夏と秋の話
これは私と不思議な彼との寂しい一秋の話。
時は遡ってまだ夏の陽射しが照りつけていた頃に私と彼は出会った。
彼・・と言っても既に死んでいるが。
それと対比するように霊感がある私、こと東宝院ミヤコ。
彼が死んだのは去年の秋。
話によれば死んだ人は一年間、望めばこの世界にいられるらしい。
もっぱらそれが亡霊だか死霊だか言われるわけ。
彼は名前を草野那緒と言った。
最初に見えたのが私だとか何か言っていた。
何が見えたのかはさっぱりだったが、那緒は何時の間にか私と居るようになった。
夏の間、私は宿題に追われていた。
訳の分からない定理だとか言った時に那緒はうまくヒントを出してくれたりもした。
「那緒はどうして死んだの?」
ごくごく普通の会話。
聞いてはいけないことかも、内心思ったが好奇心が買ってしまった。
那緒は顎の辺りをポリポリと掻いた。
「交通事故死・・だったっけ」
自分の死因までもを忘れる能天気さには呆れたがそれ以外では凄かった。
国語、英語、数学聞けばほとんどの事が分かっていた。
秀才や天才って言うんだったっけな・・こう言う人を。
気まずそうな沈黙に追われたからか私は携帯電話を片手に外へ出た。
出たとしても那緒は当たり前のようについて来た。
家の近くにある店に入る。
店、と言ってもスーパーの小型版のような店。
私のクラスの知り合い・・まぁ男子の家が経営している店だ。
その男子は宮上夕と言う名前、そして私が密かに思いを寄せる相手だ。
無造作に選んだお菓子をレジの上に置く。
「こんなに食ったら太るぞ」
冗談交じりの声で言う夕の声がした。
顔を上げるとレジの横に夕がいた。
「太らないもん」
会計を済ませ店の外に出る。
当たり前のように那緒はビニール袋の中を覗く。
が、ふっと顔を上げ見透かしたように指を指した。
「ミヤコはあの男子が好きなんだね」
顔に出ていたかは分からないが内心はかなり焦った。
何で分かるの・・・?
「別にいいでしょ、那緒には関係無いし」
ひねくれた答えを出す。
那緒はつまらない、とでも言うような顔をしていた。
「俺が手伝ってやるよ」
その後は特に変化は無かったが。
那緒は約束してくれた。
それっきり那緒は夕のことを話しに出さなかった。
そして赤トンボが飛ぶ季節も終わりついに秋が来た。
那緒はずっとシケタような顔をしていた。
私は高校につくと一息ついた。
友人である綾は他の人と話している。
窓側の席から校庭を見下ろす。
あ、夕だ。
思い切って席から立つ。
「ゆーうー!!」
窓をガラリと開け思いっきり叫ぶ。
愛想良く反応した夕はぶんぶんと手を振った。
「ミヤコー何してんだー?落ちるぞー」
窓から覗いていた私をからかうように夕が言う。
「落ちないよー!!」
その時の私は満面の笑顔を浮かべていたかもしれない。
「ミーヤコーッ!!」
後ろから綾が来たのに気が付かなかった。
ドンッと衝撃。
目の端に綾の驚いた顔と那緒が飛んで来る姿。
下には夕が走ってくる。
間に合わない・・・。
「ミヤコッ」
一番に追いついたのは那緒で私の周りをくるくると囲んだ。
もう落ちてるのに―――。
「悪いな、これ位しか出来なかった―――――」
ふわり、風に舞う那緒。
落ちる速度が緩まる。
追いつく夕の腕に収まった。
「那緒・・?那緒っ!!」
風に舞った那緒を探そうとあたりを見たが姿がない。
映るのは夕の心配した表情だけだ。
「無事・・か?」
その言葉に頷く。
那緒・・。
「ゴメン・・・」
そのまま夕の胸に顔を当てて泣いてしまった。
嫌がる事無く夕は落ち着かせるように背中を叩いた。
言葉じゃなくて行動で夕の気持ちはしっかり伝わって来た。
見えない言葉みたいに。
涙が止まってから夕はポンッと私の頭を叩いた。
「ナオ・・はいないけど俺がいるから、な?」
「・・ありがとう、夕」
那緒の笑い声が私の耳には確かに聞こえた。
最後までもしかしたら那緒の計算通りだったのかもしれない。
「ありがとう、那緒」
その言葉がしっかり伝わったかは分からないけれど。
那緒には感謝するべきだろう。
少し長めなのか短めなのか中間地点に立っている気分です。初の作品なのでイマイチうまく書けた気がしません・・お付き合いくだされば嬉しいです。