第4話 そうだ、寝取っちまおう!
戦闘を終えた俺は玉座の間に戻りダンジョンコアを確認する。
どうやらコアは既に人間の魂を貪ったらしく、青白い光を放ちながら脈動していた。
「おめでとうございます、陛下。これでモンスターを創造できます」
「うむ。して、どの程度の軍勢が?」
俺の問いに、アザゼルはタブレット端末のような魔道具を取り出しコアの状態をスキャンした。
「はい。現在のリソース残高ですと……そうですね。『スケルトン』が三体ほど創造可能かと」
「……は?」
俺は自分の耳を疑った。
「……今、何と言った?」
「はい。『スケルトン』三体、にございます」
アザゼルはにこやかに答える。
彼女の笑顔とは裏腹に俺の頭は真っ白になった。
(冒険者を三人殺して……スケルトン三体!?)
なんだその等価交換!
効率が悪すぎるだろう!
スケルトンなど駆け出しの冒険者パーティでも数分で倒せる最弱の雑魚モンスターだ。
(ふざけるな……! こんな効率で、どうやってダンジョンを守れと!?)
俺の脳裏に死ぬほどやり込んだゲーム『バビロンズ・ゲート』のエンディングが蘇る。
様々な困難を乗り越え、最高の仲間と共に颯爽とダンジョンを攻略して魔王を討ち滅ぼす主人公――勇者レオンハルトの姿が。
それに勇者の強さは彼一人の力だけにとどまらない。
どんな罠も看破し音もなく忍び寄る斥候役の『アサシン』。
あらゆる攻撃を受け止め決して崩れない鉄壁の『女騎士』。
一撃で戦況を覆す超威力の魔法を放つ『天才魔法使い』。
純粋な暴力の塊で最強の個である『獣人』。
そしてどんな瀕死の傷さえも癒してしまう『聖女』。
他にも百発百中のエルフの弓使いや、伝説の武具を造り出すドワーフの職人……。
まさに完璧な布陣だ。真正面から戦えば、モンスターや魔王であろうとまず勝ち目はない。
ゲーム上では裏ボスのアザゼルでさえ攻略可能の最強パーティである。
(無理だ……!)
全身からサッと血の気が引いた。
スケルトンが何百、何千体いようと、あの勇者パーティの前では無力だ。
俺がこの先どれだけ手を汚し、何千人、何万人の人間を殺したところで、あいつらがダンジョンコアにたどり着くのを止めることはできない。
――俺はどうやっても殺される運命なんだ。
(死にたくない……! せっかく魔王になってアザゼルとのあんな最高の日々を手に入れたのに……!)
恐怖と絶望が俺を支配する。
だがその瞬間、元ゲーマーとしての思考が絶望的な未来を覆す最高にえげつない計画を閃かせた。
(……待てよ? アサシン、女騎士、魔法使い、聖女……)
――こいつら、全員女じゃないか。
そうだ。ゲームをプレイしていた頃も思った。「あのクソ勇者、美女ばっか集めてハーレム作りやがって」と。
敵の戦力を根こそぎ奪い、俺の戦力にする。
俺が自分の手を汚さなくてもダンジョンを守る方法。
そして何より――俺がこの堕落した生活を守り、さらなるハーレムを手に入れる!
俺は足を止め振り返った。
絶望は消え、そこには魔王にふさわしい不敵な笑みが浮かんでいた。
そうだ。答えはこんなにも単純だった。
「勇者が仲間と出会う前に――俺が全員寝取っちまおう!」
玉座の間に俺の俗な欲望に満ちた宣言が響き渡った。
それを聞いたアザゼルは一瞬きょとんとした顔で瞬きをした。
「……『ねとる』……で、ございますか?」
「ああ。そうだ。奴が出会う前に俺が助け出し、俺に惚れさせ、俺のハーレムに加える。そうすれば勇者パーティは永遠に完成しない。完璧な作戦であろう?」
俺が胸を張ると、アザゼルは「なるほど……」と何やら深く考え込む素振りを見せた。
そして数秒後、彼女は全てを理解したかのように目を見開き、その場に崩れ落ちるようにひざまずいた。
その身体は歓喜と畏怖のあまり微かに震えている。
「さ、さ、さすがは魔王陛下……! そのご慧眼、このアザゼル感服いたしました……!」
「お、おう?」
(え? そんな感服する? ただのハーレム作り計画なんだが……)
俺が戸惑っているとアザゼルは恍惚とした表情で続けた。
「敵の戦力を物理的に削ぐのみならず、その精神……希望の象徴たる勇者の心を徹底的に蹂躙なさるおつもりでしたか!」
「ま、まあ、結果的にはそうなる……だろうな?」
「仲間になるはずだった者たちが、こともあろうに陛下の寵愛を受け、あまつさえ勇者に刃を向ける……。考えただけでも身の毛もよだつ悪魔的所業! ――ああ、陛下! なんと恐ろしく、なんと狡猾な計画でございましょう!」
俺の俗な計画は、アザゼルの魔王フィルターを通して恐ろしく深遠な計画へと勝手に昇華されたらしい。
まあいい。
彼女がやる気になってくれるなら好都合だ。
俺は魔王の威厳を保ったまま、最初のターゲットに狙いを定めた。
「うむ。そういうわけだ、アザゼル。――では我が計画最初のターゲットを言い渡す。一人目の寝取り……それは王国の『女騎士』だ」




