誤解戦争 その2
「ジッパーって、社会の窓の事ですよ~」
「はっ!もしやそれはあれの……!」
「そう。時は流れ、古の彼方より伝わりし、伝説の宝具!」
「言えてないし、分かってるからな」
それは、あれの隠語だろう。
マジかよ。出かける前に確認したはずなんだが……。
阿久津はそう思いながら、ジーパンの方を見る。
が、しかし社会の窓は閉まったままだった。
「おい、久世!ちゃんと社会の窓は……!」
久世に文句を言おうとしたその時、
阿久津の口は、久世の口によって防がれていた。
「むっ……!」
「あはっ……!阿久津さん、いえ五郎くん」
「僕は六郎だ」
「あっ、間違えた」
「違う、わざとだ」
「ふぁみまちた」
「呂律が回っていない!」
惜しい!そこは『ふぁみまみた』なら、よかったのに!
「改めまして……四朗くん!」
「さらに1つ下がったぞ」
「セカンドくん!」
「僕は外国人かよ」
「……六郎さん」
「な、なんだよ」
いきなりまともに名前を呼ばれて、びびる阿久津。
ふざけていたのにいきなり名前を呼ばれると、焦るよね。
「ふふっ……。呼び方1つでここまで変わるなんて……。新発見です」
「……今更、そんなので新発見かよ」
「やはりお酒の力は偉大ですね」
「正確にはビール2杯の香りのおかげだろうが」
酒の力を借りてって……。
匂いだけで力を借りる奴は、世界でも久世、ただ1人だろう。
「六郎さん……。私、あなたの事が……」
「久世……」
顔を赤らめながら、迫ってくる久世。いつの間にか瞳を閉じ、唇もキスの体勢を取っている。
阿久津も場に流されるように、ゆっくりと顔を近づけていき、
「吐きそうか?」
「……はい、もう……ダメ」
そう言って、久世は倒れた。
「やれやれ」
阿久津は倒れた久世を奥の座敷に連れて行った。
その途中、女将さん、つまりは久世の母親にはくすくすと笑われていたが。
結局、久世の日高に対する関係性は、後日学校にて阿久津が言い聞かせたのでありました。




