家族の終焉
静寂な夜――そのはずだった。だが、曇り空に包まれたミルヴァートン家に、不気味な気配が忍び寄る。幼きチャールズの胸に、言葉にできない不安が渦巻いていた。いつも優しいリリアン夫人の微笑みはどこか虚ろで、空気はまるで死を予感しているかのように重かった。
そして、闇がすべてを包み込んだ瞬間、地獄の幕が上がった。
侵入者たちが邸宅に押し入り、召使いたちは次々と無残に殺されていく。銃声と悲鳴が高級な屋敷を揺らし、血が床を染めていく。チャールズは震える体を隠すことしかできなかった。だが――運命は彼に、最も残酷な光景を見せつけた。
「お母さま」と呼んでいたあの人の首が、その目の前で斬り落とされたのだ。
それは単なる殺戮ではなかった。チャールズがようやく手に入れた温もりを、再び奪うために仕組まれた悪夢。その夜を境に、少年の魂は闇へと堕ち、復讐という名の業火に包まれていく。
今、物語が静かに、しかし確実に狂気へと歩み始める。
リリアンは、静かに食卓に戻ってきた。
その唇には微笑みが浮かんでいたが、目元はどこか空虚で、まるで魂が抜け落ちたかのようだった。
幼いチャールズには、それが何を意味するのか分からなかった。
ただ、胸の奥がざわつく。
【なにか……おかしい】
そう思うには、十分すぎる違和感があった。
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食後、リリアンはまっすぐ自室へと向かった。
いつもなら、彼女は必ずチャールズの部屋に立ち寄り、「おやすみ」と微笑んでくれる。
けれど今夜は違った。
その夜、チャールズはなかなか眠りにつけなかった。
胸が苦しく、まるで不吉な何かが近づいているような……そんな気がしてならなかった。
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深夜――。
ミルヴァートン邸の扉が、軋んだ音を立てて開いた。
誰かが、屋敷に忍び込んだのだ。
リリアンはその気配に、すでに気づいていた。
だからこそ、彼女は自室に小型の拳銃を用意していたのだ。
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侵入者は、堂々とした足取りで屋敷のホールに入り込んできた。
その瞬間――。
バンッ!
使用人の一人が仕掛けた罠、シャンデリアが落とされ、轟音とともに床を砕く。
だが、侵入者にはかすりもしなかった。
その音で、ようやくうとうとしていたチャールズも完全に目を覚ます。
目を見開き、咄嗟に全身を毛布で包み込む。
まるで恐怖から逃れるように。
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廊下に、銃声が響いた。
リリアンが、躊躇なく引き金を引いていた。
だが、その弾は影のように動く男には届かない。
階段の下――突如、ナイフが闇を裂いて飛来し、リリアンの胸を貫いた。
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彼女の身体はよろめき、膝をつく。
屋敷中が混乱に陥る。
他の使用人たちが必死に駆け寄るも、敵の力はあまりにも異常だった。
剣術をチャールズに教えてくれた、あの強靭な騎士さえも――首を刎ねられ、倒れていく。
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チャールズの耳には、悲鳴と血の音しか届かなかった。
震える足を動かし、階段をそっと降りる。
そこにあったのは――地獄だった。
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ホールの中心で、黒いフードを被った男がリリアンの髪を掴み、無表情でその首に剣を当てていた。
その背には、道化師のような奇怪な紋章。
チャールズが一歩踏み出すと同時に――
ズシャッ!
生暖かい音が響き、リリアンの首が地面へと転がった。
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「……っ」
言葉にならない声が、喉の奥で詰まる。
目を見開いたまま、チャールズは膝から崩れ落ちた。
涙が止まらない。
心臓を何度も刺されるような痛み。
過去の悪夢――母の死が、再び彼の前で繰り返されたのだ。
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男がゆっくりと振り返る。
その目が、チャールズに気づく。
「子供……? まさか、この屋敷にガキがいたとはな」
男は歩み寄ると、容赦なくチャールズの頬を殴りつけた。
視界がぐらつき、彼は床に倒れる。
それでも、小さな身体を押さえつけられ、男はチャールズの腕を掴む。
「使えるかもしれんな。売り物としてな」
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冷たい声と共に、チャールズは連れ去られた。
屋敷には、血の臭いと静寂だけが残された。
――ミルヴァートン家の夜は、こうして終わりを告げた。
静寂な夜――そのはずだった。だが、曇り空に包まれたミルヴァートン家に、不気味な気配が忍び寄る。幼きチャールズの胸に、言葉にできない不安が渦巻いていた。いつも優しいリリアン夫人の微笑みはどこか虚ろで、空気はまるで死を予感しているかのように重かった。
そして、闇がすべてを包み込んだ瞬間、地獄の幕が上がった。
侵入者たちが邸宅に押し入り、召使いたちは次々と無残に殺されていく。銃声と悲鳴が高級な屋敷を揺らし、血が床を染めていく。チャールズは震える体を隠すことしかできなかった。だが――運命は彼に、最も残酷な光景を見せつけた。
「お母さま」と呼んでいたあの人の首が、その目の前で斬り落とされたのだ。
それは単なる殺戮ではなかった。チャールズがようやく手に入れた温もりを、再び奪うために仕組まれた悪夢。その夜を境に、少年の魂は闇へと堕ち、復讐という名の業火に包まれていく。
今、物語が静かに、しかし確実に狂気へと歩み始める。




