支配する海王国ムーツの南海、マーロス大陸付近の海



『同じ下働きだったら、ルードの船でも良かったんじゃないか?』

 商船で下働きをするヤオに白牙が言うとヤオが首を横に振る。

「向こうはあちきが八百刃だって知っているからあまり長居したくなかったの」

『まあ良いが、それより、金海波との話しはかなり大事みたいだな』

 ヤオは頷く。

「まーね、でも十年やそこらで動く事でも無いよ」

『神名者関係か、だとしたら百年二百年後の話しだな』

「神様は気が長いのか短いのか良く解らない。あちきが生きて来た年月と同じ位後の話を、まるで今日明日の様に言うんだから」

『まーなお前は今日明日の飯も困る神名者だからな』

 容赦ない突っ込みを無視して、洗い物に精を出すヤオであったが、何故かその手から皿が滑り落ちる。

「そこの新人、又か!」

「すいません」

 頭を必死に下げるヤオであった。



「お前達は何を考えている」

 一人の王子が言った。

 彼はムーツ王の第六子で、直接次の王位に関わる事は少ないが、この周囲の海を治める領主であった。

 その王子の名はモーロ。

 彼を知るものは言う、新しく何かを生み出す才は無いが、今ある物を維持、運営する事に関しては高い能力を持つと。

 その為、彼は、古くからの家臣には受けが良いが、発展を望む若き家臣には受けが悪かった。

 そして、このとんでもない発案をしたのも若い家臣の一人であった。

「我々、何時までも海に執着する必要は無く、陸にうって出るべきです。今がその時です」

 その言葉にモーロが言う。

「古くから海を渡り、陸地は精々港町しか支配してこなかった。その我々が何故陸にでる必要がある」

 モーロにしてみれば晴天の霹靂である。

「海にはもう我等ムーツの領域でない場所はありません。更なる発展の為に陸に出るしか無いと言っているのです」

 その一言で凡庸ではないモーロは悟った。

 この男は手柄が欲しいのだと。

 かつて、陸の大国と海の領域を争い戦った時とは違う。

 こと海に至っては完全なムーツの領域と言っても過言ではない。

 しかし、それが逆にムーツの発展を止めていた。

 幾ら撃退しても出て来る海賊の対応と、現行の商船航路の維持に全ての力を使いきらざる得ない現状では、とても手柄を立てられる場所は無い。

 そこでこの若い家臣が、手頃と思える陸地に攻め込み、領土を得ようとしている。

 馬鹿げた考えとしか言いようが無いが、血気盛んな若い家臣にはありがちな考えである。

「我等に陸軍は無い。陸を攻める術は無いと思うが」

 ありがちな考えだけに対応の仕方にもマニュアルがあった。

 自分達が陸地での戦闘に向いていない事を解らせればいいのである。

「それでしたら傭兵を雇えば良いのです」

 少しは頭がある家臣であるが、これも的外れな提案である。

「それでは、陸に攻め入るだけの傭兵を雇う金は何処にある」

 まさにそこである。

 ムーツにとって金は海を渡る商人から集める物であり、海賊退治や灯台の建設にならそこそこの金を出させられる自信があるが、陸に攻め込むなど商人にとっては百害有って一利なしの事に金を集める自信はモーロには、無い。

