表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/60

死の淵の微笑み

死を前にしても笑みを浮かべたルーク。その姿を見たチャールズは、貴族に抗う道が決して容易ではないことを悟る。

昼下がり。チャールズとヒューゴはクリニックのバルコニーに腰掛け、束の間の静けさを味わっていた。

だがその瞬間、広場の方角から異様なざわめきが街を揺らす――怒号、走る足音、空気を震わせる叫び。


ヒューゴが身を乗り出し、険しい表情で下を見下ろす。

「……何だ? どうして皆、広場へ向かっている?」


チャールズも通りに目を向けた。人々の足音は津波のように押し寄せてくる。

「もしかして……城から食料の配給か?」


だが胸の奥を締め付ける不安は消えない。

喉を塞ぐような悪寒が全身を走る。


彼はためらうことなく飛び降りた。硬い石畳に着地すると、土埃が舞い上がる。

走り抜ける男の腕を掴み、声をかけた。


「すみません……前方で何が起きているのですか!」


男は汗に濡れた顔で振り返り、息を切らしながら答える。

「……デズモンド様を殺した犯人が捕まった! 今日、処刑されるそうだ!」


その言葉は刃のように突き刺さった。

チャールズの血が凍りつく。


【……まさか。計画が……露見したのか!?】


脳裏に浮かんだのはルークの顔。

胸を打ち砕くほどの恐怖と焦燥が押し寄せる。


――だが、今動けば全てが崩れる。

奥歯を噛み締め、チャールズは群衆の波に身を委ねた。


一歩ごとに身体が沈むように重い。

やがて辿り着いた広場には、冷たく不気味な処刑台が待ち構えていた。


巨大な丸太が吊り下げられ、その下の木板に押し付けられる首。

――ルークだった。


チャールズの喉からかすかな息が漏れる。

だがそこに恐怖はなく、友は微笑んでいた。


【……ルーク。なぜ……なぜこんな時に笑える……】


処刑人の一人が口を開いた。

「最後に……言い残すことはあるか」


ルークはゆっくりと顔を上げる。

曇りのない瞳が輝き、声が広場全体を震わせた。


「――名誉のためなら、俺は死をも恐れない!

 誇りを懸けて命を捧げる。ある人からそう教わった!」


群衆がざわめきに包まれる。

チャールズは拳を握り、爪が掌に食い込み血が滲む。


「最初は疑った……だが、彼は正しかった。

 死が目前に迫っても……俺の心は揺るがない!」


ルークは笑みを浮かべた。

それは諦めではなく、揺るぎない信念の輝き。


「最後に一つ……覚えておけ!

 ロンドンはイングランドの心臓だ!

 だが、彼に従わなければ……この街は必ず滅びる!」


轟音と共に丸太が落ちた。


骨の砕ける鈍音。鮮血が四方に散り、悲鳴が空を裂く。

それでもチャールズは目を逸らさず、涙に震える瞳で見届けた。


【……これが現実だ。平民一人の抵抗など……貴族には届かない】


胸を焼き尽くすような痛みに苛まれながらも、チャールズは背を向ける。

震える肩を押さえ、歩き出した。


「……ありがとう、ルーク。

 お前の戦いは……決して無駄じゃない」


その呟きは喧騒に飲まれ、誰の耳にも届かない。

だがチャールズの心には深く刻まれた――ロンドンを救う道は、血と犠牲に覆われているのだと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