「近々、マーロス大陸の大商人の商船がかなりの額の金を積んでこの海を通るそうです。それを奪えば良いのです」

 その言葉にモーロが立ち上がる。

「お前は何を言ったのか解っているのか!」

 モーロの怒気に古い臣下達が驚く。

 普段から大人しいこのモーロが、この様な怒気を放ったのは初めてだからだ。

「構わないでしょこの辺りは海賊が多い。全てを海賊の所為にしてしまえば良いのですよ」

 若い臣下の言葉にモーロが強い意志を込めた顔で宣言する。

「お前がやろうとしていることは、我等ムーツ王国が長き時代を懸けて作り上げてきた海路の安全を否定する物だ! お前の様なものは我が臣下には不要だ。即刻立ち去れ!」

 しかしその若い臣下、ロイドスは指を鳴らすと回りに居た兵士達がモーロと古い臣下達に槍を向ける。

「何のつもりだ!」

 古い臣下の言葉にモーロが言う。

「最初からこのつもりだったという事だな」

「はい。貴方の下では、我々の出世はありませんから」

 ロイドスの言葉に大きく溜め息を付いてモーロが言う。

「宣言しておこう、お前達の企みは全て無駄に終る」

「負け犬の遠吠えですか?」

 ロイドスの言葉にモーロははっきり答える。

「お前達が軽視をしたムーツの歴史は、けしてお前たちを許すほど甘く無いと言うことだ」

「ふん、我々は貴方の様な臆病者ではありません。我々の手で、全てを変えて見せます」

 そしてモーロは監禁される事になった。



 ヤオが甲板で洗濯物をしていると、商船の周りをムーツの軍用船が囲み始める。

『ヤオ、これは普通で無いぞ』

 白牙の言葉にヤオが溜め息を吐く。

「うん、行動にやる気だけが溢れてるから、多分一部の馬鹿な若造の暴走と見たよ」

 そう良いながら平然と洗濯を続ける。

『ほっといて良いのか?』

「白牙、ムーツって国は良く出来てる国なのよ。海の広さも、そして人の事も良く知ってる」

 その時、魔法が商船に当たる。

 そして魔法で拡張された声が響く。

『お前達は完全に包囲されている。大人しく全てを捧げよ』

 白牙が溜め息を吐く。

『堂々としているな』

 商船の乗員が慌てる中、ヤオは洗濯物を絞りながら答える。

「こっからの筋書きは簡単だよ、船長があっさり金目の物を相手の監視の下で集める。それも態々子供の小銭含めてね」

 ヤオが言う様に船長がすぐさま白旗を振って、金品を集め始める。

「大人しく出すんだ!」

 そう言って少女のガラス球すら奪い取っていった。

 そんな船長が、洗濯物を絞りすぎで破ってしまって、頭を抱えていたヤオの前にも来た。

「金品を出すんだ!」

 ヤオは少し考えた後言った。

「ねー貴方達はあいつ等と戦う気は無い?」

「命が一番大切だ」

 船長のその素っ気の無い答えにヤオは溜め息を吐いて、お財布を取り出す。

「後で返してくださいよ、金貨三枚に銀貨六枚と銅貨十二枚入ってるんですからね」

 船長が困った顔をする。

 周りの軍船の男達はその顔の理由を勘違いする。

「お前も馬鹿だな、俺たちに取られた金が戻ってくると思っているのか?」

 その言葉にヤオは辺りの気配を探ってからその男達の言葉を無視して船長に問いかける。

「この手の手合いって数年に一度出てくるんですよね、大変ですねムーツ王国も」

 その言葉に船長は驚いた。

「君は怖くないのかね?」

「怖がる必要が何処にあるんですか? もう監視船団に囲まれてるって居るのに」

 その言葉に軍船の男達が驚く。

「どーゆー意味だ!」

 ヤオは呆れた顔をして言う。

「ムーツってね、広い海の上だから監視が緩そうに思うだろうけど、そんな事は無いんだよ。特に身内の犯罪には敏感で、少しでも変な行動を起していれば、察知されて事前に監視船団を配置しておく。そんな中で商船を襲うなんて馬鹿な真似をすればどうなるか解るでしょ?」

 そして商船を囲んだ軍船を覆うように、監視船団が居た。



 軍船の中でモーロに仕えていた若い臣下ロイドスは愕然としていた。

「馬鹿な、我々の動きが筒抜けだったというのか」

 周りを見渡し怒鳴る。

「そんな訳は無い! 誰だ、密告したのは!」

 誰もが首を横に振るが、ロイドスは信じなかった。

「こーなったら最後の手段だ」

 ロイドスは自分にこの計画を持ちかけた男が最後の手段にと渡してきた一つのつぼを開けた。



 ひたすら騒ぎまくる軍船の男たちを尻目に船長が言う。

「君はやたら詳しいな、そんな事情を知っているのはかなり熟練の船乗り位だぞ」

 それに対してヤオは戻ってきた財布の中身を確認して、元の枚数しか無い事に溜め息を吐きながら答える。

「戦いのことであちきの知らない事はそう無いんですよ。戦いの知識の方からあちきの耳に入ってきますから」

 その時、強烈な力の波動を感じた。

『この気配はあれだぞ!』

 白牙が慌てる。

 軍船を飲み込み、肥大化するそれは、ルードの船を襲った大海蛸の幼生だった。

 その大きさはまだ小さいが十分な脅威になる存在。

「何だ、あれは?」

 船員達の言葉にヤオが頭をかきながら言う。

「シナリオが読めた、蒼貫槍の使徒が今回の騒動の原因だね。最初から欲望と絶望を糧に大海蛸、終末の獣を育てる為に仕掛けたんだよ」

 そして白牙が何時でも元の姿に戻れる体制をとりながら言う。

『又協力を求めるか?』

 ヤオは首を横に振る。

「前回とは違うよ、成長過程の終末の獣に、いちいち天変地異クラスの使徒を使わないといけないあちきだと思った?」

 白牙が振り返るとそこには、戦いのを司る存在が居た。

 力のみでなく、戦いを支配する為の思考と感性をもつ、神すら凌駕する存在。

 白牙が何度も呆れながらも、心の底から崇拝する存在がそこに在る。



「モーロ様、お逃げ下さい!」

 監視船団に因って助けられたモーロに周囲の忠臣が逃げるように願う。

 しかし、モーロは首を横に振る。

「これは我が臣下が犯した愚考、我はその一部始終を見る義務があるのだ」

 その言葉に、忠臣達は、モーロの前に立つ。

「最後までお供します」

 そうしている間にも大海蛸はその足を他の軍船に伸ばそうとした時、天を燃やす様な炎の鳥が現れた。

 それは大海蛸の周囲を一気に燃やし隔離する。

「これは、何だ」

『我は八百刃様の使徒、八百刃獣の一刃、炎翼鳥なり。八百刃様の神名の元に邪神の使徒をこの場にて消滅させる。何人の手出しは認可せん』 モーロが驚き、その偉大な存在を見た。

 炎翼鳥を従え、全ての間違った戦いを正すその真摯な瞳を持ち、一点の曇りも無い白い刃を握る、戦いに置いての超越者、八百刃の姿を。

 ヤオの白牙での横一閃は、大海蛸をその力の源である海との縁を完全に断ち斬った。

 ヤオは左手に白牙を持ち直すと右掌を掲げる。

『八百刃の神名の元に、我が使徒に力を我が力与えん、炎翼鳥』

 ヤオの右掌に『八』が浮かび上がり、そして炎翼鳥は、鉄すら瞬間に燃やす炎と化し、大海蛸を一片残らず焼き尽くした。



 モーロは古き仕来たりに従い、ヤオの前で片膝を着く。

「今回の件は全て私の不徳故の不祥事。その不祥事を解決に尽力頂き、言葉には言い表せない感謝の心で一杯でございます」

 そしてモーロは自分の指から指輪を抜くとヤオに差し出す。

「私の感謝の気持ちを表すには到底足らない物ですが、お納め下さい」

 すると周りの臣下の人間が言う。

「モーロ様それは、モーロ様がこの領域の領主な事を示す為にムーツ王から授かりし指輪です。それを外されると言うことは領主の地位を捨てるということですぞ!」

 その言葉にモーロが言う。

「今回の不祥事で多くの人命が失われた。私にはその償いをしなければいけない。私の領主として得た全ての財産はその為に使うつもりだ。そして残るのは父より頂いたこの指輪のみなのだ。仕方あるまい」

 強い決意を込めて言うモーロ。

 周りから惜しまれている視線が集まる。

『どうするんだ、この状況でこの指輪受け取るのか?』

 ヤオはテレパシーだけで答える。

『でもこの人それ以外の報酬は払ってくれそうも無いよ』

 淡い期待を込めて、周りを見回すが、改革的な事は何もしなかったが、世襲してきた事を確実に守ってきたモーロの言葉に逆らってまで自分の意思で、報酬を払おうとする人間は居なかった。

『その指輪結構高く売れそうだな?』

 意地悪な事を言う白牙にヤオは心の中で涙を流した。

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